第十話:連合艦隊、栄光の力





 200mの巨体。

 それでありながら細身でスマートなノベライザー・連合レイフォース。



 その左手が、そっとまだ無事なビルの上に乗せられ、3隻のフリートレスを下ろす。


「我々の力を貸している!

 無様な戦いはするな!!」


「同じ病室の弱々しい子、ってイメージ払拭のチャンスですよ!」


「ガンバ!!アタシと、アタシのために散った仲間のためにも……必ず勝ってねカタリ君!!」






「皆さん……!」


 新しいモーショントレース式のコックピットの中、

 姿こそ女の子と化しているが、カタリは男の決意を込めた顔で頷く。




 ノベライザー・連合レイフォースの顔が頷き、愛宕、夕立、神通が敬礼する。






『カタリさん……行きますか』


「うん…………でも、すごく今言うのもアレなんだけど、ひとつだけ良いかな?」


『どうしましたか?』






「なんで僕セーラー服なの?」



 


 ────真っ白な生地に独特な形の襟には青いライン。

 同じデザインの超ミニスカート、ついでに何故か女の子のオシャレというよりは本物っぽい水兵帽。



 女の子になっただけではなく格好まで変わっていた。

 まるで前に訪れたある世界のロボのような変わりっぷりだった。




『気にしてちゃいけません!!

 それより来ますよ!!』






 ────GuGYurururururu!!!!



 怒りを表す様に叫ぶエターナル。

 その敵へ向かい合い、セーラー服少女と化したカタリは文字通りノベライザーと一心同体となって戦う姿勢を取る。


「格好はともかく、不思議だな……空手とか習った事ないのに、身体が動く!」


『良いんです。想像して、動かしてください!

 そして、カタリさんが今まで見てきたテレビや漫画みたいな動きを、ノベライザーで創造するんです!』


 先に動いたのはエターナル。

 サメのような顔の鼻先にある、剣のように鋭い突起を向けて突進する。


「せぁっ!」


 自然と足が、ハイキックを放ち相手の鼻先を文字通り挫く。

 驚くことに超ミニスカートなのが幸いして足がかなり上がって動く。


 いや、

 普段のカタリでは絶対にできない運動能力だ。


「たぁーッ!」


 突進の瞬間、ハイキックの回転を利用しながら近づき右ストレート。


「デュワッ!」


 怯んで一歩下がった所へさらに左ストレート。

 華麗なコンボが決まり、一瞬エターナルが後退りする。


「すぅー……すごい、なんだろうこのパワー!」


 再びの突進を両手で受け止め、膝蹴り。

 止まった敵へパンチ、パンチ、パンチパンチパンチパンチパンチパンチ!

 マシンガンも同然の速さで叩き込み、再び大きく後退りさせる。


「速い……!パワーだけじゃなくって、こんな大きいのに凄く早く動ける!!」


 だが、突然ガクンと言う衝撃と共に、カタリでも分かるほどノベライザーの力が抜ける。


「何!?」


『これは……!?デバイスの影響による機能回復がまだと言う訳じゃない?

 まさかトリさん自身に何か?』


「……!?」


 一瞬、全身が淡く光り、見た腕が誰かの───まるで愛宕のような、または神通のような腕に変わり、ノベライザーから離れそうになる幻影となってゆらゆら揺らめく。


『カタリさん、トリさんが警告を出しています!

 何か……エネルギーが不安定で、長くノベライリングが、フリートライズが保てません!


 未知の現象に苦しんでます、トリさんが!』



 外から見れば、連合レイフォースに重なっていた夕立や神通がまるで抜け出しそうな幻影を見せて、再び元の連合レイフォースに一体化する。


「なんかまずいって肌で分かる……!

 どれくらいこの姿を維持できるの!?」


『もって……トリさん自身がもって1分!』


「………早く倒さなきゃ……!」


 再びやってきた突撃に、回し蹴り蹴りを一発叩き込み止める。

 そのまま再び勢いを乗せ回し蹴り。

 より勢いを乗せて3度目はハイキック。


 竜巻のような一撃は大きくエターナルを吹き飛ばし、エターナルは無理やり空中で姿勢を変えて後ろに地面を擦りながら移動してなんとか止まる。


 その口に再び文字化光線が集まっていく。



「……!」


 瞬間、カタリの脳裏に浮かぶ戦闘方法。

 菊の紋章の前に両手を構えて、伸ばした両手に光の手裏剣のようなものを生み出し、放電のようなエネルギーの紐で二つを繋ぐ。


「『二つの光波手裏剣をエネルギーでつなぎ、ヌンチャクのように振るうノベライザー。

 敵の文字化光線を弾き、大きく振るわれた刃が敵の本体を切り裂く』」


 目の前のいつもの画面に映る詠唱を唱えた瞬間、敵の口から『沈メ』『消エロ』『破壊』の文字の光線が放たれる。


「せぇぇあぁぁぁぁぁ!!!!」


 ポィィン、キィィィン……!!!



 ────二つの光波手裏剣をエネルギーでつなぎ、ヌンチャクのように振るうノベライザー。


「そらそらそら……!」


 ヒュルヒュルヒュルヒュルルルルルッ!!


 敵の文字化光線を弾き、



「てやぁ─────ッ!!」



 シュパンッ!!!


 ───大きく振るわれた刃が敵の本体を切り裂く。


 GuGYuruAaaaaaaaaa!!!!


 周囲に纏っていた文字ごと体の一部に大きく切断痕が出来るエターナル。








 その時、密かにバーグは疑問を電子頭脳に抱いていた。





(先ほどから、文字化ごと攻撃が通っている……?

 どういう事ですか?ダメだ……まだ未知のデバイスの影響がどの程度ノベライザーの機能に働いているか把握しきれていない……!)






 そんなバーグの疑問をよそに、カタリは続け様にノベライリングフリートライザーの人差し指のトリガーを押す。



『CUT IN』



 両手の手の甲の連装砲の砲身が開いた瞬間、両手の間で電撃が走る。


 エネルギーが高まるように両手の間に走る稲妻が強くなっていき、バイザーの文字がフッと消え、何かの文字達が一文字ずつ現れてノベライザー連合レイフォースの周りである形を作る。


「喰らえ!」




 シ

 ャ

 イ

 ニ

 ン

 グ

   プ  ラ  ズ  マ




 真上から見てまるで弓のように並んだ必殺技の文字達の中心で、ノベライザーが両手から放つ光の矢。


 ズドォンッッ!!


 エターナルを、その周りの文字ごと焼き尽くすプラズマのようなエネルギーが包み込む。





(また文字ごと攻撃が……?もしや『隠し機能』が……いやそれは今のカタリさんではまだなはず……じゃあ、まさか……!?)





「やった!」


『────反応健在!?』


 爆煙を引き裂いて現れた巨大なあぎと


「うわぁぁぁぁぁ!?」


 とっさにノベライザーの両腕で掴んだ上顎と下顎。

 しかし、パワー負けしたまま後ろへ後退りさせられ、背中からビルに激突する。


 ズガァァン!!


 ビルを突き破り、背後に黒い文字の濁流がまるで推進力を生み出しているように、エターナルの純粋なパワーでノベライザーごと空中へ吹き飛ばされる。


「くっ……あぁ!?」


 空へ進む勢いで広がる文字に、街の広い範囲が文字化していくのが見えるカタリ。


「やるしかない……!」


 連合レイフォースのパワーでエターナルから距離を一気に離し、頭に浮かんだその技を発動させるべくノベライリングフリートライザーの親指のトリガーを押す。



『NOVELIZE-CUT IN


 って、カタリさんダメです!!!

 これだけは危険です!!!』



「今一気に倒さなきゃ、ダメだ!!!

 コイツは仕留めるッ!!!」


『カタリさん……?』



 くるり、と空中で姿勢を変え、エターナルと向かい合うよう止まる。





「────コイツだけはここで沈める!!」





 いつもと違う……フリートレスの姿だからとはいえ別人のような鬼気迫る勢いのカタリ。

 やがてモニターに出る文字に合わせて腕を胸の前で交差させる。



「『その胸よりたぎらせるは、光のエネルギー。

 その身体に纏う全砲門解放と共に、腕へそれらを収束させる。

 交差して放たれた光の本流はエターナルへ降り注ぐ。

 その技の名は、』」




 ピィン、と音を立てて、連合レイフォースの全身にあった艦砲の砲身が文字通り開いて全身が光出す。



 Gugyurururururuaaaaaaaaa──────!!



 ノベライザーへ向かい、漆黒の『沈メ』の文字が群がった文字化光線を口から放つエターナル。


 ノベライザー連合レイフォースのバイザーの文字が目まぐるしく変わり始めた瞬間、そこに現れた文字たちが一文字ずつ飛び出す。


「すぅー……!」



 その胸よりたぎらせるは、光のエネルギー。

 その身体に纏う全砲門解放と共に、腕へそれらを収束させる。

 交差して放たれた光の本流はエターナルへ振りそ注ぐ。


 その技の名は、





「 連 合

    レ イ シ ュ ト ロ ー ム 」





 カタリの言葉と共に、まるでエターナルに見せつけるように文字が並ぶ。


 放たれた光の本流と文字化光線がぶつかり、鍔迫り合いのように両者譲らず火花を散らす。




「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおああああああああああああああああああああ───────ッ!!!!」




 それは、声をかけるのを躊躇う絶叫。

 この時、ノベライザーの動力であるトリは、密かにカタリの気迫と共に謎の不安定なエネルギーが膨れ上がるのを感じ、

 バーグは、ようやくこの連合レイフォースの危険な力を解析した直後だった。



『カタリさんダメェ────────ッ!?!』


 膨れあがる光が、文字化光線を押し返し、エターナルを包み込む。


 そして、勢いのまま文字化した街や海へ光が叩き込まれ、



 爆発するように、光が弾けた。




「はーっ!はーっ……!!

 なんて威力……!!!」


 まるで至近距離で爆発した核弾頭のようだった。

 キノコ雲はできていないが、真昼のような光が、カタリの興奮を鎮めるほどあたりに満ちる。



『やってしまった……!』


「え……?」


『……カタリさん、冷静に聞いてください。

 今回継承した力のデメリットの話です』


 眼下で、光が収まっていく。


『はじめに、文字化させる力を砕いたり切り裂いた時から違和感がありました。

 我々にはまだ文字化した物に干渉する事はできないはずだと。

 …………直球に言うと、連合レイフォースの、フリートレスの力は、文字化にも干渉できます。


 いや、もっと正確に言えば、この力は『アンチ現実改変』!いや……むしろ!!


 つまり………つまり……!!』




「…………え?」






 ─────街が消え、海が渦巻く。


 廃墟が残っていれば、マシな方。

 エターナルが暴れた範囲が、いや連合レイフォースが放った攻撃が当たった場所全てが、


 全てが、破壊され尽くしていた。





『この力は文字化していようと何だろうと関係ありません!!

 現実改変で守られていようと、全て貫く!!

 あらゆるものを破壊する力なんです!!!』



「…………え?」



 カタリは、言葉を理解できるまで時間がかかっていた。



「……じゃ、じゃあ……この、被害って……まさか……まさか……!!」



 だが、理解した瞬間が訪れてしまった。







「ウワァァァァァァァァァァァッ!?!?!?!」








 カタリの悲痛な叫びと共に、連合レイフォースが解除され、元のダメージを負ったノベライザーに戻る。

 ブツン、とバイザーのカクヨムの文字が消え、ノベライザーが自由落下を始めた。






「そんな……そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!」






 ────カタリの悲鳴の尾を引きながら、ノベライザーが落ちる。



           ***

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