第268話 幕間(超能力少女)
私が一番最初に覚えているのは、大人の人たちが周りにいっぱいいる世界。
――この娘か? 例の異常な娘というのは
――はい。魔法の詠唱も無く手をかざすだけであらゆるものを浮遊させたり、破壊したり、感情の揺れ動きで更に激しくなります
――実の両親は戦争で死んだようで、その後は奴隷商人の手に渡りましたが、手に負えなくなったようで……しかし、これは思わぬ拾い物でしたな
――こいつをうまく飼いならせれば、戦場で大きな力を発揮する。弱小国と我らを見下していた他国にも力を誇示できる
――よし、色々と試してこやつの潜在能力を測れ。その上で、反抗できぬように教育しろ
モノを浮かせたり、捻じ曲げたり、空に浮いたり、そういうのできたらゴハンを食べさせてくれた。
できないと叩かれた。
私のことをいっぱい叩く人を一度だけ壊しちゃったら、真っ暗な所に閉じ込められて、何も食べ物をくれなかった。
もう間違えない。
いい子にします。
だからゴハンください。
叩かないで。
――おお、我が国の宝、エスピよ。お前は今日より七勇者の称号が与えられる。先日、一人で幼女闘将ノジャの軍に打撃を与えた功績を認められたのだ。
――王様。私は……おりこうなんですか?
――うむ。お前は良い子じゃ。ワシはお前を娘のように思っている。よいか? お前はワシらの言うことを聞いていなさい。ほかの国の者たちの話など一切耳を貸すな。
――はい、わかりました
――他国の情報は常に報告しなさい。子供のお前に油断して、奴らもペラペラと情報を話すかもしれん。そして……
――?
――もし他の七勇者が戦闘で重傷を負い、その際に周りに誰もいなければ……殺すのだ
――仲間なのにですか?
――仲間ではなく同盟。戦争が終われば次の敵になるのだ。よいか? 我らの宝、エスピよ。この国の未来のため、お前はワシらの言うことだけを聞いていればいいのだ
言うこと何でも聞くよ。
言われたことはちゃんとやるよ。
――お~い、お前さんがエスピかい! よろしくな! 俺、ヒイロってんだ!
――ちょっと……いくら何でもこんな子供を戦争に……何かあったら私たちに頼りなさいよ? 私たちは仲間なんだから
いずれ敵になるし、殺すかもしれない相手だから、仲良くならない。
――ねえ、エスピ……この子ね、サディスっていうの。お父さんとお母さんが死んじゃって……ねぇ、あなたとも歳が近いし、お友達になってくれない? って、あ、ちょ、エスピ、無視しないでよ~
他の七勇者は仲間じゃない。
それに、ヒイロたちは、私よりも小さい女の子を可愛がってるし……私には関係ないもん……
――エスピ、お前に重要な任務を与える。魔王軍、六覇大魔将の一人……魔巨神ゴウダを暗殺せよ。これは我らの国家の今後の命運を左右させる。失敗は許されん。何があっても成功させよ。何があってもだ
私の仲間は……同じ故郷の人たちだけ……
――よいのですか? エスピがもしここで死んだら……
――分かっておる。しかし、帝国やジャポーネの七勇者や戦士たちと比べて我らの貢献度のなんと低いことか……
――それは……
――リスクを冒してでも、デカい功績が必要なのだ。でなければ、また戦力の代わりに金をもっと払えなどと言われるのだ! だいたい、エスピがどれだけ暴れても、帝国のヒイロたちの武功の前に霞んでしまう! このままではダメだ! 世界が認めるほどの功績がどうしても必要なのだ!
でも、私が役に立たなくなったら私はいらなくなる。
ちゃんとやらないと……
「ッ!? い、……う……」
夢だった。目を開けたら夜。私は寝てたのかな?
体痛い。
でも、私、体を包帯でグルグル。お薬の匂いもする。
誰かがやってくれたの?
「ぐっ、たまねぎを切って……くそ、涙が! で、じゃがいもとニンジン……え? これじゃぁ、大きすぎる? で、たまねぎは切りすぎ? しゃーねーだろ、野菜を切るの初めてなんだしよ!」
うるさいなぁ……あ……誰かがお料理してる?
あの人……誰か分からないけど、私を助けてくれた人だ……
私を助けてくれた。今、お料理してる。誰と喋ってるの?
「火をつける……って、俺もビット級なら火を使えるから、その辺の枝を拾って燃やせば……なに? 薪の選び方? 太さ? ええ? そんなもんまでこだわるのか?」
やっぱり一人で話してる。
「えっと……この葉が着火剤……乾いた小枝を少々……で、ビットファイヤ……おお、燃える……これが焚き付け? ふ~ん……で、小枝を少し追加して……火がもっと大きくなったところで、薪を少しずつ入れて……」
うん、変な人だ……私やったことないけど、同じ国の軍の人とか外でキャンプするとき、もっとパッパッパってやってた。
あの人、まるで初めてを誰かに教えてもらいながらやってるみたい……
「ガラムマサラ……カルダモン、コリアンダー? これか……えっと、これと……ターメリック、クミン……チリパウダー……もう、訳が分からん……これ、大丈夫なのか? なんか、変な……」
なんだかモタモタしてるし……へたっぴ……
「で、ここに鍋を置いて……切ったタマネギを入れて、……アメイロになるまで炒める……アメイロって何色だ? おわ、なんかジュージューいってるんだけど! で、ここにガーリックとか入れて……カリーパウダーを入れて、一体になるように混ぜて炒める……んで、じゃがいもとかを入れて……また焦げないぐらいに炒めて、って、混ぜっぱなしだな……で、水を入れて……沸騰させる……で、隠し味のこれは? まだ? タイミング? って、おいおいなんだ~、この色は……なんか……黄色というか……」
見てて……モゾモゾ? イライラ? なんかダメな人。
さっきは、あんなにスゴイ速くて、魔王軍の敵を振り回していたのに、大人の人たちが皆できそうなことをうまくできない。
やっぱり変な人だ。
でも……とってもイイ匂いがする……
「とりあえず放置と……お? 目ぇ覚めたか?」
「ふぐっ!?」
あっ、目を開けてたからあの人にバレた……
「怪我は大丈夫か?」
「……痛い……」
「そうか……ったく、容赦ねえな……。でも、とりあえず無事そうで良かった」
この人、私を助けてくれたのは何で?
何で私を心配そうにしているの?
何か悪いことを考えているの?
「……あっ……」
お腹が「く~」ってなった……恥ずかしい……
「おっ、腹減ってるか?」
「…………」
「待ってろ、もうちょいで食わせてやるからよ。美味いかは保証しねーけどさ……」
ゴハンを食べさせてくれるの?
じゃあ、私にゴハンを食べさせて、何かをさせるのかな?
この人、連合の人じゃないし、ベトレイアルの人じゃないし、何をさせるつもりなのかな?
「私は……何をすればいいの?」
「は?」
「ゴハン食べさせてもらうなら……私は何をするの?」
「…………いっぱい……食べて、さっさと元気になってくれりゃ……」
「?」
この人、何を言ってるのか分からない。
私は弱くて役に立たないいらない子なのに……
「あ~……まぁ、とにかくだ……さっきお前……簡単に死のうと思ってたみたいだけど……もうやめろよな……」
「……なんで?」
「な、なんでっ……て……あ~、もうガキがそういうことを聞くなよな……ったく、ほんとこの時代は、この世界は、ほんっと……」
なんで? 私は何も変なこと聞いてないよ。変なこと言ってるのはこの人なのに。
なんで? 私が変なこと言ったみたいに……
「その……俺もさ、うまくは言えねーけどさ……」
「ッ!?」
なんで? さっき逃げてるときもそうだった。どうしてこの人は、こんなに優しく私の頭を撫でてくれるの?
「まだ、ちっちゃいから何も分からねぇかもしれないけど……生きて、もっと色んなことを知ってみろ。どこへでも行けるようにデッカく、そして強くなって……命令じゃなく、戦争でもなく、自分の意思で世界へ出て、世界を見てみろよ。死ぬのがもったいねぇ……自分はなんて小さな世界に居たんだって思えることが、きっとある……そういう出会いもあるし……友達だってできるさ」
「……?」
「そうすりゃ。自分がダメだから死のうなんて思わねぇ……ダメな自分を変えるためにも、もっと生きて頑張ろうって思えるからよ……」
なんで? 私は今、何を言われてるのか分からないよ。
でっかい? つよい? せかい? もったいない? 出会い?
「私……ともだちわからない」
「今はそうかもしれねえ。でもな、ちょっと自分の知らない世界へ出るだけで……年齢も出身も育ってきた環境も……それどころか種族すら違うのに、気の合ったダチが意外と簡単に見つかることもある。ただしそれも……自分が前向きに生きてねーと、気付かずに通り過ぎちまうかもしれねーけどな」
「まえむいてるのに、気付かないの?」
「あ~、くそ、そういう意味じゃ……ダメだな、うまく言えねえ。ブーメランだし……つか、こんな子供とはいえ七勇者に俺は何を……とにかく! もっと元気出せ! つれーだろうけど! 半端な同情みてーに喚いてワリーけど、とにかくガキがそんな目でいないでくれよ!」
わかんない。そして、怒られた。でも不思議。
――簡単に死ぬとか言ってんじゃねえ! 生きてりゃもっとヘラヘラ顔してテメエも笑えて、なんだったらイケメンの彼氏だってできるんだからよ!
そういえば、森の中でも怒られた……
――俺にお前を見捨てる理由がねーから、いいんだよ!
おこられてるのに、全然こわくない……いやじゃない……
――でもな、安心しろ。俺は、いずれその勇者を超える偉業を成し遂げる男。つまりだ、勇者ができねーことを俺はあえてやる! だから、テメエを絶対に助けるんだよ! エスピ!
助けるって言ってくれたんだ……
「っと、わり、ちょっと待ってろ! このタイミングで例の隠し味を入れて……これでコクが出るのか……おお……トロトロで……色は気になるけど……一口味見を……ッ!!??」
あの人は頭をガシガシかきながら、またお料理にいったけど……う~ん……言われたの、全然分からない……
「っ、辛っ……いけど……うおっ、なんだコレ! うおおおおお、なんか、なんか身体が熱くエネルギーが……う、うまい! なんだコレ! おい、エスピ! お前もちょっと一口味見してみろ!」
「?」
「ほら、な?」
そう言って、スプーンに何かを乗せて……黄色いトロトロのスープ?
「なにこれ……なんか、ばっちい――—」
「それは俺も思ったけど口にするな、こっちを口にしろ! ほれ!」
「んむっ!?」
なんか、汚いものなのかなと思っていやだったけど、この人は私の口にスプーンをそのまま入れ……ッ!?
「か、かりゃい!?」
「え、あ……子供の舌には辛すぎたか?」
「ひー、ふー、ふー……」
「わ、ワリーワリー! 今すぐ水を……大丈夫か?」
「……ん……うん……」
辛い! 頭がボンってなって、ボーボー燃えるぐらいツーンとして……だけど……初めて食べた……おいしい……
「おいしい……」
「……おっ?」
「すっごくおいしい……」
一口だけなのに、すっごいおいしかった。
こんなの食べたことない……辛いけど……おいしくて……熱くて……
「そっか……くははは、いや~、良かった。俺もやるもんだぜ! よーし、いっぱい食わせてやらぁ!」
ちょっとしょっぱい? あれ? しょっぱく……しょっぱく……
「ん? お、おい、エスピ……どうした? やっぱ辛すぎたか? お前、ボロボロ泣いて……」
「………え?」
あれ?
「……ひっぐ、うぅ、ひっぐ……っぐ……」
なんで? 怒られたら泣いちゃうけど……何で優しくしてもらって、おいしいものを食べさせてもらって……私、泣いちゃうの?
「なぁ? だ、大丈夫か? なあ?」
「ッ!?」
なんで? この人はまた私の頭を撫でて………
「う、うあ……うあああああああん、ああああん、ああああああああああん!」
「うおっと! お、おい、どうした、急に飛びついてきて……って……エスピ?」
「ええええん、あ、うああああん、ああああん!」
なんで? 私、この人にギュッてしてもらいたくて……もっと撫でてほしくて……分からないけど……あったかい……
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