運転免許更新を。

西島じお

運転免許更新を。


 今日は免許更新日。

 免許更新のための事務手続きを早速クリアした。

 すると、その過程で呼ばれたのさ。

「じおさん、来てください」

 と。

 何があるんだろう? しかも俺だけ。

 気にはなった。

 気にはなったけど、気にしないようにした。

 事務員に呼ばれて、言われた要件が、

「君、診断書は? もらってきたりしてない?」

 だった。

「いやいや、じつは警察の相談窓口に相談済みです。それに──。診断書はとくに必要ないと言われてますし、医師から運転、止められてもいないですし」

 と、あらかじめ決めておいた文言を並べた。

 だから、すらすら言えた。

 受け答えがはっきりしていた。

 それもそのはず、母があらかじめ診断書の有無を窓口に相談するように、話してくれていたから、その指示に従っていた。

 だから、直ぐに対応ができた。

 なのに。

 運転免許センターの人が管理するその2時間の講習を聞いている間、自分は空白な世界にいたんだ。

 免許更新するのは、身分証として機能させれば役に立つから、そして、いつか運転するときに必要だから、更新するのに。

 なのに、俺は。

 教官が立つ教壇にあるコロナの感染拡大を防止する透明版に映り込む講習受講者の顔を見るまで、意識は講習には向いてなかった。

 そう、今日のような自分が初めて免許取得した時の、診断書の話が出たときを思い出していた。

 気持ちが過去のベクトルを向き、現実から目を反らしていた。

 今日、更新するのは、未来さきを考えての行動なのに、過去を向いていた。

 それが、今日の出来事だった。

 講習が終わり、新しい免許をもらったのに、その免許証はなんだかずしりと重く、気持ちまで重くなっていた。

 初めて免許取得した時はあれほど軽かったのに。

 スマホで時間を確認すると、真夏の一番太陽が高い位置にある午後三時を示していたが、本来まぶしいはずなのに暗く感じた。

 そして、疲れた身体で家路に着いた。

 本当なら嬉しいはずの免許更新は、少しも嬉しくない結果となった。

 だから、悩ましいんだ。

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運転免許更新を。 西島じお @jio0906

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