第620話 子の責任

 天地雷鳴。

 驚天動地。

 天変地異。

 天の怒りを表すかのような巨大にして強大なる力。


「あ、あんなの……あんなの撃たれたら、どうしようもないよぉ!」


 アミクスはじめ、皆が震えて身動き取れないでいた。


「じ、次元が違い過ぎるわい……」

「ダーリン……ッ、せめて子供たちだけでも……」

「皆、集まれ! 今すぐ小生の空間転移で……!」

「ちい、あのクソコンビィ! わっちのパワーで殴っても、何度も再生しやがって……」


 これまで数多くの戦場を経験してきた、マルハーゲン、ショジョヴィーチ、ラルウァイフ、そしてドクシングルですら及ばない領域にまで高まったディクテイタ。

 そしてその傍らのオツがディクテイタの潜在能力を更に解放させる。


「ダディ……やめ……」


 下には瀕死になった実の娘であるガアルすらいるというのに、一切感情を揺らすことなく殺そうとしている。

 そんな父に、思わず涙が溢れるガアルだが、もうどうしようもなかった。


「さぁ、必要なものだけ残して消すが良い、天空神よ!」

「神天罰の雷を!」


 ディクテイタの全身の魔力を漲らせ、それを一気に解き放とうとした、その時だった。



「ギガフラッシュフラッド 」


「……!?」


「ぬっ!?」


「「「「「…………え?」」」」」



 突如現れたもう一つの巨大な魔力。

 そして、同時に場の空気、環境が激変。


「え? なに? わ、あ、急に暗く!?」

「雲が……!?」

「一体誰が……わ、わ、なんだぁ!? お、大雨!?」

「天候が一変した……こ、これは、天候魔法!?」


 それは比喩ではなく、本当に空気が変わった。辺り一帯の雨雲が濃く、猛烈な豪雨となって降り注ぐ。

 それはまるで上空から降り注ぐ洪水のよう。


「ぬ、なんだ、急に天気が……いや、これは……わちしたちだけに!?」

「なにごと? 我、天空神に対し、天が無礼なことを……まとめて消してくれる! テラ―――」

「いや、待て、天空神よ! 今このずぶ濡れの状態で雷の魔法は、わちしたちにも!」

「ぬっ……」


 そして、その豪雨はアミクスたちに及ぶことなく、ディクテイタとオツの二人だけに降り注ぐように集中する。

 それは、明らかに人為的なもの。

 オツとディクテイタが何事かと声を荒げ……



「気に食わんな」

 

「「ッッ!!??」」


「「「「「あっっっ!!??」」」」」



 そして雨が止み、突如聞こえた声に皆が振り向くと、そこには……



「神は唯一無二にして絶対の存在。敬愛すべき我が主である神と女神以外に居ないというのに、少々髪が生えて若返った程度で何を図に乗っている? 糞尿垂れ流して泣いていた貴様がなァ」


「な、……なに?」


「貴様、ヤミディレ!? な、なぜ―――――」



 復活した暗黒戦乙女が出現した。


「だだだ、大将軍!?」

「ヤミディレ、なぜこここに!?」

「ヤミディレさんが来てくれた……あれ? で、でも、ヤミディレさんって力を封じられて……だよね、ラル先生!」

「……ッ……そ、そのはずだが……な、なんだ……なんだ、この桁違いの膨大過ぎる力……」

「ヤミディレの姐さん……ちょ、こ、このプレッシャー……」


 現れたヤミディレに安堵していいのか、いずれにせよ驚く一同。

 そして、ラルウァイフとドクシングルだけは、更に現れたヤミディレの変化に気づいていた。



「……天空王子よ……随分手ひどくやられたようだな……」


「ヤミディレ……ッ……ふ、ふふ……み、みっともないところを……ダディにはもう僕は、どうでもいい存在のようで……」


「……………そうか…………チッ……ハゲが……」



 ヤミディレはどこか思うところがありそうな表情で瀕死のガアルを見る。

 そして、泣きごとのように漏らすガアルの言葉に、ヤミディレは舌打ちした。

 それも全ては……

 


「ヤミディレ……まさかここに来て、我が眼前に現れるとは……」


「ふっ、力を封じられていると聞いていたが……一体―――」



 変貌したディクテイタと、因縁であるオツを改めて見て……



「ヲイ……………ハゲ!!!!!! カス!!!!!! 我がカリー屋の顧客や客人に随分と好き勝手してくれたではないかッッ!!!!!」


「「ひっっっっ!!!!????」」


「「「「「ひいいいいいいいいいっ!!???」」」」」

 


 それは、黙っていれば神々しさとその美貌で多くの老若男女問わず振り返るほどの存在。

 そのヤミディレが、暗黒面を全面に出した悪鬼羅刹鬼の形相へと変貌し、その黒い翼が悪魔の翼そのものとなり、その恐怖にこの場に居た全ての者たちがビビッて悲鳴を上げた。


「ッ、間違いない、大将軍は……封印が解け―――」


 そして理由は分からないが、誰もが実感した。

 ヤミディレが力を取り戻していることに……



「メガスパーク」


「ちょまっ!?」


「しまっ――――」



 その動揺は、ヤミディレのような百戦錬磨の存在からすれば「攻撃してください」と言っているようなもの。

 全身ずぶ濡れになっているディクテイタに向けて、ヤミディレは何の前触れもなくメガ級の雷魔法を放った。


「ぐわ、あが、があああああああああああっ!?」

「天空神!?」


 防ぐ間もなく、ずぶ濡れの身体で受ける魔法。

 テラ級やギガ級より遥かに劣るが、その分だけ魔法の発動時間と消費魔力が少ない。

 そのうえで、濡れた身体に威力が向上し、ディクテイタが悲鳴を上げる。



「ッ、きさ、まぁ! ヤミディレ! 調子に乗―――――」


「メガスパーク」


「ぐっぐぁああ、ええい、うっとおしい! この程度の魔法、天空神となったワシには―――」


「メガスパーク」


「があっあ、ちょ、ま、待て――――」


「すぅ~、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク」


「ぐぎゃああ、あちょ、ま、まっ、ふぎゃああああああああ!?」


「メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク、メガスパーク」


 

 魔法で相殺することも、魔法障壁を張って防御する間もなく雷魔法の連発。

 天空神となって圧倒的な力を身に着けたはずのディクテイタがあっという間に黒焦げになっていく。


「ちょっ……ひ、ひどい……ヤミディレさん……」

「ヤ、ヤミディレ大将軍……あえて、死なない、気を失わない程度に魔法の力を抑えて……く、苦しめている? なあ、姐御……」

「ヤ、ヤミさん……やっべ~……」

「次元が違う……これが、大将軍の力……」


 その惨状、一応味方なはずなのにアミクスたちは顔を青くして、かつて同じ魔王軍だったショジョヴィーチ、ドクシングル、そしてラルウァイフは唖然としている。


「ヤミディレ……貴様ぁ……貴様ぁ!」


 ヤミディレがディクテイタをオーバーキルするほどの甚振り。

 最初はビビったオツだが、怒りが恐怖を凌駕したようで、瞳を光らせる。


「幻想に飲まれて壊れるが良い! 暁光―――」

「……遅い。ブレイクスルーッ!」

「ッッ!?」


 だが、その瞳の力を発動させようとした瞬間、ヤミディレは自己流のブレイクスルーを発動。

 高まった身体能力から繰り広げられる超速飛行はオツの反応速度を遥かに超え……


「メガフラッシュライト」

「しまっ……あ、あつっ、あ、あああああああああああ、め、目が、あ、あああ!!」


 オツの眼前で眩い閃光魔法。

 本来はただの合図や目くらまし程度の魔法だが、ヤミディレが使えばそれはもはや攻撃にもなる。

 その強烈な光は相手の視力すらも一時的に奪う……だけに留まらない。眼球が焼けるほどのその光の強さは、もはやヘタすれば失明するようなもの。

 これには耐え切れず、オツが目を抑えて苦しみ……


「戦闘中に喚くとは……随分とブランクがあるようだな……」

「っ、ヤミディレッ! あっ……」

「魔極真フライングニーキック」


 そんなオツの髪をヤミディレは乱暴に掴み引き寄せ、その顔面に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。


「あ、アアガアアアアアアアア、あっつあああああ!!??」


 美しきオツの顔面が、鼻が潰れ、陥没し、前歯も折るほどの無残なことになる。

 女の顔だろうと容赦なく潰すヤミディレの所業に、アミクスたちはもう恐怖で半べそかいている。

 すると……

 


「おのれぇ、ヤミディレぇ! やはり力を取り戻して……おのれぇ、ガアル! この出来損ないは、ちゃんとした封印すらできんとは、恥を知れ!」 

 


 全身黒焦げになりながらも、少しずつ損傷した身体を再生させながら、ディクテイタが吼えた。


「……ダディ……」

「責任をどう取るつもりだこの愚か者ぉぉおおおおお!!!!」


 ヤミディレの封印が解けた本当の原因は、ディクテイタとオツなのだが、それを分からないディクテイタはガアルに罵詈雑言を浴びせる。

 すると……


「子の責任は親が取れ……子に責任を押し付けるな」

「な、なにィ?」


 悪鬼羅刹化していたヤミディレが、この瞬間だけは正気の表情で……


「どれほど立派になろうと、生み出した責任は生涯親が負うもの……どう責任を取るかだと? この責任は貴様が取れ、ハゲが」

「だ……ダマレぇ! 貴様なんぞに説教されたくないわァ!」

「そうか、聞きたくないか。ならば恐怖と苦しみと後悔の海に溺れろ」


 だが、すぐにヤミディレは元の狂気の悪鬼羅刹に変貌する。



「ぐ、ぬぅ……ええい、舐めるな! ワシは、もう昔のワシではない! 今こそ、かつての清算をしてくれるッ! 見よ、先ほどの貴様の魔法すら、こうして既に回復しているわ!」


「ほう、ヨーセイと同じ再生能力か……だが、死なんのは当然だ。随分好き勝手してくれたのだ……簡単に殺すような優しさを見せると思うか?」


「ダマレぇぇ! 唸れ、天よ! 荒ぶれ、世界よ! 今こそ生まれ変わったワシの最大最強の魔法を見せてくれる! 不発に終わったが……メガを超える、ギガ! それをさらに超える……テラ級の魔法をぉオオオおおおお!」


「バカが」


 

 先ほどは邪魔されたが、今度こそと、ディクテイタが再び魔力を練る……が……


「魔極真アイアンクロー」

「ごわっ、き、さ、ま、離せ、んぐっ、ぐわああああああああああ!?」


 その魔法を放つ前に、隙だらけのディクテイタの顔面をヤミディレは掴んで締める。


「そんな発動に時間がかかるだけの魔法をこの状況で使えると思っているのか?」

「あが、はな、ぐがあああああ、やめ、潰れ、ひぎゃああああああああああ!?」


 もはや、そこにパワーアップや生まれ変わった神だのなんだのの威厳もない。

 苦しみ悲鳴を上げてジタバタするディクテイタに、ヤミディレはただ冷たく……




「雑魚が」




 圧倒した。




「「「「「つ……強すぎ……」」」」」



 もう、アミクスたちは呆れるしかなかった。






――あとがき――

ドンマイ、ハゲ。相手が悪すぎた。

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