第342話 最悪の仮説
大気が震えて耳がぶっ壊れるんじゃないかと思われるほどの大声。歌? 攻撃じゃねえか!?
だが、今はそんなことよりもこの状況だ。
話を整理しねぇと。
~昔々、魔巨神と呼ばれる伝説の怪物が居ました。
山より大きなその巨体。一歩動けば大地が揺れて、一つ拳を振り下ろせば大地が割れる。
しかし、その巨神は光の勇者が振う聖剣により滅びました~
ざっくりと、こんな感じだったはず。
それが絵本やら教科書やらに載っている歴史。
ゴウダは親父に敗れて死んだ。
トレイナだってそう認識している。
仮に、親父の剣をくらって何とか生きていたとしても、それでもゴウダは死ぬ運命なはず。
なら、ひょっとして親父とゴウダが再戦するのか?
「あ~~~……何ボケっとしてんだゴラぁあ、俺様の美声に拍手せいやぁあああ!!」
「「「「ッッ!!??」」」」
「俺ぁ、今はあったまおかしいからよぉ! でもそれも個性だぁ! そうだ個性だぁ! それが、ロック! うおおおおお、大魔王様万歳! ヒイロも人間も死ねええええ!」
だめだ、完全にイカれちまってやがる。
これは逃げた方がいいか?
「ご、ゴウダ大将軍! 小生はノジャ軍のアマゾネス部隊に所属していたラルウァイフです! その……勇者たちと交戦されたと聞いていましたが……」
「ああん? そうだ! あのクソバカ野郎とやりあって、あの野郎ふざけた力でこの俺様を粉々にふっとばしやがった!」
「こ、粉々に……」
「だが、俺様には『超魔回復』がある! つまり、どんなに体がバラバラになろうとも数秒でも生きてさえいれば……いや、もうそれも許容範囲越えて爆発するんだけど……あ~~~、細かいことは知るかぁぁぁ!」
「ッ!?」
怒声一つで発生する突風で吹き飛ばされそうだ。
それに、『超魔回復』? ああ、それって確か……
『そうだ、童。カクレテールのマチョウと同じ体質……』
そう、カクレテールの大会でマチョウさんと戦ったとき、確かそんな話を聞いた。
――人体の構造……筋力トレーニングなどで肉体に負荷を与えることで、筋肉繊維の損傷や疲労の蓄積などから一時的に低下するが、適切な休息を取ることで、回復の反動で以前以上の筋力や筋肥大に繋がる……それを超回復と呼ぶ。しかし世の中には、特異な体質の者も居て……休息を必要とせずに、体中の細胞を意図的にコントロールして活性化し、超速で肉体や骨を再生・回復させ、更には以前以上の力を得られる者が居る。しかも、それはトレーニングだけではない。骨折をすれば、以前以上に頑丈で屈強な骨に再生し、戦闘でダメージを受ければより肉体を屈強に回復させる
つまり、ゴウダはその能力によって親父の攻撃から何とか生き延びたってことなのか?
しかももっとはち切れんばかりに強くなって?
「つーかぁ、説明してる時間がもったいねーんだよ、バカ野郎! だいたい、俺様の説明や話を聞くんじゃねえ! 聞くなら歌を聞けええええ! 古代より現代に伝える、ロックンロールッ! 感じて、イマジンしろやコラァァァ!」
だが、強くなっても、肉体と精神と魔力のバランスがもうメチャクチャになってる。
回復の許容範囲を超えて、暴走状態みたいになってるんじゃ……
「うおるああああああ、最後に打ち上げるデッケー花火! だがその前にテメエらは俺様がギッタギタのメッタメタにしてやらぁぁぁ!!」
「ま、まずい! みんな、散らばれ!」
ゴウダが叫びながら、もはや目もイッた状態で涎を垂らし、全身に破裂寸前のような血管を浮き上がらせて飛び掛かってきた。
「うごるああああああああああ! ビートルズインパクトオオオオオオオオオ!!!!」
鋭くデカい角で飛び込んできやがった。
速いッ! だが、直線的過ぎる……回避でき―――
「「「「ッッ!!??」」」」
俺らは全員それぞれその場で後ろに飛んで距離を取る。
次の瞬間、飛び込んできたゴウダの角が地面にぶつかり、強烈な爆発音とともに大地にデッカイ大穴を開けやがった。
「うおっ!?」
「っ……」
「な……なんて……」
「なんという破壊力!」
「う~わ~……」
デカくて、しかも底が深すぎる。
あんなの正面からくらっちまったら……
「ガハハハハ、どこへ逃げても無駄よ! どうせ近いうちに何も知らねえ連合のバカ共がここにやってくる! ノコノコきたところで盛大な花火を打ち上げてやる! ガハハ、どうなるか分からねえ……自分でもどうなっちまってんだってぐらいにメチャクチャ体が熱くて弾けそうだ! もう、なんだったらこの街どころか超広範囲に渡る、どでけー爆発もんになるぜ!」
ふざけやがって。
つーか、ノジャ、ハクキ、それに続いてゴウダかよ!
「おいおい、戦うだけじゃなく……爆発って……」
「お兄ちゃん!」
「お兄さん……ここは離れた方がいいんじゃ……」
「ゴウダ様……」
「ねえねえ、爆発するって言ってるし、とりあえず今は逃げた方がいいんじゃない? 地下施設なら爆発に耐えられるだろうし……」
逃げる?
族長がサラっと言ってるけど、それが一番懸命か?
でも、もしこいつをこのまま放置したらどうなる?
こいつの爆発に地下は耐えられるなら問題ないか?
いや、そもそも連合軍は……このシソノータミは……
『……歴史上……ゴウダ軍が撤退したあとに、シソノータミは人類に奪還された……という流れのみ。大爆発によるシソノータミ跡地の消失や、連合軍に被害を与えたという記録はなにもない……』
「ッ!!??」
そのとき、戸惑う俺にトレイナは改めて歴史を語った。
つまり、この事態はトレイナにとっても想定外ってことは……
『おいおい、まさか……歴史が変わっちまったんじゃ……?』
まさか、俺がこの世界で色々とやった所為で?
『いや……そうではないだろう』
『トレイナ?』
『歴史は変わってはいない……歴史の裏で貴様が存在していたのもまた歴史の真実……つまり、これも正しい歴史なのだろう』
『いや、でも、ゴウダは生きているじゃねぇか! いや……まさか……このまま死なず、未来でもパリピみたいに死んだふりして生き延びているんじゃ……』
パリピが生きていたことをトレイナも知らなかった。
ならば、それと同様にゴウダについても……
『いや、こやつはそんな器用ではない……そして何よりも、奴が言っているように奴の肉体……超魔回復の許容範囲を超え、体内の膨大な魔力や回路が滅茶苦茶になり、暴走し、今にも爆発する……こやつはそれによって、死ぬのだろう……』
『い、いや、でも……そうやって爆発が起こるってなら……親父や連合軍……シソノータミは?』
ゴウダが大爆発で死ぬという歴史の流れが正しいものだとしたら、その爆発によって親父たち連合軍は?
『その被害が無かったということは……その爆発すらも……『誰か』が何とかしたのだろう』
「ッ!?」
誰かが何とか?
この場合の誰かって……
「お……俺かよぉぉぉ!!??」
つまり、こうして生きていたゴウダの手によって親父たちに何の損害もなかったということは、俺が歴史の裏でその爆発を食い止めたってことかよ。
「ざ、ざけんなクソ親父! パリピは生きてるし、ゴウダもこんなんだし、ハクキもそのまんまで、ヤミディレもノジャと『ライファント』ってのも……つーか、七勇者って六覇の一人も討ち取ってねーんじゃねぇか!!」
「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「お兄さん?」
まさかの真実。
「しかも、六覇の最後の一撃すらも俺から守ってもらうだなんて……親父は……は……ん?」
『ッ!? 童、とりあえず今は何も考えずに目の前のことに集中しろ!』
「あれ? ま、待てよ……ここで……ここで、俺が何かするのが歴史の流れってことは……」
『童!』
そのとき、俺はふと疑問に思った。
トレイナが「考えるな」とやけに慌てているように……いや、待て。待てよ?
もし、俺がこのまま余計なことをしないで、ゴウダの爆死を放置したらどうなるんだ?
『童! 前を見よ! 童!』
親父は死んだ? いや、死ななかったとしても、連合軍に甚大なダメージを与えられただろう。
そうなれば、戦争はどうなっていた?
人類連合軍と魔王軍の戦争の戦局はどう変わっていた?
魔王軍が圧倒的に有利になっていたんじゃないのか?
いや、待て。そもそもを遡れば……もし、俺がゴウダの暗殺に失敗したエスピを助けなければどうなっていた?
そんなこと考えたくねえけど、エスピは死んでいただろう。それはすなわち、七勇者の一角が崩れることになる。人類にとって大きな戦力を損失し、士気も下がっていただろう。
ノジャの件は?
アオニーたちの件は?
『童! バカなことを考えるな! 集中しろ! 前を見よ!』
「お兄ちゃん、何やってるの!? ぼーっとしてる!」
「お兄さん!?」
俺はこの時代に来た時、あまり余計なことはしないようにしようと心掛けていた。
だからこそ、進んで魔王軍とも戦おうとはしなかった。
でも、結果的にそれは全然無理だった。
なぜなら、俺はエスピを助けた。その結果、魔王軍は七勇者の一人を討ち取って戦力を削るチャンスを失った。
ノジャと戦った。その結果、ゲンカーンや捕虜となった男たちは解放された。あの中には連合軍の兵士たちも多数いた。
アオニーは? キテレツなんたらっていう肩書を持った魔王軍の豪傑。まぎれもなく、魔王軍においての大きな戦力だったはず。でも、奴は俺を守るために死んだ。
もし、俺が何もしなければどうなっていた?
エスピは死んでいた。
ノジャは撤退せずに連合軍や人類にダメージを与えいていた。
アオニーは健在で魔王軍の兵士として人類の脅威になっていた。
そしてこのゴウダは?
『童! 考えるな!』
このゴウダの爆発に対しても俺が何もしていなければ、どうなっていた?
戦争は、魔王軍が圧倒的有利になっていたんじゃないのか?
「俺がこの時代に来たから、俺が余計なことをしたから……俺が……全部俺が!」
『童! 余の声が聞こえているか!? 童!』
魔王軍の圧倒的有利に戦争が進んでいたら……俺が余計なことをしなければ……何がどうなっていた?
「あっ……」
『くっ……この大馬鹿者が……』
そのとき、俺の頭と心はトレイナと出会ったあの日からあった様々な出来事を思い出した。
厳しくて、怖くて、でも面白くて、楽しくて、強くて、頼りになって、尊敬できて、感謝が……出会えて良かったと感謝して……感謝が……感謝しか……
感謝しかねぇのに……俺は今、とんでもない仮説を導き出しちまった。いや、もはやそれは仮説なんてもんじゃねぇ。
俺が余計なことをしなければ……魔王軍は人類に敗れず……トレイナは死ななかったんじゃないのか?
『自惚れるな……大馬鹿者が……』
「……トレイナ……俺……」
『ノジャとの戦い……歴史への影響を気にして、スレイヤを救うべきか躊躇していた貴様に、余は何と言った?』
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