第38話 僕は黒幕に気づいていたよ。


⚫︎真崎宵(マヨイ)


『こんばんは真宵、いま時間大丈夫?』


 ログアウトして夕飯を食べ終わった頃、藍香から電話が掛かってきた。どうやら次にログインする時間を合わせて今日の午前中に行くはずだった北の草原に行きたいらしい。


「ワイバーンというかソプラの街はどうするのさ。まだクエスト完了のアナウンスないって事は終わってないってことだよね」


 特におかしなことを言ったつもりはなかったけど、電話口の向こうで藍香が笑いを堪えているような雰囲気を感じた。


『ソプラの街の代表には話した?』


「え、もしかして完了の報告すればいいだけ?」


『うん、私が報告したら完了のアナウンスがあったから』


 僕は深読みしていたらしい。

 藍香は「用心深いのとは悪いことじゃないよ」と慰めてくれているけど、やはり笑いを堪えてる様子が伝わってくる。


「なら明日ログインしたら代表に話をしたら合流しようか」


『ええ、北の草原の狼のボスは流星群っていう若いプロゲーマーのチームが倒したみたいね。ただ蛇のボスはまだ倒せてないみたい』


 そもそも僕は北の草原に狼のボスがいたこと自体を知らないでいた。オンラインゲームでの情報の中には、その情報を知っているだけで知らないプレイヤーをPvPで圧倒できるようなものも存在する。情報収集を行わないことは縛りプレイ(特定の制約を自分に課してゲームをプレイすること)をしているようなものだ。


「掲示板で情報収集するよ。ゲーム内の掲示板ってログアウトしたら書き込みはできないけど読む事はできるんだっけ?」


『スレッドを立ち上げる時のデフォルトでは書き込みも可能になってたはずよ』


 この手の情報収集が好きな藍香だ。やはり詳しい。

 それにしても外部サイトからも書き込みが可能なのに『ゲーム内掲示板』でいいのだろうか。

 ゲーム内から書き込める掲示板だからいいのか。


『明日、11時にソプラの東門でいいかしら』


「いいよ。今日はありがとな」


 藍香は僕が動画配信を再開する切掛を作りたかったんだろう。それは藍香が公開処刑だなんて方法を提案した時点で分かっていたけれど、実際に動画配信を再開してみるとやはり楽しかった。


『怒らないの?』


「怒らないよ」


 普段から周囲には朗らかな印象を与える藍香だけど、目的を遂行するためなら倫理や感情を無視できるという少し危険な側面も持っている。


 今回、おそらく英田未來を焚き付けたのは間違いなく藍香だ。僕が組合で会ったミライが英田未來なのか確認した際、藍香は英田未來との面識がある事を暗にほのめかしていた。


 さすがにクラスメイトが僕を避けるようになったことまで藍香の手の内ということはないだろうけど、珍しい弓を背負った女性プレイヤーについての情報を流して誘導するくらいは藍香ならやる。組合に付いてこなかったのも英田未來と顔を合わせるのを避けるためだと考えれば得心がいく。


『ありがと』


「こちらこそ」


 こうして僕の"Continued in Legend"3日目は終了したのだった。



…………………………………



……………………………



…………………



⚫︎藍香(アイ)


「あーあ、やっぱり真宵にはバレてたわね……」


 9割9分9厘バレると予想していた。

 それでも、どのタイミングでバレたのだろうか。


「わざわざナンパ男と真宵を戦わせたタイミングで不信感を持たれた可能性はあるわよね……」


 あれは真宵の実力を確認するという意味合いよりも暁達に私達を見つけさせるのが目的で誘導したものだ。暁はなんだかんだで困ったら兄である真宵に相談する。クレアだって想い人である真宵と接触する機会を逃すような子じゃない。


「いえ、まだ確信は持たれてなかったはず……。なら組合から離れて英田と接触するのを避けた時かしらね。さすがにあからさま過ぎただったと思うし」


 そもそも真宵に決闘させる必要はなかった。

 被害者である2人を組合に連れて行った上でノウアングラウスに直談判、それなりのアイテムや支援を約束させて終わらせればよかったのだ。


「あの女が真宵を学校で孤立させたことまでは気づいているかしら」


 たぶん、察していても知らないフリ、もしくは見て見ぬフリをしている。何故なら。あの時、責任を負うべきだったのは私だけのはずだった。だというのに真宵は自分にも責任があると言ってゲームから離れてしまった。


 真宵は身内のことには過敏に反応するのに自分のことになると途端に鈍感になろうとする。鈍感なのではない、どちらかといえば感受性は強い方のはずだ。だが善意悪意に関わらず、自分や周囲に実害がないのであれば放置するのが彼のスタンスだ。


 そこで私は真宵や真宵の周囲に実害が発生する可能性を作った。女性と接する以上に大人に頼ることが苦手な真宵のことだから、必ず私に相談を持ちかけてくるはずだと思っていた。


 案の定、私は相談を持ちかけられた。

 そして発売前のゲームを勧めたのは、彼が好むゲームの多くが既出情報の少ないゲームだからだ。

 おそらく自覚はないはずだ。私が気がついたのも偶然の産物だし、それを真宵にはまだ知らせてない。


「さて、あの女をどうやって処分しようかしら……」


 英田未來には真宵を孤立させた報いだけでは足りない。

 暁とクレアを傷つけた報いを足してもまだ足りてない。

 もっと、もっと、もっっっっと、報いを受けてもらわなければ私の気が済まない。



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本話を持ってマヨイ視点でのワイバーン編は終了となります。


書けば書くほどヒロインが腹黒になる現象に名前をつけたい……どうしてこうなった。


2020/9/12(土)よりアルファポリス様で本作品の改稿版を『VRMMOで神様の使徒、始めました。』を公開しました。

本作とは話の流れが細部で異なるため早い段階で本作とは全く異なる展開になります(断定)もし宜しければパラレルワールドだと思って本作との違いを楽しみなが、読んでいただければ幸いです。


本作は3章のプロット書いてから連載を再開するまで完結扱いとさせていただきます。

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拝啓、まだ攻略されていない世界へ 一 八重 @kaikousagi

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