第4話 夕日の照る鳥居
美永は、家から1時間ほどのところにある町内の県立高校に入学した。美永の家は大稲荷山のふもとにあるため、町の中心部にある高校までは少し遠い。最寄り駅までは、田畑が広がる田舎道を20分ほど歩いたところにあるバス停から路線バスに乗り、駅からは電車に15分ほど揺られることになる。
今日は高校の入学式だったため、美永は両親と一緒に高校まで向かった。入学式の後、両親は帰宅し、美永は同じ中学の友達と過ごしていた。高校の入学式を終え、町に一軒しかないファミレスで中学からの友達と一緒に昼食をとり、高校生活についての話に花を咲かせていた。
「最近、変な事件多いよね。」
ひとしきりしゃべった後、急に神妙な面持ちでこう切り出したのは、美永の親友である加藤凛。彼女は真面目な優等生で、美永とは家が近いこともあり、小さいころからの大の仲良しである。
「あー、狐に化かされたとかいうやつでしょ。みっちゃんがなんとかしてよー。あたし、狐が出るからって、親に門限7時にされたんだよ。マジ意味わかんない。」
不機嫌そうにこう言ったのは、中学でクラス一の美人といわれていた谷口舞。彼女はあか抜けたところがあるが、少し大人に反抗的である。
「でもさー、るみ、狐さんちょっと怖いなぁ。だってさぁ、昔は狐に取りつかれて死んじゃった人いるんでしょお。」
子どもっぽいところのある桜井瑠美は、狐を怖がっているようだ。背が小さく、明るくてかわいい瑠美も、中学ではクラスの人気者だった。この3人とは特に仲が良く、美永と一緒にいることが多い。
ファミレスを出るころには、もう春の夕日が遠くに見える大稲荷山を赤く染めていた。少し盛り上がりすぎたかな、と美永は思った。
バスから降り、凛と別れた後、稲荷神社に続くあぜ道を歩いていく。遠くの方に稲荷神社の大きな鳥居が夕日に照らされ、朱色に輝いているのが見えた。神社の奥には二階建ての一軒家があり、そこに美永たち4人家族が住んでいる。美永は、本殿の前で帰る支度をしている巫女数人に軽く挨拶を交わし、神社の奥にある家に帰った。
「ただいま~ …え」
ドアを開けると、お母さんとおばあちゃんが目の前に立っていたので、美永はびっくりして固まった。
「遅いわよ!今日は大事な儀式があるんだから早く帰ってきてって言ったじゃない!」
早速お母さんに怒られてしまった。
「でも、儀式は6時からでしょ。それまでには帰ってくるっていう約束だったじゃん。」
「お母さんたちはね、みっちゃんが帰ってくるのをずっと待ってたのよ。おばあちゃんだって待ちくたびれちゃったんだから。」
おばあちゃんは何も言わなかったが、笑顔で深く1回うなずいた。美永は、今日の儀式は「狐払い」という役目を担うためのただの就任式だと思っているが、どうやらお母さんとおばあちゃんはそれをとても楽しみにしているようだ。それは一体なぜだろうか。
狐火の照る山 オルカ @OrcaSakamata
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