第11話 変わる

 金髪、ロン毛、坊主はこちらを例の武器を持ちながら攻撃を続ける。動きはかなり素早い。それなりには鍛えているとみた。やっぱりこれまでの奴らとは違うみたいだ。もっとも私のスピードにはほど遠いな。この程度の奴らであれば三人いてもなんとかなりそうではある。


「遅い遅い!!こんなんで私のスピードに対抗できると思ってんの!!」

「……」


 相手の攻撃を煽ってみたが、三人は特に反応が変わることなく冷静に攻撃を続ける。……しばらく敵の様子を観察していたが、特に変わった様子はない。そろそろ攻撃に転じるべきだな。


「……おら!!」


 ロン毛による大振りな攻撃……ここが切り返しのチャンス。まずはロン毛の攻撃をできるだけ無駄のない動きでかわし『神速』の能力でパワーを増強させた跳び蹴りをかます。


「ぐはっ!!」


 着地、そして間髪入れず次の攻撃に切り替える。次に狙うべきは金髪。スピードを殺さず、勢いのまま金髪の背後に回る。そして、当て身。金髪は顔面から倒れる。手に持っていたナイフは手元から離れ床に落ちる。最後に坊主。こいつを壁際に追い詰めてグーパンでとどめをさす!!……はずだった。突然脇腹に痛みが走った。


「……うっ!?」


 何事かと思い自分の脇腹を見てみる。血が出ている。ていうか刺されている。槍みたいな物で。かすり傷程度の傷ではあるが、問題はそこではない。一体何に刺されたんだ?あいつ苛の中に槍を持っていた奴なんていなかったのに。

 

 背後を見てみるとさっきナイフが落ちていた位置に槍のような物が私の脇腹に刺さる角度で生えている。


「何やってるんすか?」説明するちゃんと狙ってほしいっすよNo451(金髪)さん!!」

「……悪い悪い。でも、悪くない攻撃だっただろ?」

「思いっきり外してたじゃないっすか!!」


 ……金髪は気絶していない。どうやら私が当て身する直前に受け身をとっていたみたいだ。そしてこの攻撃は金髪による物らしい。


「そうかっかするなって、すぐにとどめ刺すからさ。」


 そう言うと金髪は私の脇腹を刺した槍をつかむ。すると槍は形を変え小さくなりさっき金髪が持っていたナイフの姿へと変わっていった。


「武器の形が……変わった?」


 形や大きさが変わる金属……これが奴らの武器の正体。おもえばあの銀色の鉛玉。あれがそうだったのだろう。仕組みはよく分からないが、性質さえ分かればどうとでも対処できる。問題は脇腹への刺し傷。そこまで深い傷ではないがかなり痛む。相手の攻撃に集中できない。


 その後も何とか三人の攻撃に対応こそし続けるが、反撃が出来ない。この怪我に加えて見たことも聞いたことのない未知の武器。突然槍に変化したり盾になったりハンマーにまで……多種多様な攻撃が飛んでくる。



 ガラケーが三人に反応したことから悪魔武器ではないことはわかる。だが、だったらなおさら何だというんだこれは。とにかく、そういうこともあって無闇に反撃できないのだ。


「あーあ、どうしよっかこの状況。さすがにまずいよな、このままじゃ……」


 こんなとき援軍が来てくれれば……今からでも呼ぶべきだろうか?無線はポケットの中に入っている。隙を見ていったん逃げ夜叉ちゃんに援軍をよこしてもらうか……正直、前の失態もあり援軍を呼ぶのはあまり気が進まないが、そんなことも言ってられない。


「無線はポケットの中に……」

「させないっす!!」


 ポケットから無線を取り出そうとしたが坊主が武器の形をナイフから槍に変形させて攻撃してくる。


「あ、あっぶな……」


 なんとかよけることが出来たが、これでは連絡を取ることが出来ない。このままだと防戦一方、万事休す


「これでとどめだ。おら!!」


 ……になるとこのとき私は思っていた。だが、この状況を変えるべく正義の剣を携えた剣士がさっそうと現れる。


「うわっ!!なんすか、あんた!?」

「てめえはもしかして……神宮夜叉か?」



 その剣士はロン毛が持った槍を自身の悪魔武器『夜叉丸DX』で防御する。



「……夜叉ちゃん。来てくれたんだね。でもなんで?」

「花梨、無線のマイクつけっぱなしだったよ。」

「え、あホントだ……」

「まあそのおかげで花梨がピンチだって分かったけどね。怪我は大丈夫?」

「こんぐらいどうってこと無いって。」


 これ以上ないぐらいグッドタイミングで駆けつけてくれるなんてやっぱり夜叉ちゃんは最高だ。


「なあ、あいつが持っているおもちゃの剣。あれもまさか……」

「例え悪魔武器だろうが関係のない。俺達にはこれがあるんだ。」


 ロン毛は自慢げに持っているナイフを見せびらかす。


「……彼らが持ってるあれはなんだ?」

「ナイフになったり槍になったり、形や大きさを自由自在に変える物質。悪魔武器じゃないとは思うんだけど。」

「形状変化合金か……」

「え?」

「No9が開発してるっていう金属だよ。脳の電気信号を送ることで形を自由自在に変えることが出来る金属らしい。」

の情報……?」

「ああ、そうだ。」

「……じゃあ間違いないね。何か対策ってあるの?」

「あいつらがつけてる腕輪があるだろ。」


 確かに三人とも腕輪を着けている。


「あれが脳波を中継して電磁波に変えてあの金属は形を変えてるんだ。だから、あの腕輪を破壊すれば、形状変化合金は機能を停止する。」

「おいおい、なに堂々と作戦会議してるんだよ。全部聞こえてたぞ。」

「まさか形状変化合金のことがばれてたなんて一体どこから情報が漏れたんだ?」

「関係ないさ、こっちは三人、相手は手負いのやつを含めて二人。勝てるさ。」


 ……しばらくお互いに警戒態勢に入る。数秒間無言が続き先に動いたのは……夜叉ちゃんだった。


「来るか……!!」


  夜叉ちゃんが三人相手に果敢に攻め込む。夜叉ちゃんの剣の動きはとにかく無駄がなく美しい。ロン毛の攻撃を無駄のない動きでかわしそして……


「な、なに……!!」


 夜叉ちゃんの剣によってロン毛のつけている腕輪は斬られる。これによりロン毛が持っている形状変化合金は元の金属の球体に戻った。


「おいおい、簡単に切れるものじゃないぞこれ。」

「次!!」


 今度は金髪に向かって攻撃を仕掛ける。


「大盾!!」


 金髪は形状変化合金を大きな盾を形成する。大盾は夜叉ちゃんの剣の突きをはじき返す。


「へっ、どうだこれで攻撃は通るまい……今だNo671(坊主)やれ!!」


 夜叉ちゃんの攻撃が弾き返され体制が崩れたところを坊主は狙いに掛かる。


「神撃キック!!」


 私は夜叉ちゃんを狙った坊主に必殺の神撃キックをおみまいする。


「ぐはっ!!」


 坊主はさっきの剣裁きを見て夜叉ちゃんの方に気がいっていたためか、この攻撃はすんなりと通った。


「ちっ!!何油断してんだ。このはげ!!おいNo672(ロン毛)!!お前もなにぼさっとしてんだ。腕輪壊されたぐらいで意気消沈してんじゃねえぞ!!」

「……わかった。」


 今度はロン毛が丸腰のまま夜叉ちゃんに向かって攻撃してくる。


「おっと!!夜叉ちゃんはやらせないよ。」

 私はすぐに夜叉ちゃんの前に立ち、坊主の攻撃をを食い止める


「どけ、くそばばあ……」

「……だから二十代だって言ってんだろうが!!」


 私は勢いのままロン毛を蹴り飛ばす。


「づお!!」


 私の蹴りによってロン毛はそのまま倒れた。


「くそ!!どいつもこいつも役に立たねえな!!」


 ……ロン毛は私が取り押さえたし、坊主は完全に伸びてしまっている。残りは金髪ただ一人。


「あとはよろしく夜叉ちゃん!!」


 夜叉ちゃんは剣の先端に魔力を集中させる。そしてその魔力の帯びた剣で金髪が持っている盾に向かって一気に突く!!

 

「な、なんだこのパワー!?」


 『強閃撃』剣の突きとは思えないようなパワーが金髪が持っている盾を貫かんとする。その衝撃は巨大なハンマーで殴るのと同等。それほどの威力が剣の先端の一点に込められているのだ。だが、敵の盾も負けていない。



「あんたの盾、意外とやるね。」

「なんだと?」

「この勝負、矛と盾どちらかが壊れることで決着という形になるだろうよ。さあ、正々堂々と勝負しようじゃないか。」

「ふん、そんなことわかってんだよ!!硬度レベル……マックスまであげてやるあ!!」


 盾がどんどん硬化しているのが目で見ても分かる。これを突き破るのは並大抵のことではだが、私には分かる。夜叉ちゃんの夜叉丸に貫けないものがあるはずないと……


「まずいな……これは。」

「え?」


 え……今夜叉ちゃん何て言った?まずいって言った!?


「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ?あの神宮夜叉ともあろうものがこの程度の盾やぶれないはずがないよなあ!!……って、あれ?」


 金髪は気がつく。急にさっきまでの夜叉丸による強烈な衝撃が無くなったことに、それもそのはず夜叉ちゃんは『強閃撃』を解除したのだ。これではロン毛の鉄壁の盾を破ることなど出来るはずがない……そう思っていた時期が私にもありました(ほんの一瞬)。

 さっきまでひたすら踏み込んで『強閃撃』をガードすることだけに全力を注いでいた金髪の体は前のめりに倒れる。その瞬間を夜叉ちゃんが見逃すはずがない。そのまま前のめりに倒れた金髪を取り押さえた。


「て、てめえ卑怯だぞ!!何が『正々堂々勝負しよう』だ!!」

「悪いな、さすがにこれ以上やったら夜叉丸にひびがはいりかねない。そうなれば今後の戦いにも支障が出る。」

「……くそ!!こんな奴に、こんな奴に負けるなんて……」





 その後私達は、『黒』三人を縄で縛り、パラディンの車を呼び三人を本部へ運ぶことになった。


「さてと、やっかいごともなんとか片付けることが出来たし、本部へ戻ろうか。花梨の怪我の手当てもしないと。」

「……」

「ん、どうしたんだ花梨浮かない顔して?」

「ごめんね夜叉ちゃん。また、へましちゃって……」

「おいおい、そう落ち込むなよ……らしくもない。」

「でも……」

「花梨はよくやってくれてるよ、このガラケーを使えるのが君を含めて四人。その中でも広範囲を感知しすぐにその場に駆けつけられる。それが出来るのは花梨、君しかいない。」

「……」

「だから、俺達は花梨に少し頼りすぎて無茶をさせていたのかもしれない。すまないな……」

「そ、そんなことないよ。私は自分の意思でやってるんだから。だから……」


 そうだ、これは全て自分の意思でやっていること。夜叉ちゃんが気負う必要なんかみじんも無い。全ては姫野真理と切間っちとパラディンと……夜叉ちゃんのために。


「あいつらがこの街に来てから花梨は少し無理しすぎだ。それに脇腹の怪我のこともある。しばらく休んでくれ。」

「……」

「そんなしょげた顔しないでくれよ、俺達は誰よりも底抜けに明るい花梨のことが大好きなんだから。」

「夜叉ちゃん……」


 私は顔が少し赤くなっていた。そうだ、こんなの私らしくない。いつまでもくよくよしてたら……遠山花梨らしくないよね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る