第316話 痛さ
深い森。道なき道を通らねばならない面倒な道順。
恐らく普通に山越えしたりする旅人たちが辿り着くことは無いようなルートだろう。
しかし、その本来なら辿り着かないようなルートを経た先には……
「おお……」
森の妖精たちの小さな集落がそこにあった。
「エルフの村……おお、あっちにもこっちにもエルフ……小さい子供もいる……」
「私、初めて見た」
「ボクもだ。こんなところにあったなんて……」
まさにおとぎ話の世界に迷い込んだような感覚だった。
若くて美しい容姿のエルフたちが、森の中で自然と共生しながら慎ましく生活している。
「じゃ、どーぞ。俺の家に招待しますんで」
「あ、ああ……でも、今更だけど、本当にいいのか?」
ただ、あまり俺たちは歓迎されてはいないというか、警戒されているようで、不安そうなエルフたちがチラチラとこっちを伺っている。
族長以外の他の武装したエルフたちも、いつでも動けるように身構えているように感じる。
「族長……大丈夫ですか?」
「ああ、いいから。後は俺に任せてよ」
「は、はぁ……ただ、何かあればすぐに呼んでくださいね?」
「はいはい」
とりあえず、族長の家に招待される俺ら。
すると族長は集落の真ん中を歩きながら、俺らに申し訳なさそうに苦笑した。
「いや、ほんとごめんなさい……」
「いやいや、別にあんたが謝ることじゃ……」
「最近は特に……ここ以外にもいくつかエルフの集落はあるんだけど、襲撃されたり、攫われたりとかそういうこともあって、みんな警戒してんだよね……」
族長の話を聞いていると、むしろ住民の反応は当たり前だし、っていうか族長の方が変わっている気もしなくもない。
「ボクメイツファミリーかぁ……」
「ああ。人間たちの間でも有名なんでしょ? 裏社会で暗躍し、人身売買にも手を染めて……魔王軍のハクキとも繋がりあるとか」
ブロと出会ったカンティーダンで、トウロウたちと戦ったカジノを思い出す。
ああいう胸糞悪いことは、全てこの時代から繋がっていたんだよな……
「つい最近も魔王軍のダークエルフと交戦してね……そいつは他の仲間たちを逃がすために一人で俺ら相手に大暴れして……とりあえず、取り押さえて牢屋に入れてるけど、それもあってみんなピリピリしてんだよ」
「……魔王軍……」
そういえば、さっきも族長と他のエルフたちの口論でもその話が出てたな。色々と驚くことがあってその話は流してしまったけど……魔王軍のダークエルフ……
『トレイナ……』
『うむ……』
『ノジャの部下のあいつだったりしてな』
『……その可能性が高い……』
つい先日、ノジャたちとの小競り合いの中にいたダークエルフの女。
ひょっとしたらあの女かもしれないと思っている中で、一つの木造の民家に辿り着いた。
「あ~……俺、奥さんと二人暮らしで……ちょっと性格に難ありなんだけど、何とか説得するんでちょっと待っててね」
「あ、ああ……」
そして、色々ありすぎてこの話題も流したけど、この族長さん既婚者なんだな。
俺と同じ歳ぐらいの容姿だけど、実際は何歳なんだろ?
「前族長の娘で……人との付き合いが苦手で、性格もいつもツンツンしてて、クールでぶっきらぼうでメンドクサクて……そのうえプライドが高くて……でも、根は悪いやつじゃないんだけど……」
「前族長の……あぁ……それであんたが今の族長を……」
「あ~……ただいま、イーテェ……今、帰ったから」
奥さんの名前は「イーテェ」って言うのか。
ツンツンでプライドが高い……フィアンセイ……みたいな人なのかな?
扉の前で帰宅を告げてゆっくり扉を開ける族長。
すると、そこには……
「か、帰ってきたわね! こ、コホン……にゃ……にゃ~! あなた、帰ってくるのおそいにゃー! あ、あ、あんまりにも遅いから、拗ね拗ねプンプン猫さんになっちゃったにゃー!」
「……………」
―――――――――――――ッッ!!!??
「……え?」
「わ?」
「は?」
肩口ぐらいまでの長さの桃色の髪をした若い女。
しかしその桃色の髪よりも色濃く真っ赤にした顔で、頭の上に何故か猫耳、毛皮でできたようなブラとパンツの姿……パンツの尻に猫の尻尾……鈴の付いたチョーカー……さらには……猫の手の形をした手袋?
「きょ、きょきょ、今日は……今日はいっぱいいっぱいかわいがってほしいにゃん! ゴロゴロ甘えちゃうんだにゃん! いっぱい、好き好きチュッチュしちゃうんだから、し、してくれないと、ひっかいちゃうにゃん♡」
とても可愛らしい容姿をして、別にサディスのような巨乳のナイスバディというわけでもなく標準的な起伏のある体ではあるが、それでもエルフならではの美しい容姿に穢れのない体(?)で頑張ってセクシーな格好をしている。
「ぷ、プンプンしてたら体が火照っちゃったのにゃ……ごごごご、御主人様のこと考えてムズムズしちゃうの……ギュッとして、ナデナデして……そしたら、いけない猫の私は、な、なんでも、言うこときいちゃう、ちょ、ちょっとエッチで良い子な猫さんになっちゃうにゃ~ん……」
しかし、今はそのセクシーさに目を奪われるというより……ナンダコレ? という思いの方が強かった。
「ご、ごはんと一緒に……朝まで、わ、私も食べてぇ……にゃん♡ う、う~……」
そして、顔を真っ赤にしながら猫のような手の形……にゃんにゃんポーズ? 目をつぶったまま止まっている女は、やがてその沈黙に耐え切れずに目を開けた。
「ちょ、な、何か言いなさいよ! せ、せっかくこの私が無事に帰ってきた夫を労ってあげているのよ? べ、別に私は本当に可愛がって欲しいとかそういうんじゃなくて、今日はたまたま排卵日だったから丁度いいと思っただけなんだから、勘違いしないで……よ……ね……え?」
そして、何か照れ隠しのような言葉を一気にまくし立てた女は、族長の後ろにいる俺たちに気づき、再び固まった。
「……うわ……さむ……いたい……」
そして、ドン引きした顔の族長が吐露した。
うん。なんだ? なんだこの痛い女は。
「……出直します……はぁ~……」
そして、開けた扉を族長は一度閉じる。そして頭を抱えて蹲り……
「な、な、な、んなあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
家の中から女の発狂する声が聞こえてきた。
「族長、い、今のは!」
「お嬢さ……奥様の声ですね!」
「おのれ、人間ども! さっそく何をやらかした!」
流石にその声は集落に響き渡り、早速他のエルフたちも慌てて集まりだしている。
「お願い……何もないから……我が家の問題なんでそっとしておいて……っていうか、これがバレたら俺の嫁が恥ずか死にます……」
ただ、何かをやらかしたのは俺らじゃないわけで……とりあえず、家の中に入れてもらうのに少し時間がかかった。
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