第208話 闇の賢人
クロンの魔眼を通じて脳内に流れ込んできた天空王の記憶。
こいつはこいつなりに色々とあったんだろうなと思っていたところ、その記憶の途中でトレイナが急に驚いた様子を見せた。
それは、天空王の記憶に途中から出て来たある男。
その男には天空族のような翼はない。
だが、人間でもない。
「……あ……」
「あら、あの方は……記憶に出て来た……?」
茶色い長髪で前髪を全て後ろへ流し、『尖った耳』にいくつものピアス。
薄緑の肌。レンズを黄色に塗られた派手な眼鏡。
「ひはははは、ドーモでーす!」
首元には十字架の中心にドクロを重ねた気味の悪いネックレスに、ド派手な虹色の服を着た謎の男。いや、魔族。
「友よ……どうして……」
「よう。えーっと、そこの、えっと……誰だっけ?」
「な……何を言っておる! ワシだ!」
「ん~、メンゴ。オレはどうでもよくなった奴の名前は忘れる主義でね……まっ、いいや、ハゲ。世話になったね」
「……な、え?」
「オレがこの空で育てた『花壇の花』も全部収穫できたし、ここももう飽きたから、オレは行くよ」
軽薄な敬礼と共に笑いながら現れたその人物こそが、正に天空王の記憶で登場した魔族だった。
その人物に天空王は友と呼び、そして……
「君は……」
床に這いながら、王子もどこか難しい顔をしている。
この男は一体……
『パリピ……』
……え? なんか、トレイナが呟いたが……ん?
「……は?」
なんだ? どうして魔族がここに居るかも気になるが、その名前……あら? なんだか物凄い聞き覚えのある名前だ。
それこそ、昔は絵本とか、恐怖の怪談話とかでよく出て来た伝説の名前というか……
『生きて……いたのか……この男……』
そして、トレイナはハッキリ言って、初めて俺の前にヤミディレが現れた時よりも驚いている。
両目を大きく見開いて、明らかに動揺している。
『トレイナ……こ、こいつは……?』
俺が心の中で問いかけると、トレイナはハッとして俺を見て……
『この男は……かつて、魔王軍の参謀……軍師として名を馳せた、六覇の一人……『闇の賢人・パリピ』だ……』
「んなっ!? や、闇の賢人ッ、パリピ!?」
『お、おい、童!』
やっぱりメチャクチャ知ってる名前! パリピ? それって、それこそヤミディレと肩を並べる伝説の!?
「あら? ねえ、アース。あなたはこの方のことを知っているのですか?」
「え? あ、え?」
俺が思わず口にして叫んだのを聞いてクロンがキョトン顔。
天空王も王子も驚いた顔して俺を見ている。
いや、俺も初対面ではあるけど、その名前だけは知っている。
一方で、俺の言葉を聞いたパリピ本人は……
「オ~、パナイウレシーね! サンキューデース! オレのことを新世代も知っていてくれるとは、パナイ光栄、マジ感謝!」
大げさにリアクションしながら俺に微笑む。
何とも軽薄そうで、イラっとして、だけどこいつがあのパリピなんだと思うと、その言葉も動作も一つ一つが不気味に見えて怖くなる。
『ちっ……この男……いや、死体だけは見つからなかったからその可能性も無きにしもあらずだったが……まさか、ここに来て……ここに……こんな所に……』
隣のトレイナがどこか悔しそう? な表情で歯噛みしている。
でも、六覇ってことはかつての部下だろ? つまり、仲間だ。
ヤミディレはあんな感じだったが、それでも何だかんだで三カ月も同じ屋根の下で一緒に住んじまった。
そのヤミディレと同じ六覇ならこいつは……
『童。ヤミディレとこの男を一緒にするな』
『え?』
そのとき、俺に「甘い」と言うかのように、トレイナが俺に忠告してきた。
『よいか? 絶対にこの男を……『ひょっとしたらいい奴かもしれない』などと勘違いするな? この男は楽しむためならば、普通の精神では耐え切れず吐き気がするような残虐で悪意溢れる行為も平然とする』
そのトレイナの忠告に俺は昔話を思い出した。
よく、ガキの頃にサディスが枕元で恐がらせてきたっけ?
――悪いことをしたら、パリピの宴で恐怖する
だったかな?
「ふふふ、オレを知ってるのは嬉しいけど、そんな怯えた目を見せないでよ、アース・ラガンくん? 君はもっと精悍で荒ぶる魂持つ男だろう?」
「ッ!?」
と、その時ご機嫌なパリピがゆっくりと俺に近づいて来る。
俺のことを知ってる?
『ヤミディレも貴様のことを知っていた。あの御前試合で意外と有名になっているのかもしれん。童、とにかく飲み込まれるな! この男は言葉巧みに相手を丸め込んで誘導しようとする!』
そして、いつになくトレイナが慌てたように注意してくる。
この男に対してそれほど……
『ん? 童、パリピが微笑みながら……意識は……童ではなく……ッ! 童、クロンを守れ! その男、クロンを狙っている!』
「……え?」
トレイナがそう叫び、パリピがニコニコしながら俺を見ながら……
「初めまして、アース・ラガンくん。オレは元魔王軍、だけど今は定職に就かずにブラブラ遊んでばかりの男。フーテンのパリピとでも呼んでくれ。あっ、クロンちゃんも初めまして、目玉ちょーだい!」
「……え?」
その、悪魔の右手をクロンの眼球目掛けて伸ばし―――
「大魔ジャブッ!」
「……おろ?」
俺がブレイクスルー状態のままでよかった。
伸ばされた悪魔の腕の手首を横から寸前で弾くことが出来た。
「あ……あ」
突然のことで目をパチパチさせながら腰を抜かすクロン。
それはそうだ、あと数秒でも俺の反応が遅れていれば? もしトレイナの声が無かったら? 実際俺はトレイナに言われなければ反応できなかった。
何の前触れもなくいきなりクロンの暁光眼を奪おうとしやがった……
普通……初対面の女相手の眼球をいきなり奪おうとするか? いや、初対面じゃなくても無理。
こいつ……
「ヒュウ……完全に虚をついたのに……事実、君の意識はオレの行動を完全に予測していなかったのに……よく防げたね……ちょっと驚いた」
「て、テメエ……いきなり、なんつーことをしやがる……」
「ひはははは、それにしても……」
その時だった。
俺に腕を弾かれて、口笛吹いて俺に感心したようにしながらも突如……
「姉御と違って細かいことが気になるのがオレの悪い癖。ヲイ、君はダレに大魔の技を習ったんだい?」
「ッ!?」
「紋章眼を持つ姉御ならまだしも、それも無いのにブレイクスルーも、ましてや大魔螺旋も使えるはずがねーんだけどなァ」
「そ……それは……」
「そして、何故……オレがパリピだと分かった? 確かにオレは絵本とかになってるかもだが……こうして服も戦時中からイメチェンして、今はサングラスもしている。それこそ当時の世代や仲間以外は俺を一目でパリピとは分からねぇはずだが……なぁ?」
急に寒気がするような圧迫感。あのヤミディレと同等の強烈なドス黒い瘴気。
この妙な眼鏡で瞳は見えないが、この眼鏡の向こうではどんな目をしている?
「へ……さあ……どうしてだろうな?」
「だろ? パパやママにも教えてないことを君がオレに教えてくれるわけないだろ? だからさ……クロンちゃんの目ん玉もらって君の記憶を覗けば知れると思ったんだよね。テヘペロ」
「ッ……」
平然と口調は冗談っぽく、しかしこいつは本気でヤルと思わせる説得力を感じる。
「ヒハハハハ、そんな顔をするなよ、アースくん。そうだ、君、タバコは吸うかい? いいタバコがあるんだけどお近づきにどうかな? カッコいいよ~、不良少年! パパやママへの反抗の意味も込めて、どうだい? 今なら、一箱タダでプレゼント。吸って女とヤッたら天国に行けるぐらい素敵な気分になれるぜ?」
『ああ……なるほど……色々とようやく分かった。とりあえず、こいつから何も受け取るなよな、童。恐らくは……タバコではなく……『ハーブ』だろう』
とにかく、もう間違いない。
こいつはやっぱり伝説の六覇の一人だ。
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