黄金都市

リペア(純文学)

黄金都市


世は大航海時代。今宵、16世紀頃、莫大な富をもたらす航路開拓は国営化するまでにヨーロッパを沸かせていた。ある人は喜望峰へ到達し、ある人はインドへ到達したと歓喜を聞いた。皆揃って香辛料を持ち帰り、長者となった。


「おい、知ってるか?あの噂。」


「ああ、建物から、地面、服、水までもが金ピカなあの”黄金都市“だろ?」


「シッ、あんま大声だと誰かに聞かれるだろ。」




***

私はアルル=ミッシェル。お兄様の仕事、貿易取引を手伝っている。最も、私には知識はないから、ものを運んだりお使いだったり、雑用をしている。

お使いでこの港町を走り回ってるとさっきの様な”黄金都市“の噂を頻繁に耳にする。「黄金都市の王冠を手に入れれば、“永遠の富”を手にれることが出来る。」「カリブ海を抜け、一つ山を越えた先にある。」との情報も知っている。



「ねぇお兄様、あの…」


「話しかけるな、今忙しいんだ。すまんな。」


こんな感じでお兄様は毎回取り合ってくれない、仕方の無いことではあるが。トレーダーの仕事はこのご時世、最も稼げる。深夜にやっと一日の仕事が終わり、それからはお兄様は話を聞いてくれる。ただ、仕事中は大勢の髭の生やした叔父様たちと取引しているため、私がお兄様の懐に入る余地は無い。


「すまん、リンゴ買ってきてくれ。」


と頼まれ、8レアル硬貨を二枚渡され、お使いへと出かけた。



***

お店に着いた。「リンゴください」と言ってお婆さんに二枚渡した。


その時だった。後ろからまた同じような噂話が聞こえてきた。しかし、今日の場合は前とは一つ違っていた。


「おい、聞いたか?リデロ様が例の“黄金都市”に行くってよォ。」


「えっ!!そうなのォ!?」


「おいバカッ、声がでけぇよ。」



イーサン=リデロ。トレーダーの間では「貪欲の権化」と恐れられている、船乗りの一人だ。グループの頭取として部下を千人持っているらしい。彼の性格は、まさに「貪欲」だ。金に目がなく、金に噂が立った家に襲いに行き、どれだけの人々が彼から財を奪われただろうか。またトレーダーに対しては、無理な取引を要求し、成立しなければそいつを自分の船へ連れ帰って拷問するらしい。よって財を奪われようと、彼に抵抗など出来るわけは無いのだ。

リデロは前々から黄金都市に行くことを望んではいたが、躊躇っていた。ただ、彼以外の船乗りはあまりの危険さに行くことを断念している中、彼は行くことに決めたようだ。



──「いつもありがとうねぇ。」


そう言われて、八百屋を後にした。



***


「お兄様?」


夜になってお兄様の仕事が落ち着き、八百屋で聞いた噂のことを話した。


「今日ね、リデロが黄金都市へ出航するって聞いたんだけど…」


「それ、俺も聞いたよ。」


なんだ、お兄様も知っていた。


「なんだか、黄金都市の人々との取引のためにトレーダーを数名連れていくらしい。」


それは初めて知った。


「俺は選ばれないように祈る。あんなやつと同じ船なんて恐ろしいこと計り知れない。」


ロウソクの日を消し、「おやすみ」と言って、お兄様が選ばれないように祈りながら眠りについた。



***

次の日の事だ。なんとお兄様がリデロのトレーダーに選ばれてしまった。今朝、リデロが家に来て、「お前、巷では優秀だと聞いている。私に付いてこい。」とお兄様に話していた。その時、後ろにいた私の姿を見られ、「お前の妹、可愛いじゃないか。一緒に連れてこい。出航は明日だ。」と言われ、私も行くことになってしまった。確かに黄金都市は誰もが噂し憧れる望郷だが、リデロと行くことになり、嬉しいのだか憂鬱なのだか。お兄様はリデロの前では終始引きつった笑みを浮かべていた。



***

日が水平線から顔を出した頃、そろそろ私たちが乗る船が出発する。遠くにある山から来た両親がわざわざ来て、涙しながら見送ってくれた。


「ヨーソロー!まだ見ぬ黄金の地を目指して!」


リデロの雄叫びが聞こえた。彼は不揃いの歯を見せ、欲望が滲み出るねっとりとした満面の笑みを浮かべていた。



***

船は大西洋を進む。一面の青と潮風。船乗りはこんな環境で道を拓いて行ったのかぁ、と深呼吸をして新鮮な空気を吟味する。

私は船の掃除をしろと言われて、モップをかけていた。


「なぁ、財宝をたんまり持って帰ったらどうする?」


「俺は全部酒に使って仕事を辞めるね。お前は?」


「俺はヨメさんに指輪をプレゼントするかなぁ。」


後ろからそんな会話が聞こえた。私はお兄様に甘い香りがして綺麗な花束をあげようかな。



その時だ。船の近くの海面で何かが爆発した。同時に船の右から歌が聞こえてきた。


「さぁどいた!カーディー様のお通りだァ!」


大砲を撃ちながら、一隻の帆船が近づいてきた。

ガーディー=サンドレーク。イギリスの船乗りだ。リデロを縦の横に伸ばした様な図体で、性格は同じ、こいつもまた「貪欲の権化」であった。船乗りの頭取は誰もがリデロのような、財には目が無い貪欲で傲慢なやつのようで、同じような船乗りがもう一人…



「ナーシャ様だよォ!お前らは退けェ!!」


ナーシャ=ミネルヴァ。ポルトガル出身である。眼帯を着けたポニーテール姿で、従える兵士は皆銃を持っているらしい。彼女自身はマスケットを所持している。この「貪欲の権化」三人は総じて『大西洋の三ツ又』と呼ばれている。


幅を寄せてきた二船はハシゴをかけ、私たちの船へ乗り込んできた。互いの護衛が互いの頭取に銃口を向けている状態。リデロが両者を睨みながら口火を切る。


「お前ら何故ここに居る。」


「あら、もしかしてみんなあの”ウワサ“知ってるわけェ?」


「あぁ、黄金都市の話だろ。」


リデロ、ナーシャ、カーディーの順で喋った。


「悪いがあんたらは黄金都市どころかもう地も踏めずに死ぬことになる。」


「なに?やろうって言うの?」


リデロとナーシャで戦闘が起きようとしていた。柱から姿を隠して見ていた私は「あぁ、神よ。」と祈った。するとカーディーが鶴の一声を上げた。


「落ち着け!私に良い考えがある。」


リデロとナーシャがカーディーを向く。


「ここで争っても、お互い利益はない。お互い黄金都市を目指すもの同士として、今は争うべきでは無いのだ。よって、ここに協調を示し、同盟を組もうでは無いか!」


リデロとナーシャがお互いを見つめ、両者武器を置いた。


「確かに…争ってても意味ないわね。」


「俺も、賛成だ。」


「よろしい。」


やがて三ツ又らは杯を交わし、同盟を組んだ。戦闘が起きなかったため、私の戦慄は解かれ、やっと事で深い息をついた。



***

一ヶ月かけてパナマ港へ着いた。途中一隻の海賊船がカーディー船を襲ったが、他の二隻がカバーし、あっという間に鎮圧したという出来事が起きた。その様子から、同盟というのは本物だったようだ、と皆確信へ至った。

備蓄していた食料は帰りの分を計算すると、行きの分はぴったり消費し切っていて、これ以上延びていたら危なかった。




遠くには連なる山脈がそびえ立っている。カーディーはこれらをアンデスと名付けた。あれを越えれば伝説上、黄金都市がある。


『大西洋の三ツ又』が船から降りる。


「全く、暑すぎて死ぬとこだったぜ。」


「日焼けしたくないんだけどォ。」


リデロとナーシャが炎天下に愚痴を垂らした。

積荷担当が荷物を下ろしている。私は船を降り、カーディーの横に来てしまった。



するとその瞬間、誰かに首を掴まれて、抱かれた状態で首にナイフを突きつけられた。


「なぁ、お前らァ!」


リデロとナーシャは怒号のするほうを向く。するとカーディーが私を人質に取っていた。カーディー兵はリデロとナーシャに銃口を集中させている状態。


「お前らが今から引き返せば、こいつを助けてやろう。」


するとお兄様が説得しに入ってくれた。


「お前、同盟組んだってのはなんだったんだよ!」


それに対してカーディーはお兄様を舌で舐め回す様な口調で答えた。


「いやぁ、海賊船に襲われた時はありがとうねぇ。キミ達が居なかったら死んでいたよォ。」


「お前…!」


と、お兄様がカーディーに殴り掛かる。


「おっとォ、この娘がどうなってもいいのかなぁ?」


「っ…」



カーディーは初めからこれが狙いだった。陸に着いたところで、食料を残し、リデロとナーシャらを引きかえさせる。カーディーだけが黄金都市へ行くというわけだ。腕に抱かれている私は恐怖に脅え、泣くことを通り越して言葉が出なくなった。



バァン!!!


その時、後ろから銃声がした。


やがて、カーディーは前に倒れ、私は開放された。


恐らく撃ったのはいつの間にか後ろに回り込んでいたナーシャの側近と思われる人だ。長銃を構え、こちらに向いていた銃口から煙が出ていた。カーディーは脳天を抜かれている。言葉が喉元でつっかえる。


「アルル!!」


お兄様が私はの肩を叩き、涙して抱いてくれた。


「お兄様…」


「良かった…」




「ナーシャ、お前の部下、やるじゃないか。」


「オンナノコを助けるのは当然のことよ。」



***

一日かけてアンデスの山を越えようという所まで来た。両軍共に歩き疲れ果て、水もそこを尽こうとしているところだった。


「ねぇお兄様、黄金都市の物を売ったらどのくらいになるの?」


すると、ナーシャが答えた。


「女王サマになれるくらいかなぁ。フフッ」


そう言うと彼女はスキップし、皆より先へ行ってしまった。すると、



「見て、あの輝きはなんだい?」


そう言うナーシャの視線の先には内側が黄金に輝いている洞穴があった。



「ついに…ついに見つけたよォ!!黄金都市だァ!!」


オォーーー!!!


私の耳が壊れるほどの歓声が上がった。リデロの隣にいる私も伴って歓喜する。



「ついに…俺が世界の王となるのだ…」


隣から小声が聞こえた。




***

洞窟の中に入る。階段で下へ行けるようになっており、黄金都市は下った先の地下にあった。中に入るにつれて暗くなっていき、松明に火をつけた。すると、一瞬にして金色の壁があらわとなり、内部構造が見えてきた。光り輝く空間の眩しさに一同目を隠した。

今いるのは、地下に広がる黄金都市のエントランス、門だ。真ん中が広く深い窪みになっていて、東西南北に下りている階段で移動可能な作りとなっている。


正面、遠くに伸びている北の階段の最上部には黄金の玉座と…あれは王冠か。


「リデロ様、正面、上に伸びている階段の上に王冠があります!」


私はリデロに報告を入れた。


「俺が行く。」


「いや、アタシも行くよォ。」


リデロとナーシャが中央の窪みへ歩いていき、北の階段を登り始めた。私とお兄様は兵士達に紛れて後ろをついて行った。



ついに玉座へとたどり着いた。


「おぉ、これが伝説の王冠…かつてエル=デ=ピスコが被っていたとされる、永遠の富の結晶…」


リデロは王冠を前に述べ、それを手を伸ばした。その時、



ドォン!!


銃声がした。


「悪いが、アンタは最初に王冠を手に入れる人ではないわ。リデロ。」


ナーシャがマスケットで威嚇射撃をしたのだ。リデロの兵達がナーシャに構える。同時にナーシャ兵もリデロ側に構えた。私とお兄様は玉座の後ろへと逃げた。


「ナーシャ、お前…カーディーを倒してくれたじゃないかァ…」


「実際、あそこで決着をつけようか迷ったの。ただ、戦闘するのであれば敵は減らしておいた方が良かったからカーディーは倒して、黄金都市でアンタを殺してアタシが黄金都市を全部かっさらおうってワケ。」


「貴様ァ…」


ナーシャは嘲りを浮かべながら言葉を続ける。


「同盟組んだ時に、〔生じた利益は等しく分配する〕ってのがあったわよね?そんなの、する訳ないでしょ。だいたい、海に生きる者として一攫千金が常なんだからサァ、どんな手を使ってでも王冠を手に入れる、それが性でしょう?」



「やっておしまい!!!!」


ナーシャの掛け声から、最上階で戦闘が起きた。銃声、しのぎを削る音、雄叫びが交差する中、私とお兄様は玉座に身を隠したままでいた。



戦闘が展開を迎えた。ナーシャが左足から崩れ、血を流している。そこへリデロが近づく。

ナーシャに向けてゼロ距離で銃口を向けた。


「アルル、お前は見るな。」


そう言って、お兄様は私の目を塞いだ。



「お前、かつてエル=デ=ピスコのいっていた言葉知ってるか?


───“世は無常、弱きは供餉ぐしょう、強きは無双。”」



ドォン!!!!


脳天を砕くリデロの銃声と共に、ナーシャが後ろに倒れ、北の階段を落ちた。



***

目隠しが解かれ、玉座から顔を出した。一面の金の床は赤の斑点がまばらに塗られていた。


リデロはついに王冠を手に入れた。



「ついに…ついに手に入れた!永遠の富をォ!!!!」



オォーーー!!!


私の耳が壊れるような歓声が上がった。



ドォン!!!!!!!!



天井で爆発音がした。土が上から降ってくる。


「リデロ様!天井が崩れ始めました!!!!」


「なんだとォ!!」


天井が崩壊し始めた。一同北の階段を駆け下り、黄金都市のある洞窟から脱出した。



***

洞窟から出てくる時に、皆に揉まれてお兄様とはぐれてしまった。


「おいアルル、無事か!?」


「うん、私は大丈夫。」


そう言うと、お兄様は私を抱いてくれた。



黄金都市の財宝はナーシャとの戦闘中に搬入担当がある程度回収しており、木製棺二基分の財宝を持ってアルプスを引き返した。二基分と言っても、港町へ帰って売れば一生働かなくて済む価値であろう。十分過ぎる収穫であった。


実は私は玉座の近くに落ちていた金の指輪をこっそり人差し指にはめて来た。


「お兄様、私指輪つけてみたんだ。」


「お前にはまだ金ピカは似合わないよ。」


と、お兄様は笑いながら答えてくれた。



***

船を泊めていたことろに戻ってきた。搬入作業が始まった。


「やっと帰れるんだね、お兄様!」


「あぁ、帰ったらお兄ちゃんがアップルパイを焼いてやる!」


私の好物、お兄様のアップルパイが待ち遠しい。その時だった。



「リデロ様!このままでは木製棺が重すぎて船が沈んでしまいます。いかが致しましょうか。」


「ふむ、そうだな。“乗る人”を減らすしかないな。」


「誰を下ろしましょう。」


「だ、れ、に、し、よ、う、か…」



すると、お兄様に視線が来た。



「な。あいつに決めた。」


一人の搬入担当がこっちへ接近してくる。


「お前とそこの娘、お前らはここに残れ。」


「冗談ですよね?」


「だってそしたら…俺とアルルはどうやって帰ったら…」


私の問いかけにリデロは罵声を飛ばした。


「この、”世界の王“の命令が聞けねぇって言うのかァ!?」


この時のリデロは王冠を手にし、その傲慢さを増していた。




***

乗るはずだった船が遠のく。泣き崩れていることがもはや愚かに感じた。どうせ干からびて死ぬならと、絶望に沈むお兄様と私はもう一度黄金都市へ戻ることにした。カーディー船の中から食べられそうな食糧と水を持ち出し、支度をした。



一日かけて洞窟の前まで来た。黄金都市の入口は崩落が落ち着き、隙間を通って中に入れそうだ。黄金都市のある洞窟へ、お兄様と岩になるべく触れずに入る。


黄金都市の内装は、天井の金こそ無いものの、壁の金はまだ輝いており、北の階段とそのうえの玉座も崩壊の影響を受けていなかった。


「はぁ…疲れた…」


お兄様がいきなり地面に倒れ込んだ。


「お兄様!!しっかりして!!」


「アルル、もうここで寝てしまおう。俺はもう疲れて動けない。次の日、この中を探索しよう。」


そう言って、お兄様は寝てしまった。私はお兄様に密着して寝てしまった。




***

目を覚ました。私に朝日が照りつける。


見覚えのある天井、ここは…私の家だ。


しばらく経って耳の感覚が戻り、近くの市場の盛況が聞こえてきた。


あっ!お兄様は?


お兄様は横にいびきをかいて寝ていた。


「お兄様、お兄様ァ!!」


お兄様を初めて叩き起した。


「んぁ…アルルかぁ…どうした?」


「どうした、じゃないよ!ここ!」


お兄様が正気に戻った。


「ここ…俺の家か!?」


「そうなんだよ!」


驚きつつ目を合わせると、疑問が湧いていた。なぜ家に戻っているのだろうと。



外からお兄様を呼ぶ声がしてきた。お兄様は玄関へ行った。


「はぁい、なんか俺に御用でしょうか?」


すると客人は何故か慌てながらお兄様に質問した。


「おたく、リデロ様と一緒に行ったんだろ?」


そういえばリデロとか言う奴いたな。あの憎たらしい面の記憶が戻った。


「えぇ、まぁ。」


「リデロ様と船が戻ってこねぇんだよ!どこいっちまったんだァ?」


「リデロ様であれば、二ヶ月後に戻るのでは?」



「おたく何言ってるんだ?リデロ様が出発してもう二ヶ月経つんだぞ?そろそろ帰ってくるはずだろう。」


二ヶ月が経っている、とは?


「失礼ですが、今日は何月何日です?」


「九月二十二日だけど?」



出発した七月など、とっくに過ぎている日にちで、疑問を通り越して混乱した。


ただ、私の指には確かに黄金の指輪がはめられている。



***

その後一年、リデロが帰ってくることは無かった。


今や黄金都市を実際に見た者は私とお兄様しかいない。リデロの失踪と黄金都市の有無が国中で問われるようになった。リデロの行方について、船が沈没して財宝もろとも沈んだという説が有力である。というのも、私が目覚めるまでの二ヶ月間に、大西洋で嵐が多発していたそうだ。

黄金都市の有無について、唯一知る者として私とお兄様は相談した。


結論が出た。



***

次の日、お兄様の仕事を手伝いながら、私は髭を生やした叔父様に、とある噂を流した。


「そういえば叔父様、黄金都市って実は無いって知ってました?」


「えっ!そうなのかい?」


流石に黄金都市の実在説に期待の声が高かったこともあり、叔父様の驚き具合といえばまるで目の前で人が死んだかのようだった。


「実は先日、隣の国から知らせが流れ込んで来てですねぇ…」


黄金都市は噂に過ぎなかったと叔父様に垂れ流した。すると叔父様はお兄様の元を離れるなり、


「おうぃ、聞いてくれぇ、黄金都市はないんだってさぁ。」


すると、聞きつけた人々が叔父様へ集まり、ねずみ算の要領で噂は瞬く間に広がって言った。



昨日のお兄様の会話が、この黄金都市の噂を消す計画を立てたのだ。


──「財宝、永遠の富、そんなものがあればまた欲深く、傲慢な奴が現れるだけだ。黄金都市を無かったことにして、新しい『貪欲の権化』が現れないようにしよう。」




『大西洋の三ツ又』は欲深さが故に、都合の良い同盟を組み、私たちを見捨て、沈没した。



エル=デ=ピスコの言葉にこんなものがある。


「“眩んだ眼、求めるは黄金、行き着くは深淵の底。”」



私はずっと指にはめていた指輪を外し、我が家の庭の深くへ埋めた。

誰にも掘り返されないよう、海よりも深く。

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