第212話 また言われた

「はあああ!」


 欠損した部位も、毒で蝕まれた肉体も、マチョウさんは能力によって回復し、そして次はそれを上回る肉体と抗体を持った体となる。


「ひははは、超魔回復かい。パナイレアな体だねえ。ゴウダ以外では初めて見た」

「魔極真スピアタックルッ!」

「だが、肉体の力だけ特化して、技術が追いつかねえな!」


 マチョウさんの強烈なダッシュから繰り出されるタックルをヒラリと回避し、触れさせもしないパリピ。

 あれだけのパワーを前にして、俺のようにゾーンに入ってるわけでもないのに、軽々と回避してやがる。


「なら、技術を披露しましょう」

「ん?」

「メイド殺法・テーブルマナーッ!」


 そのとき、サディスが動いた。

 マチョウさんの攻撃を回避していくパリピを狙い、先端の尖ったフォーク、磨かれたナイフ、チャクラムのような皿を一斉にパリピに投げた。


「はっ、しゃらくせえ!」


 そんなものをアッサリと素手と鋭い爪で全て叩き落すパリピ。

 だが、その瞬間に、サディスは一気にパリピと距離を詰める。


「二刀デスサイズ……エクスキューショナーフラッシュ!!」

「おほっ!? お、おお! 速いじゃん……」


 重たい二つの鎌が見えなくなるほどの、高速ラッシュ。

 相手の四肢も首も全てを刻まんとするサディス。

 躊躇なく相手を殺傷しようとするほど、サディスも本気だった。


「これすらも回避しますか……ですが!」

「ん?」

「土属呪文―――」

「ッ!?」

「メガサンドロック!」

 

 両手に武器を持った状態でサディスが魔法を放ち、次の瞬間パリピの足元から砂が現れ、それが一気にパリピに巻き付いて拘束した。


「なに!? まさか……足から魔法を!?」


 これにはパリピも驚いた様子。

 つか、俺も初めて見た。

 普通は魔力を込めて詠唱して掌から魔法を放ったり、地面に触れて発動したりするのに、それを足から?

 

「土属・雷属・合成呪文! メガランドマイン!」

「あっ、これ痛いやつ! うひっ!?」


 さらにサディスの攻撃は止まらねえ。

 パリピにまとわりついた砂の拘束に雷を通して全身に浴びせやがった。


「かはっ……しまっ……オレが……くそ、ちくしょ……ちくしょーー!」


 これは……いけるか! パリピもダメージを受けている!



「終わりです! その首、もらいます! 我が必殺の一撃……オリジナル奥義!」



 出る! サディスの必殺技。小さいころ、一度だけ見せてもらったことがある。

 前傾姿勢になって鎌を後ろに引き、そのまま飛び込むようにして振りぬく……


『まずい! パリピは演技をしている! これはブラフだ!』

「えっ?」

『メイドを止めろ、童!』


 その瞬間、慌てたようにトレイナが叫び……



「メイドストラッシュッ!!」


「サディス、罠だ! 飛び込むなッ!」


「えっ?」



 だが……


「ぢくしょー! ぢくしょー! ……なんちゃって♡」

「ッ!?」

「あらよっと!」


 次の瞬間鮮血が飛び散った。

 それは、サディスの鎌がパリピの右肩を掠めて飛び散った血と……


「サディスッ!?」


 逆にサディスの左肩も、パリピの指から「飛ばされた」五本の爪が突き刺さっていた。



「へぇ、咄嗟に踏み込みが甘くなって助かったか。坊ちゃまに感謝するんだな。あと一歩踏み込んでいたら……オレの爪が君の心臓を穿っていた」


「っ、こ、姑息な真似を……」



 あの爪、投げナイフみたいに飛ばすこともできたのか?

 まずい、毒が!



「にしても、君はまあまあ強いじゃない。君は今の力でも十分、当時の戦争でもそれなりに名を馳せることができただろうねぇ。さすがはヒイロとマアムに育てられただけはあるし、帝国の要注意人物の一人として報告されていただけはある」


「ぐっ、っ……貴様……」


「でも、オレの誘いに気づかず、チャンスと勘違いして馬鹿みたいに突っ込んで反撃をアッサリ食らうあたり、君も実戦経験に乏しいねぇ。まっ、戦争や実戦より、かわいい坊ちゃまとイチャイチャする道を選んだ時点で、君の武は終わっているんだけどねぇ。そして、愛する坊ちゃまにも逃げられたという無様ぶり」


 

 毒を受けてサディスが片膝を……そんな!


「だ、黙りなさい! ……解毒呪文・メガデトックス!」


 毒で蝕まれていく体に鞭を打ちながらも、自身を解毒しながら懸命に立ち上がるサディス。

 しかしその体はすぐに回復するわけではない。

 

「はあああああああああ!」


 まるで悪夢だ。

 俺はサディスが本気で戦っているところをこれまで見たことが無かった。

 だから、サディスの力の底を見たことなかった。


「はぁぁぁ! 帝国流二刀鎌術――――」


 そのサディスが、本気の形相で武器を振り回している。


「おおお! 魔極真ナックルアロー!」


 そんなサディスと同じように雄叫び上げて、マチョウさんが膨張した筋肉を振り回して本気で殴り掛かっている。

 サディスと違ってマチョウさんとは大会で力の限りぶつかり合ったからこそ、マチョウさんの本気のパンチや威力はよくわかっている。


「さっきはよくもやってくれたわね! 火遁・火炎苦無百連撃!」


 炎を纏った無数のクナイを投げつけるシノブ。

 地上でもあまり知られていない、数多の技で相手を翻弄し、隙あらばいつでも相手の喉を背後から搔っ切るよう狙っている。

 そんな三人が……



「ひははははは、しゃらくせぇな、ガキどもが!」


「「「ッ!?」」」


「引き裂かれちまいな……狂凶葬爪曲!」



 繰り出される悪魔の爪で引き裂き、叩き落し、そして皆が舞う。

 たった一人の魔族の前に這い蹲らされていた。


「ひは♪ だが、骨はあったな。まぁ、雑魚にしてはだが……」

 

 強い。


「さ~て……オレも少々はしゃいだが、もうそろそろ飽きてきたかな?」


 六覇を侮ってなんかいなかったが、これほどか?

 息一つ乱さずに、大してダメージも負わずに、集まった強者たちを蹴散らしちまいやがった。


「し、信じられん……な、何なんだ……この化け物は……」

「ちょっと強すぎます……」

「こんな人がこの世に居るなんて……どうすればいい……のかなぁ?」

「あ、足が竦んで……動けないっす……」

「ここ、こわ、怖いのん……だ、だめなのん……」


 最初は数十人も居た俺たちだったが、いつの間にかこの場で立っているのは、奴の攻撃で既にかなりのダメージを負って服もボロボロになりながらも立ち上がってきた姫、そしてようやく体を動かせるようになった俺とクロン、寄り添っていたツクシの姉さんとカルイ、部屋の隅で震えて固まっているヒルア。

 そして……


「はあ、はあ……一体、何者……」

「っ、僕の魔法が何も……通用しない……」


 同じように、意識は失っていないが、奴の手によって必要以上に痛めつけられて、両膝を付いた状態からまだ立ち上がれていないリヴァルとフー。

 多少なりとも自分の力に自信のあった俺たちが何もすることができない。

 これが……


「なぁ、アースよ。こやつは一体……何者なのだ?」


 ここに来て、いまだにこいつの正体を知らないために、姫が俺に尋ねてくる。

 その答えは俺とクロン以外の皆が知りたがっている。

 そして俺は奴を……パリピをジッと見て……


「あいつは……元魔王軍にして、伝説の六覇大魔将の一人……『闇の賢人パリピ』だ」

「「「ッッ!!??」」」


 その瞬間、鎖国国家で外のことを何も知らないツクシの姉さんとカルイは首を傾げるだけだったが、姫、リヴァル、フーは驚愕の表情に一変した。


「な、な……なにい!? 魔王軍の六覇大魔将!?」

「ばかな、何を言っているんだ、アース! こいつが六覇だと?」

「そ、それに、確か闇の賢人って死んだはずじゃ……」


 まさか自分たちが戦っていた相手が六覇だったとは夢にも思わなかっただろう。

 

「ひははははは、雑魚とはいえ流石は成績優秀そうな連中だ。オレのことを知っていてくれるか。いや~、コミュ障なオレには照れるぜ」


 そう言っておどけたような様子で笑うパリピにイラっとくるも、誰もそのことに何もツッコミ入れることができない。


「だが、優秀なのは所詮ペーパーテストのみ。実戦経験が乏しいお前らじゃ、この程度。お前らのパパたちはお前らぐらいのときには既に俺らと戦えてたと言うのになァ」


 小ばかにするかのように……いや、実際バカにしているんだろう。

 俺たちを「この程度だ」と。

 そして、こういうことを言う奴が次に何を言うか、悔しいが俺には分かっている。


「やっぱ、昔と違って―――」

「……今は物足りない……」

「ん?」

「そう……言いたいんだろ?」

「……ぷっ、ひははは!」


 昔の戦争の時代を生きた奴らは決まってそういうことを言う。

 俺の言葉が正解だったようで、パリピはまた機嫌よさそうに笑った。


「そういうこったな。事実、オレはそこの二人の親、剣聖と大魔導師に殺されたことになってるしな……しかし、その子供が復讐するのもバカバカしくなるぐらい弱いときている。そりゃァ、パナイ物足りないって~もんじゃない?」


 パリピの言葉に悔しそうな表情を浮かべるも、リヴァルとフーは何も言い返せない。

 そして当然それは……



「君らのことは色々知っていてね……だから、最初に一番ガッカリしたのは……ヒイロとマアムの息子という期待せざるをえない血筋がどうしようもない二流だったことだったんだけど……」


「ぬっ……な、ん……」


「まあ、それはオレだけじゃなくて皆そう思ってたでしょ? 帝都の皇族も貴族も戦士も平民の豚共も……もちろん……ヒイロもマアムも……そして今、君の隣にいる連中もね。他の2世がカスなりにチヤホヤされている中で、君の評価はそれでも辛辣だったみたいだからねぇ。出来損ないのミソッカスってな」



 俺へのこの評価。まさかまた同じことをこんな所で聞くとは思わなかった。


「ふ、ふざけるなァ! 我が、アースをそんな風に思うわけなかろう!」

「そうだよ、アースは小さいころから僕たちを引っ張って……僕たちの中心で……」

「貴様なんぞが、アースを分かったようなことを言うな」


 そんなパリピの言葉に姫たちが「そんなことはない」と言ってくれるが……



「ヒハハハ、自覚してない上に、君らや周囲の声にアースくんがどう思っていたか、その気持ちを誰も分かっていないからこそ、尚の事悪い。もし君たちがそれを少しでも自覚していたら、気にかけていたら、アースくんが帝都を飛び出すことも無かった。そもそもずっと一緒に居たはずの君たち……特にお姫様? アースくんが、『なんであの技を使えたのか』も知らないくせに、何をエラそうに言ってるんだい?」


「「「ッッ!!??」」」

 


 パリピのペラペラと告げる言葉に、姫たちはショックを受けたように言葉を失ってしまっている。

 ちっ、今さら何だよ……そんなツラして……くそ……俺も俺だ……今はこんなことで胸がザワついても仕方ねーってのに……

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