第210話 全員まとめて
クソ、体がしびれて思うように動かねえ。手に力も入らねえ。
毒には注意しろって言われたのに……
「ダディ! だ……あ……ダディッ!!」
「かっ、あ……あぅ、あ、が、か……」
そして、俺に毒攻撃するためだけに腹を吹っ飛ばされ、痙攣して血を噴き出している天空王。
クロンも腰を抜かしてしまっている。
まずい。こんな……
『トレイナ……』
『大した毒ではないが、童、解毒魔法はできるか?』
『ダメだ……簡単なものならできるけど、今、魔力を込められねえ……』
『神経毒……唇の震えやこの変色具合……恐らく、デンドロトキシンッポイノか……』
『すまん……毒名言われても……』
『ちっ、だから今のアカデミーはなっておらん! サバイバル訓練をさせぬから……こういう知識や血清の携帯は必須……いや、その指導をしなかった余の落ち度でも……くっ……』
トレイナも悔しそうに歯噛みしている。
俺がふがいなくて……
「ほれ、コゾウ。気分はどうだい? お?」
「うぐっ!?」
背中に衝撃? 俺の背中をパリピが踏みつけてやがる!
「こ、ごのや……ろ……」
「ヒハハハハハ、生意気な目だな。だが、それは勇敢ではなく無知だな。オレを知ってたらそんな目はしねーよ。戦場なら目玉をくりぬいて、ついでに耳も削ぎ落している」
「ッ!?」
「ほれ、とりあえずまだうるさいので、もう一本いっとく? ほれ、ブスブスブスッと♪」
「あ、がああああああ!?」
「ヒハハハハ、いったそ~! しかし……オレを知っているようで、まったく知らない……どういうことかねえ?」
こ、こいつ、お、俺の体に、ぴ、ピアノを弾くみたいに平然と爪を……何度も、痛ッ!
「さて、どうすっかな? 君の目玉と耳に加えて手足を切り落とし、生きたまま生皮を剥いでヒイロとマアムに君を届ける……それとも、クスリ漬けにして壊すか? 変態男娼館に売り飛ばす? ダメだな……オレもブランクであまりいいアイディアが浮かばない」
ゾッとするようなことを……でも、こいつの場合は脅しじゃない。本当にやる。いや、本当にそういうことをやっていたんだ。
たとえ、トレイナが教えてくれなくても、それぐらい俺にも分かる。
こういう独り言も俺を恐怖させるためだけでなく、やるときは本当にやるんだ……こいつは……
「だが、その前に。目玉はこっちからもらわないとね……クロンちゃん」
「ッ!?」
「アース君が教えてくれないんだから、覗くしかないからね。アース君が……何を隠しているか……彼のバックに誰か居るのか……をね」
そして、その狂気は当然クロンにまで。まずい、クロンも身動きが取れねえ。
俺の記憶を読み取るためにクロンを? なら、話すか? いや、ダメだ。
「させま……せん……私の、目は……渡し……ま、せん」
「君の意思は関係ねーよ。オレが決める」
どっちにしろ、こいつはクロンの目を得ようとしている。
「しかし、ハクキの旦那とヤミディレの姐御も面白いことをするねえ……そして、ちゃんと暁光眼を発現させるんだから大したものだけどね」
「ッ……あ……っ……ぐっ!」
「大魔王様の毛髪から取れた遺伝子情報のみで作られ、ここまで育った……でも、もう充分だろ? 所詮は中途半端に作られた人形。君はオレたち純粋な魔族のように長命ではない。人間と同じで、せーぜい百年足らずの人生だ。今、この場で死んでもあんま変わらないだろ?」
動かない体でクロンが唇を噛みしめながら、その両目に涙を浮かべながら、それでもパリピを睨んでいる。
でも、ダメだ。今のクロンも何もできない。
このままじゃ……このままじゃ……
「さて、戴き……ん?」
「疾ッ!」
「ッ!?」
だが、その時だった。
「え?」
突如としてパリピの背後から何者かが現れて、その首を刃物で斬りつけようとした。
「おっと……あららら……あぶな~」
おどけた様子を見せるも、寸前のところで俊敏な動きでパリピは高く飛んで回避する。
そして、見下ろしたその先には……
「人のハニーと友達に、何をしているのかしら? 風遁忍法・乱れかまいたち!」
シノブだ! 広場で雲のゴーレムたちと戦っていたシノブがクロンを助け、鋭い風の刃を飛ばしてパリピに攻撃をした。
「って、効くかぁぁ、こんな微風よぉ!」
「ッ!?」
だが、無数に飛ばされた風の刃は空中で両手の爪を振り回したパリピに容易く砕かれる……が……
「あら、微風じゃダメなら、怒涛の攻撃の嵐はどうかしら?」
「……あ゛? ……あら?」
すると、次の瞬間……
「魔極真水平チョップ!」
「ホワチャアアアアッ!」
「帝国流剣術・紅蓮焦熱斬!」
「帝国流槍術・槍幻郷!」
「メガファイヤッ!」
正に一斉攻撃だった。
「お、おろろろろおおおおお!?」
繰り出された怒涛の嵐に巻き込まれ、パリピは激しく吹き飛ばされて激しい衝撃音と共に壁に打ち付けられ、その衝撃で壁と天井の一部が崩れて瓦礫の山に埋もれる。
そして……
「女神様! アースくん!」
「女神様! あんちゃん!」
「ぼ、坊ちゃま!?」
「んあー、大丈夫なのーん!」
「「「「「女神様あああ、アースうう、来たぞおおおお!!!!」」」」」
繰り出された嵐の後に響き渡る、俺とクロンを案じる叫び。
みんなだ……
「坊ちゃま、クロンさん……もう大丈夫です!」
「サディ……ス……どう、して……」
「突如、私たちに群がっていた無数のゴーレムたちが消滅したので、慌ててこちらに駆け付けました。何やらピンチのようでしたので、とりあえず明らかに敵と思われる魔族を一斉攻撃……ということです」
ゴーレムが? ああ、そうか……だって、天空王あんな状態だし、それで……
「それにしても酷い……毒ですね……」
「あ、ああ……でも、俺よりもクロンを……早く……」
「しかし、坊ちゃまの方が傷の数が多く……早くしないと―――」
そして、サディスが俺を介抱しながら俺の傷口を見て悲痛な顔を浮かべるが、そのときサッと俺の傍らに現れたシノブがサディスから俺を奪い取り、俺の傷口におもむろに唇を近づけて、チュッと音を立て、チュウっと吸って……
「ハニー! ッ……毒ね、吸い出すわ……じゅっ……ぺっ……ちゅっ……ぺっ」
「ッ……シノブ……」
「これは蛇毒……デンドロトキシンッポイノね。でも大丈夫。すぐに解毒するわ。安心して。解毒剤や血清は常に持ち歩いているの」
「そう……か……」
「これも妻の嗜みよ。どう? 少しは惚れてくれたかしら?」
俺を安心させるようにニッコリドヤ顔を見せるシノブ。
だが、その自信満々な表情にどこかホッとした。
「シノブさん……毒の種類が分かるのですか?」
「ええ。帝国では馴染みのない毒だと思うけど、安心して。ジャポーネではポピュラーだから。ハニーは私に任せて、そちらの方を」
「わ、分かりました。坊ちゃまをお願いします」
おお、そうか……そう言って少し複雑そうな顔をして俺をシノブに預けてクロンへ駆け寄るサディス……なんか、チュウチュウッて……いや、これは治療なんだけど……なんか恥ずかしい……
「恥ずかしがらないでね、ハニー。これは治療。キスマークでもマーキングでもないから安心して。私は君を自分のモノにしたいのではなく、私が君のモノになりたいの。だから、君がその気になったらいつでも私の体の隅々までキスマークでもマーキングでも好きに君の色に染めてね♡」
「うぬぬぬ、どど、毒を吸い出すぐらいなら我が……!」
「あの姫様……坊ちゃまの危機ですし、空気を読みましょう。クロンさんの方を手伝って下さい」
『知識が古い。毒は即座に全身に広がるので、口で吸い出すなど不可能だし、あまり意味がない。むしろ、感染の危険の方が高いというのに……やはり、忍者は時代遅れだな……まあ、医療パックを携帯しているのは流石だがな』
何やら騒がしく、トレイナもさっきまでは少し慌てていたが落ち着いた様子で俺とシノブを冷ややかな目で見ている。いや、そんな目で見られても!
だが、すぐにトレイナは視線を変えて……
『とりあえず、童。すぐに動けるようになれ。人数は増えたが……こんなものではないぞ? あの男は……』
「ッ!?」
そう言って、真剣な表情でパリピが吹っ飛ばされた方向を見るトレイナ。
そうだ。相手は……
「あ~あ……ウザ。旅立ち前の一張羅が、埃にまみれて少し破けちゃったよ……パナイ不愉快だねぇ」
「「「「「ッッ!!??」」」」」
そして、何事もなかったかのように瓦礫の下から立ち上がったパリピ。
服などは多少破けているが、あれだけの皆の攻撃をくらって、大してダメージが……むしろ……
「立っただと? 自分たちのあの攻撃を受けて……」
「し、信じられん……直撃したはず……」
「なんだ? この化け物は……アース、この魔族は何者だ?」
「禍々しい……それに……恐ろしく強い……」
また、空気が重く、そして突き刺さるような強烈な殺気が吹き荒れる。
「ヒハハハハハ……あ~あ……ゾロゾロと……招いてもいねー客に、勝手にパーティーを荒らされるのは……やっぱムカつくねぇ……ひは……ひはははは……は~……」
その殺気にこの場に居る誰もが、あのマチョウさんやサディスすらも頬に汗が流れている。
そしてパリピは俺たち全員を見て……
「ったく、しゃらくせーな、ガキどもが! 立った? 信じられない? あったりめーだ! テメエらとは見てきた世界! 過ごしてきた時代! 戦ってきた敵の次元が違うんだよ!」
さっきまでの軽薄な口調でも、静かなドスの効いた口調でもない。
キレたように乱暴に怒鳴り散らす。
全身から怒気を溢れさせ、それを纏って俺たちに身構えて……
「いいぜ、雑魚共! 空の国からの旅立ち記念に、ちょいと昔を知らねえガキどもに、地獄を見せてやろうじゃねえか! 全員まとめてかかってこい! ヒハハハハハハハハハハ!」
俺たち全員を一人で相手にすると叫んだ。
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