第八話:船霊様の御成り





 光が収まったカタリの目に飛び込んできた物は、不可解な光景だった。


 海。

 そして断崖絶壁。




「え!?」


『どういう、』


「事ですかぁ!?!」


「『「え!?なんでいるの!?!?」』」





 そこにいたのはカタリだけではなく、バーグのタブレットを片手に、頭にはトリがいる。


「というかカタリさん右手のソレは!?」


「え?なにこれ!?」


 そして右手には、あの機体に張り付いたまま取れなかった光る多面体コアフリートリアを掴んでいた。


「僕たち、戦ってたハズだ……って痛い!お腹が……折れてる……!まだ傷があるし……!」


『なんなんですかこれはぁ!?誰か説明してくださいよぉ!!!』


「二人ともしーっ……!静かに……!」


 と、トリの言う通り背後から何かが聞こえて来る。




 振り向けば驚く。


 まず目が合ったのは巨大な建造物だった。

 山のような鋼鉄の何かから、伸びる二つの円柱。


「戦艦の……あれ、砲塔……??」


『カタリさん、ちょっとよく見せてください……

 ……砲塔ですね、連装砲ですね、ええ……』


 戦艦の砲塔。

 だが問題なのは、その前にあるもの。


 今、パタパタと飛んだトリが、二つの足で降り立った赤い色の……



ですね、これ」


「トリさん、身体を張ったギャグ言わないで」


 しかし、冗談でもなんでもなく、トリが乗っている物はたしかに鳥居だった。




 断崖絶壁の海に面した鳥居。

 奥には巨大な連装砲が一つ。


 よく見れば、しめ縄が周りに巻かれており、二つの砲身の間にも名前を忘れた紙のヒラヒラしたアレが垂れ下がっている。


「なんだろう……神社なのか……?」


 この場所はどこまでも不可解だが、社務所のような場所もあるのでここは間違いなく神社だとは分かった。


 そして何より……恐らく連装砲の根本で何かが聞こえて来る。








「フナダマサマニオカレマシテハイニシエヨリテフナビトヲマモリ、ウミノシンテキヲウチホロボシマモリシトキコエー」





 砲塔の根本、小さな社の前。

 見れば、まさに神事を行なっていますと言う出立ちの和装で、一人の少女らしき人物が何か祈っている。



「……なんか、話しかけづらいよ……!」


『祝詞ですかね……?ちょっと言い方が変わっていると言いますか……』


「神事中だったとは……というか何を祀っているんですかこの神社……?」


 もはやどういうことなのか分からないが、誰かいた安堵感かヒソヒソ話し始める。


 ───ピタリ、と少女が口に出していた祝詞が途絶えたことに気づかず。






「……、お前らかー!!!」





 と、唐突に凄まじい勢いで槍のようなモノがカタリ達一行の間に突き立てられる。


「『「ひっ!?」』」


「何をしたのか分かっているのでしょうねぇ!?」


 よく見るとすごく不釣り合いなデザインの、機械的な槍だった。

 身の丈より長いそれを突きの姿勢で構える彼女、


 何故かハイライトの見えない目は、しかしはっきりとその心臓を貰い受ける気が感じられた。


「ま、待ってください!不法侵入は謝りますから!!」


「不法侵入!?そんなもの今更ですが!?

 まったく……何も分からずそれに手を出したと言うのですか!


 !?」


 え、と思わず口から漏れるカタリ。


「なんで僕の名前を!?」


「当然、外から来たナニカは我々は把握しているけれど?

 まったく……ただでさえ、普段は大人しいはずのフナダマ様が浮上しそうになっていると言うのに!!

 我々の仕事を増やさないで欲しいわ!!」


「なんの話をしているんですか!?」


「なんのって……あ!?」


 ふと、彼女は海の方角を見る。


「……?」


「…………来てしまった」


「来て……?」


「カタリさん!!なんだか海が変です!!」


 と、いつのまにか飛んでいたトリがそう言う。


「見るな!!見られてしまうわ!!」


「へ?」


 と、唐突に近くにあった、木の箱を乱暴に開けて、中から不釣り合いに黒光りする『拳銃』を取り出してトリへ構える。


「銃!?」


「Five-seveNよ!!仲間のオススメよ!!」


「ちょ!?私を撃つのには殺意高すぎません!?」


「見るな!!飛ぶな!!あなたが見られたら取り返しが……」


 ザパァン、と海が爆ぜたのは言い終わる前だった。


 すぐ近くの海が爆ぜるように波を立て、やがて何か黒い影がここを覆い尽くし始める。


 最初に見えたのは、神社の中心のようなこの連装砲と同じ物。

 やがて、その下の『船体』がどんどん浮上して太陽を覆い隠す。


「…………遅かった」


「こ、これって……!?」


『…………戦艦?』


 大きすぎる。故に何故か分かった。

 気がつけば断崖絶壁の横に、戦艦が横付けして浮上していた。


 一瞬高く浮上したそれは、やがて甲板と地面が同じ高さになるよう沈んでいく。


 その立派な連装砲が、神社のものと同じ形の連装砲が並んだ時、ようやくカタリは奥にもう一隻いることに気づく。


 そう、同じような、しかしちょっと違う戦艦2隻が並んで断崖絶壁に横付けされている。




 ────そして、近くの戦艦の甲板に仮面を付けた女性が立っている事に今気づいた。




 あまりの事態に誰もが黙っていた。

 やがて、あの何か祈っていた少女が口を開く。



「フナダマ様が直接来るなんて……!」


 フナダマ、と彼女は言った。

 意味は置いておいて、何か……


 カタリの目の前に歩いてきた二人、長身でどこか和風な感じの身体のラインを出す格好の二人。

 蛇、鬼……そんな仮面の二人に見下ろされ、思わず後退りそうになる。


 何か、違う。


 根本的と言うか、生物というか、言葉で言い表せないが明確に違いを理解できる。


 目の前の相手は、『上位種』。


 おそらく一番近い言葉はそうだった。今カタリに言える事は。



「────そこまで分かっていて一歩も引かないなんて、結構キモの座っている感じの子?」


「────しかし、引く事を覚えていないバカでもないようだな」



 妙に蠱惑的な声の鬼の面の女性が口元に人差し指を当てるような仕草で言うと、蛇の面を被った方が凛々しい声でそう言う。


「……ボク達を呼んだのは……!?」


 お前が我々を呼んだ。その右手と……これで」


 す、と蛇の面の女性が取り出したのは、一枚の栞。

 それは、何故か虹色のラメが入った柄一色になっていたが、間違いなく、


『私たちの……!』


「お前が求めたのだ。我らの『力』を」


「あなたが、あなた達が呼んだの。私たちを」


 す、と栞を差し出してくる。



「受け取るが良い。拒む理由がない」


「私達は戦うために生まれて、満足に戦えず理不尽に沈んだの」


「表の状況は分かっている。同胞の危機だと」


「また、だなんて事になってはいけない」


「!

 そうか……あなた達は……!!」


 カタリは、分かった瞬間に栞に手を伸ばす。

 ズキュン!と横で一発銃声が鳴り響き、栞を握っていた彼女の手の甲で銃弾が形を歪がませて落ちる。


「おやめくださいフナダマ様。

 あなたもよ」


「なんで邪魔をするんですか?」


「分からない?助けているの。

 その力がなんなのか分かっていないあなたからね!!」


 そう言って、Five-seveNと言う拳銃を構える彼女。


「…………お前もある意味で我ら側だ。何故邪魔をする?」


「フナダマ様、元よりあなたさま方のお力を使うのは反対の立場でした。気に食わぬなら殺して結構。

 止めるだけの理由があるのは理解していただいているはずです。


 そしてカタリィ・ノヴェル!!

 なんてものを呼び起こしたのか分かっているのですか!?」



 カタリに対して真剣な目でそう言い放つ。

 だが、カタリもどうじない。


「わからない!でも、これが誰から託されて、この力で何をすべきかは分かる!」


「その力は、今まであなたが手にした世界の断片程度のものではないの!!

 あなたは世界を滅ぼす大魔王にでもなる気なの!?」


「怖がっている暇も、議論する時間も無いんです!!」


 カタリは、両手を添えて、丁寧に、迷わずその栞を二人から受け取る。


「っ…………なんてことを!」


「今動かなきゃ、後悔するんだ……!」


 虹色の栞が光る。

 やがて現れた文字と絵。


 背中合わせにファイティグポーズを構える二人。

 上下に二つの戦艦。


 そしてその絵のある裏面に、『長門型』の文字。



『これは……!まさかビッグセブンの……!』




「「我ら長門型の力、たしかに渡した」」





 一瞬にして二人はそれぞれの船の上に移動していた。

 そして、戦艦が離れていく。


「最後に言っておくわー!

 戦いの場に戻りたかったら、そのの光に任せれば戻れるわー!」


 鬼の面の女性がそう言って手を振って戦艦ごと遠ざかる。


 ふと、またあのコアフリートリアを右手で握っていたことに気づくカタリ。


『カタリさん私……色々あってバグが起きそうです』


「僕もだけど……まずは!」


「ええ!まずはですよ!」


 カタリは、なんとなくコアフリートリアに継承した栞をかざした。


「なんてこと……!

 後でまた会う事になりそうね……!!」


 そんな事を言われた瞬間、眩い光にカタリたちは包まれて──────

















          ***


 パァン!!


 文字化の奔流に飲まれかけたノベライザーを中心に、突然光が発生して攻撃を相殺する。


「何─────キャアッッッ!?」


 あの歌うD.E.E.P.がその光に弾き飛ばされた。


「光……なんかあったかい……」


「何が……カタリ君無事!?」


 とすぐに光は収まり、ノベライザーは静かに姿勢を戻す。




『……カタリさん?』


「バーグさん……戻ってこれたみたいだね、僕たち」


『あの……いやそうじゃなくって、』



「────カタリくぅぅぅん!!!無事ぃ!?」


 と、大声を出してやってきた神通。

 しかし、まだ塞がってないノベライザー胸部の穴からカタリの姿を見て絶句する。


「無事です!皆さんは、」


「カタリ……くんなの?」


「え?なんかおかしいです、」


 か、と言いかけてふと自分の身体に触った瞬間、ポヨンとへんな弾力を胸から手に感じる。


「へ?」


 ふと見た自分の手は、何故かいつもより細いというか……ちょっと嫋やかな感じというか、


 それ以前になんか大分が悪くなっている。


 何故か下を見ているのに服のボタンが視線と垂直というか、何か内側から盛り上がっている物で服の一部だけ膨らんでいるというか……



「何この感覚……胸がなんでか重い……あれ、僕の声?


 え、かこれ……?」


 声がなんだか高い事に今気付く。

 ちょっとお気に入りの声優っぽい気がする。

 とうぜんそのお気に入りの声優というのは……


「……カタリ、だな??????」


「───カタリ『さん』、って呼んでいてよかった気がしたの初めてですよ」



 ─────嫌な予感がして下半身に手を伸ばした。

 よく考えれば、服が違う。

 ズボンじゃない、このヒラヒラしたものはスカートだ。

 いつのまに自分はそんな変態的で、この前の世界のあの子みたいな格好に、と思ったが、そんな感想は次に手で確認した事に全て吹き飛んだ。





「…………ないよ」



『カタリさん……?』



「あの………生まれてきてずっと一緒だった物がないよ……???

 まって、まってもしかして!?!?」


 ぱさり、と肩に何か落ちる感覚。

 つかんだそれは、だいぶ伸びちゃった髪の毛。


 流石にそんな長さまで伸ばすようなカタリではない。


 だから。男から。




「…………バーグさん、僕の姿画面に写して?」


『いいんですね。行きますよ?』



 まだ生きているモニターにコックピットを写させる。



 ────ノベライザーに、自分と同じ髪の色の女の子が乗っていた。ちょっと親戚っぽい似た顔立ちの。






 そうじゃない。そうじゃないのである。






「僕……もしかして女の子になってる!?!?!」





 自分が絞り出した声が、好きな声優にすごく似ていると、まだ戦闘中だったはずのこの状況で何故か頭によぎってしまった。





「どういう事なんだこれってぇ─────ッ!?」




 すごく好きな声優に似た声で、女の子になってしまったカタリはコックピットで叫んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る