第12話 つなぎの回

「そっか、とにかく花梨姉ちゃんが無事でよかったよ……それにしてもまさか三桁の奴らがそんな物騒な物持ってるなんてね……うん、でその形状変化合金っていうのは……」


 キーンコーンカーンコーン


「あ、ごめん兄さんもう教室行かないとだから……うん、続きはまた帰った後で」


 私は急いで2-1への教室へと向かった。


「ふー、ギリギリセーフね。」

「ギリギリって……もうとっくにチャイム鳴ってただろ。セーフじゃねえよ。」


 そう憎まれ口をたたく切間のあんちくしょー。


「まだ秋山(先生)が教室来てないからセーフだって!!」


 私がそう言うと背後から……


「だ・れ・がまだ来てないですって……?」

「うわ、せ、先生!!いらしてたんですか?」


 人の気配に対して人並み以上に敏感な私が背後にいるのに気がつけないなんて……


「……まあ、今回はセーフでいいですよ、ですが、次遅れたら遅刻扱いになりますからね。」

「ははは……す、すみません。」


 ……秋山先生、私達2-1クラスの担任教師。少し不気味な雰囲気の先生だ。


「はい皆さん帰りのホームルームを始めますよ……まず、明日の町内のボランティア清掃についてです。」


 ボランティア清掃と聞かされクラス内の空気が少しよどむ。高校生がボランティア清掃に意欲的になれるはずもない。私もあまり気乗りはしない。


「それに際して担当分けの票を配る当日はここに記されたグループで行動するように。」

「ええ……マジかよ。」

「私、友達と一緒に行動したかったなあ……」


 クラスの皆はざわつき始める。まあこう学校側が生徒の意思に反して勝手に班分けさせられることはよくあることだ。だがそれは正直こちらとしても困る。もし、私と切間が違うグループになってしまったらその隙を突かれて襲撃される可能性がある。

 だから、私は昨日の晩、学校内に潜入し班分けのプリントを改ざんしておいた。私と切間が同じグループになるように。


「はい、朝日ちゃん。」


 プリントが私の元に配られ……あれ、おかしい?おかしいぞこのプリント……


「おっ、俺と切間同じ班みたいだな」

「あ、ホントだ。佐原と俺はC班みてえだな……確か三人班だからもう一人は……」

「……よろしく。」

「は、花井……どうしたんだよ機嫌悪そうにして?」

「別に……機嫌なんて悪くないわよ。ただ、真理ちゃんと同じ班になれなかったことが不満ってだけよ。」

「それが機嫌悪いってことだろうが……」


 ……なぜだ?ちゃんと切間と同じ班になるように書き換えておいたはずなのに……私の名前があるはずのところが、かなちゃんの名前に差し変わっている。これは、一体どういうことだろうか……?もしかしてこれは……


「朝日ちゃん私と同じ班みたいだね。」

「あ、ホントだ。真理ちゃんと同じ班だ……」

「……むっ」


 ……視線を感じる。嫉妬の視線を……視線の主はもちろんかなちゃんだ。


「かなちゃん……これは、これはその……」

「いいのよ朝日ちゃん……分かってる。これも、運命なんだって……。」

「かなちゃん……。」

「そのかわり……分かってるわね。私の分まで、朝日ちゃんとの時間楽しんで!!」

「か、かなちゃん!!」


 私達は涙を目に浮かべながら抱き合った。かなちゃんとの絆がより強固になっているのを感じる。


「……たかが、ボランティア清掃のグループ分けごときで大げさすぎないか?」

「……あ?」

「いや……何でもないです。」










 夜、パラディンのアジトで兄さんや切間とボランティア清掃の組み分けが改ざんされたことについて話し合うことにした。


「私は昨晩の午後10時、誰もいない職員室で先生の部屋のパソコンのデータから私と切間が同じグループになるようにしたはずなのに、なぜか私と切間は違うグループになっていたの。」

「……確かにそれはおかしいな。先生がデータにあるグループ分けが変わっていることに気がついて直したっていうのはないのか?」


 切間は異議を唱える。


「いやそれは無いと思う。このプリントのグループ分けは改ざんする前のものとも違ってた。」

「つまり、姫野がこのグループ分けのデータを改ざんした後に誰か別の人が更に改ざんしたってことになるわけか……こんなことをするのはやっぱり……」

「『黒』の可能性が高いね。常にあんたの警護をしてる私を引き剥がすためにグループ分けのデータを書き換えたってことだと思う。」


 やっぱり学校内に『黒』がいるっていう兄さんの仮説は正しかったと言うことになる。


「……それだけじゃないな」

「え?どういうこと夜叉兄さん」

「No14が学校の生徒の中にいる可能性が高いことも踏まえて今回の改ざんもNo14がやったということになる。」

「まあ、そうなるよね。」

「もし、その生徒が君と同じクラスなら朝日を引き剥がすとともに切間君と一緒の班になり隙を見て殺そうとしている……とは考えられないか。」

 

 それって……No14がかなちゃんか佐原君のどっちかってこと?かなちゃんは真理ちゃんと同じ班になれなくてすごい落ち込んでいたし、佐原君は切間と小さい頃からの親友……とてもこの二人の中にいるとはとても思えない……いや思いたくない。


「……いや、同じ班の二人とは限らないよ。これ見て。」


 そう言って切間は今日配られたグループ分けのプリントを夜叉兄さんに見せる


「今回のボランティア清掃は2Cと共に行うって書いてあるだろ。」

「なるほど、その2組のC班の誰かが改ざんした可能性もあるのか……でそれは一体誰なんだ?」

「いや、それについてはなにも書いてないみたいだけど……」


 確かにプリントには2組のC班が誰かということは書かれていない。


「あ、そういえばデータの改ざんをするときに2組の人の班分けのファイルもあったんだけど……」

「そうなのか?それで、2組のC班には誰がいたんだ?」

「……それが、2組の人のことほとんど知らないからよく覚えてなくて、それ以前にNo14が改ざんする前切間はC班じゃなくてB班だったから2組のC班の人。」

「じゃあ、意味ないじゃんか……思わせぶりな態度とるなよな。」

「なんとなく思い出したから言ってみただけよ、悪かったわね……」

「……じゃあ、2組に友達がいるんで、そいつに聞いてみましょうか。」

「ああ、じゃあそうしてくれるかな。」


 切間が電話をかける。2組の友達というのはこの前学校を案内してもらっていたときに会った剛島という人のことだろう。


「もしもし剛島?……ああ、実は2組の班分けについて……え、プリントを学校に忘れてきたから分からない?……わかった。いやいいよ謝んなくて、大したことじゃないから。うん、じゃあまた……」


 切間は電話を切った。


「なによ、あんたも役にたってないじゃない。クスクス……」

「は、まだ他にも当てあるから!!まだ役に立ってとは限らないから!!」


 その後切間は別の人に電話をしその結果2組のC班が誰かがわかった。2組のC班は猿山さるお《さるやまさるお》と鬼山悪宇我きやまおうがどちらもインパクトの強い名前をしている。


「……切間君の学校面白いね。」

「それって、どういういみですか?」

「で、切間この二人のことなんか知ってる?」

「猿山ってやつのことはよく知らないんだけど鬼山は昔一緒に遊んでたからまあある程度のことは……」


 切間いわく、鬼山という人は名前のまんま○クザの息子らしいということ。昔は佐原君含めて三人でよく遊んでいたが彼が悪い人とつるむようになってからは遊ぶ機会が段々と減っていったらしい。

 

「まあ、最近会ってないから近況とかはよく知らないな……ああでもこの前姫野達とラーメン屋に行ったときトイレでばったり会ったけど。まあそれぐらいなんだよな。」

「マリリンが好きだとかそういう話はないの?」

「いやあ、そういうのが好きそうな話はないなあいつは……って言うかイメージに合わないし。」

「切間の情報だけじゃ鬼山が『黒』なのか特定出来なさそうだな……」


 結局No14が誰かについては全く見通しが立たない状況だ。そんな中、夜叉兄さんが口を開く。


「まあ、No14が誰かも大事だけど今はおいておくとして、もう一つきめておかなくちゃいけないことがある……明日、学校に行くかについてだ。」


 ……私はそれを聞いて思わずはっとなった。なんで、こんな簡単なことに気がつかなかったのだろうと。どう考えてもNo14は明日に何か行動を起こすのだろうから、休んでしまえば行動を起こすこと出来ない。


「そうだよ行かない方がいいよ!!別にボランティア清掃の日サボったってその次の日皆の目つきが少し冷ややかになるだけだって!!」

「それはそれで結構問題じゃないか……」

「……それでも死ぬよりはましでしょ。」

「……」


 そう、死ぬよりはましだ。罠があると分かっていてわざわざいく必要は無い。


「……もし、明日行かなかったとしても、それはその場過ごしにしかならない。一週間、一ヶ月……いや、もしかしたらそれ以上。いつどこから来るかも分からないNo14の襲撃を恐れなくちゃいけない。」

「ちょっと、切間……!!」

「それに、今回はNo14が何らかの動きを見せることは分かってるんだ。だったらこれはむしろNo14の正体を知り捕まえるチャンスだろ!!」

「いい加減にしなよ切間!!あんたそれで自分の命を牛なかもしれないって分かってるの!?」

「わかってる!!でも、それでも俺は一刻も早く奴らの……『黒』のやつらの脅威を取り払って姫野達との普通の高校生活を取り戻さなくちゃいけないんだよ!!」


 ……私は彼の覚悟の大きさを改めて理解した。真理ちゃんとの普通の毎日……『黒』さえいなければ送れていたであろう毎日。彼はこの毎日のために逃げるのではなく戦うことを選んだ。彼にとってそれは命すらも欠けることが出来るほどの代物なのだろう。


「切間君がそう言うのならこちらも答えるべきだろう。明日はできるだけ人を召集し裏山中に警戒態勢を引こう。なんとしてもNo14を捕らえよう切間君。」

「ありがとうございます夜叉さん。」

「……」






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マリナーどもへの鎮魂歌<レクイエム> 三村 @akaaosiro3824

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