第10話 そして始まる戦い

 20XX年4月25日古鳥高校の始業式が始まって一週間が経つ。この街は平和そのものだ。会員番号三桁にも満たない『黒』の奴らがちょくちょくやってきては来るが、そいつらは花梨姉ちゃんが撃退してくれている。


 私もこの学校に段々と慣れてきた。クラスの皆は突然転校してきた私に対しても壁を作ることなく接してくれる。最初は転校することに少し不満はあったがここに来てよかったと思っている。それにこの学校には……


「朝日ちゃーん、私達と昼ご飯一緒に食べようよ。」


 そう言ってやってきたのは、かなちゃんと……


「ひ、姫野さん!!」

「もう、さん付けは止めてって言ったでしょ。友達なんだからさ。」

「ご、ごめん……でもやっぱり、ファンだからさ……呼び捨てにはしづらいというかなんというか……。」

「もう、あんまりそういうことは気にしないでよ、私はもうアイドルなんかじゃない。普通の高校生なんだからさ。」

「そっか、そうだよね……わかった。じゃあ一緒にご飯食べようか……真理ちゃん。」

「うん!!」


 ……ま、真理って呼んじゃった。大好きな姫野真理のことを呼び捨てにしちゃったよ……なんだろうなんとも言えないこの気持ち。うれしいような気持ちもあるし萎縮してしまうような気持ちもある。推しのアイドルと友達になるってこんな感じなんだな……


「朝日ちゃんのお弁当本当においしそうだよね……それ一つもらっても良いかな?」


 かなはよだれを垂らしながらそう聞いてくる。


「いいよ、その代わりかなちゃんの卵焼き一つと交換ね。」

「やった、ありがとう。朝日ちゃん。」


 こんなごく普通の女子高生としての日常を……


『ピリリリリ……』

「朝日ちゃん、ケータイ鳴ってるよ。」

「あ、ホントだ。ごめん私ちょっと外に行ってくる。」

「うん、わかった。」


 この着信音はパラディンからの連絡。二人に会話を聞かれる訳にはいかない。すぐに誰にも見られないであろう場所に移動する。


「もしもし……」

「……朝日か?」

「夜叉兄ちゃん……何かあったの?」

「それがちょっとまずいことになっててさあ……」

「『黒』?」

「そうなんだよ……しかもそこそこやっかいな敵でさ。花梨が手こずってるみたいなんだよね。」

「……花梨姉ちゃんが苦戦するなんて珍しいね。」

「そういうわけだから、念のため警戒しといてくれ。」

「うん、わかった。」


 通話はここで終わった。


「はあ、そうだよね。奴らがいる限り普通の学園生活なんて送れるわけないよね……」





20分前……謀廃ビル


「三人か……」


 敵感知用ガラケーに三人分の反応が出ている。しかもほぼ同時に。


「一応、夜叉ちゃんにも報告しておかないとね。」


 三人同時ということはこの三人は結託している可能性が高い。そうあの日、4月16日と同じように。私はこの日ひどい高熱を出していた。そのため、別の隊員に見張り役を交代してもらうことにした。だが、交代した隊員のミスで黒の侵入の報告が遅れてしまった。あのとき私が熱を出していなければ……


「……って、何考えてんのよ遠山花梨。こんなんらしくない!!過去の失敗をいつまでも引きずってたら出来ることも出来ないもんね。」


 私は気持ちを切り替えてガラケーの反応があった場所へと向かった。5キロぐらい距離はあるが私の全力疾走であれば5分も掛からない。ガラケーが反応している場所には三人の男。一人はロン毛、一人は似合わない金髪、一人は坊主。奴らがひとけのなさそうな場所に入った所で後ろから声をかけにいく。


「はーい、そこの三人止まりなさい。」

「……なんですか、いきなり?」

「今から持ち物検査をしまーす!!」

「……え、なに?おばさん警察かなんかですか?」

「は?おばさんじゃねえよ。まだ二十代だぞ。」

「あ……すみません。」

「とにかく、君たちが持ってるその鞄の中いかにも危ない物が入ってそうだから中身みせてくれない!?」

「い、いや……」

「お願い!!先っぽだけ、先っぽだけでいいから……ね?」

「先っぽって何の先っぽだよ……まあ良いですよ別に。」


 そう言って彼は鞄の中身を見せる。中に入っているものはカメラに筆記用具にノートなどなど……確かに一見すると怪しいものは何も入っていないように見える。だが、なにかあるはずだ。何か武器にになりそうな物が……


「もういいですか、俺達急いでるんで……」

「待って!!もうちょっとだけ……」


 こいつらが『黒』の奴らだということは分かっている。そして彼らが向かっている場所が今切間ちゃんが授業を受けている古鳥高校だということも……私は三人を引き留めるためにロン毛の腕をつかむ。


「ああもうしつこいですよあんた!!」


 ロン毛は私がつかんだ腕を振り払う。そのとき、私はロン毛の腕に何かまがまがしい腕輪をつけていることに気がついた。


「ねえ、これは一体何?」

「あ、いやそれはその……」

「……なんか怪しいわね。ちょっと調べさせて……」


 私がそう言いかけたとき私はロン毛の表情が明らかに険しくなっているのに気がついた。これが奴らの武器に違いないと確信する。だが、それに気がついたのとほぼ同時に金髪が怪しい動きを見せる。


「おい、金髪あんた何やって……」


 そう言ったのも束の間、金髪がなにか刃物のような物を取り出しこちらに向かってくる。普通の人はよけられないだろうが私は自慢の瞬発力で間一髪のところでよけることに成功する。


「うおっと、あっぶねえな金髪。こんなもんどこに隠し持ってたんだ?でもこれで決まりだな。あんたら『黒』だろ。」

「……なんか変な人だとは思っていたが……パラディンだったのかあんた。」


 やつらが私を見る目が明らかに変わっている。さっきのような思春期の男子がきれいなお姉さんを見つめている目(?)ではない。敵を見る目だ。


「ねえ、あんたたち、出来ればおとなしく捕まってくれないかな?そうしてくれれば悪いようにはしないからさ。」

「何、言ってるんだよおばさん。」

「また、おばさんって……」

「こっちは三人いるのに対してあんたは一人。どう考えてもこっちの方が有利じゃん。この状況でおとなしく捕まりに行くわけ無いでしょ。馬鹿ですかあんた。」


 刃物の大きさはだいたい果物ナイフぐらい。この大きさの刃物がポケットの中にあったらさすがに気がつく。だが、金髪はポケットからこの刃物を取り出していた。……金髪が持っている刃物あれは普通の刃物じゃない。警戒する必要がありそうだ。

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