青空の旅

雨世界

1 楽しいことを探しに行こうよ。僕と一緒にさ。

 青空の旅


 登場人物


 青空 男の子


 雨雲 女の子


 プロローグ


 幸せを探そうよ。僕と一緒に。


 本編


 幸せの風景


 一人の少女が走っている。

 今、あなたに会いに行くために。

 本当の私の気持ちをあなたにきちんと伝えるために。

 世界で一番大好きな人に。


 楽しいことを探しに行こうよ。僕と一緒にさ。


 人生はきっと旅なんだと思う。

 とても長い、長い、幸せを探す旅なんだと思う。


 私があなたと出会ったのは、小さな子供のころだった。 


 青空くんが冒険に出かけようと思ったのは、その日があんまりにも、とてもよく晴れた青色の空をしている天気の日だったからだった。

 輝く太陽と、真っ白な雲。気持ちのいい風。

 そんな風景をみているだけで、風を感じているだけで、青空くんの心はすごく、すごくわくわくした。

 青空くんは、そんな『幸せの風景』を探して、自分の暮らしている小さな町の中に、冒険に出かけることにした。

 緑色の森があり、ずっと広がっている田んぼがあり、大きな、大きな山がある、そんな田舎にある青空くんの住んでいる町の中で、青空くんはこの街にはどんな幸せの風景があるのだろう? とそんなことを空想して、すっごくすっごく楽しい気持ちになった。

 青空くんは冒険に出る準備を終えると、お母さんにおにぎりのお弁当を作ってもらって、それから麦茶の入った水筒を持って、お母さんと約束の時間には必ず家に帰ってくると大切な約束をして、それから「いってきます」と元気な声でいって、自分の家から、出て行った。

 夏の日の冒険に出発したのだ。

 するとそれからすぐに青空くんは本当にたくさんの『幸せの風景』を見つけることができた。

 そのことが青空くんは本当に嬉しかった。(だからずっと、青空くんはにこにこと笑顔のまま、とても楽しそうな表情で笑っていた)


 そんなことをしていると、青空くんは道の途中で一人の泣いている女の子に出会った。

 ずっと道の横にうずくまって、泣いている女の子。

 それは青くんが今日初めて見つけた、とても『悲しい風景』だった。


「どうしたの? なにか悲しいことでもあったの?」と青空くんはその泣いている女の子に言った。

 するとその女の子は顔をあげて、涙をぽろぽろと流しながら、青空くんのことをじっと、無言のままで見続けると、しばらくして「……うん。とっても悲しいことがあったの」と涙声で青空くんに言った。

 青空くんが「なにがあったの?」と聞くと女の子は、ただ黙っているだけで、自分が泣いている理由を絶対に口に出そうとはしなかった。

 青空くんはその泣いてる女の子と出会って、その女の子の言葉を聞いて、……そっか。世界には幸せなことばかりじゃない。悲しいこともたくさんあるんだ、と思った。

 女の子はじっと黙ったまま、ただ泣き続けていた。

 青空くんはその泣いている女の子に「泣かないで」と言って、それから「ねえ、僕と友達になろうよ」といった。

 すると、女の子はぱっとその顔を上げて、すごく嬉しそうな顔をして、「本当? うん。友達になる」とにっこりと笑って青空くんにいった。


 その泣いている女の子の名前は、雨雲と言った。


 青空くんは雨雲ちゃんと友達になった。

 すると、ずっと泣いていた雨雲ちゃんは、それからすぐに泣き止んで、(涙のあとはその白い頬の上にずっと残っていたけれど)まるで太陽のような笑顔で笑うようになった。

 それが青空くんにはとても嬉しかった。

 

 大人になった青空くんは、その女の子の顔も、声も、雨雲と言う名前も忘れてしまったのだけど、子供のころに、その女の子と出会ったという思い出だけは、今もなぜか鮮明に覚えていた。いつまでも忘れることもなく、ずっと記憶の中に残っていた。(理由は、よくわからないけど……)


 それから二人は一緒に幸せの風景を探す旅を続けた。

 それから少しの時間が経って、青空くんがお母さんと家に帰る約束をした時間がやってきた。


「ばいばい、青空くん。またね」と言って、雨雲ちゃんは自分の家に帰って行った。

「ばいばい。雨雲ちゃん。またね」と言って、青空くんは雨雲ちゃんとさようならをした。


 でも、それからもう一度、子供のころに二人は出会うことはなかった。……今日、大人になった二人が、大きな街で、偶然に再会するその日までは。


 それから青空くんは上機嫌で家に帰った。


「ただいま」と青空くんは言った。

「おかえりなさい」と青空くんのお母さんは青空くんに言った。


「幸せの風景は見つかった?」と、にっこりと笑ってお母さんは言う。

「見つかったよ。すごくたくさん見つかった」

 と、にっこりと笑って、急いで歩き疲れてくたびれていた、土で汚れた靴を脱いでいた青空くんは、振り返って、嬉しそうな声で、お母さんにそう言った。

 台所からはとてもいい夕食の匂いがした。

 手作りのカレーの匂いだ。


 そのお母さん手作りのカレーの匂いをくんくんと嗅いで「すごく美味しそう」と青空くんは言った。

 テーブルの上には美味しそうなカレーが用意されていた。

 それはまちがいなく、今日青空くんが見つけた幸せの風景の一つだった。


 君と一緒に手をつないで。

 深い青色の中で。

 たくさんの綺麗な花が咲いている場所で。

 ずっと、一緒にいようね。

 と、君が笑って僕に言った。


 青空の旅 終わり

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青空の旅 雨世界 @amesekai

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