第205話 俺もできる
「ワシは王だ! 神の使徒だ! いや、もはやワシこそ神! 逆らうものは全員死刑じゃ!」
「ったく、王子……こんなカスでも親父に対する愛情があるのか? つか、こんな奴に認められて嬉しいのか? それとも、この国ではこれが普通なのか? 文化の違いってやつか?」
怒り狂ったように叫んで全身から荒ぶる魔力を発する天空王。
「黙れ黙れ黙れ! 千年の倦怠に身を委ね、無意味な時を過ごしていたが……しかし、ワシは目覚めた! 友が教えてくれた! ワシこそが王と! 地上を汚す下等生物たちを駆逐し統治するのだ! 新たなる神の軍団を作る! ヤミディレも、その人形もガアルも目玉をくりぬいてからワシの子を生んで、まさに最強――――」
「大魔ソニックフリッカーッ!!」
もはや、ムカつくとか不快を通り越して、こんな俺でも呆れちまう。
左の鞭の衝撃波でシバく。
「ぬう、この……ガキガアッ!!」
これ以上、会話をしたくなかったからだ。
すると……
「天空王!」
「……ぬ?」
「私も親子というものや……子を持つ……ということがどういうことかは分かっていません。でも、これだけは言います! 私、あなたの子供なんて絶対に生みません! 生みたくありません!」
俺の背に寄り添っていたクロンが一歩前へ出て、天空王に言い放った。
「何を言うか、人形風情が生意気言うな! 貴様の意思など関係ない! ワシが――――ワシがーっ! ギガウインドカッターッ!」
「大魔ソニックコークスクリュー!」
もう、癇癪起こした禿ジジイはダメだ……もう、狂い過ぎかってぐらいに暴れる。
俺らがここまで来たことはこいつにとってはそれほどのことってことか?
「ったく、前に出るな、クロン。もう少し下がって……」
「ごめんなさい、アース」
「あん?」
「地上でのこと……」
すると、俺が危ないからもっとクロンに下がれと腕を引っ張ると、クロンは俺の隣で切なそうに微笑んだ。
「私とヤミディレは……あの天空王と同じようなことをあなたに言っていたのですね」
「は?」
一瞬何のことだかまるで分らなかった。つかこんな時に何を言って……
「私はあなたの赤ちゃんが欲しいから、私をもらってくださいと言いました。ヤミディレもあなたと私を無理やりくっつけようとしました。でもそれは、あなたからすれば……」
「あ……」
「私が今、天空王から言われて感じたことを……あなたも思っていたのですね?」
いや……べ、別にそこまで嫌ってわけでは……そこらへんは男と女では考えも違うし、クロン可愛いし……つか、今そんなことはどうでも……いや、今だからか?
でも……
「でも、お前は分かってくれたじゃねぇか」
「はい。私は……天空王と同じようなことをもう言いません。私はあなたの子を生みたい。そんな私にあなたが子を生ませたい……そう思われるぐらいになってから……そうすれば、生まれてきた子供を心から愛することができるでしょう」
こんなとき、本当に不謹慎だけど、なんか照れくさくてお互い笑った。
一方で……
「アース。だから……あの天空王という方をぶっとばすだけではなく……いったん落ち着けること……落ち着いて話をすることはできませんか?」
「はっ?」
そこに関してはまったくの予想外だった。
「何をべちゃくちゃ喋っておる! 死ね、シネ、シネッ! ワシの前から消え失せよ!」
天空王の魔法の猛威を受けている俺らに、そんな余裕はないというのに。
「んな、余裕はねえよ! つか、あんな奴、話しても無駄だろうが! 何でそんなことを……」
「アース、あなたは言いました。あの王子に、あんな父親に認められてもらうためだけに頑張るのは……視野が狭いと」
「ん? あ……ああ」
「あなたにとってはそうなのかもしれません。あなたのように強く大きな人には。でも私、なんとなく、あの王子という人の気持ちも分かるのです」
「なに……?」
休む間もなく繰り出される天空王の魔法。
もはや宮殿内だというのに建物へのダメージや周囲のことを一切気にしない暴れぶり。
そんな状況の中で、クロンは言った。
天空王というより、クロンは王子のためにそう言っていた。
「私も同じですから……」
「同じ? お前と王子の何が……」
「アース。ヤミディレはあなたにとっても……カクレテールより外の世界にとっても……そしてこの世界の人たちにとっても……酷いことをしてきた人なのでしょう?」
どこか切なそうにヤミディレのことをそう言うクロン。
それは地上でも話をしたこと。
人類の敵。六覇。そしてこの天空世界でもかつて同胞に色々と凄惨なことをした。
それが、クロンの知らないヤミディレの過去。
だが、それでも……
「それでも、私はヤミディレを嫌いになれません。認められたい。褒められたい。ヤミディレに……喜んでもらいたい。そう思っているのです」
「クロン……」
「だから、私……天空王に問いたいのです」
「…………」
クロンは真剣だった。
俺からすれば「あんなクソ野郎すぐにぶっとばせ」と思ってしまうもの。
家出して、今ではトレイナが傍に居る俺からすれば「父親や家族に認められないぐらい大した問題じゃない」と思ってしまうもの。
でもクロンは、王子に感情移入してしまっている。
だからこそ……
「お節介にもほどがあるぜ。他人の家庭の事情に首つっこみすぎんな。それに、ここまで狂った野郎と話をしようとしても、もう無理だろ?」
それでもやるのか? あんなジジイと話をするか? と、クロンに俺は問うた。
すると、その時だった。
『いや、意外とそうでもないかもしれんぞ?』
「ッ!?」
『あの天空王……これまでの何かを経てこうなったというよりは……どちらかというと……副作用による割合も……大きいかもしれん』
「……なに?」
『紐解けば、確かになんとかなるかもしれん。クロンの暁光眼で奴の意識に触れられればな』
どこか確信めいているかのように発言するトレイナ。
その言葉で、「天空王はただ頭がイカれてるだけじゃない」と言っているようだった。
「……き……みは……」
そして、今のクロンの言葉を聞いて、床に倒れている王子が顔を上げた。
情けなく、涙で瞳を潤ませた弱々しい表情。捨てられた犬みたいな顔しやがって……
「たしかに……お前の暁光眼を使えばどうにかなる……みたいだ……」
「え? そうなのですか?」
「だっ……だけど……お前、同情している場合か?」
「アース……」
「俺たちはここに何をしに来たと思っている!」
俺が言ったことは何も間違っていない。こんなのお節介以外の何物でもない。
そうだろ?
『その通りだ。何も意味はない』
ほら……トレイナも……
『だから、さっさとあの愚王を倒すのだ。こんな国も世界も王族も、何も助ける必要はない』
「…………」
なんだ? 俺に「その通りだ」と言いながらも、どこか俺を試すかのような……そして……何で俺は心が引っ張られる?
クロンの言葉……そして……王子の顔が……
『なぁ、トレイナ……』
『なんだ?』
心の中で俺はトレイナに問う。
『俺は親父とは違う。だから俺は親父の望む道は進まないし、親父と同じことをする義理も義務もねえ』
『その通りだ』
『そのうえで、あえて聞く。親父ならこういうとき……どうする?』
『決まっている。あの単細胞馬鹿は何も考えず――――』
ああ分かっている。俺も問いながら、トレイナの答えを聞く前から分かっていた。
きっと親父ならこう言うだろう。
『『全部救ってやる。俺が何とかしてやる』』
その光景が容易に想像できるから……そして……親父にはその力があるからそんなことが言える。
そして、実際にそれができるんだろう。
「俺は親父とは違う。だから、同じことをしなくても別に何も問題ねぇ」
「アース?」
『そうだ。必要ないな』
だけど……
「親父にできて、俺にできないことがあってたまるか!」
別に俺はやる必要がないからやらないだけで、できないわけじゃねえ。
だから、やろうと思えばできるんだ。
『ふふっ、口だけなら何とでも言えるな』
なら、証明してやる。
「クロン……どっちみち、あいつの動きを封じることには変わりねえ……」
「え……?」
「だから……俺があいつを取り押さえたら、好きにしろ」
「ッ!? は……はいっ!」
これでいいんだろ? トレイナ。
親父と同じこともできないようで、どうやって親父を超え、世界に認められる存在になれるってんだよ。
俺もできるさ。
だから、やってやろうじゃねぇか!
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