昔の友達に歩み寄る

「な、ぎさ……」


 学校休み時間、海斗は昔の友達である渚に勇気を持って話しかけた。

 記憶を取り戻すと決めた以上、小学生時代の知り合いと話さないといけない。

 だから渚に話しかけ、何かしらの手がかりがあればと思った。

 ただ、恐怖があり、愛奈にくっつきながらで少し身体を震えさせている。

 一方の渚は海斗から話しかけてきたことに驚きを隠せていないようだ。

 今までずっと距離を置いていたから仕方ないかもしれない。


「何かな?」

「その……今日の放課後に、カラオケに行かないか?」


 恐る恐る聞いてみた。

 先日話しかけてくれたのに威嚇してしまったし、一緒に遊んでくれない可能性がある。

 最初は断られるの前提で聞いているのだ。

 今日は無理でも明日以降もチャンスはあるし、ゆっくりと距離を縮めていけばいい。

 仲良くしたい目的があるため、今は威嚇するのを我慢している。

 意識的に話さないと威嚇が出てしまいそうだ。


「いいよ」

「あっさりOK?」


 すぐに笑顔で了承してくれると思っていなかったため、海斗は驚く。


「だって……海斗とは昔みたいに仲良くしたい、もん」


 可愛い女の子から好意を持たれているんじゃないかと勘違いしそうになるが、渚は間違いなく男だ。

 性別を偽って学校に入学なんて出来はしないのだから。


「何で男の子なのにそんなに可愛いの……海斗くんは私の彼氏なのに」


 不安そうに、愛奈が小声で呟く。

 完全に聞き取れたわけではないが、嬉しいとは思っていなさそうだ。

 渚はラノベでたまに出てくる男のみたしだし、実際にクラスメイトの大半は女の子みたいと感じているだろう。

 同性から告白されたことがあるかもしれない。

 それくらい渚は男を惑わす容姿、言動をしている。

 だから海斗が渚に好意を抱いてしまわないか心配なのだろう。


「カラオケには私も行くから」

「わかってる。愛奈を放っていくわけないから」

「海斗くん……」


 むぎゅーと言わんばかりに抱き合う。


「あー、カラオケ行ったら二人のイチャイチャをずっと見てないといけないのか……」


 何故かため息をついている渚であるが、カラオケに行く約束をしたし今は愛奈とイチャつくのが先決だ。

 ちなみにカラオケにした理由は、気まずくなったら歌って時間を潰せるから。


「何々? カラオケ行くの?」

「青井さん」


 海斗たちの話を聞いたのか、澪が興味津々にしている。

 かなり威嚇されている澪であるが、中々に肝が座っているかもしれない。

 普通だったらウザいなどと思って海斗に近寄って来ないだろう。

 親友である愛奈がいるからなのかもしれないから話しかけてくるのかもしれないが。


「私もカラオケ行きたい」

「え……?」


 イチャイチャしてても会話が聞こえたのか、反応したのは愛奈だった。

 何故か視線が泳いでおり、明らかに挙動不審だ。


「どうした?」

「いや、何でもない、よ?」


 どう見ても何でもなくない。


「澪ちゃんはカラオケ行きたいの?」

「うん。最近はちょっとストレスたまってるから」


 ストレスというのは間違いなく原田姉弟のせいだろう。

 海斗は威嚇してしまうし、夏希は抱きつこうとするしで、ストレスがたまってても仕方ない。

 カラオケでいっぱい歌ってストレス発散したいのだろう。


「なんか……その、すまん。なるべく、威嚇しないようにするから」


 澪は一切悪くないのだし、海斗はちゃんと彼女に謝らないといけない。

 きちんと話すことが出来るようになったら、改めて謝罪するつもりだ。


「悪いと自覚あったんだね。そこに驚いた」

「今の海斗くんは捻くれてるだけだから。本当は真面目で優しい人なの。私が好きで好きでたまらなくなるくらい海斗くんには魅力があるんだよ」

「そうなんだ。ナチュラルにノロけられたけど……」


 愛奈がノロけるのはいつものことだが、見せられて澪は「はあー……」とため息。

 いっぱいイチャイチャを見せつけられてノロけが止まらないのだし、呆れても仕方ない。


「海斗くんは澪ちゃんがカラオケに行ってもいい?」

「いいさ。ストレス与えたのは俺なんだから発散くらいはさせてあげないと悪い」


 それにこれからのことを考えると、威嚇をしちゃうのをどうにかしないといけない。

 愛奈の親友である澪くらいには威嚇しないで話せるようにならなければ、他の人とはまともに会話することも出来ないだろう。


「海斗くんがいいなら問題ないけど、責任は取らないからね」


 小声で了承した愛奈のことが少し気になったが、放課後は四人でカラオケに行くことになった。

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