第14話 幼馴染の恋の応援
ある日の昼休み。
「くっそ夏音腹立つなー。おい山田、購買行くぞごら」
「はいはい。前は夏音可愛い付き合いたいとか言ってたのによ」
「は!? 言ってねーよ。お前の記憶スクランブル交差点かよ?」
「はいはい混雑してますよ」
それから購買でいつものパンを買って教室に戻る最中だった。
「そーいや、お前は良いのかよ」
「なにが?」
「心桜だよ。あいつ最近晴樹とよくいるぞ」
「……」
嘘だろ。何いつもいるって。グループワークの時だけだろ? だいたい初めて会ってまだ一週間も経ってないぞ。
「修学旅行の話だろ。あいつらしっかりしてるから」
「そうか? ほら今も……あそこ」
「は?」
誠也が指差す先に視線を合わせた。
「へっぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を漏らした。少し離れた庭の木陰のベンチで、2人並んで昼食をとっておられた。なんで尊敬語なんだよ。
しかも楽しそうだ。
瞬間、腹の奥底がポテトが揚げれるほど煮えたぎった。俺と心桜の縁は幼稚園からだぞ? 10年だぞ!? それがなんだ、あのヤリクソティンコ。一週間でものにしようってか? 絶対に許さない。
「お前が告白しないからだよ」
「は? だ……だから好きじゃないって」
「まーたまた」
違う。好きなんかじゃない、ただあんなクソ男に心桜を付き合わせたくないだけだ。もっとしっかりした人だったら、別に……別に。
だいたいしょうがないじゃん。心桜の両親の許しを得るまでは声かけられないんだから。でも……
うん、辛いわ。
辛いけど。心桜が楽しいならそれでいい。人の幸せに俺が介入しちゃいけないんだ。そう思うしかない。
「マジで知らねーぞ? 一生後悔するからな」
「……」
「……んま教室戻るか」
「……ああ」
そういえば最後のグループワークが明日ある。それが終わって一週間後に本番の修学旅行だ。今までのグループワークは気まずさもありながら、結局心桜とは一度も会話を交わさなかった。
そんな気まずさもそれで最後なのだろう。修学旅行はクソみたいな思い出になるのは確定みたいだ。
「あ、山田っ!」
どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。癪な声だ、一瞬でわかる。しかし僕を見つけるなり一体なんの用事なのだろうか……。
晴樹はベンチから一直線に歩いてきて凄くにこやかな笑顔で、
「あのさ、話したい事があるんだけど、今日の放課後時間あるかな」
「……別に」
「ありがとう。それじゃ、放課後は教室に残っててね」
そう言って晴樹は身を翻した。
すると、視界の隅でベンチに座っている心桜と目があった。まるで「あ」と言わんばかりの形相だ。無理もない。
「待たせてごめんね心桜」
「……うん、いいよ」
もうカップルじゃん。
「聖也、俺無理かもしれん」
「……俺もだ。修学旅行は2人でひっそりと楽しもう」
「それに限る」
訪れた放課後。夕光に染め上げられた教室から人音は既に皆無、残された俺はただ校庭の女子サッカー部の太腿を見ていた。
「本当に待っててくれたんだね。ありがとう」
貴様であろうと、流石にそこまで約束をすっぽかすほどの人間ではない。奴は放課後のホームルームが終わると共にいろんな女子に囲まれながら昇降口まで行ったそうだ。そして引き返してきたのだろう。癪だ。
「んで、何の話なん?」
「それがさ、言いづらくてさ」
イケメンの癖に照れてるのなんか腹立つな。
「他の人に言わないでほしいんだけどさ……」
「分かった」
あんなに自信ある野郎が勿体ぶるの腹立つな。
「僕ね、心桜の事好きなんだ」
「……っへぁ!?」
おっと……。お? これは想定外だった。マジで? え、俺どうすればいいの? 絶対取られるじゃん。
「実は入学式からずっと気になっててさ、話してみたら凄く良い子でさ」
え、一途なのこの人? 週一で彼女入れ替えてると思ってたんだけど。だって男子みんなヤリティンって言ってたじゃん。嘘なの? まさか好きとエッチィは違うとか言うんじゃねーだろな?
「そそ、それででで、なな何?」
「修学旅行中に告白しようと思ってるんだ」
「へ、へぇーーー」
「そこでさ、僕の告白を手伝ってくれないかな? この通り!」
晴樹は頭を下げ、両手を合わせて懇願してきた。
「──っ!?」
本当に俺はどうすればいいのだろうか。心桜は晴樹といる時はとても楽しそうだし、なんか噂だけで晴樹は本当はただの純粋な奴なのかもしれん。
それに今更何を強がるんだろうか。心桜と俺はただの幼馴染。そもそも心桜が俺を家族みたいなものにしか思っていないだろう。だったら素直に応援するしかないんじゃないのか。
心桜は今まで男子から沢山告白されてきたと言う。しかし1人も承諾はなし。レズでないと言うことはいつだか言ってた気がする。
そして華のJKが恋したくないわけがない。ならば晴樹とはうまくいけるんじゃないのか。だってあんなに楽しそうなのだ。
別に心桜に彼氏が出来たところで俺たちの縁が切れるとは思わない。大事な幼馴染に変わりはない。だったら応援するべきだ。
「分かった」
気づいたらそう口にしていた。
「……本当にいいの?」
「二度は言わない」
「……山田と班一緒になれて……本当に良かった」
少し涙目になってるのが本当に癪だ。
「ってかそもそも何で人数合わせで俺の班に移って来たんだ? イツメンの方が楽しいだろ?」
「……まぁね。本音を言うと山田に心桜の事を色々聞きたかったんだ。でもそんな機会が今まで無くて。だから、これを機にって」
「優しい可愛い料理できる多分エロい」
「なるほどメモメモ」
「ってかお前女々しいかよ。他人頼ってないでガツンと行けよ」
「そうだね。でもね、もう一つ理由があるんだ。僕、山田とも友達になってみたかったんだ」
うわ、余裕イケメン哀れな者に手を差し伸べ自己評価向上ってやつか。解せぬ。
「山田って自分の欲に正直じゃん。こんなにも素を晒してる人っていいなって思ってさ」
「へぇー」
別に晒したくて晒してるわけじゃないんだけどな。
しかしなんか心が軽くなった気がする。晴樹を心桜とくっつけるって口実で心桜とそれなりに接すれば気まずさがなくなるかもしれない。
割といい契約だったのかも。
と胸の奥底に眠る大きな蟠りには気づかないことにしていた。
エロ可愛すぎる幼馴染との日常 カクダケ@ @kakudake
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