15 現代、いろいろ話す


前のほうを歩いていたエリーゼたちもいつのまにか姿を消していた。

一足先にキリサキを迎えに行ったということか。

過去に飛ばした張本人なんだし、出現場所も分かっているのだろう。


姿を消す前に何か言っておいてほしかったが、あまり気にしないことにした。

メーガンもついて行ったみたいだし、連絡はいつでも取れる。

今日だけでいろいろなことがありすぎた。


過去のことをここで話しても仕方がない気もする。

というか、今頃何してるんだろうな。

同じように祭りを見て回っているのだろうか。


「今更だけどさ、外に出ていいのか? 

お前、ウン十年も姿が変わってないんだろ?」


「俺は目立つ方じゃないしな。

仕入れ先も決まってるし、向こうも大体分かってるから」


市場に人外向けの店があるということか。

とてつもなく気になるが、これ以上、首を突っ込んだらいけないような気もする。


「まあ、残念な奴らはミーハーな連中に囲まれてより残念なことになってたけどな」


カインの言う残念な奴は長い金髪を三つ編みしていた男だったか。

道端を歩く芸能人を見つけて喜ぶファンのような人々がいて、外に出るたびに騒がれていたらしい。


他にもメガネの変人とかいろいろといたけど、どうだったのだろう。


「地元民もいい加減見慣れてほしいよな。毎回飽きもせずに騒ぎやがってさ。

多分、アイツが戻ってきたら大騒ぎになるんじゃないかな」


「そこまですごかったのか?」


「ていうか、エリーゼ自体がこのへんに住む金持ちってことで有名だしな。

それを踏まえた上で、玄関から出てくるアイツらの姿を想像してみなよ」


幼い少女がひとりで留守番している屋敷から出てくるあの男。

それ以外にもいろいろな人物たちが出入りしている。

何かあったとしか思えないというか、マジ何者だよ。


とてもじゃないが、友達には見えない。

両親の仕事仲間か何かと思うのが普通だろうか。

もしかして、ここの一家って混沌とした歴史をたどっているのではないだろうか。


「まあ、お前の言うとおり、悪い奴じゃないんだろうけどさ……。

ちなみに、何年生きてるんだ? 樹季たちが聞いてもごまかしてたよな?」


何度聞かれても適当に話をそらしていた。

その姿で果たして何年生きているのだろうか。


「……1世紀は軽く超えてるかも」


「おお、それはまたすごい」


「俺らの場合、成長とか関係ないしな。この姿のまま、何年経ったかね」


面倒くさそうに頭をかいた。それだけ長い年月を生きているのか。

未来から友人がやって来たと聞いたときは、さぞかし複雑だったに違いない。


「ていうか、こっちの世界の通貨って使えないよな?

どうやって遊んでいるんだ?」


「俺のおごり」


「え、マジか!」


人に金を貸す姿なんて一度も見たことがない。

この数十年で退化しているのではないだろうか。

優しさが特に欠けているような気がする。


「こっちの世界に戻ってきたときに返してもらう約束をした。

メモ書きだって残してるよ」


ズボンのポケットから紙切れを取り出した。

金額を書いただけのメモを数十年間も保管していたのか。

そのへんは変わらずきっちりしている。


「スケールは壮大なのに、やってることが小さいんだよなあ」


「いちいちうるせえなぁ! 何も問題ないだろが!

大体、不老不死のバケモノがいる時点で方向性は完全に迷子になってんだよ!」


確かにだいぶややこしいことになってきている。

樹季たちに話しても理解できなさそうだし、黙っておいた方がよさそうだ。


「どうしたの? キリサキが迷子になったって?」


カインの怒鳴り声を聞いて、前にいた樹季たちが戻ってきた。

本当にタイミングが悪い。どう説明するつもりだろうか。


「誰も迷子になってない。アイツとは方向性が違うっていう話をしていたんだ」


「どういうこと?」


「性格というか、職業の問題だわな。

写真を撮ってくれた奴はカメラは趣味の範囲内だって言ってたし、他の連中もそういうのには疎かったしな」


ああ、そういう流れにするのか。

そういう意味での方向性が違うということは、芸術家はいなかったのだろうか。


「純みたいな技術屋なんて、まずいなかったしな。

それもそれで、珍しがられたんじゃないか?」


「いや、それこそ向こうの連中が困るだろ……」


「ロボット三原則くらいは語っても大丈夫な時代だけど」


「そんなの語ってどうするんだよ」


過去の技術に興味がないといえば嘘にはなるが、そこまでして見たいとは思わない。

そもそも、時間を超えること自体、この時代でできていないことだ。

そちらの技術のほうが圧倒的に気になる。


「というか、過去の連中に未来の技術を教えるのはどう考えてもアウトだろ」


「何で?」


樹季と光希が同時に首をかしげる。


「一足先の科学技術を知ることで、歴史が変わるかもしれないからな。

私たちの知っている技術がなくなるかもしれないんだよ」


「じゃあ、写真の人たちにスマホとか見せたらだめなの?」


「そういうことになるな。

実際、そのへんどうだったんだ?」


「エリーゼ曰く、スマホで遊ばせてもらったらしいけど」


「何でそうなるんだよ! 

隠すなり何なりするだろ、普通は!」


「かなり小さくなったカメラだと思っていたらしい。

というか、アイツが自撮りに慣れている理由を知って俺は驚いたよ。

こんだけ流行るとは思ってもなかったし」


「あ、みんなで写ってたやつ?」


「そうそう。あの時代、カメラは三脚立てて撮るもんだったからな。

アイツ指導の下、撮影して回っていたらしい」


「何それ、すごい楽しそう」


現代の技術を過去に流用するな。

日帰りで帰ってくるとはいえ、危機感のなさにあきれてしまう。


「カインはいなかったのか?」


「どうせ、気まずくなって出てこなかったんだろ?」


「俺は仕事してだけだよ。

他の連中が盛り上がってただけ」


それを口実にして表に出てくるつもりはなかったということか。

しかし、何枚か写真があったから、結局は巻き込まれたのだろう。


「何かあるとそうやって逃げようとするんだもんな」


「けど、なんだかんだ言って付き合ってくれるよね」


「まんざらでもないんだろ、多分」


図星だったのか、目を泳がせている。


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