14 現代、追及する
キリサキが戻ってくるまでまだ時間がある。
あたりもすっかり暗くなると、店も次々と開かれていく。
出店を回りながら、時間を潰すことにした。
「で、結局写真の人たちは何者なんだ?」
純は改めてカインに問うた。
樹季たちは少し先を歩いている。
話を聞かれる心配もない。
あの後はアルバムを見返したり、過去の話を聞いたりして、非常に盛り上がった。
多くの住民がこの家で過ごし、去るときに贈り物を渡す。
倉庫の荷物も彼らが残した物らしい。
ほとんどが使い物にならないようで、定期的に廃棄しているようだ。
写真を見る限り、彼らに共通点は見当たらなかった。
人種も違えば、国籍も違うように見えた。
旅行客かキリサキのような留学生の線も考えたが、少女がひとりで過ごしている屋敷に見知らぬ人々を住まわせるとも思えない。
「というか、何で老けてないんだ?
エリーゼとは数十年間の付き合いなんだよな?」
誰も言わなかったから、あえて黙っていた。
カインだけが何十年も姿が変わらず、若い姿を保ち続けていた。
不老不死の特性を持っているのは何となく理解できたが、人間でないことに驚きを隠せなかった。
「アイツにはそういう種族なんだってゴリ押したけど、やっぱりそうもいかないか」
カインはため息をつく。
「お前はちゃんと答えを求める人間だからなぁ……。俺たちは人間に見せかけた人間じゃない何かだ」
「答えになってない」
ばっさりと切り捨てた。
名前のないバケモノがこの世に存在するとでもいうのだろうか。
それこそ、ありえない話だろう。
「不老不死ってことは、吸血鬼か何かなのか?」
「あんな吸血生物と一緒にすんな。
大体、ニンニクが弱点だったら、キッチンに立ててねえだろうが」
料理で必ず使う香辛料が弱点であれば、厨房にすら近づけない。
考えてみれば、日中に普通に出歩いている。
「じゃあ、何者なんだよ」
「ヒントその1。お前の言うとおり、俺たちは人間じゃない。
強いていうなら、空想上の生物だ。
ていうか、生物にカウントしていいのかどうかもあやしいところだな」
「だから、何でクイズになるんだよ……」
「ヒントその2。本来なら、俺とエリーゼをいれて7人いるのが理想的だ。
キリサキと舎弟はその数に含めないとする」
淡々と話を進めていく。
なんだか水平思考ゲームみたいになってきたな。
「生物にカウントしていいかも分からないってことは、お前たちは幽霊か何かなのか?」
「厳密には違うけど、イエスってことにしておこうかな」
「その人数じゃないと絶対にダメなんだな?」
「イエス。増えたり欠けたりしたら成立しないな」
「7人以外は不老不死じゃなかったのか?」
「ノー。少なくとも、俺の舎弟はその特性を受け継いでる。
ヒントその3。舎弟含め、俺たちは暴食という通り名を持っていた」
頼んでもいないのに律儀にイエスとノーで答えている。
本人も同じことを思ったのだろうか。
「7人以外に名前はないんじゃなかったのか?」
「イエス。俺たちの場合は名前を代々受け継いでいったんだ」
名前を受け継ぐ際に、不老不死の特性も得た。
エリーゼの家から離れるつもりもない者が圧倒的に多く、暴食だけやたら人数が増えていく。
「暴食以外の通り名も他の連中にあったのか?」
「イエス。7人全員、何かしら割り当てられていたよ」
他の名前を持つ者は潔く去っていく。
「さよなら」とも「ありがとう」とも言わずに次の日には消える。
全部で7通りの名前を持つ霊的な存在か。
その7人は絶対にそろわなければならない。
増えてもいけないし、減ってもいけない。
しかし、悲しいことに揃うことはなかった。
「ちょっと待て。お前が言った俺たちに、エリーゼは含まれているのか?」
「そうだよ。何なら写真にいたヤツらはキリサキ以外全員人間じゃない」
無表情で言ってのけた。
その眼は虚空を映し、光が消えた。
「だから! 何でそういうことを先に言わないんだ! 重要なことじゃないのか?」
「今更、肌の色で差別するようなお前でもないだろ?
言ったところでどうにもならないし」
「そりゃ、そうかもしれないけど……」
「ヒントその4。エリーゼのファーストネーム。
後は自分で考えろ」
急にそんなことを言われても困る。
確かラプラスだったと思うが、それが何に関係しているというのだろう。
「なあ、今の話って他に知ってる奴はいるのか?」
「ニコ以外は知らないよ」
またそれか。奥歯をぎりと噛みしめる。
アイツに文句を言うつもりはないが、先ほどから何なのだろうか。
「そんなに私たちが信頼できないか?
そりゃ、確かにさっきはキツめに言ったかもしれないけど」
「信頼とかそういう問題じゃない。
この話、お前は知らなくていいことなんだよ。
多分、エリーゼも話したがらないと思うぞ」
知らなくていいという割には、ヒントをくれたのは何だったんだ。
自分から答えにたどり着く分にはいいというのだろうか。
そこまで言うのであれば、これ以上は踏み込めない。
「ちなみにだが、アイツは自分から踏み込んでこなかった。
俺から話を吹っ掛けても、ずっと耳を貸さなかったんだ。
エリーゼを信じている以上、俺たちのことも信じているんだとさ」
「それ、面倒になって思考停止していただけの話じゃないのか?」
「それもあるかもな。少なくとも、違和感はあったみたいだし」
遠い目をしていた。
現在と同じように時を過ごしている過去の世界を想っているのだろうか。
「俺が遠慮なく何でも聞いていいって言ったらさ、アイツなんて返したと思う。
『それを聞いて何になるんですか』だってよ」
彼らしいと言えば彼らしい。
どんなことであっても、相手を傷つけてまで知りたいとは思わないのだろう。
「実際問題、俺たちみたいな異種族どもはお前みたいな白黒つけたがる奴より、ああいう灰色を許す奴のほうが付き合いやすいのかもな」
現にカインの話につきあっているだけで疲れる自分がいる。
いくら広い心を持っているとはいえ、限界があるはずだ。
こっそり撮られていた写真のように、力尽きて眠っているのだろうか。
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