第322話 瞬間沸騰
「デタラメを……言う……な……」
どうしても俺の言葉を信じられないらしい、ラルウァイフ。
だが、それならばと俺は……
「デタラメじゃねーよ! 見てみろ、これを!」
「?」
そう言って俺は、服の内側にぶら下げているアレを取り出した。
それは「あの日」、アカさんと初めて出会った夜にもらったもの。
家の中に飾ってあった、手作りのアクセサリーやら彫刻。全部アカさんの手作りだった。
好きなのをいくらでも俺にくれると言い、それならとあの日貰った石造りの首飾り。もらったのは俺なのに、もらったことをアカさんはスゲー喜んでくれた。
「この石の首飾り! これは、俺が親友からもらったんだ!」
俺はその証をラルウァイフや皆に見せつけてやった……って、オーガがこんな小さい首飾り作ったなんて信じられねえか。
「お兄ちゃんそうなの~?」
「オーガが……それを? いや、お兄さんが嘘をつくとは思えないけど」
俺だって最初はびっくりしたもんな。
アカさんはあんなにぶっとい腕で精巧な女神像作ったりするぐらい手先が器用で……
「そ、それは!?」
「うおっ!?」
って、あれ? なんかラルウァイフがメチャクチャワナワナ震えて、目を見開いている?
なんで?
「それは……ダークエルフたちに伝わる……お守りのようなもの……しかも、その形は……我が里……独自のエンブレムが施されている……」
「ダークエルフ? あぁ、そういや……」
たしか、別れ際のアカさんの置手紙で書いてあったっけな。
両親と一緒にダークエルフの里に住んで、用心棒みたいなことをしてたって。
「あ~、そういや……幼いころは両親と一緒にダークエルフの里に住んでたって言ってたな……」
「ッッ!!??」
その時だった。これまでずっと俺を睨んでいたラルウァイフが、まるで迷子の子供が泣いているみたいに弱々しい表情を突然見せてきた。
「まさか……まさか……」
俺も同時にハッとした。それはトレイナも同じだった。
『……童。まさか、こやつ……』
『……ああ……まさか……まさか!』
この表情を見れば俺でも分かる。こいつは……
「おい、貴様……そのオーガの名前は……何という? いや、貴様はそのオーガと……いつ会ったのだ?」
まるですがるような瞳で問いかけてきた。
俺は思わず戸惑い、言葉に詰まってしまった。
すると、その時だった。
「……ッ、人払いの結界が見つかって破壊された! 奴らが来る!」
突如族長が声を上げる。
そして、同時にガラスのようなものが粉々に砕け散った。
それはこの集落を覆っていた魔法結界。
しかし、それが破壊されたということは……
「えっ、も、もうこの場所がバレたのか!? 早い……」
「た、戦えない女子供や年寄りは家の中に!」
「くそ、くそっ! 急いで武器を!」
「あなた、やるしかないわよ!」
「はぁ~、もう……そうだね……いつも通り、全部守らないと……」
こちらから攻めるとか、逃げるとか、もうそんなこと言っている場合じゃない。
もう目の前に来た以上は戦うしかない。
「ちっ、話は後だ。エスピ、スレイヤ、来るぞ……油断すんなよな」
「私とお兄ちゃんだけでいいよ? スレイヤくんは後ろにいたらいいよ~」
「油断なんてしないけど、ボクとお兄さんでやろうよ。エスピは足手まといだから下がってたら?」
やる気満々で鼻息荒い二人のチビッ子と一緒に俺たちも身構えた。そして同時にレーダーを発動し……
「来たな! 数……百人ぴったし! ……上だっ!」
「「「「ッッ!!??」」」」
俺のレーダーが感知。集落の周囲を囲む森の向こうから、一個の塊となって忍び寄ってくる鬼たち……の中で、一人大きな武器をこっちに向けて投げた奴が居る。
「うわ、何か降ってきた!」
「ひい、よ、よけ―――」
刺々しい突起が付いた巨大な鉄の棒。
絵本のピーチボーイでもオーガたちはあの武器を持っていた……金棒だ!
「ふわふわキャッチ!」
しかし、その武器はエスピが能力によって空中で手も触れずに受け止めて、
「造鉄魔法・シャイニングダークネスオーガバスターブレード!」
その宙に浮いた状態の金棒を、スレイヤが巨大な剣で叩き落した。
「「「「お、おおおおお~~~」」」」
その一連の動きにエルフたちから感嘆の声が上がる。
だが、同時に……
「なんだ~べさ? オラの金棒が不発? どういうことだ~べさ」
ズシンと大きな足音と共に集落の入り口に足を踏み入れる巨大な体躯の者たち。
「さぁ、わかんねーっすね、隊長。まっ、そんなことよりヤッちまいましょうよ」
「おい、エルフの処女には手を出すなよ? 高値で売れるんだからよ」
「わーってるよ。あと、男とジジイババアは殺して構わねえ。ただし、容姿が良さそうな男はそれはそれで高値で売れるから、それも注意だとよ」
「ったく、人間どもも注文が細かいぜ……なんで、俺ら最強のオーガが、あんなハダカザルたちの依頼を受けなきゃいけねーんだよ」
「ぼやくな。大将軍の命令だ。それに、非処女は好きにしていいって言われてるんだから、ここは残り物で楽しもうぜ」
嗚呼……デカくて……筋肉粒々で……だけど……全然違う……
「き、きた……鬼たちだ……」
「ッ、つ、強そうだ……」
「火竜達よりも強力な……くっ……」
「来ちゃったか……」
「あなた……」
確かに姿かたちはオーガだ。
いや、あれこそが皆が恐怖を抱くオーガそのものなのかもしれない。
だけど……
「目が……表情が……全然違う」
俺の知っている、俺の親友とは……アカさんとは全然違う。
あの誰よりも優しかったあの表情とは違う……なんて歪んだ目だ……見てるだけで反吐が出る。
とはいえ、それでも魔王軍。本来ならば極力かかわったり、何か口出したり、手を出したりしたくないところだが……
『トレイナ……』
『任せる。貴様の好きにするがよい』
ここは戦うしか……
「ッ……アオニーッ!」
「ん? ……んあ? そこにいるのは……お嬢じゃね~べさ~! 何してるんだ~べさ?」
「くっ……面目ない……」
「捕まっただっぺか!」
「あ、ああ……それより、アオニー! 少し話がある! お前の幼馴染の――――」
そのとき、連中の真ん中にいる青色の鬼に向かってラルウァイフが叫び、向こうもそれに気づき目を丸くした。
「うお、ダークエルフ! 隊長、あのエロい格好の……あれはの魔王軍すか? 何か捕まってるっすが……」
「ん? あ、ああ……あれは……アマゾネス部隊所属のラルウァイフお嬢様だ~べさ」
「ラルウァイフ? ……ああ、あの漆黒の! そう、あいつ……あのクソ腰抜けバカが住んでた集落の族長の娘っすね!」
ラルウァイフの存在に、他のオーガたちも気づいた様子だが、何か別のことにも気づいたようで、その醜悪な表情で更に品のない笑みを浮かべて、大笑いしている。
「ああ、俺もそれ知ってるぜ! そうそう、あのクソかす……役立たずのアカが出身の集落だろ?」
「…………え?」
……え? 今……なん……て……
「アカ? ああ、あのオーガ失格のどんくさいノリの悪いバカっすね!」
「ああ、オーガ史上最低の腰抜けで、空気読めない冷める奴だった奴!」
「いやいや、あいつは役に立ったぜ? なんせ、あいつは降伏した人間たちは必ず生かしてたからよ~、あいつが捕らえた捕虜の女たちを犯したり、いたぶって遊んだりして、いい暇つぶしになったぜ。まっ、その後あいつ何故か泣いてんの。げははははは!」
「そういや、あいつ行方不明だっけ? まっ、あんな馬鹿いなくても何も困らねえけどな。手柄ゼロのバカだしよ」
そして……こいつら……何を言ってる?
「っ……」
なんで、ラルウァイフが怒ってる? いや、こいつはアカさんの出身の……つまり、アカさんと知り合いで? んで、あいつらもアカさんのことは知っていて?
「や~めるべーさ! あいつは死んだーべさ! 死んだ奴の話題は二度と出すなーべさ! そう、死んだーべさ!」
「ええ~? まぁ、どうでもいいっすけど、いいじゃないすかあのバカの話題を出そうが出すまいが」
そして、アカさんは死んだ……ことになってる? つまり、アカさんはもう魔王軍から……いや、もうそうじゃなくて……そうじゃなくて!
「実際、あのカスにはイライラさせられたから、どうせならこの手で殺してやっても良かったぐらいすからね……まっ、確かに死んだバカは置いておいて、今はエルフたち――――」
そう、とりあえず色々と整理すると……いや、しなくていいや。
分かっているのはこいつら……
「さぁ、来てやったぜ、森の虫共! 俺たちは――――――」
「コルアアアアアアアアアアアア!!」
「は―――――?」
「大魔スマッシュッ!!」
「ッ!?」
ゲスが一人、何かを叫ぼうとしたが、俺はもうそれをすべて聞き終わる前に、気づけば走り出して、そいつの顎をスマッシュで砕いてぶっ飛ばしてやった。
「お、お兄ちゃん!?」
「お兄さん!?」
「あら……?」
「なっ、あ、あいつ……」
「な、に? 人間? なんだっぺ、こいつ!」
左手に残る骨を砕いた感触。
思えば、この時代に来てからはあまり手を出さないように極力パンチとかはしてなかった。
ノジャのときはあの巨大な図体相手には、どんなにパンチしても手ごたえはなかったしな。
でも、今は違う。
こいつら……
「魔王軍は……敵でもなけりゃ、悪でもねぇ……だから、俺がたとえ人間でも、積極的に戦いにいくつもりはなかった……でもな、勝手でワリーが今回ばかりは違う」
俺の親友を……こいつらあんな腐った目で、口で、ヘラヘラしながら語りやがって……
「テメエら、かかってきやがれ! 百人全員まとめて俺が相手してやらぁぁ!」
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