第621話 完全圧倒
アイアンクロー。細身に見えて、その身体能力は達人クラス。そして、ブレイクスルーによってソレはさらに強化され、その握力で容赦なくヤミディレはディクテイタの頭部を掴んで、締め付け、そして……
「笑わせるな、これで神? 王だと? お前の才能など、凡夫だ」
そんな厳しい言葉を突き付け、そのままヤミディレはディクテイタの頭部を掴んだまま、後頭部から地面に勢いよく叩きつける。
「がァ、ああ、がああああああ!」
頭部が割れる。ディクテイタの頭部から夥しい血が飛び散る。
しかし、ディクテイタには再生能力がある。
つけられた、刻まれた傷もすぐに元通りになり、ディクテイタは怒り任せにヤミディレに向かう。
だが……
「魔極真エルボーバット」
「はぐっ!?」
カウンター気味の肘攻撃。それは打撃どころではなく、もはや切れ味鋭い刃物のようにディクテイタの首を斬り裂いた。
飛び散る血液。そして……
「はがっ、がっ……ガッ……」
「ビットストーン」
「ッッ!!??」
斬り裂かれた首の傷……いや、喉に小さな石を埋め込んだ。
「あがっ、がっ、がひっ、があ、あがァ!!??」
「傷を再生するが……傷ではなく、体内に異物を埋め込んだらどうなる?」
「がひっ、が、あがァ、が、喉ぉ、あ、あ!」
「傷は治っても、体内の異物を除去できるわけではない……喉の中に異物がある限り、まともに話すことはできぬ……つまり、これで貴様は呪文の詠唱もまともにできまい」
「ッッ!?」
傷口から異物を埋め込んで、素早い再生能力でその傷口が塞がれて簡単に取り出せなくなった。
ヤミディレが言うように、ディクテイタは激しく焦りながら首を掻きむしるが、喉の中の異物を取り出すことができない。
何よりも、そんな時間をヤミディレは与えない。
「魔極真オブリ―クキック」
「はぐっっ!?」
ガラ空きになっているディクテイタの両膝の皿を狙った前蹴り。
膝蓋骨が完全に砕かれた。
「ビットアイス」
さらに、その砕かれた両足に即座に氷結魔法を放つ。
その瞬間、ディクテイタの両膝は時が止まったかのように固まる。
「なっ、あ、さ、あがァ? あが!?」
「なぜ再生できない? 簡単だ。傷口の再生は細胞分裂の促進。なら、細胞ごと凍結させればよい」
「ッ!?」
そして、もはや足で立ち上がることもできず、魔法も唱えられないディクテイタに対し、ヤミディレは容赦なく顔面に前蹴りを放つ。
「魔極真トゥーキック」
歯も鼻もへし折れ、顔面を跳ね上げられるディクテイタ。
傷自体は再生能力で治せても、痛みを消すことはできない。
激痛に涙を流しながらのた打ち回る。
「ふっ、天空神か……たかが再生能力と身体能力と魔力……それが向上した程度で極めたつもりか? その程度の浅い敵など腐るほど葬ってきた」
「あがっ、がああ、ぐっは、あがっ、だァ!?」
のた打ち回るディクテイタを踏みつけ、蹴り、また踏みつける。
「「「「「…………………ひ、ひどい…………」」」」」
あまりの残虐さにアミクスたちも先ほどから動けないでいた。
「ヤ、ヤミディレさんが敵じゃなくてよかったね、ラル先生……よくあんな凄い人にアース様勝てたよね……」
「本気で殺すつもりであったなら……どうなっていたか」
そう、ラルウァイフの言うように、鑑賞会でかつて見せた「アースVSヤミディレ」のカクレテールでのバトルの勝敗は、決してヤミディレの格を落とすようなものではない。
あのときは、「アースに言うことを聞かせるため」、「アースにお仕置き」、「半殺しにして、クロンと交わらせる」というような思惑があったからだ。
つまり、「ヤミディレが本気でアースを殺すつもりはなかった」ための結果であった。
それは、分かるものたちには分かること。
「さっすが、ヤミさん……魔王軍最強の女……鬼天烈のわっちですら痺れと寒気がする強さとエゲつなさだぜ……」
あのドクシングルですら鳥肌立てて引きつらせていた。
そして……
「こ、殺してやる……よくもわちしを……イリエシマ様だけが触れてよい、わちしの顔を……ッ! ヤミディレ!」
「吼えるな。どうせ大した顔でもないであろう? クロン様に比べればこの世の女は全てブス」
ヤミディレに一時的に視力を奪われ、さらに顔面に強烈な膝蹴りを受けて無残になったオツが、怒りを爆発させて再び立ち上がる。
「全てを飲み込め、大いなる海よ! ギガタイダルウェーブ!」
「弾き返せ、ギガタイダルウェーブ」
オツの目的は、アミクス。しかし今のオツはそのことが頭から抜けているのか、暁光眼ではなく、己の大魔法を使う。
すると、既に戦いの余波で荒れ狂っていた島の周りの海が、やがて一つの巨大な津波となって、ナンゴークを覆い尽くそうとする……が、オツが津波の魔法を使った直後に、ヤミディレも同じ魔法をそのまま放ち、津波同士を相殺してしまった。
「ぐっ、……わちしと同等の海魔法……渦巻け海流! ギガワ―――」
不発。だが、まだ次を放とうと、オツが再び魔法を練ろうとした、その時だった。
「無駄だ。渦巻く海流に引き裂かれよ、ギガワールプール」
「なっ、ちょ、ま、わちしの魔法を、なぜわちしより先に……ッ?! 紋章眼!?」
オツが放とうとする魔法を、ヤミディレはその紋章眼で解析し、最初の触りを見ただけでオツの放とうとする魔法を全て解析してしまい、コピーし、そしてオツよりも早く発動する。
「あっ、ああわあああああああああああああああ!!!!」
海の水が渦巻いて、それが竜巻のようになって襲い掛かり、オツを飲み込んで吹き飛ばしてしまった。
「な、なんという……僕の紋章眼よりも圧倒的な……ッ、これが本気の……ヤミディレ……」
その一部始終を、同じ紋章眼を持ちながらも格の違いを実感し、横たわるガアルはもう笑うしかなかった。
「やった、大将軍がやってくれたァ! ダーリン、あたいら助かったぞ!」
「……ぬぅ……十数年ぶりに見たが、相変わらず恐ろしい奴じゃ……」
「でも、これで勝ちだよね? すごいな~……アース様、クロンちゃんを泣かせたら大変だな~」
ふきとばされたオツ。もはや実力差も明らか。
ヤミディレの強さに恐怖しながらも、勝利に歓喜する一同。
そんな中で……
「ぐっう……ヤミディレ……きさ、ま、はぐっ、いったい何度ワシ……を……ぐぅ、そしてその目……紋章眼……い、忌々しい……おのれぇ」
立ち上がれず、喉の異物の所為でうまく喋ることもできないディクテイタ。
その姿を見下ろしながら、ヤミディレは……
「なんというザマか、ディクテイタ……貴様は……やり直すことができたというのに」
「……ぐ、う?」
「貴様はパリピの薬物によって正常ではなかった……そんな貴様をアース・ラガンは命を取らず、貴様の娘も貴様を見捨てたりしなかった……そう、貴様は心入れ替えさえすれば、一からやり直すことができたというのに……」
「だ、ダマレ、何を……もとは全て……貴様……貴様が天空世界を……裏切っ……時から―――」
「何よりも……何よりも、貴様の娘はお人よしのようだ……貴様を天空世界から追放することもしなかった。さらには、今もあやつは貴様に歩み寄ろうとしていた……それを……反吐が出ることをしたようだな」
ディクテイタにどこまでも冷たく厳しく言葉をぶつけた、
「歩み寄る娘に対して向き合うこともできぬ、狭き心、器……王としても、ヒトとしても、親としても……なんと小さきことだ」
「ッ……ひい」
(((((歩み寄る娘に対してって……いや、怖いからツッコミ入れないけども……)))))
そして、アミクスたちが心の中でツッコミ、そしてヤミディレがディクテイタに再び容赦なくケリをくらわせてやろうとした、その時だった。
「ま、待ってくれ、ヤミディレ! も、もう、それ以上は……どうか、救いようがないかもしれないけど……ダディに……慈悲を」
「…………………」
横たわった状態のまま、ガアルが懇願するようにヤミディレに叫んだ。
その瞬間、ヤミディレの足が止まる。
だが……
「ッ、ぅ……ぐっ……ガアル……ぬぐっ、う、ううう、うおおおおおおおおおおお!」
「むっ?」
ディクテイタは、再び怒りの形相で己の首に、自身の指を捻じ込んだ。
自分で自分の喉を潰し、そしてその中に入れられた異物を無理やりむしり取った。
「ダディ……」
その行為はガアルやアミクスたちが顔を青くして、思わず目を背けたくなるほどの所業。
そして、ヤミディレもこれには少し驚いた様子。
何故なら、「そうしないと異物は取れないが、ディクテイタに自らソレをやる根性はない」と思っていたからだ。
しかし、ヤミディレの予想に反して、ディクテイタは自らの喉を潰し、いかに再生能力があろうとも激痛を伴う行為をやった。
すると、ディクテイタはガアルを睨み……
「かはっ、あ、があああ、ぐうっ、お、おおおお、がっ……ガアル……そうやって、貴様は、ワシを見下し、哀れみ……」
「……え?」
「貴様にそうされることが、最も煩わしいと何故気づかんのだ、ガアルッ!!」
相変わらず、父が娘に向けるとは思えぬ叫び。
だが、そこに込められている感情は、少し今までと違うように皆は感じたような気がした。
――あとがき――
何年ぶりの連続投稿だろ……ひょっとしたらこれはワシではなく幻か?
労いでこの作品も『フォローワー登録』も『★★★』の評価もやっといてくれい! まだしてねーやつが居るとは思えんが……( ̄ー ̄)ニヤリ
さて、GWでの呼びかけの甲斐あってか、少しずつ下記作品も週間ランキング伸びている気がしてきたんで、うん……もっと来いィおおおおお!!
もう一押し、推し、押忍!
ポチってつかーさい!!!( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)!!!
『戦犯勇者の弟妹』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073183198625
フォローワー登録及び「★★★」で評価オナシャスうぅぅぅぅぅ!!!!
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