第201話 第二ラウンド
何で? と聞いたら怒られた。だけど、それでも今の俺にはその言葉しか出ない。
「お前ら……何でここに? しかも……シノブまで……」
「女が惚れた男の元へと来るのに理由がいるのかしら?」
「あぅ……あ……」
もぉ~、なんでこいつは三カ月ぶりでいきなりこういうことをぉ……顔が熱くなるよぉ……
「まぁ! 素敵です! この人、アースの恋人さんですか?」
で、クロンはシノブの言葉に目を輝かせながら俺から手を離し、嬉しそうにシノブの手を掴む。
「あら? 分かるのかしら?」
「分かります! アースって、とっても素敵ですものね!」
「ええ。言うまでもないことね」
「はい! あなたもとても素敵な方の様ですし……二人はお似合いですね!」
「ッ……あら……意外な反応ね。てっきり泥棒ネコかと思ったら……私……あなたと友達になれると思っていいのかしら?」
「友達ですか!? 嬉しいです!」
そう言って、平和な心温まる? 光景が目の前で繰り広げられているが、いや、お前ら! 今は……
【何者!? この天の世界に土足でズカズカと何人も……不届き者め! クラウドゴーレムたち、そやつを―――】
「は~……愛するハニーとの再会よ? 恋する乙女の邪魔をすると……」
【……ぬ?】
「火傷ではすまないわ! 火遁忍法・紅蓮螺旋!」
【ッ!?】
と、そんなシノブとクロンにゴーレムたちが一斉に襲いかかろうとしたら、シノブがいきなり口から螺旋を描く炎を吹き出して、数十のゴーレムたちを一瞬でかき消してしまった。
「まったく。空気がまったく読めないのね。空の上で薄いからかしら?」
余裕の笑みを浮かべて……なんつーか……普通につえ~……
「まぁ! すごいです!」
「うわ、す、すごいかな、あの子!」
「口から火を吐いたッス!?」
「アースの仲間? ……いや、恋人?」
「……サディスさんは知っているアルか? ……何で忍者戦士が……」
「あれから共に行動したということでしょうか? しかし、私はまだ坊ちゃまの相手として認めたわけではありませんよ?」
そんなシノブの力に当然味方も驚くだろう。
だが……
「えええい、ちょ、待てシノブ! さ、さっきから黙って聞いていれば、そ、それに、そこの女も、アースと、い、いちゃいちゃと手を……」
そのとき、天空王よりも更に空気の読めない姫がこんな状況で、めんどくせーことを騒いだ。
「あら? 何か文句でもあるのかしら? フィアンセイ姫」
「ある! だいたい、毎度言っているが、アースはだなぁ……」
「まぁ! あなたもアースの魅力を知っている人ですか?」
「ッ!? な、おい! 我が一体アースと何年の付き合いだと思っている! 我「も」だと? お前たちと一緒にするな!」
ったく、この姫様は。シノブとクロンの会話は聞いていて自分でも恥ずかしかったが、俺を想ってくれている二人に「一緒にするな」とか……まぁ、この人が俺のことを良く思ってないのは知ってたけどさ……いや、もうそれこそ何年も……
「アースもアースだ! 三か月ぶりに会ったというのに、し、知らない女と……人間ではないようだが、だ、誰だ、この女は?」
「いや、もう……なんか……」
そして、いつもこれだ。
つか、今はそんなことを説明している場合じゃねえってのに……相変わらず、めんどくせ~なこのお姫様は……
「うん、まあ、アースの女性関係は後ほどということで、この状況だけでも教えてもらえると嬉しいんだけど……」
「ああ。ここはどこで……そして、お前は今、何をしているのだ? 翼の生えたカバまで居て……雲のゴーレムに……向こうには翼の生えた亜人も居るようだが……」
そんな姫に少し呆れながらも、フーとリヴァルが俺の傍らに。
まあ、こいつらも聞きたいことがあるのは分かるが、俺も俺で聞きたいことはある。
しかし、今は……
「あら、私は別に説明なんていらないわ」
「シノブ?」
「どう考えても話をしている状況ではないでしょう? 大事なのは、自分の目で見た今の状況をどう感じ、どう判断するか。私は、ハニーが懸命に戦っている。それだけで十分だわ。君が戦うのなら、私は君と共に戦うわ」
と、シノブがいきなりフーとリヴァルの言葉に被せるようにそう主張してきた。
思わずポカンとしてしまいそうになった。
「い……いいのか? 何も聞かないで……」
「ふふ、後になって後悔するような戦う理由だったとしても……それは私の判断が間違っていただけ。でも、間違っているのか間違っていないかの結果は、後で知ればいいことよ」
「な、なんだそりゃ?」
「ふふ、でもこれだけは言えるわ。今の私の判断が間違っているかどうかは分からないけれど、この恋だけは間違っていないのよ」
も、もう、やだ……顔が熱く恥ずかしくてもう……
こんなときにぃ。
なんか、三カ月会えなかった分をまとめて叩き込まれているような感覚で、俺は蹲ってしまった。
「ちょ、ちょっと待て、シノブ! そ、それなら、わ、我とて! だ、だいたい、わ、我もアースに聞きたいことは山ほどある! それこそ、『あの日』からずっとだ。だが……だが、今は!」
すると、俺がシノブの言葉にまいってしまっていると、そんな俺たちを叱責するかのように姫が口を挟んでくる。
姫が口にした「あの日」とは、当然あの日のことだ。
俺が全てから逃げ出した、御前試合のこと。
「今は必死に戦おうとするアースと共に戦うだけだ! そのことに、迷いはない!」
しかし、姫もまた俺には言いたいことやら説教やら、そして俺に聞きたいことが当然あるようだが、それでも今は戦うと、槍を構える。
そんな姫の言葉を聞いて、リヴァルもフーも苦笑しながらも頷いた。
「やれやれ……昔からお前は……だが、たまには昔のようになるのも悪くないか」
「そうだね。姫様と、アースと、リヴァルと僕。この四人が協力して何かに立ち向かう……嬉しいよ、またこんな日が来て」
昔を懐かしむかのように目を細める二人。
「……リヴァル……」
「お前がリーダーだ。今は……お前と共に戦う」
フーはまだしも、リヴァルとは不完全燃焼だった御前試合の件もあって、俺としては少し気まずい気持ちもあった。
だが、リヴァルもそれを察しながらも、あえて今は戦おうと言って、御前試合のことは口にしない。
「コマンもボーっとするな。とりあえず、怪我をしている者も居るようだし、その救護にあたってくれ!」
「あ、は、はい、姫様!」
そして、どういうわけか巻き込まれたのか、ほんと何でこいつがここに居るかは分からないが、コマンのこともとりあえず後で聞くとして……
「えっと、つまり……アースくん? この人たちも一緒に戦ってくれるってことで、いいのかな?」
「アースの旧友か? であれば、頼もしい」
「あいや~……これはまたある意味でスゴイ若者たちアル……血筋からすべて……」
とりあえず、今は一緒に戦おう。そのことに、反対は誰もなかった。
「ありがたいです。姫様。リヴァル様。フー様。コマン様。そして、忍者戦士さん?」
「サディス! お前も無事で……っで、お前はこの三カ月、その……アースと何も……というより、お前が居ながらこの女は一体……とか……とにかく後で聞かせてもらうぞ?」
「な、ッ、こ、この人がサディスさん!? ……なるほど……私も後であなたと女同士で話をさせていただきたいのだけれど」
「まぁ! 皆さん、一緒に戦ってくれるのですね? なんと頼もしいのでしょう! 私、とーっても嬉しいです!」
何だかゴッチャリしたメンバーになっちまったが、確かに単純な戦力だけを考えると……
「自分も負けていられないな。若者たちに。自分の筋肉も疼いてきた」
「この男……圧倒的に強いな……それによく見ると、他の者たちも手練れ揃い……そんな者たちを引き連れて、アースは本当に何を……」
「まあまあ、リヴァル。今は……僕たちのリーダーと共に!」
「うは~、なんか、なんかよく分からないけど、すごそうなのーん!」
ああ、負ける気がしねえな。
「っしゃ、いくぞ、クロン! お前ら!」
「はい! 第二ラウンドです!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」」
ここから、天空王まで一気駆けだ!
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