第九話:艦装継承-ノベライリングフリートライズ-






『解釈違いですよぉ!!!

 カタリさんはどっちかというと女装が似合う系な顔立ちですけど!!!女体化は解釈違い!!です!!』


「そういう事じゃない気がするけど、僕も平常心保てない……なんでこんに胸がバルンバルンうごくの!?

 痛くないけど気になるよなんか!?」


「落ち着け!!タマ落としたか!?!」


「愛宕さん、タマも竿も完全に無くしてるんですよ彼!?」


「……ケド、あーし的には……磨けば光る気がするなー!

 どう?ゆるふわ系なコーデしちゃう?」


「なんか…無くした物が大きすぎる気がする!!」



 カタリィ・ノヴェルは今、何故か女の子になっていた。

 声も好きな声優に似ている完璧な女の子に。


『ぐっ……言ってる場合じゃありません!

 カタリさん!このまま戦わないと、またアイツが!』


 GuGYurururururu!!!!


 迫るエターナルのサメに似た恐ろしい顔。

 初めて、ノベライザーを明確に見て敵意剥き出しに迫る。


「くっ……さっきの栞を!」


 と、今までずっと放置していた右手を上げた瞬間、カタリは何か握っていた事に気付く。


「なにこれ!?」


 見れば、握りやすいグリップに、艦首に似た部位が付いた何か。

 ご丁寧に、何か入れられそうなスロットに継承した栞があり、引き抜いた。


『なんですかねそれ……まぁとにかく』


「さっそくだけど!

 ノベライリング!!」


 カシャン、と栞を差し込む。


 ───カシャン、と栞が飛び出してきた。


「…………アレ?」


『アレ?』


 差しても、出てくるだけで反応がないようだ。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!

 なんでなんでなんで!?!」


「ここでトラブルか!?」


「壊れちゃった!?」


「押し込めばなんとかなるんじゃないですかね、こう、このぐらい力入れてウギギギギギギ!!!」


「壊れます!!夕立さんそれ壊れます!!!」


 ポン、としかし栞は夕立の力でも入ってくれない。


『継承されたはずな────────』




 ズン、と音を立てて、吹き飛ばされた巨大な瓦礫にノベライザーが巻き込まれて、3隻のフリートレスも回避できず一緒にどこかへ飛ぶ。


 ズガァン!!

 手頃なビルに叩きつけられてようやく止まった。



「……っ〜、無事か!?」


「なんとか!!」


 しかし、そこはフリートレス。

 人以上の耐久で、コンクリートよりは硬く、すぐコンクリートを破って出てくる。


「だっしゃあ!?

 カタリ君は無事ぃ!?」


「そうだ……当たりどころが悪かったら……!」


 と、ノベライザーを探した夕立が見たのは、


 見事、伸びていた鉄骨がノベライザーの空いた穴にジャストで突っ込んでいる光景。



「カタリさぁぁぁぁん!?!?!」


「お前、死にかけるのが芸になるとか笑えないぞぉ!?」



「─────僕だってそうですよぉ!!!」



 だが直後、そんな声と共にまさかの、カタリが半泣きでその鉄骨を片手で押し出す光景だった。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」


「えぇ!?!ちょっと待って、僕だって驚きたいですよ!!なんでこんな簡単に!?!

 ウッ……」


 と、自分でやっておいて驚くカタリはそのままお腹を押さえる。


「カタリさん大丈夫ですか!?」


「ちょっと切っちゃったかも……なんか血が……え?」


 腹の当たりを少し切ったせいで出た血がついた指。


 その色は、『蛍光ブルー』でドロリとした感触は血のままの何か。



「なんだこれ……え?これが、この青いのが、僕の血か……!?」


「フリートブルー……!」


「え?」


 駆け寄った神通が驚き、その名前を口にする。


『カタリさん、分かりました。

 あなたは女の子になったんじゃないんです』


 そして、ノベライザーの中で少しひび割れた画面からバーグがそう声を発する。


「どういう事?」


『今、あなたの身体は『フリートレス』に!

 完璧に『フリートレス』になっちゃっているんです!!

 恐らくその栞の……いえ、その手の!』


 ハッと、持っていたあの謎の装置を見る。



「これ……もしかして『フリートライザー』じゃ……!」


「フリートライザーって……皆さんのと同じ!?」


 改めて、船の前半分とグリップの様な形のそれを見る。

 不思議な形の、フリートライザーを。



「……ボタン、あるね」


 グリップには、親指で押せる位置と人差し指のトリガーのような位置の2箇所にボタンがあった。

 トリガーを押してみるが、カチカチいうだけで反応はない。

 親指のボタンを押す……反応はない。


「何も起きない……?」


「まって!!ここになんかスライドするのあるよ!」


 と、神通が指さした場所、船の艦橋に似た物がある場所の根本にスライドするスイッチを見つける。


 指で動かすと、なんと艦橋っぽいパーツが飛び出した。


 引き抜いてみると、薄くて半透明な物が艦橋と繋がってフリートライザーに刺さっていた。


「……これって……もしかして!」


『あちょ、カタリさ』


 カシャン、と半透明な薄い部分を、普段栞を刺す場所に差し込めた。

 瞬間、周りが光り始める。


『あばばばばqwせふsjんも……


 RISER,Access.complete!』


 バーグが突然そんなことを言った瞬間、コックピットが光り始める。


「バーグさん、大丈夫!?」


『未知のデバイスが接続したでござりまする!

 ノベライザーの機能が勝手にウルトラ覚醒していやがります!』


 目の前の栞を入れるところ以外、操縦桿やらフットペダルが消えていく。

 いやそれ以前に、



「……バーグさん?」


『……言葉通じてる?』


「いや、通じてるんだけど……なんか変」


『えっマジ?参りましたなぁ……

 そのデバイス、音声の領域に勝手に作用するっぽーい!からJapanにしろなんにしろお言葉が変になってしまいやがるぜ』


「それどころか……あっ!?」


 とうとう座席が消えて立ち上がらざる得なくなる。

 その足が武器を創造する時の様に何かの固定具で止められて、背中に同じように生成された固定用アームが取り付けられる。


「なんだこれ!?」


 コックピットが様変わりして、立って乗る様になっていた。

 思わずキョロキョロした瞬間、ノベライザーは同じように頭を動かして当たりを見回した。


『オーマイガー!この仕様が目覚めるとは!』


「何が起こったの!?勝手にノベライザーが!」


『ぶっちゃけコレ元々あった機能って言うかー、そもそもカタリ氏はコックピットをコックピットとしてしか認識してござらんからコックピットだったのですぞ?』


「言葉が変なだけじゃなくて意味も分からないよ!」


『────言語機能回復!

 よかった、やっとまともに喋れます』


「やった!というかさっきのどういうこと!?」


『カタリさん考えてみてください。

 他世界のロボットは、『操縦桿があってフットペダルで動く物』が『必ずの操縦法である』だなんてことあり得ませんよ?』


 あ、と思わずカタリは声を漏らす。


『この世界のビッグセブンは、元が彼女らの艤装であったが故に、モーショントレース、


 つまり、自分の動きがビッグセブンの動きになる。


 操縦桿やフットペダルは必要ありません。


 というより、そもそもノベライザーはカタリさんの想像力で動かされているんです。


 ならば、本当はフットペダルも操縦桿も要りません』


 考えても見れば、そうだ。

 最初から操縦方法は知らないで乗っていた。

 ただ考えた通り、想像の通り動くのがノベライザーだった。だから動かせた。


「でも僕は……『コックピットはそうである』って思い込みがあったから……!」


『だからこそ、動かせて、今戸惑っているんです。

 でも本質は同じです。私の最初の言葉を思い出してください』


「操縦方法は……感じろ!」


 右手のフリートライザーらしき機械と共に、身体を動かす。

 ノベライザーはカタリと同じポーズを取る。


『でも驚きです。

 その、言わば『ノベライリングフリートライザー』とでもいうべきものは、ノベライザーの補助操縦デバイス!

 カタリさんの想像を助けて、モーショントレースコックピット機能を引き出せるものでもあったんですよ!』


「でも問題は栞が使えない……いつも栞を入れるスロットも塞がっちゃったら!」


 ズガァン、と音を立てて目の前の鉄筋コンクリートが破壊される。

 目の前にはあのエターナルのサメのような冷たい目があった。


「結局ピンチか!!手は無いのか!?我々だけで勝てる気がしないぞ、流石にな!」


『カタリさん、愛宕さん、夕立さん、神通さん、不安でしょうが聞いてください。

 一部機能が新デバイスの接続の影響で不全になっていますが、全てでは無いですがなんとかその新デバイスの使い方が分かりました。

 今から言う通りに、全員で動いてください!』


「……僕からもお願いします!」


「断る暇がない」


「考える暇なし!」


「カタリくんなら何でもしてあげちゃう♡」


 返事は迷いなく早かった。


『じゃあカタリさん、ノベライリングフリートライザーの引き抜いたところに、あの栞を!』


 長門型と書かれたあの栞を、ノベライリングフリートライザーの空いたスロットに差し込む。



『NAGATO-CLASS,STAND BY=FLEET-RISE.


 じゃあ次に皆さんのフリートライザー貸してください』


 3人は、艦装を解いて迷いなくフリートライザーを向ける。

 瞬間、光出したフリートライザーが中に浮かび上がり、しゅんと飛んでカタリの左手に掴まれる。


「これって……!」


 フリートライザーは、栞3枚に変わっていた。


 愛宕、神通、夕立、彼女達の横顔と艦の絵、そして後ろにはそれぞれの文字。


『カタリさん、ノベライリングフリートライザーのスロットが3つ表面にあります』


「もうなんか分かっちゃった!」


 3枚を、愛宕、神通、夕立の順番に右から装填。

 まるで読み込み部と言わんばかりの部分がカシャンと出てきた。

 ライザーの栞3枚のスロットを動かす……読み込ませる。



『ATAGO,

 JINTU,

 YUDACHI,』



 そこまでバーグの音声が言った瞬間、ライザーが光りノベライザーの背後に何かが現れる。


「うわ!?」


「ビッグセブンの!!」


 それは、夕立達には見慣れた、ビッグセブンのロボ艤装。

 長門、陸奥の二大巨大艤装の幻だった。



<さぁ、我らの力を呼ぶ言葉を言え>


「言葉?……?」


<かつての船の魂と力を開放する言葉よ>


 陸奥の艤装の姿の何かがそう言う。


<同胞も呼んだ、その言葉を叫べ>


 長門に艤装の姿の彼女も言う。


<<我らを、私たちを呼び覚ます言葉を!>>


「……そうか!」




 ───── GuGYurururururu!!!!


 


 その瞬間、流石に痺れを切らしたエターナルが文字化光線を至近距離で放つ。





 当たり一体が、黒い文字へと化す。

 ビルも、ノベライザーを包んだまま。



 ────ビルだった文字群の中心に、チカチカと光る何かが現れる。


 やがて、青い光は文字を砕き、それがほんのり光りながら右腕を突き出たノベライザーだとわかる。

 左手で3人のフリートレスを抱えて、



 そして、新たな形態を見せたコックピットの中で、カタリがノベライザーと同じポーズで叫ぶ。








「ノベライリング!!!


 フリートラァ──────イズッッ!!!」







 ライザーの親指のボタンを押し込んだ。

 瞬間、眩い光がノベライザーを包んだ。




          ***


 大東亜先進医療センター


「これで全員デス……あとは救急車を待つばかり……ん?」


 未だ目覚めないフリートレス達を即座に輸送できるよう、エントランスの外に出した叢雲。


 彼女は遠くの空に眩い光を見た。


「わぁ……なんだか綺麗で……」


「……んん……もう朝……?」


「え……?」


 その光が見えたと同時に、

 何をしても眠ったままだったフリートレス達が一斉に起き上がり始めた。



           ***


 ビッグセブン長門艦橋内部。


「……え?」


 外から差し込む光を、サウスダコタは見た。


「なんだぁ……なんか……ホッとする光だ……」


「うっ……んだよ、朝かよ……!」


「ヴァッ!?!

 陸奥!?陸奥ゥ!?起きたのか陸奥ゥ!!」


「うるせぇなぁ……お前の声は……あん?」


 と、陸奥が起き上がる。


「どうなってんだ……?」


「どうなってるって……!」


「……やってくれたのさ」


 と、二人ではない別の声がそう答える。


「長門姉ぇ!?!」


「長門ォォォォ!!!!」


「信じて……いるぞ……カタリ……!」


 まだうまく力の入らない手で、長門は光に向かってサムズアップをした。


          ***


「───祝え!!」


 どこかのビルの上、全てが見える場所、


「全ての物語の世界を旅し、世界の停滞を阻む機械仕掛けの神!!」


 銀色の髪をたなびかせ、司書風の格好の女性──軽巡洋艦装少女ベルファストが叫ぶ。


「その名は……いや、あえてこうしよう」


 チラリ、と物陰のとある語り部を見ると、悔しそうで不満げな顔でこちらを見ていた。




「それでは読者の皆さん、




 ────ご唱和ください、彼の名を!!!」




 明らかに泣きそうな謎の語り部を尻目に、ベルファストは大きく叫んだ。



          ***



 ───光の中から飛び出す三つの光を纏う艦。


 重巡洋艦愛宕、軽巡洋艦神通、駆逐艦夕立、


 3隻が飛び出しながら散らばり、そして再び光へ螺旋を描いて戻っていき、光が収束する。


 爆発。宇宙が誕生するような。


 その奥から片腕を伸ばす、銀色の巨人がグングンと現れる。





『FLEET-RISE NOVELISER!


 RENGO-RAY FORCE.』





 その顔のバイザーに、『連合』の文字が現れる。










 ズギャァァァン!!


 一閃。エターナルが吹き飛び、発生した光の衝撃波で周囲の文字化した文字達が割れて消えていく。


 やがて、光の収まったその場所で、


 キラリと光る銀色と青いラインが走るボディ。

 全長200m近くの、すらりとした手足の巨人が立ち上がる。


 両肩に小さく収まったプロテクターのような連装砲。

 両拳の装甲は単装砲のよう。

 胸には、大東亜連合艦隊旗艦に伝わる菊の紋章。


 右の二の腕に『チダフユ』。腰には魚雷発射管の様でありながらシュッとしたスカートアーマー。



 キリッとしたシンプルで鋭角なラインの顔のバイザーに、大きく書かれた『連合』の文字





「これが……『連合レイフォース』……!」




 ノベライザー フリートライジング・連合レイフォース。



 それが、ノベライザーの新たな力だった。

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