意外すぎる一面

「誰かとカラオケは久しぶり」


 カラオケに着いて澪がそう呟く。

 誰かとが久しぶりであるならば、一人では来るということだ。

 ヒトカラ来る人は結構いるらしいし、澪だって例外ではないのだろう。

 海斗は四人で来るのは初めてで、少し怖くて愛奈にくっついたままだ。

 自分から誘ったとはいえ、すぐに親しく話すのは無理。

 仲良くなるにはもう少し時間がかかるだろう。


「何を歌おうかな」


 すぐにマイクとデンモクを澪は取り出す。

 カラオケに一番乗り気なのは澪で、逆に愛奈は少し憂鬱そうだ。

 親友で過去に何回かカラオケに言ったことはあるだろうが、その時に何かあったのだろうか?

 考えても仕方ないことなので、海斗はドリンクバーから取ってきたお茶を飲む。


「次は僕が歌うね」


 部屋にはデンモクが二つあり、渚も曲を探す。


「よし、これを歌おう」


 部屋に曲が流れ始め、澪マイクを手に取る。


「マジか……」


 澪が選んだ曲はデスメタルだった。

 見た目や普段の言動からは想像つかなほどの選曲で、学年主席といい意外性ありすぎる。

 テレビにはPVが流れており、澪は合わせて頭を激しく降る。


「デスボイス……」


 歌声も普段とは完全に違う。

 愛奈は澪がデスメタルを歌うと知っていて嫌そうにしていたというわけだ。

 確かに趣味じゃないとデスボイスはあまり聞きたくない。

 しかも一曲目からデスメタルを選択するなんて思っていなかった。


「ちょっとおかわり」


 お茶を全部飲み干し、海斗はコップを持って愛奈と一緒に部屋から出ていく。

 渚から一人にしないでよオーラが出ていたが、少しだけ我慢してほしい。


「まさかデスメタルを歌うとは……」

「私も最初ビックリしたよ」


 初見は誰だって驚くだろう。

 アニメが好きだからアニソンを歌うと思っていたが、予想を反してのデスメタル。

 決して下手というわけではないが、愛奈が嫌がっていた理由はわかった。

 声が大きくてデスボイスが受付の側にあるドリンクバーにまで響いているのだから。


「しかも一度マイクを握ると中々離さないから。前にフリータイムで入ったのに私は一曲しか歌えなかったよ」


 いくら何でもそれは酷すぎる。

 でも、音痴じゃないだけマシで、慣れてきたら我慢は出来そうだ。

 聞いていたいわけではないが。


「今日は海斗くんいるから我慢出来そう」


 愛奈はそう言って海斗の肩に頭を乗せて甘えてきた。

 過去に行った時は我慢出来なくて帰ったことがあるのだろうか?

 色々考えたが、聞く気にならないので疑問を言葉にはしなかった。

 店員からイチャつくなという視線を向けられた気がするが、気にせず部屋に戻る。


「死にさらせー」


 澪はデスボイスで凄い曲を歌っていた。

 デスメタルなんて全くと言っていいほど聞かないので、部屋に戻っていきなり死にさらせと歌っている人がいたら怖い。

 人の趣味をどうこう言うつもりはないが、複数で来たら最初は誰にでもわかるような曲を選ぶのが一般的じゃないだろうか?

 今日はストレス発散で来ているとのことなので、澪は空気を読まず入れたのだろう。

 ストレスを与えてしまったのは悪いと思っているし、今日は自由に歌わせることにしよう。

 渚と仲良くなるのは後日でも問題ない。


「愛をぶちまけろー」


 本当に凄い曲だ。

 死ねとか言っていたのに、次は愛とかわけがわからない。

 デスボイスで愛してると言われても嬉しくはないだろう。

 しかも間奏にデンモクを操作して曲を入れている。


「愛奈、膝枕」

「うん」


 澪の意外すぎる一面を知り、海斗は愛奈の太ももに頭を乗せる。

 デスボイスはどうにもならないが、しばらくは愛奈の膝枕を楽しむことにした。

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学園のアイドルに抱いてくれないと眠れない身体にされたから責任取って結婚してと言われた しゆの @shiyuno

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