第3話 行方不明の姉 

 実は、美永には里姫(りき)という姉がいるが、今はいない。美永の姉は、幼いころに大稲荷山で行方不明となり、そのまま帰らないのである。里姫は美永より3歳年上で、天真爛漫な明るい子どもだったという。12年前の夏、母親が4歳だった里姫を家の周りで遊ばせていたとき、まだ1歳だった美永の世話のため母親が少し目を離したすきにこつぜんといなくなってしまった。近所の人が数人、里姫が大稲荷山に向かって歩いていくのを見ていたため、大稲荷山で警察や消防による決死の大捜索も行われたが、手掛かりさえも見つからなかった。4歳の女の子が山で一人生きていくことは難しく、遭難したか動物に襲われたか、はたまた誘拐事件か、などと様々な憶測があった上、里姫が稲荷神社の娘であったことから、町の人々は狐による祟りだと恐れたこともあった。しかし、両親は「きっと狐さんたちが里姫を守ってくれている」と、今も里姫の生存を信じている。

 里姫が行方不明になってから12年もの月日が流れ、里姫の妹である美永は高校1年生になった。美永には姉がいたという記憶はあまりないが、両親とともに姉の帰りを信じて待っている。町の交番や町内会の掲示板には、里姫の幼いころの写真が載っているチラシが色あせていた。

 さて、今日は美永の高校の入学式である。今日から美永は高校生になるのと同時に、狐払いに着任する。今日の夜、美永が狐払いになるための儀式を執り行うのだ。

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