13 未来人、寝落ちする


ここにいる人々が彼女に害を与えていると言うのであれば、話は全く別だ。

俺はそれを止めないといけないし、何なら俺の世界へ避難させなければならない。


しかし、実際はそういう風には見えない。

エリーゼさんの面倒を見ているし、あの人たちもしっかりしている。

お互いに信頼しあっているのは言うまでもない。


「そんなに話したいんなら、アンタの好きにして下さい。

ただ、俺は聞かないふりをするだけです」


俺がそこに首を突っ込んでも、仕方がない。

何を考えているかは知らないけど、勝手に巻き込むんじゃねえ。


「……そういう話を吹っかけた俺が馬鹿みたいになってきた」


お互いにため息をついた。話をリセットした方がいい。

これ以上、この話は続けても無駄だ。


「もしかしてさ、幽霊とか信じてるタイプなのか?」


「幽霊っていうか、そういう空想上の生物はいるって信じたほうが楽しいとは思いますけど」


「言ってしまえば、不老不死の訳の分からん連中しかいないんだぞ。

右にも左にもバケモンしかいない」


「それでも、信じるしかないでしょ。彼女がここにいる限りは」


不老不死だろうと何であろうと、彼女にとっては大事な家族だ。

銃で撃たれて死ぬ人間でないと信頼関係は築けないわけじゃないし、幼い彼女を置いてどこかへ行くような薄情者など、なおさら必要ない。


これから数十年間は旅立つ人たちを見送っていくんだ。

そう考えると、その特性はかなり有利に働くんじゃなかろうか。


「そういうもんだって、アンタ自分で言ってたでしょうに」


「いや、あの時はノリで言ってた部分もあったし」


「その場の勢いでどうにかしようとしないでください。

結構、そういうところありますよね」


俺がそう指摘すると、口をつぐんだ。

この態度が数十年間、一向に改善されていないってのもどうなんだろう。

どうしようもできないって言ってたし、どうにもならないんだろうけどさ。


「癖みたいになってるんだろうなー……後からじゃないと気づけないし」


「自覚はしてるんですね」


「自分じゃ止められないってだけの話だよ。

なんか、エリーゼが信頼するのも分かった気がする。

俺の予想以上に懐の大きい奴で助かった」


深いため息をついた。


「お前のその一言で他の連中も救われるんじゃないか? 

そうしたら、俺もある程度は楽できるし。

1日だけといわず、ここにいてほしいもんだがね」


途端に態度が柔らかくなった。

この緩急の差についていけない奴がほとんどなのだろう。


「時間が許してくれませんよ、きっと」


「確かにお前はここの時代の人間じゃないけどな」


「元の世界で会った時にでも、声をかけてみます」


「ぜひとも頼むわ。

俺だと避けられてばっかりだからな」


さっきの言動を振り返ってほしいもんだ。

無意識のうちに自分が避けているだけじゃないか。


「それじゃ、また未来の世界でな」


彼はそう言って、部屋から出て行った。

俺たちは部屋に残された。


エリーゼさんは起きる気配はない。

壁にかかっている時計の針の音が響く。


本当に静かなんだな、このあたりって。

まだ半日しか経っていないのに、いろいろなことが起きすぎた。


「いくら何でも人のこと振り回しすぎ……」


せめて一言くらい言ってくれてもよかったんじゃないかとか、ここの人たちの無茶振りがだいぶキツいなとか、いろいろと思いは浮かんでくる。


それでも、ここで安心して暮らせているんだよな。

俺の足元で眠る彼女の頭を撫でる。

ひとりぼっちじゃなくて、本当によかった。

そう思っているうちに、意識は闇に落ちた。




「ほら、ちょっと。

よっぽど楽しかったんでしょうね」


レイがカメラを構え、シャッターを切る。

静かだと思って部屋を覗いて見れば、キリサキとエリーゼが寄り添って昼寝をしていた。


これを逃す手はないと思い、エマを呼んできた。


「あーあ、ついに充電が切れちゃったか。

ナナミも急に連れて来られて大変だっただろうし……ちょっとは休ませてあげたら?」


カメラを構えるレイを見る。


「何言ってんのよ、もったいないじゃないの」


こういった隠し撮りも大事な思い出のひとつだ。

後でまとめて現像し、アルバムの管理するのは自分だ。どんな写真を撮っても、文句は言われまい。


「……向こうに帰ったらなんて言うかな」


エマは苦笑する。

まさか、昼寝しているところを隠し撮りされているとは思わないだろうな。


「さすがに何も言わないんじゃないかしら?

向こうの世界に私はいないから、文句は言いたくても言えないだろうし」


「そういうもんかな」


「思い出なんてそういうもんよ。

忘れた頃に見返すのが楽しいんだから」


そう言われるとそうか。

アルバムなんて数十年後の世界で見返すくらいがちょうどいいのかもしれない。

ナナミが帰った後に、一緒に見ると楽しいはずだ。


「カイン、どこまで話したんだろうね。

私たちのこと」


「今のうちにネタバラシできるところは私たちでしちゃったけど、言わなくていいことまで言ってそうで怖いわね」


「元々、縁切ってたんだもんね。

その割に最後まで残っているみたいだけど」


「ツケが回ってきただけよ。私たちが気にすることないわ」


結局、逃げられなかったということか。

縁を切っていた空白の時間を補うことになってしまった。向こうの世界にいるヤンキーコックが絶叫しているのが目に浮かぶようだ。


「こんなはずじゃなかったなんて、今頃言ってるんじゃない?」


「どうかしらね? こっちに戻ってからも、楽しんでいるように思えるけど。

さてと、これだけ撮れば十分かしら?

エリーゼの反応が見られないのが残念でならないわ」


「けど、ナナミとは向こうで会えるかもよ?」


「私たちのこと、覚えているかしら?」


「記憶はいじらないんでしょ?

なら、大丈夫じゃない?」


同じ場所で会うのはかなり難しいかもしれない。

ここにいないのは確かだし、未来の自分だって何をしているかと見当もつかない。


「まずは、私たちが忘れないようにしないとね」


いつになるか分からないが、また会える気がする。

そんな予感がする。





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