Another PHASE 2 :死神の仕事は忙しい






 ─────街が崩壊して一晩が経った。

 いまだ人を探す救助隊や軍人たちの中、彼らが見えないすぐ隣で、それらは歩いていた。


 潰されたままの死体のような姿の者


 死んだ我が子と共に歩く死んだ母親のような者


 下半身しか無い者……




(これが…………僕のした事か……)




 破壊された街に佇む一人の少年。


 カタリィ・ノヴェルは、淀んだ気持ちのままそれを見ていた。


 これが夢なのは分かる。


 だが……この被害を出したのは自分なのもよく分かる。




「お前のせいだ」



 死者が言う。


「お前のせいだ」


 誰か一人だった声は、やがて合唱となっていく。

 冷たい手が、カタリを掴む。

 やがて、死者の海に沈められていく。


 カタリはそれを澱んだ目で受け止め─────




 ブォォン!ガン!!






 そんな無数の死者を、一台の軍用トラックがまとめて引いていった。


 そんなパワーあるのか、と言うべきか、吹き飛び方が不自然でまるで3Dの人間を引いたような勢いで吹き飛ばされ、血が流れないでドサドサと地面に落ちていった。



 あまりの展開に、カタリも死者も大きく口を開けて顔を見合わせる始末だった。



 バタン、と空いた運転席から、眼光の鋭い外人らしき短髪の女性が舌打ち混じりに出てくてボンネットに乗っかったままの死者に近く。




「オイゴラァ!降りろ。

 免許持ってんのか?見せろ」


「あのねぇ、死人が持っているわけ無いでしょう?

 ……あ、待って財布の中ならあるかも」




 続いて似たような黒い格好の背が高くスタイルの良い美人が、市販のウォッカ系列のアルコール飲料片手に出てきて、まだ乗っかっている死者のポケットに遠慮なく手を突っ込んでいく。



 どう言う状況なのか。

 それはカタリにも周りの死人にも分からない。



「バカやってないでほら、二人とも。

 構えて、はいはい、お仕事の時間だから」


 と、ひょっこりトラックの後ろから、どこか垢抜けない感じの美少女が出てきてそう言って2人を使者から離す。


 あれよあれよと出てきた女性たち、それも一様に色々な銃─────カタリも全く詳しくはないが、なんとなく古かったり新しかったりする随分統一感がないのは感じられる。


「えー……メガホン貸して。


『あーあー、聞こえますー、聞こえますかー?

 死者の皆さんどうも初めましてー、私はオンリー。

 我々はー、一応死神をやっているものでーす!』」


 と、例の垢抜けない感じの美少女がオンリーと名乗って拡声器メガホン片手にそう声をかける。




『知っての通りー!

 あなた方はもう死んでまーす!!


 我々、そういうあなた方幽霊にいつまでも自縛されてても困るんですよねー、ええ!


 というか、恨みはわかるんですけど、それを晴らすのは生きてる人の特権でしてね、困るんですよ極悪人でも魂拉致って来るとねー?


 というわけで、はい解散!!

 とっとと成仏してください、さもない』






「ふざけんな!!」「こっちは殺されてんだぞソイツに!!」「いきなり出てきてなんだ!!」「死神ならそれっぽい格好しろや!!」「というかなんでFN社のP90持ってんだよ、普通死神の鎌だろ!!」「統一感ないんだよ装備がよ!!サバゲーかよ!!」




 と、当然のように死者たちは大ブーイングを巻き起こす。


『……あー、そですかー、そういうこと言っちゃいますかー!』

「……はぁ。

 そういう訳だから、発砲許可よし!

 ウィプリィ、サーモバリック弾で焼いちゃって!」



「かしこまり!」


 瞬間、あの短髪の背の高い女性がいの一番にバズーカのような物を構える。


「えっ!?」「嘘だよな、えっ」




「RPG!」


「オラッ!落ちろ!!」


 彼女の背後から退避し、直後放たれたロケット弾が死者たちの一角を吹き飛ばした。




「ぎゃああああああ!?!?」


「熱い熱い熱いィ〜熱いっす熱い!!」


「燃える……!燃えてしまう……!!」





「落ちたな……次弾装填!」


 と、撃った本人はクールにそう言って次弾を詰め、なお隣で拡声器片手にオンリーはこう言葉を続ける。


『警告はしました。発砲許可も出しました。

 じゃあ……ちゃんと死のうか』



 気がつけば、銀髪ナチス風制服の女性が、そして可憐な小さな女の子が、マシンガンらしきものとガトリングらしきものをセッティングしていた。


 ─────そこからはもはや虐殺というか、撃たれた死人達は次々と霧散して消えていく。


 往生際の悪いやつで黒いモヤが溜まっていき、命からがら何処かへ走り出した魂達が消えていったのだ。




「なにこれ……?」


「死神のお仕事」


「死神って……もっとこう、鎌とか剣を使うんじゃ……?」


「その鎌とか剣の材質のやつ、弾丸にした方が簡単だよ?」



「死ぬ寸前になるまで痛めつけてやるからな!!」


「もう死んでるのにー!」



「ロケット弾は……?」


「地獄か煉獄の炎使えば立派な対霊兵器だよ」


 これが死神というのか?

 何故かロジティクスである。


「さて、仕事を冷やしたあなたをいじめても良いけど、そんなことより君の仕事に戻ってもらおうか。

 いい加減、寝てる間に幽体離脱されてても困るしね」


 す、と謎の古典的形状の目覚まし時計を出すオンリー。


「ま、待って!

 僕の仕事……?」


「すっとぼけないの、異世界の救世主。

 いや、魔王かな?こんな惨状を引き起こしちゃねぇ?」


「あ…………」


 重くのしかかる、その事実。

 カタリが俯くと、フッ、とオンリーは花で笑った。


「神か悪魔かわからない。紙になるほど高尚でもなきゃ、こんな悪魔じみた事やってしまった罪悪感がでかい。

 よく、そんな事でいろんな世界を救おうとするもんだね」


「……ぼ、僕は……あの……」


「その言葉の続きは、生きている人間のために言おうね?

 さぁ、身体に戻る時間だ」


 オンリーの手の上の目覚ましをセット。時計の針が動く。


「僕は……どうしたら……」


「その悩み、生き残った人間の特権で、

 殺したやつの業だって事を忘れないで。


 そして、君はまだ死ねない。

 生きて苦しんで答えを探すんだよー?」


「……!」


 時計に針が、セットされた時間に近づく。


「たださ、その答え、

 周りから知った方が良いよ」







 ジリリリリリリリリリ!!!



























「はっ!?」


 静かな、静かな部屋の中で目覚めるカタリ。


 息が荒い。汗も凄まじい。

 ────嫌な夢だった。内容は覚えてしまっている。



「…………」


 おもむろに立ち上がり小さな窓に向かう。


 その向こう、海を挟んで陸地。



 ───────カタリが戦った場所は、いまだに火災も起こるほどの惨状だった。





「…………答えって……僕の仕事って……なんだよ……!」




 ガン、と思わず壁を殴る。



「僕の……せいで……!!」







           ***








「だから言ったじゃないのよ」


 オンリーがトラックの中に入るとそんな言葉が聞こえた。


「いや、ムツミ大先輩、それ誰に言ってるんです?」


 オンリーが聞くと声の主────巫女服に何故か黒いG.W.S.支給ジャケットを羽織る少女が、



 あの時、

 カタリと出会った謎の巫女が、忌々しそうな視線を向ける。



「聞こえていないあの男と、私によ」


「はぁ〜〜〜〜……荒れてますなー、やっぱり」


「そもそも私はフリートレスにフナダマ様を降ろす事には、大反対だったのよ」


「そりゃあなたもある意味じゃフナダマ様の関係者ですしねぇ」


「オイ、若いの。

 あんたが現代の甲冑をぶち抜くだのなんだの苦労しているより、私はずっと前からもっと硬い物を貫くべく行動していたのよ?

 もっと、言葉から態度から敬意を払いなさい」


「と言われましてもねー」


「ったく……まぁ良いわ。

 で、これからどうするの?」


「…………司令からも指示は出てますしね、御老公?

 まぁ…………立場上は、こういう形で」


 す、と取り出す社員証のような物。


 受け取ったムツミの自らの写真と共に書かれた身分は……


「ぴぃ……えむ……?」


民間警備軍事会社PMSCs

 という形ですね、正規軍とは別口で」


「なんでも良いわ。ともかく、あの異邦人をどうするべきか早く判断して、必要ならば斬る」


 近くに立てかけてある槍を見て、決意を秘めた目で海の方角を────カタリのいる船を見る。


「さて、死神に目をつけられて生きてられるですかねぇ、彼?」


 同じ方向を見て、オンリーも笑った。


          ***



「さて……いよいよ第二章の始まりかな」


「だから……私の役割を取るな!!」


 謎の語り部くんは御立腹のようだが、さて親愛なる我が読者諸君。


 いよいよ、第二章が始まります。



「だから!!

 地の文を、私物化するのはやめたまえベルファスト !!」



          ***

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ノベライザー×フリートレス ノベライリングジェネレーションズ 来賀 玲 @Gojulas_modoki

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