猫ちゃん´S日記

はねうさぎ

第1話 出会い

さて、何から話せばいいのか。

と言っても、まずは一番年かさのいった我が家のネコたちの事でしょう。

出会ったのは5年前の10月のある日の夜でしたね。

実はその日の朝、私はその子達の声は聞いていたんだ。

完璧に子猫たちの声。

見たい! 触りたい! モフりたい! 抱っこしたい! だけど……。

「ノラ猫は人が近づくと元の場所に帰らなくなり、子猫を放置する時が有る。」

私はそう聞かされていたから、泣く泣く声だけで我慢し、

そのまま仕事に向かった。


しかし昼すぎに、息子から電話が有った。

「母ちゃん、猫の声がするんだけど……。」

そうか、既に奴も気が付いたか……。

「うん、いるみたいだね。

でも母親が帰って来なくなるかもしれないから、探しちゃだめだよ。」

「………。」

あぁ、既に探したな。

「雨降って来たんだけれど。」

確かに空は曇天。

どうやら子猫は隣の空き家の草むらにいる様子。

仕方がない。

「それじゃあね、ベランダに段ボールの箱が有るから、

それを組み立てて、中にタオルを敷いてその中に猫を入れてあげて。

それを自転車のテントに入れて、入口は開けておいてね。」

自転車をしまうテントは草むらのすぐ横にあったから、

母猫が声に気が付けば、すぐに見に行くだろうと思ったんだ。


取り合えず電話を切り、その事を気にしながらも仕事をしていると、

夕方旦那から電話が入った。

もしやと思いつつ電話に出る。

「帰りに猫のミルクと哺乳瓶買ってきて。」

やっぱりか~~~~。

朝した、私の血のにじむような我慢はどうしてくれる。

いや、猫の世話をするのは構わないんだよ。

ただね、2年くらい前に15年家族の一員だった

元野良犬だったモモを亡くしてから、

もう動物を飼うのは止めようねと約束していたんだ。

でも、放置できる状態じゃないらしい。

ならば私の取るべき道はただ一つ。

ホームセンターへの道だった。

ペット用品の棚と首っ引きで色々見て、吟味する。

どれが一番いいかを選び、出来る限り早く帰宅する。


「ちっちゃ~~~い!」

確か私の第一声はそれだったと思う。

だって、ちっちゃいのにもほどがあるでしょう。

目も開いていない、へその緒もしっかり付いている。

まさに生まれて間もない赤ちゃんだったから。

二匹まとめて、掌に乗る大きさなんだよ。

そんな赤ちゃん猫が、ずっと草むらにいたなんて…。

とにかくミルクだミルク。

説明書に従い、ミルクを作り旦那に飲ませてもらう。

どうも私はビビりらしく、やたらな事をして傷つけてしまうのが怖いんだ。

例えば、口を開いてくれない子猫に、

どうすれば哺乳瓶の乳首を含ませてあげられるのか。

無理やり口をこじ開けて傷つけないだろうか。

それが怖い。

だからやってもらえる事はお願いする。

誰もいないなら、自分で何とかする。

大嫌いなカエルがいい例だ。

年に数度、家の中に奴がいる。

何故だ!?

私は見ただけで、悲鳴を上げ逃げる。

こんな物を素手でつかむ人が信じられない。

旦那がいれば、何とかしてもらうが、

一人だった場合は、箒で掃き出し、何とか退散してもらう。

話が脱線したけれど、とにかくミルクは旦那にお願いした。

口先に乳首を添えてチョンチョンとし、少し押し込めば、

途端に吸い付く赤ちゃん。

物凄い勢いでミルクをのんでいる。

お腹空いてたんだね、いっぱいお飲み。

どうやら母猫はこの子達を見捨てたようだ。

朝からこの子たちは鳴きっ放しだったらしい。

みゅ~、みゅ~みゅ~。

想像するだけで涙が出てくる。

旦那が帰って、状態を確認すれば、体は冷え切っていたそうだ。

さて、これからどうすればいい?

一緒に布団に入り、人肌で温める……。

だめだろそりゃぁ。

寝ている間に潰さないと言う保証がない。

しかし今の時代、ネットが普及していて良かった。

検索、検索、検索。

まずペットボトルにお湯を入れる。

ちょっと熱めにして、タオルやフリースで巻く。

赤ちゃんが間違って触って火傷をしない程度を確認し、

動けなくなって窒息しないように、タオルの皴にも細心の注意を払った。

母猫に寄り添っているような気持ちになるといいな。


私達にも仕事が有るから、寝ないで見ている訳にはいかない。

しかし、この子達の授乳は人間の赤ちゃんとそう変わらないんだよ。

1日目から5日目までは1日8回。

6日目から11日目までは1日6回。

夜中にも起きて、おっかなびっくりミルクを上げる。

それから吐かない様にゲップをさせて、肛門を刺激しウンチを促す。

当然おしっこも。

それらに関しては、私はなかなか上手だったよ。

褒めて下さい。

それからペットボトルのお湯が冷めていれば温かい物に交換する。

息子を育てた時を思い出しながら、懸命に旦那とお世話した。

ただ息子の時と違っていたのは、猫の成長速度が速い事だ。

20日もすれば、1日に4回の授乳で済むようになる。

助かった~、その時私は心底そう思った。


その内に、名前をどうしようと言う話になった。

元々の約束だから、私はこの子達を家族に迎え入れないと思っていた。

しかし、それぞれに名前が無いのはどうにも不便だ。

洒落た名前を付ければ未練が残りそうだし、

正式な名前は新しい飼い主さんに付けてもらった方がいい。

そう思って、オールキジ柄の方は茶色いから…”茶々”

首元などに白い毛が混じった白キジの名は”しろ” と命名。

かくして仮宿に訪れた2匹と私達の攻防戦の蓋が、切って落とされるのであった。



  ーーー以下、次回に続く。ーーー

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