Ⅷ 騎士団の船出 (2)

 それから、一月ほど後のこと……。


「――それじゃ、よろしく頼むよ、ハーソン卿。君達の活躍を期待している」


 エルドラニア王国最大の港、西の大海に面し、〝新天地〟への窓口となっているガウディールで、アルゴナウタイ号の上甲板に整列した白金の羊角騎士団の団員達は、見送りに来たカルロマグノ一世からはなむけの言葉を受けていた。


 彼らの乗るアルゴナウタイ号は、先の騒動で受けた傷もすっかり綺麗に直され、その銀色の船体を威風堂々と輝かせている。


「八ッ! 我ら白金の羊角騎士団、エルドラニアと陛下の御ため、この身を尽くして海賊討伐に邁進するつもりであります」


 カルロマグノに言葉を返すハーソンも、負った傷はすっかり癒えて、ボロボロになったパレードアーマー風のキュイレッサ―アーマーも、焼けた純白の陣羽織サーコートも新調されている。


 また、今日は正式な羊角騎士団団長の装いとして、金色の羊の巻角の付いた特別なモリオンも頭に被っている。


 なぜなら今日は、主君カルロマグノの見送りを受け、いよいよ新たな任務地〝新天地〟へ旅立つ日なのである。


「ま、ちょくちょくこっちへ帰ってきてもらうこともあるだろうから、別れの挨拶はこれぐらいにしておこう。それじゃ、行ってらっしゃい」


「ハッ! しばしの間、御前を失礼いたします……全員! 出航用意ーい! 錨を上げろーっ!」


 カルロマグノがお付きの者達と船を下りると、すぐさまハーソンは船を出す準備に取り掛かる。


「これより、我らはエルドラーニャ島サント・ミゲルに向け出航する! すべての帆を全開ーいっ! アルゴナウタイ号、全速前進ぃーん!」


 そして、〝羊の巻角に挟まれた神の眼差し〟の紋章の描かれた純白の横帆にいっぱいの風を孕み、彼らが誇る銀色のフリゲート艦は、〝新天地〟へ向けて意気揚々と出航した。


「ま、先の一件の恩賞として、我らは正式に陛下直属の独立部隊と認められ、かなり自由に活動できる権利も与えられましたが……あれだけの功を考えれば、海賊退治などではなく、陛下の親衛隊とかもっと重要な任務に就けてもらってもいいような気がしますがな……」


 ゆっくりと速度を上げてゆく船の甲板上で、前方に広がる西の大海を眺めながら、いつものようにアウグストが不満を口にする。


「いや。新天地との交易は今や帝国の財政を支える要だ。その航路を荒らす海賊の討伐はまさに国の命運を握る重要な役目。それだけ我らに期待されているということだ。我が国を弱らせるため、アングラントなどは国策としてその海賊を雇っているという話だしな」


 対して、そのとなりで海風に純白のマントを翻しているハーソンは、こちらもまた普段通りに、不満たらたらな腹心を理路整然とした言葉でなだめすかす。


「噂では、魔導書を運ぶ船ばかりを狙い、奪ったその魔導書の写本を密売するという、なんとも奇妙な海賊が最近出没しているともいいますね」


 また、その斜め後に控えるメデイアも、これまで同様に二人の会話へ割って入り、そんな巷の噂話を口にする。


「ああ、その海賊の話は俺も聞いた。確かに海賊としては奇妙な行いだが、禁書の魔導書を盗み、非合法に売り広めるなど、この世界の秩序の根幹を揺るがしかねない大罪中の大罪だ。やはりこの任務、護教騎士団である我らの果たすべき責務やもしれんな……」


 なんとも気にかかるメデイアの言葉にそう答えると、蒼天航路を行く船の上、ハーソンは目の前に広がる大海原の彼方にまだ見ぬ新たな世界の海を幻視した。


 この後、その魔導書を専門に奪う海賊――〝禁書の秘鍵団〟と、因縁深き戦いを繰り広げることになるなどとは、今の彼らに知る由もない……。


(los Caballeros Blanco Del Guardianes ~純白の護教騎士団~ 了)

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Los Caballeros Blanco Del Guardianes~純白の護教騎士団~ 平中なごん @HiranakaNagon

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