『 』ではない。『 』だとは、誰も言っていない。

蝉の声、額にかいた汗、まとわりつく蚊。
兄のためにコンビニへアイスを買いに行く弟。
『 』の景色。『 』の熱気。『 』の蛙の声。
兄との思い出がいちばん詰まった季節。

それが一気に雲散霧消して兄のほんとうの姿が現れた時、ああ、そういうことだったのかと感じて、ほんとうの温度を肌に感じた気がしました。
手の届かない遠い、遠い、遠くにいってしまったんだ、そう感じたとき、弟の喪失感が喉に張り付くような気がして、『 』ではない静寂と線香の匂いを感じた気がしました。