第341話 最後の歌

 もし、地上に魔王軍がいたら急いで地下に戻る。という段取りだったが、その必要は無かった。


「これが……シソノータミ」


 床下から地上へと運ばれて、目の前に広がった光景は確かにエルフたちの森とは違う場所。

 本当に俺たちはワープしたんだと実感したと同時に、俺は目の前に広がる風景に戸惑っていた。


「なんか……廃墟とか遺跡とか以前に……」


 歴史に名を残す魔導都市・シソノータミ……だった場所。

 しかしそこにはもう、家や建物などがあるわけでもなく、ましてや人が住んでいるわけでもない。

 魔王軍の拠点の一つとして使い、しかし今はもぬけの殻と化してテントや薪用の火が散乱していたりと、ただの荒れ地にしか見えなかった。


「あ~……研究所の上にあった街はもうこんなことになってたのか……」

「誰も居ないね……お兄ちゃん……」

「シソノータミ……魔王軍が滅ぼし、そして拠点となったという話以外はボクも知らなかったけど……ここが……」

「小生もここに来るのは初めてだな……」


 魔王軍の陣営の跡地……以外には、瓦礫などが多少あるぐらいで見事に何も無くなっている

 こんなところの地下に、研究所があるなんて言われても、確かに分からねえだろうな。


『………………』


 トレイナもどこか自嘲気味な様子。そういや、トレイナ自らの手でこの街を……そして……


「ここが……」


 ここが、サディスの生まれ故郷があった場所なんだなと一瞬過ったが、俺がそのことを深く考えても仕方ないと思い、すぐに頭から振り払った。


「しかし、どういうことだ? この地にはゴウダ軍がいたはず……誰も居ないではないか?」

「え? ゴウダがいたの……ゴウダ……うぅ~……」


 辺りを見渡しながらラルウァイフが疑問を口にし、そしてゴウダと因縁のあるエスピはムカッとした表情を浮かべている。

 そういや、エスピはゴウダの暗殺に失敗して返り討ちに合って俺と会ったんだよな。



「ちょっと前に……ゴウダ軍と連合軍が交戦……ゴウダは勇者ヒイロに討たれた」


「「「「ッッ!!??」」」」


「その後、ゴウダの戦死に伴ってゴウダ軍の残党は急遽撤退……明日には連合軍がこの地に辿り着いて、シソノータミを奪還。だから、『皆が』移動するには今日しかねぇ」



 辺りを見渡しながら、トレイナから教えてもらっている歴史の流れを俺は皆に教えた。

 当然、突然そんなことを話し出した俺に皆が驚いた。


「バカな、ゴウダさまは六覇の中でも不死身のような存在。あの方が死ぬなど……考えられん! 一体どういうことだ!」

「ほんと!? お兄ちゃん、ゴウダが死んだの!?」

「ちょ、お兄さん! サラリと言っているけど、ゴウダはあのノジャやハクキと同じ、六覇大魔将の一人だ! そんな伝説にも残る大人物が、し、死んだ!?」


 まぁ、当然そういう反応になるよな。


「本当だ。勇者ヒイロの理不尽なスーパーパワー? で、肉片残さず消されちまったみたいだよ」


 俺にとっては教科書の人物ではあるが、今この時代を生きている皆にとって、六覇っていうのはそれほどの存在なんだ。

 さらに……

 

「待て。ちょっと……って、なぜお前にそんなことが分かるのだ?」

「うん。お兄ちゃん、いつ知ったの?」

「お兄さん?」


 ラルウァイフたちからすれば、これも当然の疑問だろう。

 ラルウァイフとはこの数日間、エスピたちに至ってはもっと前から一緒にいたのに、いつ俺はそんな情報を入手したのかと。


「それは……」

「…………」

 

 族長は何も言わずに黙ったまま。

 そして、俺も考える。これまでならば色々と屁理屈言ってごまかそうとするんだが、もうここまできた。

 俺とトレイナにとって、この時代での旅路のゴールだ。

 であるならば、もうここしかない。

 そして、本当のことを全て……


『ん!? 童、ちょっと待て!』

「っ……ん?」

「「「??」」」


 だが、その時だった。

 俺が真相を語ろうとしたら、トレイナがストップをかけた。


『……誰かいるぞ?』

「なにっ!?」


 迂闊だった。

 咄嗟に俺もレーダーを発動して、トレイナの言う通り、俺ら以外の誰かの気配を察知した。

 数は一人。


「人だ!」

「え!?」

「誰だ……魔王軍?!」

「あ、あそこに……」

「ほんとだ、一人……連合軍? ……いや、あれは!」


 少し離れた瓦礫の向こうから、誰かが一人歩いている。

 しかし、それは人間じゃない。



「あ~、マジで死ぬかと思ったぜ……」


「「「「「ッッ!!??」」」」」



 独り言を口にするその人物は……人間じゃない。


『………え……?』


 魔族だ!

 オーガ? いや、違う。巨漢ではあるが、オーガじゃない。

 カブトムシのように巨大な角を額から伸ばし、その肉体も真っ黒い表皮に覆われている。

 そして、その巨漢の胸元に、まるで今にも爆発しそうな赤いマグマのような塊が鼓動している。

 

『あ……ば……かな……ばかな……こ、これは一体……』


 そして、トレイナがこれ以上ないぐらい動揺している。

 知っているのか?

 一体……ん? いや、あれって……



「だが、体内の魔力が暴走して今にも爆発しそうだ……こりゃ……流石の俺様も今度こそ死ぬか……? だが、ただでは死なねえ……最後に盛大な大爆発であのクソ野郎どもを一掃……あ゛?」


 

 謎の魔族と目が合っ……あ……あれ? あの顔……


「え? え……え?」

「あっ……あっ!?」


 そいつを見て、目があった瞬間エスピが腰を抜かして恐怖し、ラルウァイフはただ呆然とし……


「あの顔……ッ、まさか!」

「う、うわ……お兄さん……ど、どういうこと?」


 その顔だけならスレイヤと族長も知っていたようで、つまりはそれほどの存在。

 俺だって知っている。

 教科書でも見たことがある!



「こいつぁ、驚いた。俺様の心のソウルメイトたちも撤退ちまっているこの地で……へッ、様子を見に先に乗り込んだか?」



 だが、俺が驚くのはそんなところじゃねぇ。

 そして、そんな俺らの反応よりも……


『ば……かな……ど、どういうことだ? こ、これは…………これは……なんだこれはッ!!』


 動揺しているトレイナが声を荒げた。

 当たり前だ。

 だって……


「しかし……七勇者のガキんちょと……お前ら……どこの誰だ? 連合軍とエルフらも交じって……しかも、ハンターのクソガキまで……分からねえ……だが、出会ったからには俺様の名を教えてやらねえとなぁ! 知っていても聞けぇ! そして拍手喝采しろ!」


 だって、こんなことが……



「テメエら、俺の一回のクソよりも小さそうなその脳みそで、よく聞けよなゴラぁぁぁぁぁああ!! この俺様のファイナルライブ!」



 これは……こんなの……こんなのって!




「お~れさ~まは~ゴウダ~、大~将~軍~~~!!!!」




 そして俺とトレイナは最後の最後で、世界も知らない、後の世にも語られることのなかった歴史の真実を――――

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