空に走る

竹神チエ

あたしの季節がやって来たわ

 夏だもの。周りは元気にしているわ。

 それでもあたしはブルーよ、涙ちょちょぎれてんだわよ。


 だってつかさがいないんだもの。あの子、あたしをおいてっちゃったの。


 じーじく じーじく

 じーじくじー


 ダミ声でなくあたし。叫ぶようになきつづけたわ。

 いやなガキんちょに「うるせー」と怒鳴られたけど、あたしやめなかった。


 じーじく じーじく

 じーじくじー


 そりゃあね、いつかは最後がくるものよ。

 そんなことわかっていたわ。

 でも、あたしより先にいくなんて……


 詞と並んだ桜の幹、南天の枝。猫が見張る網戸だって、詞といれば安全だった。

 でももうひとり。ひとりぼっちのロンリネス。

 あたしは空を見上げて叫んだわ。


 じーじーじーじー!!!


 いっそこの燃え盛る太陽に、からっと唐揚げボディになって、誰かにカリカリ食べてもらいたい、そんな憂鬱なある日のことよ。


 木陰でうずくまるあたしの横に、


 ミーンミンミンミーン


 新参者が飛んできて、なんだこれは、とつぶやいたわ。


 うるさい子ね、そう思いながら目をやった幹にあったの、気づいたの。

 それは詞からのメッセージ、そう、メッセージぃぃじくじーーー!!!


 あたしは再び飛んだわ。木陰を抜けて、夏の空を走る。


 ――ぼくらは俊足の蝉。駆け抜けてサマースカイ!!


 あたし、まだ飛べるわ。あんたがいなくてもねっ。


 キラッキラの太陽。その中でシャワーのような雨が降り注ぐ。

 浴びて飛ぶわ、水も滴るいい蝉がここにいるのよ。


 ひとりぼっちのあたしだけど、夏はまだ始まったばかり。


 焦げてけ、あたし。


 やがて「ジッ」とこと切れて空から落ちる、そのときまで。

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