第211話 蹂躙

『童、皆に注意するよう言え! 毒は奴の力の一部に過ぎぬ! 奴は戦闘になれば闇魔法も多用する!』

「や……み?」

『ぬっ……まだうまく喋れぬか……』


 悪意の塊が来る。そう感じたのは俺だけじゃねえ。

 ここに居る誰もが、それぞれ力に差はあれど、常人以上の実力者。

 だからこそ、目の前にいるたった一人の魔族の計り知れない力に寒気がしたはず。


「魔極真ラリアットッ!!」


 その空気を振り払うかのように、マチョウさんが真っ先に剛腕を振りぬいて渦を巻き起こして、パリピに先手を打つ。


「ウッザッ!!」

「ぬっ……」


 だが、パリピは避けることもせず、真っすぐ駆け出してマチョウさんの起こした渦を切り裂いて間合いを詰める。


「ッ、魔極真ナックルアローッ!」

「はん」


 構わず右拳を振りかぶって振り下ろすマチョウさん。その強烈な拳が地面に大きな亀裂を生む。

 しかし、地面を殴ったという事は、その拳は避けられたという事。

 マチョウさんの拳を軽々回避したパリピは鼻で笑いながら……


「ヒハハハハ、おー、パナイすごいすごい。当たれば脅威のパワー自慢だね……ひははは、当たれば? 当てることができねえから、オレを脅かせねぇんだよ!」

「ッ!?」

「古代闇属魔法・シャドウラギール!」

「ぬぐっ!? な、なに?! カハッ……!」


 パリピが呪文を唱えながら、マチョウさんの背後に回り込んで地面を踏む。正確にはマチョウさんの影だ。

 そして次の瞬間には、マチョウさんの足元の影が突如巨大な針山となってマチョウさんの強靭な肉体に突き刺さった。


「マチョウさん!?」

「なっ、か、影が形を変えて……」

『闇属性の魔法。シャドウラギール。あれは影を自在に操り、相手を縛ったり、攻撃したりすることを可能とする魔法だ!』

 

 影を操る? そんな魔法聞いたこともねえ。いきなりなんて魔法を……


「未知な魔法……だが、臆して引き下がるわけにはゆかん!」

「化け物……いくアル!」


 だが、それでも第二波となってパリピへ新たな攻撃が襲い掛かる。

 大剣振り被ったリヴァルと、鎖のついた鉄の棒を振り回すワチャ。


「帝国流剣術・天輪光華乱舞ッ!」

「マジカルヌンチャク術! ホワチャァァ!」


 だが……


「ひはっ! 剣聖2世か……親父には世話になったなぁ……でも、テメエは……」

「ッ!?」

「落第ィィィ!」

「がっ……がっ!?」


 リヴァルの高速の剣技を初見で、人差し指と中指の二本で挟んで止めて、無防備な脇腹に重たいミドルのキック。

 そして……


「で、テメエは誰だ雑魚が!」

「ホワッ!?」


 リヴァルを蹴ってあえてワチャの方へ飛ばし、ワチャが巻き込まれてリヴァルと共に地面を転がった。


「リヴァル!? そんなリヴァルが……」

「マチョウさん、ワチャさんっ!? うそ……あの二人までアッサリ……」


 正に一瞬。マチョウさんが、ワチャが、そしてリヴァルまで……



「皆さん、離れて! 僕が……」


「あん?」


「捉えた! メガファイヤッ!」



 だが、まだ終わらない。リヴァルたちが立ち向かって返り討ちにあっている間も魔力を集中させて詠唱していたフーが、巨大な業火をパリピに向かって放つ……が……



「闇属魔法・ダークアブソープション!!」


「え……? な……ぼ、僕の魔法が……闇に飲み込まれて!? 吸収された!?」


「で、利子をつけてお返しするぜ? ダークギガファイヤ!!」



 パリピが唱えた呪文と共に、パリピの掌に闇の瘴気が発生し、その闇がやがて広がり、フーが放った魔法を飲み込んでいき、炎を吸収した闇の炎となってそれをまとめて撃ち返してきやがった。


「まずいわ! ハニーの治療中だというのに! 邪魔よ、水遁忍法・鉄砲水!」

「我も援護する! 氷属魔法・メガアイスウォールッ!」


 迫りくる闇の炎に対抗するため、シノブと姫が同時に水と氷の術と魔法で迎撃に出る。

 互いの魔法がぶつかり合い、炎を相殺……かと思ったが……


「地獄の業火は絶対零度をもパナイ超える! つまり、蒸発しちまうってこったぁ!」

「「ッッ!?」」


 それすらも全てを飲み込んでしまった。


「シノブ! フィアンセイひ――――」

「イチイチ一人一人やられた奴らにリアクションしてんじゃねえ!」


 炎に飲み込まれたシノブと姫に向かってフーが悲鳴のような声を上げようとしたが、その間に既にパリピはフーの目の前まで忍び寄り、フーの頭を手で鷲摑みにし、そのまま強烈な膝蹴りをねじ込むようにフーの顔面に叩きこみやがった。


「ああああああ!? かっ、あ、あ……」

「ひははははは、いいね~、女にモテそうな顔をぶっ潰すのは、種族は違えど快感だ♪」

「フーッ! き、さまあああ!」

「で、剣聖二世……折れたアバラで頑張ってまた来たけど……君も顔面潰してお引き取り願おうッ!」

「ッ!?」


 リヴァル!? 再びパリピに向かっていったリヴァルの顔面にカウンターで拳を叩きこみやがった。

 肉と骨が潰れて砕けたような鈍い音が響いた……フー! リヴァル!


「な、うそ……し、信じられねえ……」

「ば、ばけもんだ……」

「う、うおおおお、カバディカバディカバディ!」

「股間のデカさなら……」

「くそ、負けるか! ケツにぶち込んでやらぁ!」


 強い。皆があまりにもアッサリと蹴散らされて……それでも果敢に皆がパリピに立ち向かっていくが……



「ヒハハハハハ……ヒーーーハッハハハハハハハハ!!!!」



 全員次から次へと、いたぶられていく。


「な、なんなの……かな……あの人……」

「つ、強すぎるっすよ……」

「な、なんなのん、あの人! こ、怖すぎなのん!」


 パリピの力を目の当たりにして、もはや飛び掛かれないでいるツクシの姉さん、カルイ、そしてヒルア。

 無理もない。

 ハッキリ言って……桁が違う……俺が毒で動けないとかそういうの関係なく……あいつは……


「……クロンさんと坊ちゃまをお願いします……ツクシ……」

「サディス姉さん……何を……」


 その時。俺とクロンの介抱で寄り添っていたサディスが鋭い目をして両手に大鎌を握りしめてパリピを睨み……


「私が始末します」


 そう口にした。

 だけど、無理だ。俺にも分かる。

 確かにサディスは強いが……アレはやっぱり……レベルが違う。


「うおおおおおおおおおおおお、魔極真水平チョップ!」

「ひはははは、ウゼーな。つか、当たるかよ! 毒爪乱舞ッ……お? オレの爪が……」

「自分も効かない! たとえ毒が塗られていようとも、お前の爪では自分の筋肉を貫けない! そして……」

「ッ!?」

「叩き落とす! 魔極真パワーボム――――ッ!!??」

「爪伸槍!」


 さらに違うのは、レベルだけじゃない。平然と相手の急所を突く容赦のなさ。

 今も、マチョウさんがパリピの爪を筋肉で弾き、そのままパリピの体を掴んで持ち上げて、一気に地面に叩きつけようとした瞬間、パリピの爪が一瞬で槍のように伸びて、マチョウさんの左目を……


「ッ、ぐ、ぬぐっう!?」

「なんだい、筋肉自慢。目の筋肉は随分と柔らかいんだな。そして、一般人と同じで……潰した眼球とその奥は生温かい♡」


 抉った……


「キャアアアアア!! ま、マチョウさん!?」

「ひはははは、キャーキャー騒ぐな。目ん玉一つ潰れるぐらい、命に比べりゃ安いもんだろ? ま、その命もなんなら貰うけども?」


 ダメだ……このまま何も考えずにただ立ち向かうだけじゃ……全員殺される!



『今は一秒でも早く体を動かせるようになれ、童!』



 そのとき、シノブの持っていた薬を投与されても、未だ動けない俺にトレイナが言ってきた。

 


「これ以上の狼藉は許しません! 坊ちゃまの分も……私が!」


「ああん? オレは女子供も容赦なくグシャグシャにするぞ? クズだからさ! ヒハハハハハハ!」



 でも、動けたとして……あんな化け物どうすりゃいいんだ……

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