8 未来人、自撮りする
ふと、思った。
この時代に自撮りという概念はあるのだろうか。
俺の時代はスマホを片手に観光地などで写真を撮ったり、エフェクトをかけてより綺麗に見せたり、様々な楽しみ方がある。
そもそも、カメラで自分たちを撮るという発想になるのだろうか。
自画像はあくまでも絵だしな。写真と全然違う。
エリーゼさんは言うまでもないだろう。
エマやレイあたりは説明すれば、一緒に撮ってくれそうだ。
さて、他はどうだろうか。
舎弟たちは食事の準備で手が離せないだろうし、あの二人も微妙なところだ。
カメラを向けられて嫌そうな表情はしなかったが、俺をどう思っているのか未だに分からない。最終的に集合写真みたいになりそうだな。
「どうする? 私たちで交代して撮って回る?」
「あ、待って。レイがカメラ持って、んで、エマもこっちに来て。
こうやってみんなで写ればいいじゃないですか」
俺の周りに集まるように指示し、レイがシャッターを切る。
普段は別の奴が仕切り、俺は巻き込まれる側の人間だ。
ただ、自撮りがあるかどうか分からない以上、仕切れるのは俺しかいない。
この方法だと撮った写真がその場で確認できないのが難点だ。
失敗したかどうかが分からないから、撮り直しもできない。
「おお。手慣れてるね、さすが未来人」
「いえ、こちらこそありがとうございます。
見切れてたらすみません」
「いいのよ、そんなの気にしなくて。
そういうのも含めて楽しいんだから」
エマは感心してくれたし、他の二人も楽しそうだ。
自分を撮ることにあまり抵抗はないらしい。
「キリサキの世界でも流行ってるんですか?」
「自分を撮るのも他人を撮るのも、みんな楽しんでますよ」
「へえ、そうなんだ」
俺の時代は写真を後から編集し、実物とかけ離れた見た目になっていることが多い。
詐欺まがいのことが普通にまかり通っている。
改めて思う。エマにはそんなものいらないんじゃないか?
天然美人ってすげえな。
編集をするだけ無駄というか、自然らしさが失われてしまう気がする。
「やっぱ色つきなの? そっちの写真は」
「そうですね、カラーがほとんどです」
「モノクロもいいけれど、カラーだと全然違うのよね。
エマは本当に映えると思うんだけど、なかなか撮らせてくれないし」
「いやいや、私よりあっちを撮ったほうが絶対に面白いって」
そう言って、リヴィオさんたちを指さす。
向こうの二人と目があった。
「撮れ高狙うんだったら、あっちの二人のほうがいいって。
ドッキリとか本当に弱いんだしさ」
「ルーイには何度かやってみたけど、綺麗にかわされちゃうのよね。
本当に何なの、あなた」
「さすがに気づかない方がおかしいだろう、アレは」
ルーイさんは苦笑していた。
すでに仕掛けていた上に、気づかれたのかよ。
なかなか不毛なことやってんなあ、この人たち。
「本当、貴方には敵わないわね。
その眼、メガネごと潰してやろうかしら」
「割れるものなら割ってみろ。
その代わりに、お前のカメラがどうなっても知らないからな」
レイも言ってることが割と物騒なんだよな。
身内だからこそ許されてる部分もあるんだろうけど。
本当におもしろい人たちだ。
「リヴィオさんにはやらなかったんですか?」
「ドッキリとか仕掛けるんだったら、大抵は朝か夜なんだけどさ。
コイツ、ここには昼間しかいないからね。やりたくてもできないっていうか」
「やらせないからね、悪いけど」
一語一語にアクセントをつけて強調した。
「今度、あなたの家に突撃してみようかしら?」
「エマが私のいない間に来たから、もう大丈夫。来なくていい」
「そうなのよねえ。
コイツの部屋にも入れなかったし、結局帰って来なかったし」
こっちもこっちで既に実行済みかよ。
しかも本人がいないときに自宅に突撃したのか。
人の部屋を漁る気満々だったらしい。
ここまで徹底していると、敵に回したらいけない人たちなのかもしれない。
「そんな怖がらなくても大丈夫ですよ。
いつもあんな感じですから」
エリーゼさんはニコニコ笑いながら、俺の膝の上にずっと座っている。
言うなれば、野良猫がそれぞれ領域を主張しあっているようなものだろうか。
小さい時からこんなやり取り見てたら、人間的にも成長するよな。
「そうだ、せっかくだし撮ってもらえないかな」
ルーイさんも巻き込んで、レイは俺たちにカメラを向ける。
この人もこの人で映えそうなんだよな。
ドッキリとかそういうことしなくても、ただ立っているだけで絵になってしまう。
エマとは方向性は違うけど、これはこれでアリだ。
本当、俺の世界に来てくれないかな。
最先端の技術を見せてやりたい。
「あ、ちゃんと会えたんだ! よかったー!」
「大丈夫ですか?
お二人から何もされてませんよね?」
舎弟二人が料理をワゴンに載せてやってきた。
レイのカメラを見るや否や、俺の隣を陣取った。
「ねえねえ、私たちも撮る! レイお願い!」
とりあえず、ひとまず全員と写真は撮れた。
実際の写真は元の世界に戻ってからのお楽しみかな。
「いつだったか、リヴィオの髪から花が咲いてたよね」
アベルが思いついたように言った。
「あー、あったね。ある種の芸術みたいだった」
「後ろ姿がお姫様みたいになってましたね」
「クリスマスの飾りが紛れ込んでいたこともあったな」
こらえきれなくなったのか、ルーイさんまで笑い出した。
当の本人は絶句していた。
俺も何を言えばいいのか分からない。
身内以外には通じない話だな。その姿が全然思い浮かばないし。
花が咲いたってことは、活け花の花瓶代わりにされたってことか?
それはそれで見てみたいけど、クリスマスの飾りって何だ。
アクセサリー感覚でツリーの飾りをつけたってことか?
何をどうしたら、そんなおもしろいことになるんだ?
多分だけど、それやったの絶対本人じゃないよな。
ここにいる人たちでもないってことは、ご家族にやられたのかな。
「気になるなら私の家に来てみる?」
「いえ、遠慮しておきます」
そんな話をされるとは思わなかったようで、何も喋らない。
とりあえず、聞かなかったことにしておくか。
「口の軽い連中が多すぎて嫌になってくる……」
リヴィオさんはひとりぼやいていた。
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