第38話 再び VS レナード・バランシュタイン

崩れゆく世界。


私は口をポカンと空けてレナード様の話を聞いていた。


「楽しかったよミーシャ。とても、とてもね。もう一度がんばってみようと思った。でもね」


その瞬間、レナード様に深々と突き刺さるライトニング。電光があたりに散らばる。


黒い光の文字の羅列が現れて、ライトニングの進攻を阻む。こちらをヴェリルが睨み付けていた。


忌々しげに槍を掴むレナード様は鬼の形相で叫んだ。


「何でお前らが、ミーシャを持っていってしまうんだよ!」


私と同じくらい小柄なその身体で、思い切り槍を投げるが、ヴェリルまで届かずカランと転がる。


「ダセェな、チビ貴族。おめーは何もわかっちゃいねー」

ヴェリルはメガネを指でクイと押し上げる。傍らではルカの光でアレンが身体を治癒させていた。


「レナード殿、あなたなら気がついていたでしょう?誰よりも皆を見ていたのはあなたです。ならばわかるはず」


アレンを案じていたルカも顔を上げる。

「試しもせずに身を引くなど、あなたらしくもない」


3人はレナードに近づく。


「来ても無駄だ!くるならっ!」


レナード様は掌を向ける。

消滅の光。


ルカはすかさず中空に舞い飛ぶ。

「レナード卿、どうにもならない世界を見続けて少々弱気になったのでは?」

「うるさい!」


レナード様が腕を振り上げると、光の粒子は鱗粉のように舞い上がる。


「僕はミーシャがいれば他に何もいらない!何も!!」


叫ぶレナード。光がルカに届こうとした時ヴェリルの槍が割って入り鱗粉をかき消しながら自らは消滅していく。


「気持ちはわかるけどよ。メイド長の目を見て話せたのかよチビ貴族」


ヴェリルの声にレナード様は振り向く。私と目が合う。果たしてこの時私はどんな顔をしていたのだろうか。


レナード様の辿ってきた道を思うと辛くて切ない。


この世界が消えたらレナード様は“次のミーシャ"と2人で旅をするのかもしれない。


彼が良いならそれは悪くない。

けど、だけれども。

私は力の限り叫んでいた。


「レナード様のバカやろう〜っ!!今の私が、レナード様を好きだっていうらこの気持ちはどうなるんですか!」


私は大剣を振りかぶると、思い切りレナード様を覆う黒い文字を斬りつける。


「ミーシャ?!」


レナード様が困惑する。

激しい赤と黒の火花が飛び散る。


「これは、どういう事だ?」


本来不変なはずの文字にヒビが入る。

それは瞬く間に広がりレナード様を覆う黒い光全体に、いや世界全体に光のヒビを入れていく。


尚も赤い火花が飛び散り

2人の世界を赤く染める。


「これは!信じられない!その剣はユグドラなんかじゃない!神樹そのもの。それは"プログラム強制停止キー"だ!」


レナード様の叫びと共に光が世界に満ち、いつのまにか空の、大地の崩壊が消えている。


後には何も残らない。

ただただ光の粒だけが空から私たちに降り注ぐ。


「これはまた」


越に浸った顔でルカが私たちを見る。

私はニコリと笑顔でレナード様を抱きしめる。


「世話のやけるご主人様!」


涙を流す。


「ミーシャ。」

レナード様の瞳の端には涙。

「ごめん。何度も考えていた。君のむごたらしく死ぬのをどうしたら防げるかと。」

大粒の涙を流す。


ああ、大丈夫。

私は確信する。

そう。帰ってきたのだ。

私たちの世界が。


私の後ろではクリーガーが苦々しげに頭を掻く。


「娘よ。そいつを許すのか?全てを破壊しようとしたんだぞ?」


そう言って剣を構える。

私は無言で振り向いて一閃。


彼のベクターと剣を交わすと、

ピインという甲高い音ともに光が走る。


しばしの沈黙のあと父はため息をつく。


「はぁ。"強制解除"か。星9武器がただの鉄塊になりやがった」


そう言うと背を見せその場から去っていく。そして去り際に振り向き告げる。


「剣を向けたことは謝るよ。だがここは、ここという世界だ。守ろうとしたものはわかってほしい」


そう言って歩みを進める。私は大きな声で彼に告げる。正直まだ、心の整理はついていない。だけれども。


「お父様ー!良かったらまたバランシュタイン領にいらしてくださいませ!バーガンディ・バランシュタイン公もきっと御喜びになりますわー!」


彼はピタリと歩みを止めると震える手を挙げて伝える。そして顔を覆う。


私たちには決して見せないがきっとその顔は。


私は皆を見た。ボロボロの仲間たちと顔を見合わせ思わず笑いが漏れる。


ニコニコとしたルカ。


頭を掻くヴェリル。


腕を組むアレン。


私は俯いたままのレナード様の顔を覗き込み上目遣いで見る。


「どうなさいます?」


すると震える声で彼は絞り出す。


「決まってるだろ」


涙をその手で拭き輝きに溢れる空を見た。


「帰ろう、みんなで」

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