第4話 生死をかけるおとぎの国の
ベニ「もうすぐワイは死ぬ。こんなことなら、もっとやりたいことやっとくんやったなぁ」
ソラ「……最期なんて言わないでよ。そうだ!元気が出るように、私がここでLIVEしてあげる!」
声優アイドルとして名が売れていたソラは、何をすれば相手を笑顔に出来るか常に考えていた。
それは簡単そうに見えて、誰にもできない事だった。
ベニ「ほんまに!?ソラの歌聞きたいわぁ!」
マイクはないが、この音が反響する空間で、ソラは満面の笑みで歌い踊るーー
ソラ「いくよーっ!私の声、届いてぇーっ!」
コウダイ「ソラちゃぁーん!!あぁっ!可愛いよソラちゃぁーん!!」
相変わらず、コウダイは美少女を前にすると、目の色を変えて大はしゃぎ。
けれどこんな大袈裟とも思える声援が、ソラにとって大きな活力となる。
ソラ「うんっ!応援ありがとっ!私の歌で、悪いゾンビなんてやっつけちゃうぞーっ!」
こんな非常事態にーーしかしこんな時だからこそ、ソラはみんなを笑顔に変えるんだ。
ソラの陽気なアイドルソングが、隣の部屋にまで届いている。
ナツキ「ソラ……ほんと、あの子のポジティブには、何度も私たち救われたよね」
アイガ「……あぁ」
クロト「……昔を思い出すよ。仲良くみんなで遊んだ、あの思い出」
今この瞬間だけ、以前の仲良く遊んでいたあの頃のようにーー
9人で過ごしたあの頃に、戻ったようで嬉しくなった。
暗号解読していたビャクヤも、思わずくすっと笑みをこぼした。
ビャクヤ「ソラー!もっと君の歌を聞かせてくれー!」
ソラ「うんっ!まだまだいくよーっ!クロトくんも聞いてーっ!」
クロト「分かったよソラー!盛大に頼むー!」
全員に笑顔が戻る中、モモカだけはーー下を俯きながら小声で囁いた。
モモカ「……クロトくん」
クロトの袖を後ろから掴み、くいっと引き寄せるように、耳元でそっと囁いた。
クロト「モモカ先輩……?」
振り向くと、そこには頬を赤らめながら、上目遣いで何やら恥ずかしがる、モモカの姿があった。
モモカ「あっ、あの……!私……!やっぱりもう一度、クロトくんに……!」
うまく言葉が出てこないーー
高まる胸の鼓動を抑えながら、モモカは更に耳まで赤く染める。
なんとか勇気を振り絞り、声を震わせながら、想いをクロトに伝えようとする。
けれどーー
クロト「も、モモカ先輩……」
クロトは過去に一度、これと同じ光景を知っていたーー
モモカが自分に何を伝えようとしているのか……
これはとても光栄で、想いがはち切れるほどの嬉しい事だと声を大にして言いたい。
モモカは皆の憧れの的で、学園でもトップの美少女。
世界中の誰もが羨む出来事だと断言出来る。
モモカ「私……!やっぱりクロトくんの事が……!」
けれどクロトにとって、モモカの好意を受け入れる訳にはいかない理由があったーー
クロト「モモカ先輩……お、俺は……」
クロトが横目で伺ったのはーー幼馴染のナツキの表情だった。
モモカに言い返そうとした所で、それを見ていたアイガが、クロトを強く睨みつけて割り込んだ。
アイガ「いけません姉上!」
モモカ「アイガ!?ちょっと私ーー」
アイガ「ダメです姉上!その発言はこういう場合、死亡フラグっていうやつです!クロトの!」
クロト「俺の!?」
アイガ「俺は貴様のそういう所が、殺してやりたいほど嫌いだ!二度と姉上に話しかけるな!」
酷い言い草だったが、今のクロトにはこれを言い返す言葉が出てこなかった。
ソラが一曲歌い終わったところで、ビャクヤの解読が終了した。
ビャクヤ「みんな待たせたね。ここに書かれていた内容はこうだーー”8つの扉、全て同時に道が開く”」
アイガ「全て同時だと……?」
すぐさま隣の部屋を確認していたベニが、大声で言った。
ベニ「こっちも同じような部屋やー!」
コウダイ「なるほど……つまりーー」
コウダイは扉横のパネルに触れる。
しかし扉は反応せず、パネルは触れている間だけ赤く光っていた。
ナツキ「うーんと……つまり?」
クロト「俺たち全員が、それぞれの部屋全てで、同時にこれを触らなくちゃならないって事か」
ビャクヤ「そのようだね。そうと決まったら早速先に進もう。僕は1番奥の部屋を担当するよ」
そう言ってビャクヤが動き、全員がそれぞれ別々の部屋に移動する。
コウダイ「皆さんスマホは持っていますよね?時計の長針が、ピッタリ真上に向いたら、それがパネルに触るタイミングとしましょう」
残り数分後ーー
残ったクロトは、少ない時間で自分の気持ちを考え直していた。
クロト「俺は一体……」
ナツキ「ーー何暗い顔してんのよ?」
突如一人きりだった部屋に、何故かナツキが戻ってきた。
クロト「ナツキ!?何してんだ!?持ち場はーー」
ナツキ「まだ数分あるわ。別に間に合えばいいでしょう?」
今のクロトにとって、ナツキと二人きりは気まずかった。
クロト「そ、それはそうだけど……」
先程のモモカを思い出す。
それと、過去の出来事を重ねて思い出した。
ナツキ「……聞いていい?」
クロト「……なんだよ?」
ナツキ「……さっき、どうしてモモカ先輩の話、聞いてあげなかったの?」
クロト「……お前がそれ言うと、素直にヘコむ……」
1年前ーー
同じように、クロトを呼び出したモモカがいた。
その時もモモカは頬を赤らめ、二人きりの場所で想いを口にしていた。
モモカ«あ、あのっ!クロトくんっ!»
もじもじと下を俯いていたが、クロトはそのモモカの様子ですぐに察する。
クロト«……モモカ先輩»
モモカ«私っ!あなたの事が!ずっと……!»
クロト«ごめんモモカ先輩!»
クロトが出た言葉は謝罪だったーー
モモカ«……えっ»
クロト«お、俺……!好きな人がいるんだ……!だからモモカ先輩とは……»
あの時のモモカの泣き出しそうな顔は、今もクロトの記憶に強く残っている。
ナツキ「私、モモカ先輩があんたのこと好きな事は知ってた。っていうか、みんな分かってるけどね」
クロト「……うん」
ナツキ「アイガがクロトにあんな態度なのは、きっとお姉ちゃん取られちゃうからって思ってるからなのよ。両親が早くに亡くなって、あの二人はずっと苦労してきたから」
クロト「……そうだな」
ナツキ「……ごめん。私、クロトに言いたいことがあって来たの」
クロト「……うん」
ナツキ「あの日の事、謝りたくてーー」
ナツキの言うあの日の事。
クロトにはそれだけで、すぐに心当たりを思い出した。
モモカから逃げるように後にしたクロトは、その足で真っ直ぐナツキのいる所へ駆け寄っていた。
部活動の帰り道だったーー
遅くまで練習している毎日だったナツキは、その日も一人で帰宅していた。
クロト«な、ナツキ……!»
ナツキ«クロト!?どうしたの!?モモカ先輩があんたのこと探してたけどーー»
そこまで言ったところで、クロトは自分の溜め込んでいた気持ちを吐き出した。
クロト«ナツキ!俺、お前の事が好きだ!»
あまりに唐突過ぎたと思う。
けれどクロトは、この気持ちを我慢する事が耐えられなくなっていた。
ナツキ«えっ!?ちょ、ほんと……!?幼馴染としてとかじゃなく……!?»
クロト«あぁ!お前が好きだ!小さい頃からずっと……!けどもう、ただの幼馴染の関係で終わるのが嫌なんだ……!»
一度吐き出した感情は、クロトはもう止まらないーー
それだけ幼馴染のナツキの事が、ずっと昔から好きだった。
ナツキ«うそっ……う、嬉しい……!»
ナツキは顔を赤く染めて下を向いた。
はっきりと、嬉しいと呟いた。
これには勿論、クロトは笑顔で喜んだ。
ーーいける……!言うんだ……!ナツキと付き合いたい……!彼女にしたい……!
クロト«ナツキ!お、俺とーー»
”付き合いたい”ーーそう言いかけようとした。
けれど一変して、ナツキの表情が困惑する。
ナツキ«けどごめんクロト……!»
クロト«……えっ?»
ナツキ«私……付き合えない!»
あれから時は流れ、クロトとナツキは幼馴染の関係で止まっていた。
クロト「謝る……?何を……?」
ナツキ「あの日、クロトからの告白……本当に嬉しかった。けど私は、バレーボールに集中したかったの……」
クロト「……練習、厳しそうだもんな。そんな時にこっちこそごめん」
ナツキ「謝らないで!告白は本当に嬉しかったから……!」
クロト「ナツキ……」
バレーボールの全国大会優勝が、ナツキの夢。
恋愛はその障害になってしまうーーそう考えていた。
あの時は高まった感情のまま、相手を思わず告白した。
けれど今は、冷静にナツキの気持ちを尊重できるーー
クロト「ナツキ……俺は今でも、お前の事が好きだ。その気持ちは変わらない。ずっと……」
ナツキ「クロト……」
クロト「この先もずっとずっと変わらない。お前の事が、小さい頃からずっと好きなんだ。絶対に変わらないと断言出来る」
ナツキ「……こんなに嬉しいことは無いよ」
クロト「……だからナツキ。大会が終わったらーー」
そこまで言ったところで、ナツキはクロトの口に指を乗せた。
ナツキ「それは死亡フラグ……でしょ?」
クロト「……!」
急に恥ずかしくなって、クロトは赤面する顔を必死に隠す。
そんなクロトを見て、ナツキはお腹を抱えて笑った。
ナツキ「何赤くなってんのよ?もし本当にクロトの気持ちが変わんないなら、また今の続き聞かせてよ」
クロト「……っ!分かったよ!逃げんなよ!」
ナツキ「クロトもね!私、頑張るから!」
そろそろ約束の時刻。
ナツキは笑顔で部屋を後にした。
クロトは改めて誓うーー
ここから必ず、全員生きて脱出するーー
そしてナツキに想いをもう一度伝えるんだ。
スマートフォンを開き、約束の時間がやってきた。
横のパネルを触り、目の前の扉が開いたーー
ビャクヤ「全員無事ですか!?」
ビャクヤの声が次の部屋で響き渡る。
そこは8つの扉から通じる、一つの大きなフロアだった。
それぞれが対面し、再び合流となるーー
コウダイ「僕は大丈夫です!」
ベニ「ワイもや!」
ソラ「わ、私もいますっ!」
モモカ「大丈夫……!」
アイガ「姉上っ!ご無事で何より!」
ビャクヤ「よし……!8人揃ったかい!?」
フロアの中心に集まる一同。
その中で遅れて声を出したのは、辺りをキョロキョロと見渡すーーナツキだった。
ナツキ「ま……待って……!クロトがいない……!!」
ナツキの一言で、クロトが欠けている事に気が付いた。
急いでクロトが出てくるはずだった扉に戻り、そこでーー信じられない光景を目の当たりにした。
ガリッ……!ゴリッ……!
部屋中が赤く染まり、中で倒れていた悲惨で惨い人影。
その上に覆い被さるように、謎の人物がそれの腹部を喰い貫いていた。
全員がそれを見て絶句するーー
血で汚れた、床に落ちたメモ帳。
踏み潰されていたスマートフォン。
殺されて倒れていたのはーークロトだった。
ナツキ「い、いやぁぁぁぁっっっ!!!」
『Wonder Land』
このゲームは、娯楽と青春の思い出に、中学生の男女9名で考案した。
怖さと難しさを追求し、理不尽な未完成のデスゲーム。
アイガ「……何がおとぎ話だ!?何がゲームだ!?まだ言ってやりたいことがたくさんあったのに……!」
クロトの遺体を貪っていたアンデットが、血で赤く染めながら立ち上がる。
そして突如、その姿が液状化ーー見覚えのある少年へと姿を変えた。
「やぁ、久しぶりだねみんなーー」
全員が目を疑った。
その少年は、古き亡き友人ーーミドリと同じ姿に変わったからだ。
「ーーこれは『Wonder Land』。僕達みんなで考えたゲームだ」
ビャクヤ「……ミドリ!君なのか……!?」
?「みんなで考えたゲームなんだ。みんなで遊ぼうよ。昔みたいにーー」
ダンッ!!
突如台詞を遮るように、アイガが腹部目掛けて発砲する。
ベニ「アイガ!?何するんや!?」
アイガ「こいつはミドリじゃない。ミドリはもう死んだ。それにーー」
殺されたクロトの顔を見て、アイガは歯ぎしりしながら睨みつけた。
アイガ「ーーこいつはクロトを殺した。つまり、俺たちの敵だ」
ズダッ!!
続いて脳天に風穴を開け、泣き崩れるナツキの手を握り締めた。
ナツキ「はっ、離してアイガ!クロトが……!クロトが!!」
アイガ「現実を見ろ!奴は死んだ!立ち止まるな!クロトのようになりたいか!?」
ナツキ「クロトを置いておけない!私、クロトにまだ言えなかった事があるの!クロトに……!クロトに……!」
アイガ「だったら尚更生きろ!クロトに言いたいことがあるなら!生きて大声で叫んでやれ!」
呆然と立ち止まるのは、ナツキだけじゃなかった。
友人の死に、全員が現実を受け入れられなかった。
ソラ「アイガはクロトの事が嫌いだったから……」
アイガ「あぁ大っ嫌いだ!姉上を悲しませ、今も黙って死んでいったあいつなんか!」
ミドリの姿をしたアンデットは、脳天を撃ち抜かれたにもかかわらず、ヘラヘラと笑って立ち上がった。
ビャクヤ「死なないのか……!?みんな逃げるんだ!」
?「いきなり撃つなんて酷いじゃないか?まぁ、そうだよね……君たちは僕を殺したんだから……」
全員が走って逃げ去った。
クロトの死を胸の内に遺しながらーー
このゲームは死んだミドリが復讐のために、友を殺すために起動させたデスゲーム。
誰がミドリを殺したかは分からないーー
けど本当にこの中の誰かが殺したのなら、それは一体何のためかーー
謎を残しながら、また一人仲間が散っていくーー
このゲームから抜け出す方法はーー
犯人を捜し出す方法はーー
『Wonder Land』ーー子供たちが夢を乗せた、生死をかけるおとぎの国である。
「ゲームを作ろう」から始まった殺人事件 Froncks @ryousei4231
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