時計塔の番人

雨世界

1 時間を止めたのは、誰? 私? ……それとも、あなた?

 時計塔の番人


 プロローグ


 時間を止めたのは、誰? 私? ……それとも、あなた? 


 本編


 お願い。私を目覚めさせないで。


 霧の海を越えると、そこには絶壁の壁の上に建てられている、まるで灯台のような、大きな古い時計塔があった。

 どうしてそんな場所に時計塔が建てられたのか、その理由はわからない。

 でも、その立派な(とても有名な建築家が設計をした文化財のような)古い時計塔は、確かにその場所に建っていた。(それは、事前に聞いていた説明の通りだった)


 時計技師の男は、その黒色の動物の毛皮で作られたコートのポケットから、古い金色の懐中時計を取り出して、時間を確認する。(世界はとても寒くて、暖かいコートがなければ、とても外には出られないほどだった)

 金色の懐中時計は、いつも通りに正確な時間を指し示している。(そのことに時計技師の男はすごく安心して、ほっとした顔をした)


 時計技師の男の乗っている小さな船は、それから少しして、時計塔の建っている絶壁の壁の真下にある船着場に到着した。

 時計技師の男は、「どうもありがとう」と年老いた船乗りの男にお礼を言って、船をおりた。

 年老いた船乗りは、船に乗っているときと同じように、まったく言葉をしゃべらずに、時計技師の男に、なにも返事を返さなかった。

 時計技師の男も、そのことをとくに気にしていなかった。


 だからその年老いた船乗りの男が、「……気をつけて」と小さな声で、時計技師の男に去り際につぶやいたことに、時計技師の男は少し驚いて、その顔を後ろに向けた。

 船はもう、船着場から動き始めていた。


 時計技師の男が乗ってきた小さな船は、そのまま、深い霧の中に消えて行った。そして時計塔のある世界には、時計技師の男、一人だけが残された。


 時計技師の男は、「ふうー」と、一度ため息をついてから、上を向いて、(海の上からはかろうじて見えたのだけど、この場所からだと、絶壁の崖と深い霧に邪魔されて、時計塔の姿は見えなかった)


 時計技師の男は、止まった時計を修理するための荷物の入ったトランクを持って、時計塔の建っている場所まで続いている古い石の長い階段をたった一人で上り始めた。

 ……時計技師の男がそうやって、とても長い古い石の階段を登っている間、霧が晴れる様子は、一向になかった。

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