第2話 狐払い

 大稲荷山のふもとにある大きな稲荷神社は、代々稲荷家という一族が所有し、守ることになっている。稲荷家は代々イナリ様に仕え、稲荷神社を守ることで狐たちの怒りを鎮め、大稲荷山と町の人々との関係を良好に保つ役割が課せられている。現在の稲荷家は、どうやらこの任務を遂行できているか怪しいらしい。というのも、最近、狐たちによる悪さが100年以上も経ってから再び増え始めているのである。この前は、地元の猟師が大稲荷山に入ったきり戻らなくなり、家族が警察に行方不明届を出していたが、行方不明になってから3日後、稲荷神社の鳥居の下で倒れているのを発見されたといったことがある。この猟師の命に別条はなく、今は元気に家族と暮らしているそうだが、警察の聴取には、「シカを見つけて撃とうとしたら、いきなり目の前に一匹の狐が現れた。その直後めまいがして、その場に倒れたように思うが、気づいたら神社にいた」といった意味の分からないことを話しているらしい。

 この状況に、代々狐たちの怒りを鎮め、稲荷神社を守ってきた稲荷家もだまってはいられず、稲荷家はとうとうこの代で「狐払い」の役目を設けることになった。狐払いとは、人を化かして悪さをした狐を捕まえ、狐が起こした事件を解決し、人間の姿や霊体に化けている狐を元の獣の姿にもどす役目をもつ稲荷神社の役職である。この狐払いには15歳以上の女性しかなれず、狐払いを担うのは一代に一人という決まりがある。この理由は定かではないが、この町に現れる化け狐はすべて雌狐であり、彼女たちは自分たちが狐であると分かった状態で男性と話すことを嫌うといわれていることが関係しているようだ。そして、この狐払いに着任するのは、稲荷家の次期当主である稲荷美永(いなりみと)という娘である。美永は高校1年生の女の子で、両親と祖母の4人家族で稲荷神社を守っている。

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