最終話 メイドのお仕事。
出発は昼下がりだ。
私は荷物を確認する。
今の流行りのサンドイッチとランプ。寝袋と少々の着替え。
そして星6のプログラム強制解除キー"コトルク"を携えて部屋を出ると、レナード様。
礼をすると2人でバランシュタイン家の廊下を壊さないようにゆっくりと玄関まで剣を運ぶ。
「それでは、行ってきます!」
私は門から出ると旦那様とマリスン女史に深々と礼をする。太陽の光に春の爽やかな風が見えるようだ。
レナード様も大きな荷物を抱えながら皆に手を振った。
「父上。無理を言ってすみません」
バーガンディ・バランシュタイン公は涙を浮かべながらレナード様を見送る。
「良い事よ。私はいつだってお前の味方だからな」
レナード様は涙を浮かべるがふと、何かを思い出したのかバランシュタイン公に耳打ちする。
「お父様。私が世界をリセットしようとする時、いつだってお父様は協力的でした。そして今回も。お父様はなぜ消えるのを望むのです?クリーガーがたびたび封印している"光の竜"さえ手元に戻れば私の指先一つでこの世界がリセットされるというのに。私が怖くないのですか?」
バランシュタイン公は笑い飛ばす。
「そんなもの決まっておろう。自分の息子がやり直したいと望むのだ。それなら叶えてやりたい。」
レナード様は驚いた声を上げる。
「息子?それは"そういう設定"なのでは?」
訝しがるレナード様をバランシュタイン公は抱きしめる。
「レナード。お前はこの世界を夢かゲームか何かかと思っているのかもしれない。しかし現にお前が胸に痛みを感じているなら」
レナード様の肩を持ち瞳を見つめて言った。
「それは夢などではない」
レナード様は瞳に涙を浮かべる。
「はい、父上」
言うと振り向いて歩き出す。
私たち2人の旅立ちが始まる。
屋敷の二階にはルカとヴェリル。そしてアレン。仕事をサボって見送りに来たらしい。
「南方の未踏破地区まで行くって?」
ヴェリルはやっぱり不機嫌そうにチョコクランチを食べている。
「それが冒険家の本業ですからなぁ」
ルカは呑気に目を細める。
「メイド長の紅茶が飲めなくなるのは痛いですな」アレンは窓枠に肘をついている。
「まぁ、また会えますよ。彼らならきっとね」
誰ともなく呟いた。
とても晴れた良き旅立ちの日。
「しかし良かったの、ミーシャ?」
レナード様の問いかけに私ははてな顔だ。
「僕の中のリセット因子は切れたわけじゃない。一時的に眠っているだけだよ。いつまたリセットしたくなるか、自分でも怖い。今まで息をするようにリセットしてきたんだ」
私は考え込む。
「えーと。それはたぶん嘘ですね」
私はニコリとご主人様を見た。
「息をするようにリセットしたのなら、リセットした回数なんて覚えているはずがありませんよ。きっとそれは何回リセットしても毎回毎回、これで良いのかという後悔と迷いの証明です」
レナード様は目を丸くする。
私でもレナード様のためにできる事がある。
それは。
「大丈夫です。何回でも何万回でも、私が解除してあげますよ」
私は誇らしげに笑って言う。
「それもメイドの仕事ですから!」
それを聞いてレナード様は微笑み、私達はまた笑い合う。
この先で道は途絶えている。
だが2人の行くところに道ができていく。
私たちは手を繋いで、一歩を踏み出した。
星6武器を引いたらメイドの仕事がひとつ増えた剣 七四季ナコ @74-Key
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