6 現代、迎えに行く


ずっと「帰ってくる」と言い張っていた理由にようやく納得がいった。

最初からすべてを知っているのであれば、慌てることもない。


ニコも近縁ではなかったらしいし、幼い頃の彼女を知らなくて当然だ。

それでも、親戚であることには変わりはない。話せる相手であることは確かだ。


「どうして、黙っていたんだ?

私たちにも話してくれればよかったのに」


「そうだよ! 気にしなくてよかったのに!」


それでも、少しだけ裏切られたような気分になる。

しばらく黙った後、かみしめるように話し出した。


「このことを話してしまうと、何が何でも止めるでしょう?

そう考えると、どうしても黙っておかざるを得なかったの」


キリサキが倉庫に行かないように、誰かが止める可能性もあった。

もしかしたら、別の誰かが巻き込まれていたかもしれない。

過去を変えないために、ずっと話せないでいた。


彼女はこの瞬間を何十年も待ち続けていたのだ。

あまり強く責めることもできない。どうしたものだろう。


「けど、キリサキだしなー。

止められても行きそうな気がするけど」


「面白そうなことに目がありませんからね。

むしろ、自分から引っかかりにいったと思いますよ」


「そういうものなの……かな?」


樹季とニコの信頼に光希は困惑していた。


いや、お前らはキリサキを何だと思っているんだ。

自分から罠に引っかかる馬鹿がどこにいるんだ。

否定できないのも確かだが、そこまでアホな奴でもな気がする。


「ちゃんと帰ってくるんだよね?」


「今日中にはな」


「なら、私も大丈夫な気がしてきた」


光希もどうにか元気を取り戻してくれた。


「そう言ってくれるなら、あまり心配する必要もなかったかしら」


エリーゼもようやく笑顔になった。

純はほっと一息ついた。


「で、アイツ、何時くらいに帰ってくるんだ?」


「出し物があらかた終わった頃だったから、八時くらいかな」


「そういえば、お祭りって今日でしたっけ」


広場の至る所にポスターが貼ってあった。

中央にステージが設営され、準備は着々と進んでいた。

地元のバンドなどを呼び、盛大にやるらしい。


「どうせだしさ、みんなで迎えに行こう!」


「いいね。迷子になってるかもしれないし」


祭りに行く口実に使わている気もするが、悪くない話か。

しかし、キリサキが現れる場所が分からないらしく、時間になったら手分けして探すことになった。倉庫に戻されたら一緒に笑えばいいだろう。


「なあ、キリサキとも会ったんだろ? どんなことしたんだ?」


ひと安心したところで、話は過去に向かう。

その場にいたカインへ質問が集中する。


「特に何も。未来のことなんて聞けるわけもないし。

ていうか、口の軽い奴多すぎなんだよなー……あんだけ口止めしていたことをうっかり話す馬鹿はいるし、殺意の塊みたいな奴らもいるし」


「みんな心配しすぎなのよ。

悪い人じゃないって何度も言っていたのに」


「いや、年齢差を考えてみろよ。幼女がいい年こいた大人を友達って呼ぶんだぞ?

変なことされるんじゃないかって、ずっと気が気じゃなかったんだよ」


「その割には、キリサキの年齢を当てようと必死だったんですってね?」


「俺は参加してない。一部が勝手に盛り上がってただけだよ」


「……何かもう、とにかく楽しかったんだな?」


「ええ、それはとても」


エリーゼは目を細めて笑った。


変に心配していた自分がバカみたいだ。

よくよく考えてみれば、単身でここまで来るような奴なんだ。

度胸だけは人一倍あるのだろう。


二人の話を聞いた限りだと、何とか乗り切って帰ってくるらしい。

それなら、特に問題もないか。


「メーガン、アイツの出現ポイントを予測してほしいんだけど」


「そんなランダムに現れるモンスターみたいな……」


樹季の話だと、何の前触れもなく彼は突然消えたらしい。

本を取ろうとしただけで、何もしていない。

それならば、過去から戻るときも目の前に突然現れてもおかしくはない。


特に今日はイベントもある。

人ごみの多い場所なら、騒ぎになりかねない。


「八時くらいで、人混みが少なさそうな場所。

もしくは、キリサキに気づかないような何かが見える場所。

祭り会場内のどこかに現れると思うんだ」


「そういうことでしたら、探してみますけど……」


メーガンは目を閉じて、データを検索し始める。

視界を閉ざすことで、余計な情報を遮断するのだ。


「ぶっちゃけた話、エリーゼの下に戻ってくるのが一番なんだけどな。

アイツが帰った後、どうだったんだ?」


「未来人で遊び足りないって言ってたよ」


「めずらしく人が来たものだから、みんな構いたくて仕方がなかったのよね」


「そんな他人から預かってきたペットじゃないんだから……」


キリサキをどんだけいじり倒したのだろう。

どんなテンションで接していたのかも気になって仕方がない。

精神的にやつれて帰ってくるんじゃないだろうな。


「マスター、出ました。

まとめてデータを送ります」


「頼んだ」


地図をスマホに転送してもらう。これで探索も短めに済むだろう。

樹季と光希もアルバムを広げ、写真を漁り始めていた。


「この人すんごい可愛いね! モデルか何かなの?」


「可愛い系より綺麗系を目指してたな、アイツは。

まあ、純とは絶対に話が合わないと思う」


「それじゃ、こっちは? 

見た感じ、この人たちも料理人だよな?」


「そいつらは俺の舎弟」


「じゃあ、このメガネの人は?」


「ただの変人」


「こっちの人も?」


「そいつは残念な色男。けど、見てる方向はアイツと全然違うよ」


「へえ、残念な奴にも色々いるんだな」


樹季は変な部分で感心していた。

長い金髪を三つ編みにしている男とメガネの間にキリサキが挟まれている。


「ていうか、こういう奴のほうがよほど危険なんじゃないのか?

よく変な影響を受けなかったな」


「いや、アイツはああ見えて線引きはきっちりしてたから。

ガキんちょには手を出さない」


そういう問題ではないだろう。

写真には容姿や年齢、人種や性別など関係なく様々な人が写っている。

共通点がまるで見えない。彼らは何者なのだろう。


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