第448話 ファイヤー
ヒイロとマアムは自分たちの息子の成長に驚くだけではなく、その息子が戦った相手にも驚くことになった。
「まさか、あの島に超魔回復の体質を持った奴が居たなんて……」
「アースってば、そんな力と戦っていたというの?」
かつて自分たちの宿敵でもあった六覇のゴウダと同じ脅威の能力。
その力の恐ろしさを誰よりも身に染みて分かっている二人だからこその驚き。
ヒイロにとっては十数年以上の前のことであるものの、今でも鮮明に覚えているようだ。
それほどまでに、ヒイロにとっても大きな出来事だったのだ。
そして、そんな脅威の能力に自分たちの息子が挑む。いや、挑んでいた。
目が離せるはずが無かった。
『大魔ソニックワンツーッ!』
『がふっ!?』
『へっ、回復が速いつっても、痛みがないわけじゃねーし、急所が変わってるわけでもねーだろ?』
『ぬっ、ぐっ……』
『そして、音速を超えたパンチで打たれ続けて、意識が保ってられるかな?』
『ッ!?』
『大魔ソニックラッシュ! 大魔ソニックソーラープレキサスブローッ! 大魔ソニックハートブレイクショット! 果てまでふっとべ! 大魔ソニックスマッシュ!』
マチョウの超魔回復を目の当たりにしても、アースは変わらず高速の連打と強打を織り交ぜてマチョウを翻弄する。
「速いわ……しかも、フェイントも織り交ぜて圧倒している……しかも、その一撃が全部急所を的確に打ち抜いているわ……でも、アレじゃ駄目よ!」
「ああ、並の相手なら一発くらっただけで失神するか悶絶している……たしかに、ツエー……だが、その相手にソレはダメだ、アース!」
アースの強さや力を認めつつも、「超魔回復相手にその戦い方は間違っている」と口に出すヒイロとマアム。
「超魔回復はダメージを与えれば与えるほど、その度に回復し、それどころか与えられたダメージを耐えきれる肉体に強化されて回復する無敵の能力だ! 半端に攻撃をしても、相手を強くするだけだぞ、アース!」
一方で……
「そんなことはあの小僧も分かっているだろうが……はてさて……ここから何をするのだろうな?」
この「試合の結末」だけはハクキも知っていた。
だからこそ、超魔回復を持ったものとの戦いの正解を導き出したのだろうと。
「ヒイロよ……かつて貴様がゴウダを倒したときは……」
「ああ……俺の全魔力を凝縮した最強の一撃で、回復すらさせずに消滅させた……それ以外にあいつを倒す方法なんてなかった……」
「うむ。再生など関係なく、存在そのものを消滅させる一撃を放つしかない……が……となると……」
「あ……」
そのとき、ヒイロもマアムもハッとした。
再生すらさせないほどの強烈な一撃をアースは使えるのか?
まさにそんな技をアースは使える。
「「大魔螺旋……」」
あの、自分たち家族の全てを変えてしまったあの御前試合でアースが放った技。
あの技ならば……
『負ける気がしねえ。頭がスーッとして……集中力を高めていたら……なんか、分かっちまったかもな』
だが、そんなヒイロたちの想いとは裏腹に、アースはいたって余裕だった。
『超魔回復……意外と、デメリットも大きいなってことだ。見せてやるぜ! 薬も、スキルも、才能も……地道な凡才が蹴散らしてやる!』
「「はっ!!??」」
「ほう」
それどころか、超魔回復という驚異の能力を目の当たりにして、「デメリット」すなわち弱点があると言っているのだ。
「ちょ、超魔回復にデメリット……ですって?」
「アース……お前……一体……」
「ふっ……さて……見せてみろ」
その言葉にヒイロもマアムも驚愕し、ハクキも面白そうに笑った。
そして、再びアースは躍動する。
『大魔ソニックジャブ!』
だが、動き出したアースの戦い方は特に変わった様子はない。
『大魔ソニックチョッピングライト!!』
『ぬおっ!?』
『大魔ラッシュ!』
変わらず拳を使ってマチョウに叩き込んでいく。
「ちょ、だからそれじゃぁダメって……どんどんマチョウって人の力が……」
「ああ、アースのパンチを腕で受けて……うお、腕が筋肉ムキムキに……あんなパンチで殴られたら……」
「……何か狙っているな……」
アースの攻撃を受けて更に力を漲らせるマチョウ。
そこに何の意味がと思った……が……
「あれ? アース……あの子、さっきからパンチを……」
「あ……顔とかボディとかにじゃなく、マチョウってやつの『左腕だけ』を殴ってる……? え……あっ!?」
「……ふふ……ああ、そういうことか……」
そのとき、三人は気づいた。
アースがマチョウの左腕しか殴っていないことを。それに伴い、マチョウの左腕だけが不自然に肥大化していることを。
それに伴い、マチョウが反撃のために拳を振り回しているが、威力はあるもののキレはなく、ただでさえスピードの質が違うアースを捉えることを余計にできなくなっていた。
『無駄な筋肉を付けて、却って全身のバランスが悪くなっちまったな、マチョウさん。筋肉が大きくなりすぎて、更には全身ではなく一部のみが発達しすぎて、フォームも大きく崩れ、パワーが伝わってねえよ』
「「あっ!!??」」
『それと、マチョウさん……腹減ってないか?』
超魔回復はダメージを受けた個所を、ダメージを受ける前より強化して再生する。
そしてそれは意志ではなく、オートで行われる。
戦いの最中であれば、ダメージを受けた瞬間に即座に回復するという、一件無敵な不死身の力に見えるかもしれない。
しかし、ダメージを受けた個所のみを、オートで強制的に回復強化するというのは、メリットだけではなくデメリットと表裏一体。
「そんな方法が!? 一か所だけに集中して回復強化をあえてさせることで、全身のバランスを悪くさせる。それによって、相手の動きの質を低下させる!」
「バランスが崩れたからと言っても、筋力だけは上がっているから、攻撃力はとんでもねえかもしれねえ……が……スピードが全然ついていけてねえ。そして、それだとアースを捉えることができねえ」
「そして、超魔回復は……無尽蔵ではないということも見抜いていたか……『誰か』に耳打ちされた感じではなく、自分で見抜いたという様子だったな……」
それは、かつてゴウダと戦ったヒイロやマアムとは異なる戦法だった。
バランスの崩れたマチョウでは、動体視力とフットワーク、集中力、ブレイクスルーと魔呼吸。それを持ったアースを捉えることはできない。
マチョウもまた、超魔回復の連発で疲弊している。
「たしか、座学は一応アカデミーでは上位一けた台だったか……脳筋の父と母と違い、賢いではないか」
もはや、開いた口が塞がらないヒイロとマアムに、ハクキはより上機嫌になった。
そして、
『大魔トリプルクロスカウンターッ!』
「ちょっ、カウンターのカウンターを、更にカウンターッ!?」
「い、いやいや、ど、どんな読み合いしたらあんなに!?」
「……これまた芸術な……」
もはや、技術どころか芸術の域にまで達した技。
それはたとえ、
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「あ……マチョウって人……ッ!?アレは、スーパーパンプアップ!」
「そ、そうだ、ゴウダも使ってた……あのメチャクチャ強くなる変身みてーな技!」
マチョウが奥の手、血流をコントロールすることで火事場のバカ力、すなわち己のリミッターを外す技。
それを使ったとしても……
『あーーっと、マチョウは続けざまに連打! しかし、アース、スウェーや上体逸らしで……当たりません! なんと、見切っています!? なっ、マチョウの剛腕を……拳で角度を付けて叩き落としている!? な、なんという目でしょうか!?』
見切る。
ただ、それも完璧というわけではなく、僅かに危ない局面もある。
『魔極真水面蹴りッ!!』
『あっ……しま!?』
『終わりだあああ、アース! この一撃で!!』
『あああっと、アースがピンチ! そして、ご覧ください! マチョウがアースを頭上に持ち上げて……これは、マチョウの代名詞とも言うべき大技!!』
マチョウの苦し紛れの足払いに足を引っかけられ、転んだところを捕まえ、マチョウがアースを頭上に持ち上げて、勢い任せに叩きつけようとする。
だが……
『魔極真パワーボム!』
『大魔コークスクリュー・ヘッドシザース!!』
叩きつけられる寸前、アースがマチョウの頭を強く挟んで、そのまま回転しながらマチョウの頭を逆に地面に叩きつける。
「ちょ、ちょ、すご! ちょっ、す、すご!」
「うおおおおおおおおおお、アースッ!!」
「お、おおお、ふは、ふははははは! これまた豪快な!」
手に汗握って興奮する瞬間、手足を拘束されているマアムもヒイロも思わず立ち上がり、ハクキすらも椅子から立ち上がって笑みを浮かべた。
「「「「ファイヤーーーーーーーーッッ!!!!!」」」」
そして、一度同じものを生で見たはずなのに、二度目でもカクレテールでは興奮していた。
「うっは~、これこれ! あんちゃんのこの技は興奮したーっ!」
「ふっ……このときは自分も面食らったものだ……同時に、アレほど熱くなれたのはな……またやってみたいものだな」
「ちょっ、マチョウさん! もう、あのスーパーパンプアップは危ないからダメって言ったかな!」
「お兄ちゃんもおじさんもカッコよかった」
過程も結果も知っている。しかしそれでもまた興奮する。
浜辺に集まったカクレテールの者たちは興奮し、更に今のマチョウの技に対するアースの返し技のシーンには全員が立ち上がって、なぜか「ファイヤー!」と口にしていた。
「くそーーー、オラぁ! 筋トレしたくなってきた!」
「うう、僕もだ……こんなの見せられたら」
「……確かに熱くなるんで」
「僕ももっと痩せるんだなッ!」
それどころか、感化されて気づけば男たちはその場で腕立て伏せをしたり、スクワットをしたりと、ジッとしていられないと体を動かしだすしまつ。
それは……
「は、はは……リヴァルはやらないの?」
「……決着を見届けてからだ……俺たちは初めて見るのだからな」
「ふふ、そうだね……って、トレーニングすることは否定しないんだ。今日の分のメニューは終わったのに」
「……お前は違うのか? 体を動かさないと、今日は眠れそうにない」
常にクールなリヴァルですら熱くなるものだった。
「はは、そうだね……僕も……そして姫様に関しては……」
「アース……♥ かっこよすぎる……♥」
「……あらら」
そして、フィアンセイに関してはもう両目が「♥」になっていた。
――あとがき――
メリークルシミマス
下記も何卒よろしゅう。読んでもらえなさ過ぎて閑古鳥状態で毎年恒例クリぼっちだったワシの身にはさらに堪えるのです……
『天敵無双の改造人間~俺のマスターは魔王の娘』
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