第323話 涙の暴れ
「な、なぜ人間が? 連合軍か!?」
「ちっ、よくも……ぶっ殺し――――」
何の考えもなしに突っ込んだから、俺は現在たった一人で屈強なオーガたち百人に取り囲まれているような状況……だからどうした!
「大魔フリッカーッ!」
「かぺっ」
「ぴゃっ!?」
左を高速で叩き込んで顎を打ち抜き……
「誰が……バカだ! 誰が腰抜けだ! 誰が役立たずだっ! 誰が!」
揺らいだ瞬間に右をテンプルに、ボディに、みぞおちに叩き込んでやる。
「お、お兄ちゃん!? お兄ちゃんスゴイ張り切ってる!?」
「というより……お兄さん……怒ってる? どうしよう……ボクらも……でも、あの様子だと一人で……」
「うわ……」
「ちょ、あいつ一人で行っちゃったわよ!? ど、どうすんの? っていうか……それなのに……」
別に皆で力を合わせてなんて今は必要ない。
レーダーで大体わかる。こいつら全員……屈強なオーガ……だからどうした!
「あ、あの男……」
「な、なんだーぺ!」
待ってろ……一人残らずぶちのめす。
「くそ、こいつ手練れだ!」
「囲め、囲んで潰すんだ!」
「テメエ、オーガを舐めるなぁッ!」
デカい図体で輪になって俺の逃げ道を防ぐオーガ。だけど、その動きは非常に鈍重。
「おらぁ、潰れろ!」
「そうりゃああ!」
拳を、金棒を、ハンマーを、斧を、それぞれ常人の人間に叩き込めば肉体が粉砕すると思われる巨大な武器と威力だろう。
だけど……
「マジカルフットワーク」
もう、遅い。遅すぎる。御前試合でのリヴァルの方が圧倒的に速かったぐらいだ。
つまり……
「な、なん……だと?」
「こいつ、チョコマカと……くそ、逃げやがって!」
「はあ、くそ! くそ、は、速いッ!」
俺に触ることすらできないぐらいにスピードが違う。
いや、そもそも……
「逃げ回る? なら……その拳で俺をぶん殴ってみろよ」
俺はその場で足を止め、オーガたちの中で拳を振り回してた一人に向かって挑発してやった。
そいつの前で仁王立ちして、顔面を晒してやった。
「ッ、こ、このチビが……な、舐めるんじゃねええええ!」
すると、俺の挑発にその鬼は怒り狂ったように叫びながら全身に力を込めた。
そして、右腕を大きく振りかぶって、俺の顔面目掛けて振り下ろす。
「潰れちまい―――――」
「大魔ヘッドバット!!」
俺は勢いよく向かってきたその拳に、正面から頭突きを食らわせてやった。
―――グシャっ!!
間違いなく骨が砕けて肉が潰れた音。
「ふぁっ!? お、お兄ちゃん!?」
「な、な、何をやってるの、お兄さん!」
「ちょ、お、おいおい、あいつ何を!」
「こ、殺されたんじゃ……」
剛腕から繰り出されたパンチ。普段の俺ならこんな受け方はしねぇ。
でも、この時ばかりは「あの時」と比較しちまって、何も脅威に思わなかった。
「ああ……やっぱ違うな」
そう、やっぱり違う。
「っ、ぐ、うぎゃあああああああ、お、おれ、おれの拳があぁああ!!??」
俺の額受けで、殴った拳がぶっ壊れちまって悲鳴を上げるオーガ。
「わ、わわ、お兄ちゃん!?」
「な、なんて受け方を……でも……かっ……カッコいい、さすがボクのお兄さんだ!」
「あらら……すげーな、あのお兄さん」
「うそっ……」
俺自身は大して何ともねえ。
いや、痛いことには変わりねえが、俺の心に何一つ揺らぎがねえ。
「ちげーな……」
「がっ、がは、ひ、ひい!?」
「脳みそが頭の中で爆発して、目から火花飛んじまいそうになる、あのパンチに比べりゃぁ……この貧弱がぁぁぁ!」
「ッ!?」
「大魔ソーラープレキサスブロー!」
「こひゅっ!?」
「つーか、大の男が簡単に悲鳴上げてんじゃねええッ! 大魔ヘッドバット!」
「が、は、鼻が、歯が、あ、あひいいいいい!?」
みぞおちにブローを叩き込んでやると、オーガは悶絶して簡単に膝をついて吐き出しやがった。
だが、そうやって膝が落ちた瞬間、俺は今度は頭突きを顔面に叩き込んでやった。
「な、なんだ……何だこの人間は!?」
「し、信じられねえ……め、メチャクチャツエーぞ!」
「まさか、連合軍の幹部じゃ……」
わずか数秒。それだけでさっきまでゲスな笑みを浮かべていたオーガたちの表情が青ざめちまった。
「な、なんだーべさ……こいつ……」
そして、元々肌の青かった鬼すらも俺に戸惑っている様子。
「ええい、取り囲め! そうすりゃ、こんなチビ――――」
「大魔コークスクリューブローッ!」
「ばぎゅあ!?」
だが、正直今の俺は止まれそうもねぇ。勘弁できそうにもねぇ。
殴れば殴るほど、スッキリするどころかむしろ握った拳が爆発しちまいそうだ。
「俺はな……知ってんだよ。お前らみてーにデッカイ体で、恐ろしい強さで、それなのに誰よりも優しかった……俺たち人間なんかよりもずっと純粋な心を持っていたオーガを!」
体内に流れる俺の血も熱く滾ってやがる。
「そして、俺が弱かったから……俺のために俺の前からいなくなっちまった親友……それをテメエらは……」
その目で、その表情で、その口で、その笑みで、その存在がアカさんと同じオーガというだけで……
――おで、オーガだから、人間、恐がるの無理ねーだ。よくあることだでよ
それだけで……アカさんを穢す。
――おで……人間と友達になりだいけど、怖い。人間もおでを怖がる
「お前らがいるから……」
――おで……いっぺーの人間と……友達になって……遊んだり、ゲームしだり、おでのメシを食ってもらったり……おで、そういうのがしてえ
「お前らみたいな奴らがッ!!」
――おでは分かっちまっただ。オーガが元々そういう種族だったわけじゃね。みんな、「戦争」ってもんで変わっちまったんだって。
「オーガも……魔族も、人間も……どいつもこいつも、いつまでも戦争なんかやってるから!」
――おでの、世界でただ一人の友達だから、アースぐんに迷惑をかけたぐねえ
「クソオオオオオオッッ!」
なんか、もう前が見えねえよ。
「全員ぶっとべ! 大魔ラッシュ! ラッシュ! ラーーーーーッシュッ!!」
最初は怒っていたはずなのに、殴って暴れれば暴れるほど悲しくなってきた。
「ひ、ひぃ、な、なんだあいつは……俺たちは魔王軍最強ハクキ軍の……」
「まるで、暴風だ……ば、バケモノ……」
「なんで、なんでこんな奴がいるんだ! ちょっとエルフの虫どもを捕まえて、久々女たちを犯せる楽な任務なはずだろうが! なん――――ぷぎゃっ!?」
九十人ぐらいオーガたちを殴り倒し続け、残る連中は腰を抜かして怯えたり、呆然としているアオニーとかいうオーガ。
「ああ。運が悪かったな」
そいつらの表情を見て、俺はようやく足と手が止まった。
「くそぉ……戦争なんてさっさと終わらせやがれよ……クソ親父が……」
もはや、八つ当たりみたいなことを思わず呟いちまった。
「……ツエー……おめーら、下がってるべーさ……オラがやるべーさ」
「「「隊長ッ!?」」」
全員戦意が無くなったかと思えば、一人だけ違ったか。
こいつが、隊長のアオニーってやつか。
確かに雰囲気が他のオーガと違うかもしれねーが……
「オラが相手……ん? オメー、何を泣いているべーさ?」
「……え?」
言われて俺は慌てて目元を拭った。ほんとうだ……俺……いつの間に……
「待て、アオニー! そいつは……そいつは……」
するとそのとき、ラルウァイフが慌てたように声を上げ……
「そいつは……アカと繋がりがあるかもしれん! しかも……信じられんが、友と……」
「ッ!?」
「ひょっとしたら、アカは……生き―――――」
「アカは死んだべーさ! 死んだやつのことなんでどうでもいーべさ! あいつは死んだし、そう報告してるべーさ、お嬢!」
生きてるよ……アカさんは……もっとも、この時代のアカさんが俺と出会うのは十数年以上先になるんだけどな……
「おい、オメー、死んだウスノロバカオーガの友を騙って何を企んでいるべーさ?」
「あ゛?」
「そもそも、人間がオーガと友達? ありえねーべさ。小さく脆弱で姑息な人間たちにそんな資格はねーべさ」
「……なんだと?」
ああ、ありがたい……一度くしゃくしゃになって、複雑な心境になって、萎え始めた俺の怒りや闘志に再び火が付いた。
「オメーはちょっと強いみたいだが、その程度じゃ信用できねーべさ。まっ、オラを倒すぐらいなら、少しは信じてやってもいいべーさ」
なんかもう、これでもかという厭味ったらしい笑みを浮かべやがって。
なら、秒殺してやるよ。
『オーガの戦士、アオニーよ……どのような結末になろうと……余が見届けてやろう』
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