第一章のエピローグ:軽巡洋艦と語り部は語りき





「なんて事をしてくれたんだ……!


 あれは、まだ彼らが手に入れるべき時期じゃない力じゃないか!」



 謎の語り部は、問い詰める。

 東京湾を見ることのできるビルの上、銀色の髪の司書のような女性───ベルファストを。



「いや、アレでいいのさ。

 あの力をまずは手に入れてもらわなければ、話にならないからね」


 その手では有名なカルト雑誌、『月刊ミョー』を読みながらベルファストは答える。


「今の段階で、彼が立ち直れると思うのか!?

 あまりに……あまりにも過酷な展開すぎる!!

 彼はいわば物語の序盤にいる主人公だ!!

 こんな……中盤でも山場のようなことに、」


「そう、その過酷な目にあった上で立ち直ってもらわなければ、


 2枚目の継承は不可能なんだよ」


 パン、と月刊ミョーを閉じてそう言うベルファスト。


「2枚目……?」


「もうすぐ、第二章が始まる。

 そして2枚目も……海の向こうからやってくる」


 掲げる月刊ミョーの表紙、

 ベルファストのたおやかな指の位置にある見出しは、こうだ。



『スクープ!ステイツ初UFO墜落事件『ロズウェル事件』の新事実!?

 回収された一枚の未知の物質の写真を入手!!』



           ***


 太平洋、航行中のステイツ艦隊。

 空母の甲板の上、


「フン!フン!フン!!」


 色気も何もない声で、ひたすらにスクワットを繰り返す、筋骨隆々とした褐色肌にメガネの女性が一人。


 戦艦装少女バトルシップフリートレス、コロラドだ。



「コロラド姉〜、なんか荒れてない?」


 後ろからやってきた星条旗ビキニとウェスタンな上着のスタイルのいい美人な妹艦のウェストバージニアが尋ねる。


「ふぅ……いや、間に合わなかったと考えると、何故か胸がざわついてしまうのだよジニー。

 私の筋肉が、細胞が、いや魂が!!

 何故か冷静さを欠いてしまう……」


「うーん……やっぱり、名前の元ネタのせいかな?」


「……船の魂が、本当に存在し私に宿っていると言うのなら、それもありえるかな。

 うむ……じっとしていられないッ!!」


 クワッ、とサイドチェストしながら言うコロラドに、アハハといつも通りの笑って答えるウェストバージニア。


「姉さん、ジニー。

 決着がついたらしい」


 と、灰色の髪のサイドテールなコロラド級2番艦のメリーランドがそう言ってやってくる。


「間に合わなかったか……!」


「あー……なんか残念」


「だが、どうも例の異世界人はやりすぎて街を吹き飛ばしてしまったらしい。

 いよいよ、コレをどうするか迷うな」


 ふとメリーランドが取り出す一枚の栞。


 それは……ノベライザーに力を与えるあの栞だった。


「まさか、1947年にロズウェルに落ちてきたソレが、彼の物だったとは」


「ロズウェル事件な上に、保管してたのがエリア51っていう、完全にエイリアンのアレかと思えば……」


「……エイリアン。侵略者、あるいは異星人。

 酷い言い方かもしれないが、果たして彼はそうじゃないと本当に言えるのか、

 いや、『そうならないと言える存在』か、」


 と、メリーランドは視線を日本の方角へ向ける。


「私は見極める必要があると思う。

 場合によっては、拳を交えてでも」



          ***




「さて、役者は変わり、いよいよ第2章。

 メリーランドを筆頭に、受け継ぐはコロラド級の、」


「辞めろベルファスト!

 そこから先は未来の話であるし、悠長に話している場合ではない!」


 ヒュー、と落ちるノベライザーを指差して、謎の語り部がベルファストに言い放つ。


「心配はいらないよ、謎の語り部君?

 もうすぐ天気が変わるからね、」


 す、と何故か傘を差し出すベルファスト。

 不服さ全開で受け取る謎の語り部は、傘を刺そうとした瞬間、




 ピシャァン!!ゴロゴロ……!!



 雷がすぐ近くのビルに落ちた。


「……わざとだな、ベルファスト?」


「いや、流石に近くに落ちるとは思わなかったからすまないね」


 そう言ってベルファストも傘を取り出して刺す。

 ポツポツ、と雨が降り始め……



           ***



 雷が鳴り響く。

 一際大きな稲妻が、落ちるノベライザーに向かっていく。


 ピシャァン!!


 その瞬間、空間に空いた光る穴から、3つの稲妻が走る。


 先に落ちる雷鳴を追い抜いて、青、白、赤の稲妻がノベライザーと交差する。




「────っと!!」


 青い稲妻が地面にたどり着いた時、稲妻は背の高い艤装の付いた少女へと変わり、その手には未だ少女の姿のままのカタリを掴んでいた。


「───ぁーい!!トリちゃんゲット!!」


 そして、4つのジェットエンジンと翼を広げた艤装を広げたもっと背の高い銀髪でツノ付きの女の子が、ノベライザーから分離したトリをキャッチして楽しそう着地する。




「───ちょっと待てよコラァ!?」



 最後に、ズシンと一番でかいノベライザーを両手で抱えて着地する青い髪の少女が一人。


「おかしいだろ!?

 もう一人いるよね!?なんでボク一人でこんなデカいのを持ってるの!?」


「えー、でもトリちゃんが……」


「その弱ったトリちゃんとそっちの男の子一人でも行けたよね!?

 ねぇ、あのさ、幾ら馬力もあるからって酷くない!?そりゃ最速で最強馬力のボクだけど!!

 酷いと思うよ!酷いよ!!」


「ごめん、

 とっさすぎてさ」


「そしてトリちゃんがモフモフだったから……許しテリブル?」


「……は許す。

 持ちネタを奪ったは後で拳を『グーに』して殴る!」


 はい、と指さしたテリブルという少女の…………なんとも言えない渾身のネタに真顔になる二人。


「「………………」」


「…………せめて、なんか、言ってよ」


「うっ……!」


 と、そこで島風の抱き抱えられたカタリが目を覚ました。







「あ……僕は……あれ!?」


「や、大丈夫かい?」


「島風、さん!?なんで……!?」


「え、なんでボクの名前知ってんのさ、初対面だろ?」


 突然の出来事に、混乱の表情を見せることしかできないカタリ。


「島風、こちらの少年にとっては『かっこ』いい君が会うのは『過去』で、君にとって未来って事だろ?」


「そういうことか」


「……え、あのスルー?」


「ま、じゃあ一応挨拶ぐらいしておこうか」


「スルー?ねぇスルー??」


 後ろの青い女の子を無視して、自分を抱える島風はこう言う。




「初めまして、だよ。


 ボクの名前は島風。最速のフリートレスだ」




「……知ってます、ええ……!

 僕は、」


「会うのは2度めだから?」


 パチン、とウィンクして島風は答えた。



           ***



「これで、まずは役者は揃った。

 いよいよ、第二章だ!」


 ベルファストがそう宣言し、コツコツとその場を後にし始める。


「……まぁもはや何も言うまい。

 しかし、この私ですら先が読めない展開とは……


 さて、いったい何が起こることやら……!」


 謎の語り部もそう言って後へ渋々続く。


「だがぁまぁ、次は」


 エレベーターに二人とも乗った瞬間、ベルファストがいつものタブレットを片手にこう続ける。


「幕間とでもいう物なんだがね」


 ウィーン、とエレベーターの扉が閉まった。


          ***

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