神々による黄昏―1
「派手に出てくんじゃねえっつーの。みんな炭にしてえんですか?」
気付けば、彼は鋼の床面に転がっていて、随分攻撃的な表情をした
「お久しぶりの挨拶も、あと説得すんのもめんどくせえんで、クソつまんねえ疑念なんざ挟まず、お利口さんな蛇みたいに全部丸呑みしてください。いいますよ」
立ち上がって見渡すと、それは異様な光景だった。紅に座して揺れる鋼。この終末の海に、輪形陣を成した大小一五隻の艦艇が停泊している。中心は自分の立っている船で、内側の六隻は輸送船だ。
皆嶌龍弥ではない人たちが死の幕を上げた日から、
「で、いまやべえのがアレって訳、アレをブチやらねえと私たちはたぶん死にます。ダメ元で救難を出したら
目を上げて、唖然とするしかない。日中、艦隊から遠く離れた水平の果て、そこが、一直線に深い血の色に染まっている。
「凡なとこ見てビビってんじゃねえよ、もっと目ェ使え」
横から呆れた声を聞いて、注視する。月すら視る超常的な力を澄ませると、おぞましい図像が脳を満たした。
鳥の脚から、魚のエラから、虫の口腔から、ヒトの腕が伸びて、繋がり、絡み合う。丹は加速度的に失われ、いまや超高温で金の波濤がうねり迫る。重なる轟音。見上げれば、かなり彼方に座していたOCB
瞬間、歪な響きの爆音が一〇オクターブを駆け上がり、帯が、世界が、至天の輝きに覆われていく。雲は全て極彩のオゾンに蒸発し、空ごときは細切れになった。鱗粉のように撒き散らされる数十万トンの黄金の灰煙。羽搏く、燦然とした星のツバサが。日付変更線の東から、墨色の海を吞み、視界を薙ぐ大陸と化して近付いてくる。三〇〇〇キロメートルの死の弓なりを背に冠した、琥珀にきらめく熱の
神話の光景に意識を持っていかれそうになるなか、あちこちで上がる人々の声がふいに皆嶌龍弥ではない彼の耳を打った。
「二番フリゲート、姿勢制御アンカーの掛かりが甘いぞ」
「化粧品大量に持って来る必要あった!?」
「聞いてよ、こーんなにデカい鯛吊った夢見た。しかも二匹」
「前のティモール沖みたいに何とかなるか分かんないのに呑気なやつね」
「やっべー金ぴかやべー」
「あんた何やってんの! すみませんすみません!」
「怪物どもの規模もこんなに増してんだから、技師室にエアコンくらい付いていいっしょ……」
「こちらアーキア・ワン。ほかいつもの一機。最後かもしれないんで、また飛んでくる。せいぜい沈まずに待ってなボーイ共」
「目標到達予測まで残り八分、至急船内シェルターに戻れ。米海軍の迷惑なエリートはいつも通りさせてやれ。正念場だ、共に乗り越えよう」
いままで何度もクリーチャーに襲われたせいか、ずっと落ち着いて賑やかとさえ思える声。艦艇から、恐怖だけではない音が聞こえる。そこに生きている。自分が失わせずに済んだものが、奇跡艦の已愛たちが護ったものが、そこにある。潜水母艦のファーガルやイチハルたちも、最も大きな輸送船のなかに能力反応がある。途端に、恐れるべき死の数が増していく。黄金色が数段煌びやかになり、力が横溢する。その前に―。
「制御したきゃ、キレろ」
揺れる甲板の最先端に立ち、複数の紋章を小さな身体に浮かべた、榎木園已愛ではない女性はそう言った。
「悲しみと怒りはありえねえほど違う、私たちにとっては。私は
最後に、
「ともかく、キレることです。怒りは能力の出力を正確な形に変えてくれる。私が
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