想いは深藍の中に。

須田凛音

想いは深藍の中に。

ある春の日のこと。おじいちゃんが亡くなった。前々からこじらせていた病気が原因だったらしい。母から電話を受けて私は、急いで実家に帰ることにした。

最近は大学の研究室にこもりっきりで忙しくて中々実家に帰ってなかったけれど、大好きなおじいちゃんが亡くなったとなれば、戻らない理由はなかった。 私は所謂おじいちゃん子だったのである。小さい頃から色々なところに連れて行ってくれたり、遊んでくれたり・・・・。堅く抑圧的な家柄だった私の親族の中にあって、唯一私が無邪気に過ごせるようにしてくれていたのだ。 まさしく、私に少しばかりの自由を与えてくれていた、そんな存在だったのである。

すぐさま数日分の衣服、礼服と日用品をキャリーケースの中に納め、アパートの階段を急ぎ足で駆け下り、車の中に荷物を詰め込み、エンジンをかけ、すぐさま駐車場を後にした。

実家までは下道で半日もかかるような道のりであったが、とにかく無我夢中に走り抜けた。何とか次の日の朝には、実家にたどり着いた。玄関を駆け上がって廊下を抜け、和室に入ると、そこにおじいちゃんの亡骸があった。


「理香、やっと帰ってきたんだね。・・・・・おじいちゃんの顔を見てやってちょうだい。」


目に涙を蓄えながら、母はそう言った。私はくらりくらりとしながら、亡骸のそばに正座した。ゆっくりと顔にかかっている布をそっと取り除くと、まるで眠っているように穏やかな顔をしたおじいちゃんの顔が見えた。今声を掛ければ、「おお、理香か!やっと帰ってきたのか!」と言って起き上がってきそうな気がするくらいに。でも、


「・・・・おじいちゃん・・・・理香だよ・・・・やっと帰ってきたよ・・・・また、お話ししようよ・・・・。」


そう話しかけても、とうとうおじいちゃんは何も返してくることはなかった。私は分かっていてもこの現実を上手く受け止められなかった。私は泣いた。今まで泣かなかった何年分の涙を全部出し切ってしまうかのように。そこから、通夜、葬式と経ても私は茫然自失としていた。霊柩車に一緒に乗って火葬場に行き、真っ白なお骨になったおじいちゃんを見て私はやっとおじいちゃんが亡くなったという事実を受け止められた気がした。 もう、本当にこの世におじいちゃんはいない。改めて突きつけられた気分だった。





それからしばらくして、おじいちゃんが残した遺言書が見つかり、その遺言通りに遺産は親族へと引き継がれていった。 そして私にもある一つの財産を残していてくれていたのだ。

「え・・・?車・・・?」


「そう、車。おじいちゃんが乗ってたあの四角い四駆よ。遺書の真っ先の方にあなたが相続するように書かれていたわ。よほどあなたに引き継いでもらいたかったんじゃないの。・・・・・まあ、古い車だから維持も大変だろうし、本当に引き継ぐかどうかはこっちにまだ残ってる間にゆっくり考えなさいな。とりあえず、鍵は渡しておくわね。」


そう言って、母は私の手のひらに優しく鍵を置いた。私は手のひらにある鍵をじっと見ながら暫く固まっていた。


とりあえず、久しぶりにおじいちゃんの車庫の方へ行ってみるか。 私は少し離れたところにある車庫へ向かった。暫く開けられていなかったようで、少し固かったシャッターを開けると、そこに佇んでいた。


「おお~・・・・。埃被ってるけど、まだ綺麗なままだなあ・・・・。」


そう、そこにはおじいちゃんの愛車、トワイライトブルーとシルバーのカラーリングが眩しい、三菱初代パジェロのショートボディがいた。



「うわあ・・・懐かしいなあ・・・・。ずっとこのまま乗ってたんだ、おじいちゃん。今見てもカッコいいなあ。」


このパジェロはおじいちゃんが30年くらい前に新車で買ってずっと乗り続けていた車だった。メタルトップXLワイドの5速マニュアル車。おじいちゃんに何度も吹き込まれたからグレード名まではっきりと覚えている。なんでも、昔NHKのパリダカの番組で活躍するパジェロの姿を見て一目ぼれして即決で購入したんだそうだ。おじいちゃんは農家だったのもあって他にも軽トラやらワンボックスカーなど色々持っていたのだが、一番のお気に入りだったらしく、いつも毛ばたきで手入れをしていたり、頻繁にワックスをかけてピカピカにしていたりと相当大事にしていたようだった。・・・そして、私をどこかに連れていってくれる時もいつもこれに乗っていったのだった。 近所の公園から遊園地。そして遠くに一緒に旅行にいく時もいつもこの車だった。ガラガラ大きい音を立てながら、街中から山道までグイグイ走る力強さには子供ながらに凄いなあと思ったものだった。車にそれほど関心があったわけではない私だけれど、この時の記憶からインスパイアされて、大学までの通学の足として同じメーカーの三菱のコルトに乗っているほどだ。 まさかこんなに綺麗に残ってるとは思わなかったし、これを譲ってもらえるのは嬉しい。・・・・・・けれど



「マニュアル車・・・・。教習所以来運転したことがなかったんだよなあ・・・そもそも車庫から動かせるのかすらどうか・・・・。」


そう、私はマニュアル車に乗った経験が皆無なのである。いや、正確にはさっきも言った通り教習車に乗った時以来というべきか。自分の車はオートマ車だし、バイト先の車や友達の車もみんなオートマ車だったし、乗る機会なんてまずなかった。一瞬、うーんやっぱやめとこうかな・・・・・とも思ったが、いくら何でも乗る前から諦めてしまうのもちょっと引っかかるので、先ずは乗り込んでみることにした。鍵を運転席側のドアのカギ穴に差し、ゆっくり捻ると「・・カチャ」っと金庫が開いたかのようなちょっと金属質な音と共に鍵が開いた。そしてドアを開け、乗り込むと―――――― 懐かしい香りがフワッと私を包んだ。

少し古めかしい感じだけれど、フワッと体中を包み込むように優しく香ってくる甘い内装の香り。まるで、いつもの実家の部屋の中にいるみたいで、何だか乗り込むだけで気分が落ち着いて、勇気が出てくるような気がした。


「・・・・よし、先ずはチャレンジしてみるか。とりあえず、車庫から出してみよう。」


というわけで、私はキーシリンダーに鍵を差し込み、そして捻ってパジェロの心臓に火を入れようとした。 暫く放置されていたらしいから掛かるかどうか・・・・と思っていたが、「心配せんでもかかるわ!」と言わんばかりの勢いで元気よく心臓に火が入った。ガルルルル・・・というディーゼルエンジン特有の音を響かせながらアイドリングをしていた。

試しに軽くアクセルを煽ってみる。「ガルルル~ん ガルルル~ん」と威勢のいいエンジン音が倉庫に響いた。まるで、パジェロが、早く何処かに行こうよ、と語り掛けてくるように。

ならば私もチャレンジしようか、と更にテンションが上がってきた。私はクラッチペダルをゆっくり踏み込み、シフトレバーを操作して1速に入れて、発進の準備をする。すう・・・はあ・・・と深呼吸をしてから私はクラッチペダルを離して発し・・・・

「ダッ・・ダダ・・・」


と言ってエンジンが止まった。エンストだ。緊張しすぎてクラッチを唐突に離し過ぎたのだ。


「あちゃちゃ・・・やっちまった・・・。」


そう言いつつ、私はもう一度エンジンをかけて、今度は息を抜いてさっきよりゆっくりとクラッチペダルを離した。そうすると、パジェロはゆっくりと動き出した。


「おおお・・・走り出せた・・・・。」


私は少しホッとなりながらも、またすぐにシャキッとして敷地内で、ひたすら練習を重ねた。 発進に、一速から二速への変速、二速から一速への変速、そして変速時や微速域のクラッチワークなど、私は日が暮れるまで繰り返した。そして、だんだんと、私はパジェロと心を通わせるようにスムーズに走らせられるようになっていった。また、パジェロのディーゼルエンジンの低速での力強さ、荒々しくも、まるで生き物のように鼓動を打つさま、そしてダイレクト感のある操作系に私は感激した。おじいちゃんがこのパジェロを終生に渡って大事にしていた理由が、また一つ分かった気がした。今はもういないおじいちゃんと、また少し再会できたような気もした。


私はパジェロを車庫にしまうと、ほんのり温かいボンネットをさすりながら


「また明日ね。」


と呟いた。ただ一日車を動かしていただけだったのに、これだけ充実した気分になったのは初めてだった。明日は、思い切って地元の道をドライブしてみるか。そんな事を考えたまま、ウキウキした気分で夜を過ごした。 布団に入ってもウキウキして眠れなかった。



そして、次の日の朝、朝ご飯を早くに食べ終えると実家を飛び出して車庫へと向かった。勢いよくシャッターを開けて、パジェロに「おはよっ」と声を掛けてから鍵をポケットから取り出し、乗り込んだ。また、あの懐かしい甘い匂いに包まれ、思わずうっとりとしてしまう。暫くその甘い香りに浸った後、私はキーシリンダーに鍵を差し込んで捻り、その心臓に火を入れた。


暫く暖気の為にアイドリング状態のまま待機している時、私はオーディオの辺りを弄っていた。もう30年近く前の車のデッキだからCDすら聴けないのであるが、実家のおじいちゃんの部屋からカセットテープを持ち出してきていたので、これを差し込んでみた。するとフワッと曲が流れだした。このカセットはおじいちゃんがパジェロを買ったばかりの頃に流行っていたアーティストのもので、今となっては『懐メロ』と言われるものだ。小さかった頃の私からしても「古い曲だな・・・」と思うようなものであったが、不思議と聴いていて落ち着けて大好きだった。今改めてこうして再生して聴いてみても、やはりいい曲だなと思ったし、カセットテープ独特の丸みのある温かな音がなんだか新鮮に感じた。


丁度カセットテープの一曲目がラスサビに入り始めたころに、水温計の針がピクっと動き出したので、私はギアをローに入れて、ソロソロっとガレージを後にし、道路へと駆けだした。


そこからは、思い出すままに思い出の地を駆け巡った。公園に遊園地に、そしてよく寄っていた定食屋さんに。改めてその地に降り立って歩き回ったりすると、あるところでは昔と変わらない景色に、そしてまたあるところでは徐々に時を経て変わっていってしまった景色に、哀愁を覚えた。そして、それ以上に私はパジェロを駆っているひと時がとにかく楽しくて懐かしくてたまらなかった。

以前おじいちゃんが座っていた、この運転席に収まり、三角窓を開け、風の流れと匂いを感じながら、昔よく見た景色、よく走った道を、パジェロと対話するように走り抜けていくたび、私はまるで小さい頃にタイムスリップしたかのような感覚になっていった。あの時交わした会話、冗談、空気感、全てがあの時のままに伝わってくるかの様だった。結局、その日だけで150キロ近く走り抜け、すっかり日が落ちたころに家に戻った。


帰って、夕飯のカレーライスを食べていると母が訊ねてきた。


「あんた・・・今日だけでかなり走り込んでたわね。 どこまで行ってたの。」


「ん~、まあちょっと遠くまで。岡のとこの遊園地とか、隣町の公園とか、昔よく行った洋食のレストランとかさ。昔よく行ってたところをふと巡りたくなって、全部回っちゃったよ~。」


なるほどねえ・・・・。と母は言った。そして、少し優し気な笑顔を浮かべてこう言ってきた。


「理香、いつになくワクワクした顔してたからさ。この間鍵渡した時から。最近こっち来ても固い表情しかしてなかったし、こんなに楽しそうにしてるの見てるのはひさしぶりだなあ・・・って思ってね。」


確かにそうかもしれない、と私は思った。大学に進学して、一人暮らしも初めて、自分の好きな分野の勉強をするようになって、課題やゼミなどに追われて、忙しくも、それなりに楽しい日々を送ってきていたつもりだったつもりであったけど、なんだかワクワクした気持ちであったり、何か物事に対して心の底から楽しいと思うことがあまりなかった。でも、こうしておじいちゃんのパジェロで運転の練習をしていくうち、そして、思い出の道を駆け巡ってくうちに、なんだか体の底から湧き上がってくるような心の昂ぶりと、自然と浮かび上がってくる笑みと、あの時と同じ不思議な解放感を感じていた。




・・・・次の日は、あの場所に行ってやろうか。


ご飯を食べながら私は、ある場所に行く決心を固めていた。




翌日の朝、私はまた「あの場所」に向かってパジェロを走らせていた。それは、この間行った場所とは全く違う、あまり・・・・いや、私とおじいちゃんしか知らない場所だ。1.5車線しかないような細い農道を抜け、山に入り、林道を抜け、道じゃないような道を抜けた先にそれはある。最後に行ったのは、私が覚えている限り高校3年の春ごろだったような気がする。もうあれから3年くらい経っているから、正直今はどうなっているのかわからないし、もしかしたら無くなっているのかもしれない。でも、少しでも面影が残っていたらば・・・・。そんなことを考えながら私は森の中を突き抜けていった。途中から、傾斜がどんどんキツくなっていき、そして、足元を阻むように土はどんどん深くなっていった。私はすかさずパジェロのもう一つのレバーを操作して、四輪駆動へと切り替えた。するとパジェロは水を得た魚、いや土を得たヤマネコの如くスイスイと状態の悪い路面を軽く蹴飛ばしながら走り抜けていった。もう30年も前の車とは思えない頼もしさに私は改めて感服した。


確かこの辺だったよな・・・と林道を彷徨っている時、山の頂上へとたどり着き、遂に私は「あの場所」にたどり着いた。


「・・・・あった。ここだ。」


そこには昔おじいちゃんと私が作った小屋状の秘密基地がまだ現存して残っていた。前述したように、私の家庭はとても堅苦しくて、抑圧的で、家にいても中々テレビは見させてもらえなかったし、習い事にドブ漬けでロクに自由にさせてもらえる環境ではなかったのだ。おじいちゃんはそんな私の状況を分かっていてくれていて、せめて自分と遊んでいる間は少しでも自由に何かをさせられる場所を、という事で小学校3年くらいの時におじいちゃんと私でパジェロに材料をパンパンに載せて、3か月くらいかけて作った思い出の場所だ。


ここでやる事は様々。この森林の木を使って工作をしたり、本を読みふけったり、私の大好きな科学の研究をさせてもらったり・・・。ここにいる間はすべてが自由だった。


随分久しぶりに来たけど、ちょっと埃をかぶっている以外は、殆どそのまま何もかもが残っていた。木で作った数々のおもちゃに、そして沢山置かせてもらった漫画本に、科学にまつわる本であったり。何もかもがあの時のまま残っていた。うわあ、懐かしいなあ・・・・。なんて思いながら、私は小屋の中にあるものをひたすら触って回った。すると、棚の中から一つ、まだそこまで古くなさそうな白い小さな封筒があったのを見つけた。


「なんだろう・・・・?」


私は、それに手を伸ばして見つめる。


『理香へ』


封筒にはただ三文字が掛かれていた。ゆっくりと封を開けると、そこにはおじいちゃんからの手紙が入っていた。


私はその文面を噛みしめるように読んだ。


『お久しぶり。元気にしているかな? またここに来る頃には理香はどんな子になっているんだろう。背は高くなってるかな?もっと綺麗になっているかな?・・・・・・そしてまだまだ好きなこと熱心に没頭する日々を送れているかな?もしそうだったのなら嬉しいです。おじいちゃんも、まだまだ理香の成長を見届けていたかったけれども・・・・どうやらそう長くもないみたいです。

お医者さんからも、貴方は残念だけれど、もってあと1年でしょう。そう言われていました。正直、本当に悔しいです。もう少しだけ自分の人生を手に入れた理香が世界に羽ばたいていく姿が見たかった。もう少しだけ好きなことに没頭する姿が見たかった。そして、また辛くなったり、心細くしまった時にまた頼ってほしかった。でも、もうそれもできなくなりそうです。だからおじいちゃんは、この世に二つ、思い出の「場所」と自分の「分身」を理香に残しておくことにしました。

「場所」はこの小屋。理香がまた来る頃にはどうなっているかわからないけど、とりあえず体が言うこと聞くうちはしっかり手入れを施してあります。辛くなったり、あるいはリラックスしたくなったときはまた来てみてください。二つ目の「分身」は車、理香とよく出かけるのに使ったおじいちゃん自慢の愛車、パジェロを理香に託そうと思います。古いから色々ガタはきているかもだけど、手入れはずっと欠かさなかったし、本当にどこまでもいける信頼できるものだし、理香と色々なところに沢山出かけた思い出も愛情もたっぷり詰まった、もはやおじいちゃんの人生そのものです。もし本当に引き継いでくれたのなら、その時にはもうおじいちゃんはいないけれど、これから先の未来も沢山の思い出を紡いでもらえたら嬉しいです。そしてもしまた苦しくなったときは、これに乗って、少しでも理香にまた心の自由を取り戻してください。あ、でも古い車だから無理そうなら無理はしないでね。

そして最後に。理香は昔からあんな家庭にいて、本当によく耐えてきたと思う。ずっと固い抑圧的な家庭にいて、それでも自分のしたい事をしっかり貫けたことは本当に大事なことだと思うよ。そして、それを少しでも手助けできたのなら、おじいちゃんは本当にうれしいです。

これからは大学を卒業して、本当の意味で自分の人生を歩んでいくわけだけれど、どうか理香は理香らしく、好きな事を守り抜いて生きてください。社会の荒波に揉まれても、決して自分を見失わず、周りもうまく受け止めていいところはしっかり吸収していきつつも、ちゃんと守るべきところは守って自分を持っていってください。それが、おじいちゃんの最後の願いです。

これからも分身、そして空から理香を見守っています。では、またいつか。 おじいちゃんより。」



私はあふれ出る感情を抑える事が出来なかった。そのまま私は、崩れ落ちるようにしゃがみこんで泣き続けた。自分の身がそう遠くないうちにこの世から無くなると分かってもなお、おじいちゃんは私を自由にさせてくれる場所を守っていてくれていたんだ・・・・。分身を残してくれていてくれてたんだ・・・・。たとえ自分の身がこの世から無くなっても、それでも分身を託して私を支え続けてくれるおじいちゃんの優しさに、私は感謝と、そして最大の愛情を感じた。



暫く泣き続けて、気持ちに整理がついた後、私は小屋の外に出た。気づいたらもう夕方。まだまだ潤んだ目から見る夕日に染まる街の景色は、いつもよりもっとキラキラと美しく見えた気がした。


私は再びパジェロに乗って、家路についた。



そしてそれから数日後、再び母に訊ねられた。


「理香、結論は付きそうかい?」


答えは言うまでもなかった。 私は、パジェロを引き継ぐことに決めた。



それからしばらくして、大学を卒業した私は念願かなってある研究所で働き始め、自分の好きな研究にいつも没頭しながら、愛する人を見つけ、結婚して、子宝にも恵まれた。




休みになると私は子供をパジェロに乗せて、子供の望むところへ、野へ山へと沢山連れていった。自分がかつておじいちゃんにしてもらったことを、また再現するように。子供もパジェロで出かける時間を気に入ってくれていたようだった。


そして日々の生活で荒んで疲れた時、私は自分を解き放つためにこのパジェロでドライブにいく。束の間のパジェロと私だけの時間は私を再び小さかった頃の自由で無邪気な気持ちにさせ、そしてまたおじいちゃんと再会させてくれるような気がした。



おじいちゃんの残してくれたこの分身は、私だけではなく、私の子供たちにもの自由と経験、そして沢山の思い出を伝えて続けてくれている。そしてこれからも、おじいちゃんの残してくれたこの「分身」は、私、そして私の大事なものたちをこれからもずっと支え、見守り続けてくれるだろう。 私は今日も、パジェロで何処かを駆け抜けている。





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