0-ルートE 三日月の残光


どこまで良い人になっても人である以上誰もが敵になれる

人は人である以上、同じ人を憎むしかないのだ

例え誰かが常識や法律を説こうが、集団や民意の前では法すら無視できてしてしまう

自由に縛られている筈なのに、自らが自由を捨てて生きてるようなものじゃないか


――だから俺は人間が嫌いなんだ


天界

幻想的な雲の上、空間から魔術でできた円が現れ、そこから少年が出てくる

「やっと来れた……」

突如異世界に飛ばされ、ここに至るまでに現世で地獄のような周回を行い、未だに解決まで至らずにいた

何なら手段を問わずにった所で、まるで無かった事にされたような胸糞展開しか起こらないときた

「(あらゆる想定を考えた末の、最善の方法を行ったのにも関らずでなぁ……)」

ここまで酷いものだとは思わず長考の末、最終的に神様へ直談判をする事になった

そうと決まればと思い、天界へ続く門を出す魔術の制作をし、試行錯誤の末やっと天界に続くゲートが完成した

ここまでやって俺の行動自体無意味だなんて言われたらどうだろうか正直考えたくはないが……

もし神様ですら知らなかったら……そうなるともう世界これぶち壊すしかないよ?いいの?

そこまで考えが届いちゃうんだよ?常に最悪を想定してるからすぐに分かる

だから今こうして天界ここにいるんだ

「とりあえずここが天界のどこかを知る所だよな……」

辺りを見渡しても真っ白の霧の中で先がよく見えない

「………?」

見えない……のだが、鼻呼吸なのに何故か濃いめの魔力を感じる、割り切ってもわかる程に

この感覚、変すぎて出力がおかしくなってる……

「まさか俺が来ること分かってるから罠仕掛けたとかないよな?」

そう言いながら周りを見ても誰の気配すらも感じない、本当に神様なんているのか?

「とりあえずここの魔力を得るために」

右手でナイフを《生成》し、手の平を切りつける

これだけでも風に当たる程度で魔力を得られるが……

周辺の魔力が左手の傷に吸われていく

流石|魔力喰らい《マジックイーター》、《暴食グラトニー》より吸引力が変わらない」

ほんとダイモンかよって位吸引力が変わらない、まぁ便利だから使っ……

そう思いながら吸っていると体に異変が起こった

「あっ……っ!」

まずは頭から鈍痛が走り、その内痛みが全身に回る

このままではやばい、と思って吸引を止めるも痛みは収まらず、むしろさらに悪化していく

痛みに藻掻きつつも思考を回す

この痛み、一度くらった事があるな、どの辺り……少なくとも最近なのは分かってるんだ

この内側から引っ張られる感触……そうか《魔物化》した時のだ!!

って事は今の俺はここに順応していってるのか、よーく考えてみるとここはいつもの空気とは違う、何だこの綿あめみてーな軽さは

「……です……!!だ……ぶ……っ!!」

何だ、誰かの……声?声が……

この状況と自分の状態を考え、自らがどういった状態にいるのかがやっと分かった

「(そうか、『見えなかった』のではなく『見る事ができなかった』のか、だから周りを見ても何も無いのか)」

そして順応し終えたのか、声も姿もはっきりしてきた

「あの……大丈夫ですか!!」

顔を上げると、気弱な声をしたスーツ姿の女性が腰を低くして見ていた

もう少しすれば周りの風景も見えてくるだろう、その前に聞ける限りの事は聞いておこう

「悪い、ちょっと当たり前の事を聞いていいか?」

「はい?」

俺は、目の前にいる人を心配させまいと穏やかな顔で聞いた

「ここは、どこだい?」


………………


とりあえず彼女からここの情報は聞けた

ここは天界で間違いないそうだ、ここに人間がいるのはまずないという常識付きでな

次に彼女は自らを『フーリ』と名乗った、近くにある大企業『ヴァルハラ』で働いてる天使らしい

ん?何でらしいったって?これの後で付け足すように

「と言っても私はその末端で、精霊や分霊に近いんです。ほら、小さいパンを作る時とかで生地を千切って丸くしたアレ、そんな感じのです」だそうだ

流石の俺も呆れたぞ

自らの分析ができる奴が目の前で、且つ分かりやすい例題付きで教えてくれるのに、自分の事をって言うのは、しっかり働いても評価ができる上司や同期がいない状態じゃあないか

「あの、フーリさん?」

「?なんでしょう」

とりあえずスーツ以外の物も見てみると、彼女の右手に腕時計があった

時間は……15:00か、兄さん達はどうしているのだろう、まだ元気なのだろうか

「そう言うのを才能が埋もれてるって言うんですよ、自分の事をしっかり見えてるのなら、今の自分に自信を持ってください」

「いやあ、私なんてそれ程の者では……」

フーリは照れつつ答える

俺は続けて語る

「何言ってるんですか、自分の事で分かりやすい例が言えてるのさえ、この僕でも難しい事なんですよ」

「はぁ……」

フーリは首を傾げた

俺はため息を吐き、こう答えた

「要は隠してある爪が出せない環境下にいるって事です、その辺りの環境から抜け出すのをおすすめしますよ」

そう言って周りを見てみる

「(えぇ……)」

周りはビルと住宅が並んでおり、元いた世界の街並みと全然変わらなかった。違うとすれば地面がコンクリじゃないって感じがするだけ

内心苦笑しながらビルを見てみると、1本だけ他より大きいビルが立っていた

ビルの入り口には、英語で『ヴァルハラ』と何故かサイン調の書き方がされた鉄板が貼られている

「すげぇ……どこがどうとは言わないがセンスがすげぇ」

「これでも私の勤め先ですけどね」とフーリが笑いながらビルに入っていく

俺も置いてかれないよう彼女について行った


ヴァルハラ 1階

ビルに入って最初に目に入ったのは広々としたエントランスだった。

最低限の動きで周りを見渡すと、こちらの世界で見た事がある物が置かれており

石柱や観葉植物や石像……石像は流石に見た事ないが、とにかく現代の物があった

フーリはエントランスの中央の、機械のように椅子に座って目を瞑っている受付に近づいていく

向こうも来たことに気づいたのか目を開く

「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」

声も機械と変わらない、しかしフーリは机を強く叩き叫ぶように言った

「緊急モードに変更!コードAに移って!」

そう言うと受付はお辞儀をした後にビル中に警報が鳴り響く

突然の事で頭が追いつけていないまま彼女に聞く

「あの、これどうゆう事?」

そう聞いてみると彼女は、こちらに振り返ると

「すみませんっ!」

突然俺の前で謝罪しだした

「突然で申し訳ありません、社長の命令であなたの抹殺を頼まれていたもので!」

ああ……そうゆう事、地上の人間を全員殺めたので神様が出したのか、向こうはやる気……と

よく聞いてみると警報の他に大勢の足音が聞こえてくる

近いな……もしこの会社が社員を使い捨てする類なら、今俺の目の前で謝っているこの子も危ない

あくまで予測だが、彼女に頼んだのは行動に思い切りがあるからなんだろう、そうじゃなければ俺が天界に来た時点で殺しに来ていた筈だ

ならどうしてこんな子が……まさかな

「じゃあ何で謝る?何で殺しにかからない」

彼女はゆっくりと俺に視線を向けると気まずそうに答える

「それは…私、この仕事は初めてで……」

って事は消す気満々で頼んだか、人の心がない奴っ!

俺は神に対する憤りを抑えつつ、ため息をして彼女に語りかける

「なんとなく事情は読めたよ、じゃあ……」

言い方を考えろよ啓……彼女を避難させつつ、俺が敵対してない事を天使と神々が全滅した後のタイミングまで稼いだ上で気づかせる……

彼女は俺の事を何一つ知らない、逆にそれを利用できるなら……

その時人類を殲滅する前、ある程度試行錯誤を行った際に作ったが電流のように頭に過る

……そうだ、あそこなら俺が敵対してないと証明できるし、あそこにはまだ描き途中の設計図があった筈…

向こうの技術次第だが、完成できる物が出てくるかもしれない。そもそもここに来た理由を思い出せ、俺は何をしに来た

神様の……特に知識があって権力を持つ者からこの異世界の異常な状態を伝え、知っているのならばその対策を聞くためだろう、何故こんな事に……

……いや、そこまで考えるのはゼウスのような権力者に会った辺りからにしよう

今は目の前の女の子を助けるくらいなら……っ

「少し頼んでもいいですか?」

そうフーリに聞くと彼女は首を傾げながら頷く

彼女が聞く姿勢だと分かった俺は、懐から黒い《アタッシュケース》を取り出した

「座標は理解できますか?」

「仕事の基本ですので、まぁ……」

彼女の答えを聞くや否やフーリの耳元まで近づき、小声で内容を伝えた

「地上で『魔法の森』ってのがあるだろ?そこ、縦横全体の長さがちょうど半径10キロあるんだ、わかるな?」

彼女は無言で頷く

「10キロ地点を0とし、1を10としてx−84y55に俺が隠した施設がある、今からこれを持って行けるか?」

そう言ってアタッシュケースを彼女の手に当てると、彼女はゆっくりとケースの取っ手を握った

「これの中身は一体……」

「鍵だよ、念を入れて結界を張ってるから一時的に止めれる代物が入ってる、どうだ?」

「………」

彼女は俺の事を信じられるのかよくわからない、逆に言えば信じられるのは俺の事とも言える

『情報の差出し』施設に入る事によって解る『履歴の閲覧』そして……

「俺の予想だが、ここへ来る奴らは君の事を本当に末端として処理するつもりかもしれん、こちらは何も知らなかったとはいえ、ここに連れて来たんだ、案内した見返りのつもりでお願いをしたい」

『現状の再確認』と『その後の予測』、そして『計画的行動の等価交換』

もはや言葉だけで賭け事をしてるような状態だ、例えれるなら透明な牌を使った麻雀辺りが近いか?

彼女が賢ければ請け負うと思うが……どうだ?

「……もし私が行ったとして、あなたは?」

不安げに問いかけてきた

忘れてた『これからの事』を言いそびれてたか、この辺りは正直に答えてもいいだろう

「本来は事情を聞いてもらうつもりだったが、あの様子じゃ聞く耳を持っちゃいない」

ゆっくり一歩を進んで答える

「一人でも残っていたら何されるか分からないし、ここにいる者全てを殲滅するしかない」

「そうですか……わかりました」

彼女はそう返すと一歩歩く

振り返ったのか、背中から視線を感じる

「あなたは、いい人なんですね」

俺は振り返らずに答える

「あなたが素直すぎるだけです、事実や真実を言った方が正しいなんて誰も言いやしない、嘘をつかんか嘘を」

それを聞いた彼女は何も言わず、後ろから走っていく音だけが聞こえた

「行ったか」

行ったことをなんとなくで理解し一息つく

その後目の前の階段の先を見ると、エレベーターから音が鳴り、大勢の武装した天使たちが視界に入っま

向こうもこちらを捉えると全員が構える

「ふむ、出迎えご苦労」

天使たちは階段から降りずに扇状に広がる

本来この状況は一人では打破は出来ない、引くも押すもできない状態に今陥った訳だが

そう考えていると隊列の真ん中から隊長らしき者が現れる

そしておもむろに手に持ってた雑誌を丸めてメガホン代わりにし

「止まれ!我らはヴァルハラ防衛部隊である。投降しろ!」

こんな事を言い出した

なぁんだただの戯言か、それなら別に会話くらいしてやってもいいか

「責任者に会うつもりが入って早々歓迎会か、ここにケーキやビーフがあれば満足だったんだがなぁ…」

そう言うと突然部隊の中から発砲音がした。

飛来物は俺の頬を掠め、先の方を見ると地面に小さな穴が空いていた

「我々は要求の答え以外の言葉を、否定と断定するつもりだ!さあ答えを言え!」

さらに一息つく

……本気か?お前、それ要は言ってほしい言葉以外を聞く気がない事だぞ、マジで言ってる?

内心呆れつつ、隊長に問いかける

「俺が投降したら何する気だ?」

そう言うと今度は異なる方向から弾丸が通る

「投降して俺が無事でいられる保証は?」

また異なる方向から通った

うんわかった、これ選択権ない質問やつ

俺はその場で座ってあぐらをかく

「……」

この様子だと命令上では逮捕だが本音は完膚なきまでの抹殺を出したな?ゲームで例えるならチュートリアルで初見殺し技を持つボスを出すような理不尽だ

ひとまず状況確認、今俺の目の前にはエスカレーターを間にして天使たちの部隊が扇状に広がっている、後ろしか回避できない、それ以外に走れば確実に十字砲火の渦中に晒される事になる

この配置と建物内の地形を考慮した上での最適な方法は……

その時、円柱の後ろにある受付の机に気づく

「(これなら……)」

まずは受付の机辺りまで動き、その後…よし!やる事が決まった

俺はゆっくりと立ち上がり、一歩進んでから目を瞑り両手を上げる

「やっと観念したか、これで心置きなく……」

その時、全方位から銃を構えた音が確かに聞こえた

「貴様を殺せる」

その声と共に発砲が行われる

「…《消失バニシング》」

弾丸が放たれる直前に小声で唱えると、視界がノイズのかかったテレビのように揺らぎ、周囲が暗転する

暗転した世界の中、弾丸が俺の体を通り過ぎていく

……《時間の消失タイム・バニシング》、俺はこの魔術をそう呼ぶ

原理はこうだ、時間と時間の間に自らの体内時計の時間を、俺の存在そのものをその世界に塗り替える

当然俺は今いる場から存在だけが消えるが、魂や記憶、記録といったものが消えることはない。あくまで自身の存在に対し「時間と時間の間に隠す」ものだ

その為俺のいない時間に俺の体内時計が挟まることで俺以外がその時間を認識することはない

説明は以上。

弾丸がすり抜けていく中俺は、受付の机の下に潜り込み《バニシング》を解除する

解除すると多くの弾丸が地面に着く音が鳴り響いた

「は?」

突然俺が消えた事に隊長の男から驚いた声がした

そりゃそうだろうな、何らかの目印がなければ到底気づくこともない魔術だ、普通に驚くだろう

「くそっ!どこへ消えやがったあのクソ野郎!」

口汚っ!いつからここはスラム街になったんだよ

ってか降伏しても殺す気だったのかよ、バニシング作っといて良かったー

「(さて、あの隊長の様子は…)」

そう思って円柱から少し顔を見せようとした瞬間、柱に弾丸が一発撃ち込まれる

俺はすぐに下がり、懐から一冊の手帳を取り出す

それは、あまりにも質素で特徴もなく、真っ黒だった

彼女を救う為に奔走していた際に、俺の内からは現れた

……《ソロモン》俺はこの手帳をそう名付けた

中身を見てみてもただの手帳と変わらず、何か魔法陣を書いて放っておいたが、ある日奇襲を受けて魔術を使う暇がなかった時にそれは起こった。

なんと何もしてないのに魔術が出ていたのだ。

恐らく、俺が危機を察知した際にソロモンが自動で防御してくれたのだろう、現にあれに書き込んだ魔法陣スクロール障壁シールドだったし、術式の作りが同じだったから確信もあった

そしてそれと同時に、俺はこれをこの奔走に使えると思い、フルに発揮させる為の前準備を行い…

……この辺りはまた後で、まだまだこの事で語る事は残っているし

俺はソロモンを開き魔法陣スクロールを描く

ソロモンこれはイメージや目的を頭に浮かべながら魔法陣を描けば、これが勝手に魔法陣に収まるように調整してくれる

わかりやすく言えば簡単なキーワードで最適解が見つかるネットの検索機能みたいなもの

魔法陣に付けるイメージは『生成』『効果付与:煙』の2つ、ソロモンに念じると1ページだけ刻まれるように陣が作られていく

術式が完成し早速作り出すと、予測通り俺の手元には3個の《スモークグレネード》が現れた

できて早々安全ピンを抜くと、抜いた際にカチャッと、向こうから銃を構える音が聞こえた

「(あの中に耳の良いやつがいるな、ちっと遊んでやるか)」

グレネードのレバーを3個とも外すと、小さな物とは思えないくらいの量の煙が吹き出す。

俺はゆっくりとそれを床に置き、反応を伺う為に柱に聞き耳を立てる

向こうから少しだけだが呼吸音が聞こえてきた、恐らく向こうは俺の行動が不気味とでも思ってるのか緊張しているんだろう。

ただ一人だけ、隊長の隣あたりの位置に音の空白があるのが気がかりだった

あの様子だと側近クラスか……相当落ち着いているのか呼吸が聞こえない、その上であの耳の良さだ、確実に仕留めるつもりだ

その前に……

俺の視界に見た事ある緑色の明かりがある扉が目に入る

「(……あそこからだな)」

俺はさらに2本スモークを作り出して煙の中を走る

「出たっ!」

女性の声が銃を構える音とともに聞こえた

俺はそれと同時にグレネードを彼女に向けて投げ込むと、彼女は早い段階でそれを撃ち抜く

撃ち抜かれたグレネードは煙を四方八方に撒き散らされ、扇状の編隊を覆うように包んだ

「煙がっ!全隊進めーー!」

その号令と共に大勢が階段から降りてきた

「(こんくらい音が鳴れば聞こえんよな……聞こえないよな?)」

どれだけ耳が良くともここまで雑音まみれになれば聞こえづらくなるはずだ、だがここは用心深く……

俺はしゃがみながら床を足裏全体で踏み込み、姿勢を維持しつつ最短の動きで非常扉へ進む

足音を減らして走ったからか、銃声が聞こえない。多分どこかにいる位の予測しかできない辺り、思考の回転はあっても反射は遅めって所か

今頃彼女は困惑してるだろう、煙に包まれた途端隊長が進撃を言い渡す状況、そして足音まみれの現状にどこに相手がいるかの推測もできない

この状態は好都合、ってか向こうから隙まみれになってくれたが……ああそっか

普通ならこんな非常扉も封鎖なり何なりできるがそれがない、そしてこの状況…

「(なる程な、ここの社長は俺の事を一応認めてるんだな)」

そうでもしなきゃエントランスの立地上確実に壁に使う柱に最も近い非常扉を封鎖するはずだ、ならなんでか

ドアノブをゆっくり回し、少し開けてから向こう側のドアノブに手をかけてながら入る


非常階段

そして階段を黙々と駆け上がりながら考察する

「(人間全てを殺めた事咎めるが、実行して達成した以上、実力認めているのか)」

つまり来るなら来いと、面倒な

そう考えている内に下から扉を蹴破る音が聞こえ、足音と共に隊長の声が響く

「逃がすな!徹底的に追い詰めろ!」

おいおい、人間相手にこんな大勢で追いかける?普通、指揮能力を疑うぜ?

俺は即座にスモークを作り出してすぐさま手から放す

煙はそのまま階段の下へ流れていく

「(その間にやっとくか)」

そう思ってソロモンを取り出し、空白のページをめくって魔法陣を作る

今度のイメージは《質量》《残像》と、どう考えても矛盾しそうなイメージを念じる

結果として《分身》の要素が現れた

術式完成してすぐに使うと、自分と全く同じの《分身》が現れる

分身に触ってみると実体があり、自分がもう一人いるって感じがする

俺はこの術式をもっと良くできるなと思い、少し弄る

「(この《分身》に《蜃気楼》を付け足せば…)」

魔法陣にそう書き足すと魔法陣が光り、より性質がいい物に昇華した

俺はソロモンをしまいながら不敵の笑みをする

「(《幻影ミラージュ》の完成)」

分身に触ってみると体を透き通り、胴体を貫く

「(下へ行って時間稼ぎ、できるか?)」

イメージで命令をさせてみると、分身は何も言わずに階段を駆け下りる

幻影と名付けたが一応質量的なのは効いているみたいなのか、しっかり足音や擦れる音がする

俺はその間に階段を上る事にした


―――――


非常階段を登り続けて数分、俺は疲れのあまり段差の上でうつ伏せになっていた

「ぜぇ……ぜぇ……これ…あと何階あるんだ?」

随分上った気がするんだけど、何でか天井が見えない

何らかのトラップがあると考えれば辻褄が合うが、どのトラップなのかは流石にわからない

「(下からの足音も聞こえないし、追手を撒いた…でいいのか?)」

だがあんな奴らが俺を逃すとは思えない、どんな敵にも徹底して来そうな奴だぞ、逃しても散開くらいはするだろうに

「(…って事は今罠にはまってるって訳ね)」

ゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡す

一見してもなんの飾り気もないただの通路だ

「(何となく、何となーく分かってきた)」

罠と言っても種類がある、だがこの状況になる罠は少ないからすぐに絞り込めれた

大まかに3つ

1つはこの通路を『結界にして閉じ込める』結界の果てと果ての境界を繋ぎ合わせ、「階段を登る」を繰り返えループさせる

これは空間からの干渉だから、魔術で空間ごと弄れば問題はない

1つは『階段が生き物である』階段自体が生きていて、任意に段差や階層を生み出したり消したりして辿り着けなくする

こっちはその場で確かめればすぐに分かり、対策もできる

そして最後の1つは『空間を固定して外界から遮断する』だ

こいつだけはなるべく喰らいたくない罠で、視点や視点になるものを結界にして出れないようにするものだ

結界で閉じ込めるのではなく、結界で、そこがこの罠の肝だ

例えば、脱出ゲームや迷路といったのは必ず出口がある、ゲームとして成立させるために必要だからだ

だがこれは違う、ゲームではない、大人気ない事をされても文句は言えないだろう

この罠は実質脱出が不可能、空間を結界にしているのではなくからだ

カメラの写真やビデオカメラでやれば人間じゃなくとも使えるが、目でやった方が1番扱いやすい封印方法だと聞いてはいた

見ている奴が《千里眼》持ちだったら尚更危険だな、遠距離から敵を出れないように見続けるだけで相当なアドバンテージを得られる

俺でもわかる、考え得る最悪な邪魔だ。

「さて、3つは出たが…」

そう言いながら床を強く踏み込む

もしこの段差が生物だった場合、種別はゴーレムである事が前提だ。

それ以外を見た事がないってのもあるが、本当マジの生き物だった時の感触ははっきりと違ってくる、そうじゃないならゴーレム確定になるし

そしてゴーレム系の弱点は…

俺は手の平から電気を放つと、床に強く触れてこの階層全体に電流を走らせた

……足元や声による反応がない

「(ってなると結界系か)」

階段が生きてないと分かったが、生きていた方がまだ安心してたよ

さっきの電流の流れも、まるで果てがないような走り方したし

「………」

踊り場にソロモンを置いて、階段を登る

登った先の踊り場に先程置いていたソロモンがあった

「やっぱりな」

これで結界だと気づいて、ポケットからスマホを取り出して時間を見る

「(15:42か、3時半辺りでここに来てから戦闘開始から10分満たず、階段を登ってから結界に気づくまでだから…)」

およそ4分の足止めを掛けられてるのか、やべぇな

「早いとこ結界から出ないとまずいな」

この結界の目的を考えればすぐに思うものが2つある、『大勢の立て直し』か『大技の時間稼ぎ』だ

後者は《転送》なり何なりと回避ができるとして…

前者が厄介だな、長い時間稼がれると脱出後の動きを完膚なきまでに止められる可能性が浮かんでくる

「そうなる前に…!」

俺は踊り場の壁に手で掴みかかると、魔力同士の衝突で出るスパークが生じた

「(やっぱりそうだよな、3つ目じゃなくてとても安心したよ!)」

そう思いながら引っ張ると結界の魔力が布の形状として現れる

魔力は流体だが、水とは違う。当人のイメージや適性で魔力は自ら変容する

当然この結界も例外ではない、結界自体は対象を封じ込めるか、術者が有利になる場所を作るかの2通りになるが、魔力の変容は共通で

例えるならテーブルを包むテーブルクロス、境目を繋いでもそれ以外の空間や壁に触れるとそれがはっきりとわかる

ただこの結界がこんな張り方をしているからと言っても、他の結界がそうそう取れるとは限らないがな

とりあえず……

「ぬぉぉぉぉぉぉっ!」

壁から引き剥がすと境目まで一気に剥がれ、維持できなくなった魔力はガラスのように砕け散った

周りを見ると上に続く階がないのか扉しかない

俺は無言で扉を開けると、視界の先には中央にステージのようなスペースあり、天井がなく広々とした場所が見えた

「屋上かぁ……」

上り過ぎたなこりゃ、入る扉全然なかったから仕方ないと思ってたが…

そもそも途中の扉に入って無事でいられるメリットを感じられなかった、やろうと思えば上と下で挟み撃ちくらいは出来たはずなのに

よく見ると中央に誰か立っている

「(誰かいるし…)」


屋上

屋上に出て中央スペース『ヘリポート』へ続く階段を上ってみると、茶色のスーツを着た青年が立っていた

彼は俺が来るなり話しだす

「来るまでご苦労でした、何もないがゆっくりしてくれ」

ここヘリポートだってのによく言うよ

「随分変わったパーティーだなぁ、酒もねぇ食い物もねぇ…」

俺は皮肉を込めて言いつつうろちょろ歩く

「おまけに綺麗な女性も逃げ出しちまった」

その言葉に表情変えることなく彼は答える

「それはすみませんでした、こちらもアポイントなしの予約でしたので、準備が間に合わなかったのです」

そりゃそうよな、何せ俺がやって来る事自体おかしい話だしな

俺は手榴弾を生成し、安全ピンを抜く

「それもそっか、それじゃあこのパーティーの演目の穴埋めはさせてもらうよ」

レバーを外して階段へ転がす

当然手榴弾は段差に転がってから爆発する

そして無言で奴の前まで歩く

「さっきのと向こう辺りの位置、断ち切っておきたいんだが、いいか?」

彼は無言で頷き、先と同様の手段で階段を爆破する

「決闘の演目……でしょうか?」

俺は黒煙を背にして答える

「こうでもしなきゃ客から投げてもらえないだろ?」

花束か、そこらのゴミだろうけど

彼は少し微笑む

「それもそうですね、私も少しは運動しなければと思っており…ん?」

そう言って準備運動を取り始めたので、右手を挙げて止める

「その演目は別途、本題を終えてから」

そして手をポケットに突っ込んでから語る

「俺がここに来たのは、現世で起こった出来事を解決する為に来た」

そしたらこの歓迎よ、泣きっ面にチェーンソーにも程がある

その後俺は彼、社長『ゼウス』に知る限りの事を全て話した

突然異世界にいた事や、近くの都市まで来れたら地獄のような状況な事、勇者と魔王の戦いとその結末……

そしてその全てがかのように一連の出来事を繰り返されている事、その全てを話した

ゼウスはその話を真剣な表情で聞いてくれた

そして……

「成程、興味深いな」

ってか敬語から変にタメ口になってた

「どうだ?どう思う?」

そう問いかけると彼は深く考え込んだ

いやまさかね…まさかとは言わんつもりだけど、この事例自体が初めてとか言わないよな?

そして考え込んだ末のゼウスはこう答えた

「ここで社長をやってて長い私でも、この事例は特殊すぎる、初めての体験だ」

予想的中、当たりすぎて自分が怖えわ

「まっさかー」

茶化すように笑いながら言うも

「考えてみてわからないのか?この事象の節々の異様さを」

真剣に返されてバカバカしくなった

「分かってる、つーか何度も通されて嫌と言う程思い知らされて聞きたくもない」

彼は「そうか」と言って腕を組む

「あんたはどう思うよ、こんなクソみたいな状況」

「そうだな、私としては事象そのものを変えることが不可能だと思ってる」

……やっぱり

「特に、場所を問わず所定の位置にいつの間にかいたと聞いた時は私も異常すぎると分かってはいるが、その出来事の全てが繰り返されてるとなるとどうしようもない」

神様にも理解出来ていない事象……

「君がそこに何の恩恵もなく現世から来たのも不可解だ、どんな方法でも必ずこちらに来るはず……それが何故……」

異世界に飛ばされた以上必ず通る部分の強制排除……

「そして最後に言っていた彼女、事が終わり次第外傷もなく死んでいたと言う所が異質だ、死ぬ事を前提になっていた事なら尚更だ」

悲劇バッドエンドへ強制移行……

やっぱり神様こいつでもこうも都合良く事を進めさせる事は……できないな?

「仮に私の権限で奇跡や事象の書き換えを起こしたとしても、ここまでは都合が良すぎる」

……ふざけんな

「こんな状況になって、何故こちら側からは何も起きていないんだ……!?」

こんな状況で、いくらでも考えて、何度だって繰り返し見て、その上で神様は無関係……?

あは、あはははは………

「おい啓、どうした?」

いつの間にか俺は、強い雨が降っている公園の真ん中にいた

目の前で傘を持った人が、悲しそうに声を掛けてくる

(啓……)

やめろ……もう関わるな

(お前が苦しんでるのはわかる、そろそろ……)

だからやめろ……これ以上俺を、くるな

(お前が死んだら、家族はどうなる?)

家族……家族が……俺を……俺を!!




気がついた頃には、俺を右手がゼウスの首を掴んでへし折っていた

後から天使たちが現れ、俺に向けて発砲するが、全身にいくら撃たれても死なずにいた


うるさい……黙れ……黙れぇぇぇぇぇっ!


「うァァァァァァァァァァッ!」

ヘリポートから彼らまで人がジャンプしても届かないはずなのに、いつの間にか啓は天使の頭を踏み潰し、持っていたアサルトライフルを踏み潰すと同時に、隣にいた天使に向けてほんの数発だけ撃ち込んだ

「こ、こいつっ!」

天使の一人が銃口を啓へ向けると、彼の片目は真っ暗になっていた

発砲音と共に天使は目から頭を撃ち抜かれ、持っていたライフルが落ちてく

撃ち抜かれた天使の後ろには、構えて待っていた天使がいたが

啓は左手で落ちていくライフルの弾倉を空中で外し、膝蹴りで天使の顔面に当てる

仰け反った天使を撃ちつつ、弾倉を外したライフルをバレルから持って向こう側で銃口を向けている天使へ投げ、当てた

その後一切構えず天使に撃ち込みながら先程撃ち殺した天使のライフルを一挺持って別の群れへ突っ込む

群れは10〜18辺りだろうか、分隊規模の人数がいた

当然彼に向けて銃口を向けて発砲するも、啓は近くの死体を蹴り上げて、兵隊に向けて蹴り飛ばす

死体は銃弾を何度も当たり、そして先頭にいた人にぶつかる

天使は死体をどかそうとライフルを手放すと、ライフルが何故か落ちなかった

その瞬間に視界が左斜めに大きく傾き、体が言う事を聞けないまま、青年がライフルを逆さに持っていた

死体で相手側の視界を遮りながら引き金トリガーから銃口バレルへ持ち替え、相手の銃を掴みながらライフルのストック部分で首の骨を折っていた

そして倒れていく敵を見る間もなく飛び上がり、部隊の中央で回転しながら発砲しつつ着地

周囲にした10数名が倒れ、さらに畳み掛けるように空中で回転しながら発砲するを数回繰り返し、残り2人の所で弾を切らした

2挺のライフルを2人に投げ当て、2人の腰に付けていた拳銃を2挺抜き、最短の動きでコッキング動作を起こして両者の首に銃口を向ける

「ば、化けも……」

片方の天使が言い切る前に銃声が遮り、辺りは嘘のように静かになった


………天使達へ飛び込んでからここに至るまで、およそ30秒足らずの出来事だった


やっと意識を取り戻すと、全身から来る異常な痛みと吐き気が起こった

「うっ……げぇぇぇぇっ……うぇっ……」

膝をついて吐き出し、口を塞いで呼吸を整える

しかしいくら整えても心臓の音しか聞こえないし、目の前がぐらついていた

「(何が……あった?………俺………は?)」

手から温い何かを感じる

手の平を見てみると、鮮やかな血がべったりと付いていた

「ひっ……あ……」

突然の事に驚いて尻もちをつくと、視界が安定してきたと同時に、辺り一面死体まみれの光景を目の当たりにした

「一体……何が……」

突然の出来事のバーゲンセールで思考が纏らず、ゆっくりと自分の状態を見ながら考察する


全身が痛い……痛んでいないのが首から上の範囲だけなら、それ以外の箇所だけを人間の力以上に動かしていた……?

両足が一切動かせれない……ヘリポートからここまでの距離は俺でも届かないから、ここにいるのはおかしい

意識を取り戻した途端呼吸と視界がおかしくなっていた、多分ほぼ無呼吸でここまでの全てをやったって事になる……

その全てをまとめると1つの答えにたどり着く


「ゼウスとの会話以降、精神が一時的に壊れて人体のリミッターが外れたとしか……」

俺……この間に何をやらかしたんだ、こんな死体の山を作って一体何になると……

「とにかく、足を治してからだな…」

足を魔力で治しつつ周囲の状態の確認をする

ヘリポートの中央でゼウスが倒れてて、それ以降敵の殲滅を優先していたな……足元の拳銃2挺を見るあたり、魔術も使わずに敵の武器を奪っては殺しを繰り返したか

「今の俺でも、自然回復くらいは付けて戦うぞ、マジで正気じゃねぇ……いたたた……」

流石の俺も笑うしかない、何せノーガード自傷状態での大暴れ、こんなんで部隊殲滅までいっちまうんだから仕様がないとも言える

「しかもこの異変とも言える出来事は神様でも対策不可と来たか、ふっ…くく……」

本当に……本当に笑うしかなかった

「あはははははははっ!!……あーっハッハッハッハッ!!フゥーハッハッハッ……!!」

屋上にただ一人の笑い声が響く

どっちにしても世界を全部壊してから作り直すしか方法は無いようだな

「簡単には壊さん…徹底的に叩き尽くしてやる…ククク……」

そう言っていると足の治癒が終わって立ち上がる

その時、ふと思った

あれ……?人来ねえぞ?

「おかしいな、人が死んでるのに誰も来る気配もない…ま!全員殺して誰も見なかった事にするつもりだったしいっか!」


その後、この施設の書類の一部と情報を確かめてからビルに火を着けて燃やした

あそこから出て周りをほっつき歩いてみたが、どういうことか人…天使の気配が何故か感じなかった

まるで最初からいなかったかのように

「(でもいた形跡だけはある……ならどっかに何かくらいは……)」

そう思った時、見覚えのある後ろ姿が歩いていったのが見えた

普通の成人男性よりも少し高めの見た目だった、家の兄弟でも1人長男より背が高いのがいたな……

見間違えか?何で直が

ゆっくりと追いかけてみると、たどり着いたのは神殿らしき場所だった

俺は《ショットガン》を生成し、足音を殺して近づいた

直の背中に銃口を押し付けると、直が何かを察したのか言う

「お前から来るとは思いもよらなかったな、ここの事情を聞くために探す手間が省けたよ、啓」

正直あんたまで来るとはこっちも思わなかったよ、兄さん

「何故……ここに?」

銃を押し付けながら問いかける

「知らねぇよ、家で寝てたら何故かここにいたんだ」

「あそう?」

えぇ……思わず気ぃ抜けた返事しちゃったよ、どうすんだよこれ

でも兄さんわからない所はわからないままにしちゃうからなぁ……

考えの果てに質問を変える事にした

「じゃあ質問を変えるよ、ここが何処だかわかるか?」

こんくらいなら解るだろ

「天界……だろ?」

そこはやっぱわかるか

こんなところに私服でいる、ってかいつものより色が濃い…?

何か疑問に思って服の表面をすっと触れて指先を見ると、指先が少し黒ずんでいた

煤かこれ……て事はあそこからしか出てないな

「あのビルから出てきたんだろ?なら、も見たんだろう?」

そう言うと、直は無言で頷いた

見たのか、俺が殺った所を…なら生かす訳がなくなったよ

「俺の探し物も……『』んだな?」

「…………」

続けて問いかけるも、直は何も言わなかった

「まぁ、お前が見た見てないなんてどうでもいいか……」

そう言いながら銃を押し付けつつ直の背中を押していく

どちらにせよ俺の行動の障害に変わらない

「おい、何するつもりだ?」

「さぁな、少なくとも俺の計画の第一段階を始めたばっかりなんだ、ここに居付いてもらっちゃあ困る」

ここで殺すのもはあった、しかし俺と同じ様にどこかで苦しむ可能性を考慮すると……

その先の途切れた道へ押し続ける

あんたが唯一自信ないと謳っていた幸運……奇跡って奴に助けてもらうんだな

「おい……まさかとは言わないよな、流石にこっからダイビングするには道具と準備と技術が足りないんじゃないか?」

その質問にニヤけて答えた

「なぁに、主人公補正で死なんと思えば問題はないさ」

ここまで順調すぎるのも悩みだな、どっかで崩してもらって欲しいが……

自然落下まであと一歩の所、突然直が大きく右に回り込みつつ後ろ回し蹴りを行おうとしていた

俺は咄嗟に回転に合わせて足首を掴み、足場のない所まで投げ飛ばした

「えっ?」

兄も、突然こんな状況に変わったのだから、そりゃ当然のようにキョトンとしていたとも、そして次に言った言葉で一瞬ギャグ漫画かと思いかけたよ

「嘘ぉ?」

そう言いながら空から落ちていった

「ヒロォォォォォォォォォッ!!覚えてろぉぉぉぉぉぉっ!」

断末魔にも似た声を最後まで聞きいてから、神殿を去る事にした


……誰も救われないくらいはわかってた

だって人間だよ?生きて食って争って喜んで悲しんで苦しんで足掻いて……そして死ぬ

こんなサイクルを繰り返して、20世紀も続いておいて変わったのは技術の発展だけ

本能を抑えた試しなんて、ただ狂人が笑顔で人を殺したのと同じになってさ、考えるだけでも胸が苦しいよ。中学の頃から感じ取れるようになってしまったから、もう苦しみ慣れてしまったが……

だが結果として痛み慣れと適応能力、そしてこの精神力を得たのだ


「人生をより良くするための力のはずが、人生をより一層苦しむ羽目になるのは皮肉だよな、どう考えても」

とりあえず冥界に行くためのゲートを作るために、天界へ続く門を文字通り反転させた

まぁやった時に結構激痛は来たんだが、ここに至るまでに相当痛みに慣れてしまった。

そこは仕方ない、慣れてしまったものは

俺はゲートから背を向け、目を瞑って落ちた


この先の、地獄よりかはマシと思った場所へ


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に呼ばれて詰んだのでループしてどうにかします morimori @steelhard

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ