11 未来人、不良に絡まれる


画面に釘付けになっているエリーゼさんを見て、初めてゲームを買ってもらったときの自分を思い出してしまった

あまりに楽しそうに遊んでるもんだから、俺はしばらく見守っていた。


年の離れた妹がいたらこんな感じなのかな。

確かに、よその男が未来から飛んできたら、度胸試しもしたくなるわな。


ひととおりスマホをいじった後、ようやくカメラを起動した。

画面の向きを逆にして、外側のレンズを自分に向ける。


スマホは両サイドにレンズがついている。

内側のレンズに切り替え、画面を見ながら写真を撮る。

それが通常のやり方なんだけど。


「シャッターのボタンがない……?」


スマホをくるくる回しながら、ボタンをいじる。

さっきもレンズをこちらに向けて撮ったから、これもそういうもんだと思うよな。

こっちのほうが画質が綺麗らしいけど、どうなんだろう。


適当にボタンをいじりはじめ、ついに電源を落とした。

申し訳なさそうに俺を見て、困惑していた。


「すみません、ちょっと貸してください」


さすがに手伝わないとダメか。

電源を入れ直し、改めてカメラを起動する。


一言お礼を言ってから、再びレンズを外向きに向けた。

まあ、これはこれでおもしろそうだからいいや。


新鮮に思いながら、ようやく二人の写真を収めた。

その後は部屋にあるアナログゲームで遊んだり、話を聞いたりしていた。


住民も変われば、遊び相手も変わっていく。

現在の住民の中で、カードゲームが強いのはルーイさん、ボードゲームはレイらしい。二人とも引きが強く、なかなか勝てないとのことだ。


料理人たちは忙しそうで、一緒に遊べない。

特にカインはすぐにどこかへ行ってしまうため、声すらかけさせないようだ。


さて、俺は先ほど彼女に、「ここにいる住民は何者か」と問うた。

大切な人と返されたけど、俺の求めている答えとは少しだけ違っていた。

代わりに、質問の答えになりそうなものがいくつか見えてきた。


彼女は生まれた時からここにいるらしく、住民は随時入れ替わっているらしい。

両親は遠いところにいて、ここに来ることはまずないそうだ。


手紙が来るわけでもないから、何をしているのかさえ、分からないらしい。

育児放棄って言うんだっけ、こういうの。そこまでいかなくとも、見知らぬ他人に自分の子どもを押し付けるってのはどうかと思うんだけどな。

こればかりは本当に俺が口出ししてもしょうがないから、どうにもならない。


住民は旅立つときに彼女に別れの品を託し、ここを離れていく。

倉庫の荷物を片付けたことを伝えると、寂しそうに笑って許してくれた。


思い出は思い出かもしれないけど、あの状態だと楽器のほうがかわいそうだ。

弾き手がいない楽器ほど、無意味な物もない。

厳しいことかもしれないけど、管理をするべきところはしないといけない。

大体、五分の一が私物で埋まってる時点でおかしいだろ。


だがしかし、それを本人に言う勇気もあるわけがない。

あの殺意を向けられると思うと、背筋がぞっとする。


「失礼します、おやつ持ってきました」


見知らぬ男子が扉を開けた。

見た感じは学生っぽいが、いくつぐらいだろう。

アベルと同年代と見てまちがいはなさそうだけど。


「未来の友達に会えると思って俺も楽しみにしてたんです。舎弟3号のリュウです。

こちらが俺たちの料理番長、カインです」


舎弟ということは彼も料理人か。

背中を押して、部屋の中に無理やり入れる。

苦虫を噛みつぶしたような表情、銀のトレーにはケーキがのっている。


ついに番長って言っちゃったよ。

それでいいのかよ、本人とここの人たちは。


「……俺はお前のことを知らない。

けど、未来から来たお前は俺のことを当然、知ってるわけだ」


うん、俺の想像した通りの姿だ。

不機嫌そうな眼つきが老けず衰えずにそのまま目の前に現れた。


あいさつをしようと、俺は立ち上がった。

ウン十年も前の世界だってのに、何で老けてないんだよ。

いくら何でも若さを保ち続けすぎだろ。

リュウにトレーを預け、つかつかと俺の前まで来た。


「気にいらねえな」


短く吐き捨てた。アンタはチンピラか。

そこは相変わらずなんだな。


「何で過去の俺は老けてないんだとか何したらそんなに若さを保てるんだとか何とかかんとか、いろいろ考えてるんだろうがよ」


ドスのきいた低い声で彼は続ける。


「生憎ながら、俺たちはそういう種族なんだよ!

今更どうこうできる問題でもねえ!

そういうもんなんだよ! 

いくら考えても時間の無駄だ、ボケが!」


とうとう怒り気味に開き直った。

うん、やっぱりこうでなくちゃな。

この姿を見て、ようやく安心感が湧き上がってきた。


「待ってください、貴方まで怒ることないでしょう?」


「カインさん、ケンカ売るような真似だけはするなって自分で言ってましたよね?」


エリーゼとリュウの制止を振り切って、カインは親指を自分に向ける。


「いいか、耳かっぽじってよーく聞け?

俺たち暴食の名は伊達なんかじゃねえ。

頭こそすっからかんの連中だが、腕だけは誰よりも負けてねえつもりだ。

それだけでも覚えて帰りやがれ」


俺たち、か。

仲間思いなのは伝わっているし、世界各地のレストランで修行してきたその腕前は未来の世界でも十分に披露している。


「分かってますよ、そんなこと。

あっちの世界で何度も美味しい料理をいただいてますから」


「それならヨシ」


満足気に鼻を鳴らし、その場に座りんだ。

俺もそれに続く。


「まあ、なんだ。大変だったろ、急にいろいろなことが起きて」


そうだよ、このノリだよ。

急に態度が切り替わるこの感じだよ。

リュウも隣に座り、ケーキを並べていく。


「アベルもあんだけ言ったのに、すぐにポロっと喋るしさ」


「あのスイカ、本当に美味しかったです。

ごちそうさまでした」


「そう言っていただけると、こちらも嬉しいです。

一時期は展示会とかもやってたんですよ」


「あのさあ、何回も言ってるけど、存在しないもんをどう証明しろって言うんだよ」


「大丈夫です、黙っておきますんで」


「いくら俺とエリーゼが未来にいるからってさ、好き勝手にやりすぎなんだよなあ。

客人に倉庫の片付けとかやらせるかよ、普通」


ここの良心は意外にも不良になり切れてない善人料理長だった。

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